第7話:闇に潜む影と、謎の神獣(第4節)
エメリアが僕の予知について語り終えると、執務室には重い沈黙が満ちた。セレスティアとリーファは、その言葉の重みに息をのんでいた。
「幻影のブルーメ…魔王軍の軍師…」
セレスティアが震える声で呟いた。彼女の顔からは血の気が引き、かつての傲慢さは完全に消え失せている。
「お姉様、それは…本当なのですか?魔王軍が再び…」
エメリアは静かに頷いた。彼女の表情は悲痛に歪んでいる。
「ええ。この予知は、教団の予言書に記された、かつての魔王戦争の兆候に酷似しています。悠真くんの持つ『運命の石』は、世界の危機を予知する力を持っている…おそらく、あなたが見た幻影は、遠い未来に起こるであろう戦いの予兆なのです」
「…そんな…」
リーファが青ざめた顔で呟いた。
「この世界の呪いは、やがて終焉へと向かう。『運命の石』が未来へ導く。…そして、その石は、悠真様と同じ異邦人がもたらしたもの…」
セレスティアは、エメリアの言葉を反芻するように繰り返した。これまでの王位継承争いが、いかに些細なものであったか、彼女は改めて痛感していた。
「悠真様の不運…いえ、予知の力は、私たちを導くためのものだったのかもしれません」
エメリアは、僕のポケットから取り出した『運命の石』を、慈しむように見つめながらこう言った。
僕の不運は、単なる災厄ではなく、世界の根源的な問題と深く関わっている。そして、僕にしか見えない予知は、僕がこの世界の呪いを解くために必要な道標なのかもしれない、と。
「…僕が、元の世界へ帰るためには、この呪いを解かなければならない…そういうことですか?」
僕の問いに、エメリアは静かに頷いた。
「…それに、このまま王都にいれば、悠真様の能力が、再び政争の道具に利用されてしまうかもしれない。魔王軍が動き始めている今、それは避けなければなりません」
それを聞いたセレスティアは、僕を真っ直ぐに見つめる。その紫の瞳には、かつてのような傲慢な光はなく、僕を心から案じる温かさが宿っている。そして、決意を語った。
「悠真様、あなたを元の世界へ帰すため、そして世界の危機に備えるため、わたくしは王都を離れ、旅に出ることを決意しました」
セレスティアの言葉に、リーファは驚き、目を見開いた。
「セレスティア様…!」
「お待ちなさい、セレスティア。王女であるあなたが、自ら危険を冒す必要はありません」
エメリアが静かにセレスティアを制した。その言葉に、僕も内心で同意した。王女が王都を離れるなど、あってはならないことだ。しかし、セレスティアは毅然として首を横に振った。
「お姉様、何を言っているのですか? わたくしは、旦那様についていくのは当然のことでしょう?」
「だ、旦那様…?」
僕の口から、戸惑いの声が漏れた。セレスティアは、僕の反応を気にも留めず、僕の腕にそっと自分の腕を絡ませた。
「そうよ、ゆうゆう。あなたを元の世界へ帰すのは、わたくしの使命だわ。もちろん、リーファも一緒よ」
「へ、ゆうゆう?あ、は…はい!私も行きます!」
リーファは、セレスティアの急変した態度に、戸惑いとわずかな嫉妬の表情を浮かべながらも、力強く頷いた。そして、セレスティアに負けじと、僕のもう片方の腕に自分の腕を絡ませてきた。
それを見ていたエメリアは、ふっと息を吐き、呆れたような、それでいてどこか嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「あらまあ…元気になったようね、セレスティア。もう、わたくしが心配するまでもないようですわ」
先ほどの予知の中で確か、ブルーメが僕にこう言っていた。『次の場所で、お会いできるのを楽しみにしているわよ、救世主様』と。
先ほどまで熱を帯びていた、僕の胸ポケットの石は冷たく、静かに鳴りを潜めている。
かくして、残念で不幸な僕と、異世界美少女たちとの本当の旅が、今、始まった。
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