表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第2章:『残念で不幸な僕を、異世界美少女が欲しがる件について』
27/35

第8話:山道の傭兵団と、月光の少女(第3節)

ドオオオオオン!!!

落石の轟音が山間に響き渡り、やがて静寂が戻った。

轟音と共に発生した落石は、馬車が停止した場所のわずか数メートル先を完全に塞いでいた。絡み合ったままの四人は、その岩の塊を呆然と見つめた。もし馬車が石につまずいて止まらなければ、一行は確実に落石に巻き込まれていた。

「……ま、まただわ」

悠真の背中に覆いかぶさっていたセレスティアが、絡み合った体勢を解きながら、呆れたように呟いた。

「皆様、ご無事ですわね?とにかく、すぐにこの状況をどうにかしなくては!」

セレスティアの言葉に、リーファと悠真も慌てて体勢を立て直した。リーファは破れた巫女服の腰を押さえ、悠真は青ざめた顔で頭を下げる。

ボニーは動揺を隠しつつ馬から降り、恐る恐る落石を確認しに行った。

「王女様、道が完全に塞がれています。こんな岩、私たちだけでは動かせません」

セレスティアは状況を素早く把握した。

「リーファ、あなたの巫女服はもう着られませんわ。馬車の荷物の中に、予備の旅装がございます。さあ、こちらにいらして。わたくしが着替えをお手伝いいたしますわ」

セレスティアは、一転して楽しそうな笑みを浮かべ、リーファの腕を強引に引き、馬車の方へ招こうとする。

「ひ、ひゃん!王女様、お待ちくださいませ!破れてめくれたところが、見えてしまいますわ!」

リーファは悲鳴のような声を上げ、破れた服の裾を両手で必死に押さえつけながら、馬車の扉の中へと連れていかれた。

リーファは恐縮しつつも、その申し出を受け入れた。セレスティアが用意していたのは、王族の華美なものとは違う、可愛いピンク色の機能的な旅装で、リーファの清楚な巫女服とはデザインが全く異なるものだった。

悠真とボニーは外で待たされ、馬車の中ではセレスティアがリーファの着替えを手伝っていた。

悠真は、神妙な顔つきで馬車に背を向ける。彼は、馬車に背を向けているとはいえ、中から聞こえてくる「カサカサ」という服の擦れる音や、美少女二人の親密な会話に、思春期の男として意識せざるを得なかった。

「ふふ、リーファ。あら、その下着、白くて清楚で可愛らしいですわね。巫女様らしいですわ」

セレスティアの楽しそうな声が、馬車の薄い扉を隔てて漏れてくる。

「も、もう!王女様!そのようなことを!悠真様が外にいらっしゃるのに……」

リーファの焦った、恥ずかしそうな声が続く。

「大丈夫ですわ。馬車の窓には厚いカーテンを閉めていますから、外からは見えませんもの。わたくし、ゆうゆうがまさかわたくしたちの会話を盗み聞きしたりなさいませんわよね?」

セレスティアは、あえて悠真に聞こえるように声を張り上げ、悠真をからかっているようだった。

悠真は全身の血が頭に上るのを感じたが、口を開くこともできなかった。

その時、悠真の隣に立っていたボニーが、顔を青ざめさせながら、慌てて馬車の扉の真前に移動した。そして、馬車の扉と悠真の間に立ち、悠真の視界を物理的に遮った。

「あ、あの……高橋悠真さん。す、すみませんが、あちらを見ないでいただけますか?」

ボニーは、胸の前で両手を組みながら、小声でおどおどと訴えた。

「え?み、見てないけど。じゃあ一応、馬車に背を向けて……」

「ひっ……!そ、そうじゃなくて!あなたの不運に巻き込まれて、これ以上、ろくなことが起こりませんから……!あ、あの、馬車からもっと離れてください!」

(えええ!?僕の不運のせい!?)

