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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第1章:『残念で不幸な僕と、美少女たちの勘違いの件について』
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第6話:不幸な予知は、政治に使える?(第2節)

王宮内の執務室。窓から差し込む薄暗い光が、第一王女ソフィア・アルカディアの顔を照らし出していた。彼女は、先ほど部下からの報告を聞き、眉間に深い皺を刻んでいる。

「……そうですか。毒を塗布した書類は、目的を果たすことなく回収された、と」

ソフィアの前に立つのは、先ほど回廊で書類をばら撒き、逃げ去った見習い騎士、ボニー・ボーンだった。彼は、変装を解き、ソフィアに深々と頭を下げている。

「……はい。書類をばら撒いたのは、わたくしです。ですが、あ、あの……」

ボニーは、口ごもりながらも、必死に言葉を探している。彼の顔には、苛立ちとともに、何かを恐れているような色があった。

「あの子に書類を拾わせようと、わざと転んでばらまいた演技をしたのですが、その直後に、あの子が偶然転んだんです!わ、わたくしの計画は完璧だったのに、まるで運命を捻じ曲げられたみたいに……」

彼女は、悠真の「不幸」な能力が、自身が仕掛けた罠の成功を阻んだのではないかと感じているようだ。

ソフィアは、その言葉を聞き、静かに、そして冷徹に言った。

「その『偶然』の不運が、私たちの計画を台無しにしたということかしら。あの子は、本当に救世主なのかしら……それとも、ただのドジなだけなのか……」

彼女は、何かを思案するように目を閉じ、再びボニーに鋭い視線を向けた。

「今回の失敗は、あなたの落ち度ではないわ。それよりも、見習い騎士として振る舞ったことで、セレスティアは警戒を強めるはずよ。今後の動向を注意深く見守りなさい」

「…はいっ!…いや、御意でございます!」

ボニーは、ソフィアの言葉に安堵し、執務室から慌てて出ていこうとする。しかし、急いで立ち上がった拍子に、椅子に脚をぶつけてしまう。ボニーは、大きな胸を揺らしてよろめきながら、執務室を後にした。


それから数日後、謁見の間へ向かうため、僕たちは再び王宮の回廊を歩いていた。書類の件もあり、セレスティアの表情はいつもより少しだけ固い。

回廊の壁には、歴代の王や王妃の肖像画が飾られている。その一枚、中央に飾られた現国王の肖像画の前で、セレスティアが足を止めた。

「悠真様、この方は現国王、わたくしの父上です」

セレスティアが説明してくれたその瞬間、僕は足元に違和感を覚えた。床がワックスで磨かれたばかりで、まだ少し滑りやすくなっていたのだ。

僕はバランスを取ろうと慌てて足を動かしたが、その拍子に、床を清掃していたメイドのバケツを蹴飛ばしてしまった。

「ひゃっ!?」

メイドは悲鳴を上げ、手に持っていたワックスの入った桶を派手にぶちまける。ワックスは油のように床に広がり、僕はそのワックスに両足を滑らせ、派手に転倒した。

「うわぁぁぁ!」

ズルズルズルルル〜!

僕の体は勢いよくセレスティアとリーファを巻き込んで……三人とも床にワックスまみれになって倒れ込んでしまった。甘い香りがあたりに広がる。

「ちょっと、悠真様!もう、なんでこんな所で転ぶんですか!」

リーファが、ワックスでベタベタになったローブを気にしながら、僕の上で不満そうに声を上げた。僕が慌てて彼女から体を離そうとした、その瞬間。

リーファのローブの胸元が、ワックスで張り付くように肌に密着し、豊かな胸の谷間がくっきりと浮かび上がる。はだけたローブの下から露わになった白い肌は、ワックスのせいで濡れたように光り、はち切れんばかりに膨らんだ胸の輪郭を強調していた。

彼女は悲鳴を上げて、慌てて両手で胸を隠そうとするが、ワックスのせいでローブが張り付いてしまい、うまくいかない。

一方、僕の隣で倒れていたセレスティアは、スカートがワックスでめくれ上がり、薄い下着を透かして太ももがあらわになっていた。ワックスは彼女の肌に滴り、まるで汗をかいたかのように濡れた光沢を放っている。

