第9話:馬上の姫と、戦場の導き(第2節)
「傭兵団が突撃した直後、敵の罠にかかり完全に囲まれ、そして、多くの人が血を流して倒れる映像が見えた……」
悠真の震える声と、その予知の内容に、セレスティアとリーファは息をのんだ。
「な、なんですって!ゆうゆう、それは本当に……」
セレスティアが驚愕の声を上げた。
ルナは、悠真たちの騒ぎに気づき、苛立たしげに振り返った。傭兵団はすでにいつでも突撃できる配置につき、鋭く獲物を見定める狼のように魔物集団を睨んでいた。
「何を騒いでいるんだ!王族だからといって騒ぐな!この程度の雑魚、瞬殺で片をつけてやる!」
ルナはそう言い放ち、悠真の方を一瞥もしないまま、長剣を振り上げて命令を下そうとした。悠真は、ルナの突撃が、予知の通りの敗北を招くことを恐れ、必死になった。
「だ、駄目だ、ルナさん!今突っ込んだら、みんな死んじゃうかもしれない!危ないから、退却しよう!」
悠真は叫び、ルナを止めようと、セレスティアの背中の上から、思わず前のめりになって手を伸ばした。
ルナは悠真の必死な叫びを聞き流し、進軍の号令を上げようとした、その瞬間だった。
馬がフンッと鼻息を一つし、わずかに前足を動かした。前のめりの体勢だった悠真は、その予期せぬ揺れによりバランスを崩し、とっさに手を伸ばし、セレスティアの豊かな胸部をわしづかみにした。
(ムギュっ!)
胸を覆う軽やかな旅装越しにも、その柔らかな感触は悠真の手に鮮烈に伝わった。
「ひっ、あああぁぁぁ!!!」
セレスティアは、予想外の衝撃と痴漢行為に、思わず絶叫した。彼女の顔は一瞬でリンゴのように真っ赤になり、手綱を握る手に無意識に力が込められた。
「な、なな、なによ!ゆうゆう!いきなりわたくしの、胸を!」
セレスティアが悲鳴と興奮で手綱を強く引きすぎたせいで、馬は突然の衝撃と痛みに驚き、
ヒヒィィィン!!
と高い嘶きを上げながらその場で暴れ出した。
ドタドタドタドタ!
馬はパニックに陥り、ルナの傭兵団の制止を振り切るように、セレスティアと悠真を乗せたまま、全速力で魔物集団のいる山道の曲がり角へと突っ込んだ。
「あ、馬が暴走した!止まれ、馬を止めろ!」
傭兵たちの声が上がる中、悠真とセレスティアを乗せた馬は、真っ先に敵陣へと向かう先鋒となった。
悠真の予知が示した通り、馬が曲がり角を曲がった直後、敵の罠が作動した。
ガシャン!
地面の偽装が弾け飛び、鋭い木の杭が突き出た落とし穴が露わになった。しかし、馬は暴走による猛スピードのおかげで、杭が立ち上がる前にその上を跳ねるように駆け抜けた。
「きゃあああ!ひいっ!爆発したわ!ゆうゆう、胸に触るのはやめなさい!」
セレスティアは恐怖と羞恥で声を震わせた。
「お、落ちる!ああああ、落ちるよ!」
悠真は半泣きになりながら、反射的にセレスティアにしがみつき、力を強めた。
馬は、突然、急に大きく右にカーブを切った。
ズバッ!
馬が跳ねた瞬間、悠真の視界に、地面から突き出た鉄槍が一閃した。あと数秒遅れていれば、確実に串刺しだった。
(……死ぬところだった)
悠真の背筋に、冷たい汗が流れた。
「ひゃあっ!や、やめなさいってば!わたくしの胸を放しなさい!」
セレスティアは、馬の急カーブに振り落とされそうになりながら、痴漢行為への悲鳴を上げた。
「うわああああああ!落ちる!落ちるううう!」
悠真は、その悲鳴など耳に入らず、ただ恐怖でセレスティアの体を反射的に抱きしめる力をさらに強めた。悠真の掴む力が強まるたびに、セレスティアの嬌声にも似た悲鳴が上がる。二人の叫び声は、まるで合唱のように戦場に響き渡った。
魔物集団は突然の二人の侵入者に混乱しつつも、すぐに攻撃を仕掛ける。ゴブリンが放った弓矢が馬の背後をかすめ、オークが投げた石斧が馬の足元を狙う。
ギャン!