悠真は、自分の不運体質を理由にした理不尽な糾弾に、ただただ耐えるしかなかった。

着替えを終えたリーファは、恥ずかしそうに馬車の扉を開け、悠真たちの前に現れた。王女の予備の旅装を身に纏った彼女の姿は、普段の神聖さに、どこか新しい可憐さが加わったようだった。

「皆さま、お待たせしました。その、着慣れない服なものですから……悠真様にお見せするのが、少し恥ずかしいですわ」

リーファはそう言って、もじもじと頬をピンク色に染め、悠真の視線を避けた。

「この落石では馬車は通れませんわ。この先の街道も、しばらく落石の危険を伴うでしょうし……。ボニー、少し引き返して南の道を行きましょう」

セレスティアは、少し手前の分岐点まで戻り、南に抜ける近道をすすめる。

「ですが王女様、あちらは山道で……」

ボニーの反論に、セレスティアは冷静に指示を出した。

「ええ、だからこそ馬車は、一度王都へ帰してあげてください。わたくしたちは少し歩いて進むほうが、早く人里にたどり着けるはずですわ」

「はっ」

ボニーは指示通り、御者と共に馬車を王都へ帰らせた。

残されたのは、護衛のボニーと彼女の馬、そして悠真、セレスティア、リーファの三人だ。

ボニーは馬から手早く降り、手綱を握ったままセレスティアに向き直った。

「わ、王女様。この山道は足元が悪いので、お疲れになる前にお乗りください。わたくしが操縦いたします」

「あら、ありがとうボニー。では、失礼しますわ」

セレスティアは優しく微笑み、ボニーが支える馬に背後から乗り込んだ。ボニーは、セレスティア様が無事に背中に乗ったのを確認してから、自分も馬の前に素早く乗り直した。

「王女様、お足元はよろしいでしょうか」

ボニーは控えめながらも、騎士として細心の注意を払って声をかけた。

「ええ、大丈夫ですわ。ゆうゆう、あなたとリーファは歩いてくださいな。巫女様を労わるように、ゆっくりと。お二人だけ歩かせて悪いわね」

セレスティアが馬の背後から声をかけ、ボニーが馬を進めると、悠真とリーファは並んで山道を進み始めた。

リーファは、借り物の旅装にまだ慣れていない様子で、少し遠慮がちだったが、悠真が横にいることで少し安心したように見えた

「まさか、王女様の予備の服を着ることになるとは思いませんでした」

リーファが顔をあげ、微笑んだ。

「でも、少し動きやすくて、新鮮ですわ。」

一行が進む山道は、馬車が通るにはやや狭く、左右には風雨に削られたごつごつとした灰色の岩肌が迫っていた。頭上は鬱蒼とした木々の葉が光を遮り、道には苔生した石が点在し、湿り気を含んだ土の匂いが漂っている。

「悠真様、この道は神殿の書物には載っていませんでしたが、この岩肌の模様は、古代の神殿の壁画に似ていますわね」

「へえ、すごいねリーファ。よくそんなことわかるね」

悠真は、リーファの知識と、少しだけ楽しそうな笑顔を見て、落石後の緊迫した空気が和らぐのを感じた。

二人は並んで歩きながら、異世界の神話や、元の世界の日本のことなど、他愛のない会話を交わした。リーファは、悠真の言葉に驚いたり、時にはクスッと笑ったりと、少女らしい一面を見せていた。

二人の様子を、馬の背に揺られながら見ていたセレスティアは、その光景に不満げに口を尖らせた。

(な、なんですの!あの二人!わたくしが馬に乗っているのをいいことに、二人だけで楽しそうに!しかも、あんなに距離が近い!悠真も、リーファが着ているのはわたくしの私物だというのに、まるでデートではありませんの!)

セレスティアは、馬の上で、悠真とリーファの間に割って入りたい衝動に駆られたが、王女としての立場と、護衛のボニーの手前、それもできない。

(くっ……不公平ですわ!わたくしだって、悠真の隣を歩きたいのに!それに、あの巫女、わたくしの服を着て、あんなに嬉しそうな顔をして……!)

セレスティアは、馬上でボニーの背中にしがみつきながら、小声で愚痴をこぼした。

「ね、ねえボニー。あの二人、ちょっと親密すぎません?なんだか、さっきから、ずーっと、ずーっとおしゃべりしていて……わたくし、ちょっと不満ですわ」

その愚痴を聞いた護衛のボニーは、背中の王女の愚痴にどう返答すべきか困り果て、生唾を飲み込んだ。

(ひぃ……王女様のご不満をどう処理すれば……。騎士として、この微妙な状況にどう対処するのが正解なんだ……?)

