第8話:山道の傭兵団と、月光の少女(第2節)
王都を旅立った一行は、広大な平原の道を馬車で進んだ。陽光が降り注ぐ中、視界いっぱいに広がる緑の絨毯は、まさに異世界ならではの壮大な景色だ。風に乗って運ばれてくる草花の香りが、悠真の心を穏やかにする。
しかし、馬車の中は、平原の単調な風景とは裏腹に、悠真を挟んで座るセレスティアとリーファが、彼の腕を奪い合うように静かな牽制を続けていた。リーファは「神の救世主」である悠真を独占しようと神聖さを盾にする一方、セレスティアは「婚約者」という立場を振りかざし、一歩も譲らない。
「ゆうゆう、ご覧くださいませ。この平原の美しさ、きっと元の世界にはありませんのよね?わたくしたちの王国が、いかに豊かな土地に恵まれているか、実感してほしいですわ」
セレスティアは、悠真の腕にさらに体重をかけ、彼の肩に顔を寄せ、甘い声で右側の窓の景色を案内する。その視線は、悠真の反応をうかがっているようだった。
「王女様!ずるいです!悠真様はわたくしの神殿の救世主ですわ!そのような距離感は、神への冒涜に当たります!」
リーファは必死に抗議するが、対抗するように、悠真の左腕を優しく掴みながら左側の窓を指差した。
「悠真様、あちらをご覧ください!あの草花は『祝福の冠』という神聖な花ですわ。神殿の儀式に欠かせませんのよ。わたくしが、この世界の歴史と神々の教えを、丁寧にご案内いたしますわ」
二人は、悠真の腕を奪い合いながら、互いの王国や神殿の知識を披露する「案内合戦」を始めた。セレスティアが王国の文化や政治の歴史を語れば、リーファは神話や伝説、聖地の地理を熱弁する。悠真は、左右から熱心に解説される二人の顔と、その度に密着してくる柔らかな体に、座っているだけで激しく疲弊していった。
(う、うるさい……そして、近い。これ以上、王国の未来や神話の深淵について聞かされても、僕の頭に入らない……)
悠真は二人から逃れるように窓の外に目をやると、少し離れた位置で馬に乗る、護衛のボニー・ボーンの姿が見えた。
ボニーは、細身の騎士服を着ているが、胸元の生地が限界まで張り詰めており、馬が揺れるたびに大きく揺れていた。
(……あんなに揺れて、重くないのだろうか?あの胸を抱えたまま剣を振るうなんて、大変そうだなぁ。というか、騎士服ってあんなに伸びる素材なのか?)
悠真は、セレスティアとリーファの激しい口論と密着から逃れるように、真剣な顔でボニーの胸が揺れる様をじっと見つめていた。彼の意識は、完全に平和な「巨乳の謎」へと逸れていた。
「……で、ゆうゆう。わたくしのお話、聞いていらっしゃいましたの?」
「……聞いておられますか、悠真様?」
二人の声がピタリと止まり、セレスティアとリーファが、不機嫌そうな顔で悠真を覗き込んだ。そして、悠真の視線が、熱心にボニーの方に向けられていることに気づいた。
「悠真様!わたくしたちの真剣な会話中に、何をじっと見ていらっしゃるのですか!?」
リーファは純粋な顔から一転、恐ろしい形相になり、悠真を強く叱りつけた。
「は、はしたないですわ!ゆうゆう!わたくしのお話は、つまらないとでもおっしゃるのですか!?」
セレスティアも顔を真っ赤にして、不満げに抗議する。
悠真は、最悪のタイミングでよそ見をしていたことに気づき、顔を真っ青にして首をすくめた。
「ご、ごめん!話聞いてたよ!ただ、えっと、景色が綺麗で……」
馬車の中が大騒ぎになる中、外で馬に乗っていたボニー・ボーンは、馬車の窓から聞こえる騒ぎに気づいた。彼女は、「また車内でいちゃついてる……」と呆れ顔で、前方を向いて馬を走らせることに集中した。彼女の背中は、心底呆れ果てているようにも見えた。
やがて、平原を抜け、馬車は起伏の激しい山道に差し掛かった。道の両脇には、人の背丈ほどもある奇妙な形の植物が生い茂り、ゴツゴツとした岩肌が目立つようになる。空気も平原とは異なり、少し湿気を帯び、ひんやりとしていた。馬車の速度も緩やかになり、車輪がきしむ音が、静かな山道に響き渡る。
そんな中、悠真の胸ポケットにある『運命の石』が微かに熱を帯びた。それは、まるで熱い石炭を胸に入れられたかのような、強い熱さだった。
「あれ?急に石が熱いな。太陽の光が当たったのかな?」
悠真は、ポケットに手を当てて『運命の石』を触ってみたが、特に気にせず、また景色に目を戻した。