馬が、道に横たわっていたワイヤーに足を引っ掛けた。ワイヤーはピンと張られ、その先の地面に仕掛けられていた罠が作動する。
「きゃあああああ!ちょっと、悠真!まだ掴んでるじゃない!」
セレスティアは叫び、馬にしがみついた。
「そんなこと言われても!止まって、セレスティア!落ちるって!」
悠真は恐怖でセレスティアの背に額を押しつけるようにしがみついた。
バシュッ!
ワイヤーの先から、毒が塗られた矢が雨のように飛び出した。馬は、ワイヤーを踏みつけることでその仕掛けを起動させてしまったが、その勢いで、矢の射線から外れることができた。
馬はさらに敵陣の奥深くへと突っ込んだ。次の瞬間、馬は急に減速し、大きく左へと向きを変えた。
「ひゃああっ!きゃっ、いや!もうやめなさい!」
セレスティアは、急な減速と方向転換で、悠真の掴む位置がずれるたびに悲鳴を上げる。
「止めて!危ないよ!ああああ!落ちる!」
悠真はただ叫び続けた。
馬は、敵のオークが石斧を振り下ろす直前の地面を、ギリギリで避けるように通り過ぎた。その直後、オークの背後に隠されていた魔法陣が地面に触れ、パチィッ!という音と共に、魔物一体を巻き込む爆発が起こった。
(爆風の熱が、頬をかすめた。生きているのが不思議なくらいだ……)
馬は暴走によって制御不能になっているものの、その猛スピードと予測不能な動きは、結果的に設置された罠や奇襲の場所を次々と回避し、敵の陣形をかき乱していった。二人は敵の群れの中を走り回りながら、罠を次々と作動させていく。
「いやあああああああああああああああああ!!!!」
ルナは、目の前で起こった信じられない光景に、一瞬で顔色を変えた。
(あの馬鹿、一体どうなっているんだ!?次々と罠を発動させながら、敵陣に突っ込んでる!?)
ルナの金色の瞳が、敵の陣形の中で、杭が飛び出た落とし穴や、地雷のように爆発した魔法の罠の跡を正確に把握した。それらの罠は、暴走した馬が通った道筋と、完全に一致していた。
「……まさか!あの馬鹿どもの暴走で、敵の罠を全て解除させたというのか!」
その時、徒歩で馬の後を追っていたリーファが、ルナに駆け寄りながら叫んだ。
「ルナさん!聞いてください!悠真様は、起こる不幸な未来を視るだけでなく、その不幸な未来を、無理やり幸運に変えてしまう力をも持っているんです!」
リーファは、過去の経験から、悠真の能力をルナに説明した。
「信じられないが、そのようだな……」
ルナは、馬が走り去った後の、罠が解除された道筋こそが、唯一安全に突入できる通り道であると理解した。
ルナは驚愕に目を見開いたが、すぐに表情を引き締める。悠真の予知がどうあれ、今、彼らが進むべき道は一つしかない。
ルナは、長剣を鋭く突きつけ、傭兵たちに号令した。
「全隊聞け!進路変更!あの馬が走った通り道を通れ!あの男の行動は、結果的に敵の罠の場所を示し、そして解除した!全速力で突撃しろ!俺たちの命運は、あの痴れ者にかかっている!」
ルナは、傭兵団の命運をかけ、悠真とセレスティアを乗せた馬が駆け抜けた、安全な通り道を利用し、魔物集団との戦闘に突入することを決意した。
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