「さっきから、またあんなに笑い合って……ゆうゆうは、わたくしのことなんて、きっと忘れていますわ!」

セレスティアは、さらに小声で不満をぶつけた。

(この道を進み始めてから、ずっとこの調子だ。もう、どれくらいこのおしゃべりが続くのだろう……)

悠真とリーファが話しながら歩き、セレスティアが後ろから愚痴をこぼす。そんな微妙な空気が続くうちに、陽は完全に落ち、夜の闇が森を深く覆った。

「まったく、ゆうゆうったら。ねえ、ボニー。聞いていますの?」

その時、ボニーはふと顔を上げた。

「あ、あの!王女様……!し、静かに……!」

セレスティアは、ボニーが自分に「静かに」と言ったことに驚き、反射的に声を出した。

「まあ、あなたまで!」

セレスティアは一瞬、ボニーが自分の愚痴をたしなめたのだと勘違いしたが、すぐにボニーの青ざめた顔と前方を指差す震える指に気づいた。

「……あら?」

月光に照らされたその先、山道の木々の切れ間から、複数の篝火の光が見えた。山中に佇む傭兵団の野営地のようだった。

セレスティアは即座に決断した。

「ボニー、あそこで一晩の宿を交渉しましょう。傭兵団といえど、王族のわたくしが直々に頼めば、無下に扱いはしませんわ」

ボニーは顔を青ざめさせ、震え声で反対した。

「ひ、ひぃ!王女様、おやめください!あ、あそこはヴァルハラ傭兵団の縄張りかと……!彼らは血の気の多い獣人族の集団です。とても交渉など……!」

「交渉は危険、ということね。では、見つからないよう回り道をしましょう。ボニー、馬を静かに……」

セレスティアが回り道を提案し、ボニーが馬の手綱を引いた、その瞬間だった。

カラン!

悠真の足元にあった苔生した大きな石が、不運にもバランスを崩し、大きな音を立てて谷底へと転がり落ちた。

「ドオオオオオオ……ン!」という響きが、夜の山間に響き渡り、野営地の静寂を破った。

しまった!

悠真は口を押さえたが、時すでに遅し。

篝火を囲んでいた野営地から、数名の影が一斉にこちらを振り向き、警戒の声を上げた。

「誰だ!そこにいるのは!」

ボニーは、恐怖に顔を引き攣らせながらも、訓練された反射で剣を抜き放った。

「ひっ……!き、来ないで!わ、わたくしは、アルカディア王国の騎士よ!近寄ったら、き、斬るわよ!」

彼女は馬の前に立ち、震える剣先を傭兵団のいる闇に向けたが、その足は今にも逃げ出しそうにがくがくと震えていた。

その時、月光に照らされた野営地の奥から、一際背の高い人影が姿を現した。

現れたのは、銀色の髪と鋭い金色の瞳を持つ、スラリとした高身長の美少女。彼女の頭と腰には銀狼の耳と尻尾が生えていた。彼女は騎士服ではなく、クロップトップにショートパンツといった軽装で、腰には一本の長剣を差していた。その顔立ちは整っているが、表情はクールでどこか好戦的な雰囲気を纏っている。

彼女は、月光の下、悠真たち一行を睨みつけた。

「てめぇら、何の騒ぎだ?静かな夜に、とんだ邪魔が入ったな」

セレスティアは、野営地のリーダーと見て、すぐに声をかけた。

「あの、わたくしはアルカディア王国の第三王女、セレスティアと申します。道に迷い、一晩の宿を借りたく……」

彼女は、セレスティアの言葉に耳を貸そうとせず、まるでゴミを見るかのような軽蔑する視線で一行全体を射抜いた。

「ほぅ?王族が夜の山道で迷子か。ご苦労なこった。だが、ここは貴族の遊び場じゃねぇ。お前らが誰であろうと、ここは俺たちヴァルハラ傭兵団の野営地だ」

彼女は、そう言い放ち、腰に手を当てたまま、挑戦的に続けた。

「俺の名は、ルナ・ガルシア。人呼んで『銀色の狼』。交渉に来たってんなら、それなりの覚悟を持って、出直してきな」

ルナは、悠真たちの状況を一言で断罪した。その言葉は、悠真たちの心に、この旅最大の不幸を突きつけるには十分だった。

読んでいただき、ありがとうございます♡

評価・ブックマークして頂けると、とても嬉しいですわ。


毎週、火曜日と金曜日の、夜9時30分ごろに投稿予定ですので、

次回も是非、お待ちしておりますわ♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