その矢先だった。 馬車が、道に転がっていた大きな石につまずき、「ガタンッ!」という耳障りな音を立てて激しく揺れた。
「きゃあっ!」
揺れは強烈だった。座席から体が浮き上がるかのような衝撃が、悠真たちを襲う。反動で3人はリーファ側へ激しくバランスを崩した。セレスティアが悲鳴をあげながら悠真に覆いかぶさり、その勢いで悠真がリーファに覆いかぶさり、リーファは馬車の扉に背中から強くもたれかかる形となった。
悠真の顔は、ふわりとした柔らかさに包まれた。それがリーファの胸だと気づいた瞬間、彼の脳内は真っ白になった。その感触は、神聖さとは程遠い、温かく女性的なものだ。淡い石鹸のような香りが、悠真の鼻腔をくすぐる。
一方、彼の背中には、王女であるセレスティアの華奢な体温が密着し、その吐息が首筋にかかる。予期せぬラッキースケベな状況に、悠真の心臓は激しく高鳴り、顔を真っ赤にした。まさに、不幸の極致と幸運の極致が同時に訪れた瞬間だった。
「い、いきなり何を!悠真様!そのような不埒な行為は、神への冒涜ですわ!すぐに離れてくださいませ!」
リーファの声は、驚きと恥ずかしさで震えている。彼女の顔も真っ赤で、瞳は泳いでいた。
「ご、ごめんなさい、わたくしも不覚を!ゆうゆう、わたくしの手が挟まって、動けないですわ。離れてくださいまし!」
セレスティアも慌てて悠真から身を離そうとするが、激しい揺れで体勢が崩れ、三人とも身動きが取れない。まるで、絡み合った糸のように、三人の体が密着したままだった。
馬車の激しい揺れと、中から聞こえる3人の嬌声に、外で護衛していたボニー・ボーンが心配し、乗馬を止め馬車の中をのぞいた。
馬車の激しい揺れと、中から聞こえる3人の嬌声に、外で護衛していたボニー・ボーンは、「さすがにイチャイチャの度が過ぎて、何か問題が起きているのではないか」と思い、乗馬を止め馬車の中をのぞいた。
そして、生真面目だが少し頭の固いボニーは、車内で重なり合う3人を見て、即座に勘違いをした。
「い、いくら何でも昼間から破廉恥です!悠真様!王女様と神殿の巫女様を巻き込むなど、不埒千万ですよ!」
ボニーは顔を真っ赤にして叫びながら、慌てて扉を全開、重なり合った3人は、開いた扉の方へ一気になだれ込んだ。
そして、扉にもたれていたリーファが、前に押し出される形となり、
「きゃあああ!」
リーファは、転落を避けようと反射的に目の前にいたボニーの胸に手を伸ばした。
(ムギュ!)
リーファの両手は、ボニーのとてつもなく豊かな胸をわしづかみにしてしまう。
「ひゃっ……!?な、なにごとですかぁっ!」
ボニーが甲高い悲鳴をあげ、動揺で体をよろめかせた。
さらに、リーファに覆いかぶさっていた悠真も、リーファの後を追ってなだれ込む。悠真は、落ちまいと必死にリーファの体を掴もうとするが、手が滑り、ちょうどリーファの腰のあたりにあった巫女服の一部を掴んでしまう。
(ピリッ!)
生地の破れる音が響き、リーファの巫女服の腰から下が一気にはだけてしまった。 転落の勢いで、悠真の顔は、露わになったリーファの桃色に染まったお尻に、「むぎゅ!」と音を立てて深く埋まってしまった。
「いやーん!」
「ひぃいい!」
リーファとボニーが恥ずかしさと衝撃で絶叫した、その時だった。
ドオオオオオン!!!
馬車の数メートル先で、山肌が大きく崩れ、轟音と共に激しい落石が起こる。もし、馬車が石につまずき、車内の騒ぎを聞いて馬車を止めていなければ、一行は確実に落石に巻き込まれていた。岩がゴロゴロと転がり落ちる音は、まるで雷鳴のようだった。
悠真の背中に覆いかぶさり、体勢を崩したままのセレスティアは、その衝撃でさらに強く悠真にしがみついた。リーファ、悠真、セレスティア、ボニーの四人は、落石の発生源を凝視し、全員が複雑に絡み合った間抜けな状態のまま、しばらく固まっていた。
「……ま、まただわ」
セレスティアが呟く。その表情には、呆れと同時に、悠真の不幸体質への確かな信頼のようなものが滲んでいた。
一行は、馬車の揺れが、彼の不運がもたらす偶然の幸運によって、この落石を回避したのだと気づく。彼の不幸と同時に、周囲の人々を予期せぬ形で救うという、矛盾した真実を、本人を除く全員が再認識したのだった。
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