僕は思わず、そのなめらかな白い太ももに視線を向けてしまう。彼女は、わずかに顔を赤らめながらも、気品を保とうと平静を装い、すぐにスカートを押さえて身を隠した。

「ご、ごめんなさい……!」

僕が必死に謝罪しようとしたその時、護衛騎士ゼノアが冷徹な声で僕に言った。

「悠真様。セレスティア王女様をこのような目に遭わせるとは……。一体、どういうおつもりですか」

ゼノアの怒りの眼差しが、僕の心を突き刺す。僕は、ただただ縮こまるしかなかった。

その直後、僕たちの頭上から、大きなシャンデリアが轟音を立てて落下してきた。

「きゃああああ!」

メイドたちの悲鳴が回廊に響き渡る。シャンデリアは、僕たちが転んでいた場所を、あと少しで直撃するところだった。シャンデリアの破片が、僕たちの周りにバラバラに飛び散る。もし、僕たちが転んでいなかったら、直撃を免れることはできなかっただろう。

「……まさか、ここにも」

セレスティアは、信じられないものを見るかのように、ワックスまみれになった僕たちと、シャンデリアの破片を交互に見つめていた。彼女の顔には、微かな焦りの色が見えた。

僕はその時、この騒ぎに駆け付けた群衆の中で、ひと際胸の大きなメイドが、慌ててその場を立ち去っていくのが見えたような気がした。

ソフィアの罠は、僕の不運によって二度も失敗に終わった。


王宮内の執務室。ソフィアは、一人になった執務室で、窓の外を眺めながら、静かに呟いた。

「運命を捻じ曲げる力……。本当にそんなものがあるのなら、わたくしがこの手で、その力を支配して見せるわ」

ソフィアは、悠真の「不幸」によって、自身の策謀がことごとく失敗する可能性に危機感を覚えていた。彼の能力がただの偶然ではなく、何らかの特別な意味を持つと確信した彼女は、より大規模で、回避不可能な罠を仕掛けることを決意する。

ソフィアは机の引き出しから、日頃から懇意にしている教団幹部ユリウス・リヒト司祭から譲り受けた、黒く不気味な光を放つ小さなガラスの瓶を取り出した。その中には、真っ黒な液体が揺らめいている。ソフィアはそれを掌に乗せ、自嘲するように不気味に笑った。


王都アヴァロンの広場では、年に一度の建国祭を祝う準備が進められていた。色とりどりの旗が掲げられ、屋台が軒を連ね、人々は活気に満ちていた。

その日の午後、セレスティアの提案により、リーファと僕の三人で建国祭を視察に行くこととなった。王宮の門を出た僕たちの周りを、護衛騎士たちが囲み、その先頭を、いつもより一層険しい表情のゼノアが務めている。

ふと僕は、腰のポーチに手を当てた。そこに入れた普段は冷たいはずの『呪いの石』が、わずかに温かいような気がしたのだ。

(…なんだろう、この嫌な予感は…)

ポーチの外側から『呪いの石』に触れると、わずかに震えているのを感じた。

「悠真様、どうかされましたか?」

僕の異変に気づいたセレスティアが、心配そうに僕の顔を覗き込んだ。

「いえ、なんでもありません。大丈夫です!」

僕は不安を押し隠し、無理に笑顔を作った。

「そう…?では、まいりましょう」

セレスティアは、その不安を取り払うような、穏やかな笑みを浮かべてくれた。

この予感は、きっと僕の気のせいだ。そう信じながら、僕たちは人々の歓声に満ちた王都へと足を踏み入れた。


「建国祭は、国の建国を祝うだけではありません。王都で働く人々が、一年で最も楽しみにしている日です。たくさんの美味しいものや、珍しい出し物がありますから、悠真様も楽しんでくださいね」

セレスティアが優雅に歩きながら説明してくれた。

人々の賑わいの中、僕たちの横を、ニコニコ笑顔の町人の娘が近づいてきた。彼女は僕たちの前で立ち止まり、手に持った籠から、真っ赤なリンゴを一つ取り出すと、僕に差し出した。彼女は僕と同年代くらいの、まだあどけなさが残る顔立ちで、大きめのシャツがはち切れそうなくらいに胸元で盛り上がっていた。

「お客様!よかったらどうぞ!今日は建国祭ですから、特別ですよ!」

僕は遠慮したが、町人の娘はにこやかに、無理やり僕の手にリンゴを握らせた。僕は戸惑いながらも、そのリンゴを受け取った。

「わぁ、美味しそう!悠真様、早く食べましょ!」

リーファは目を輝かせて言った。

僕はリンゴを一口食べようと持ち上げた時、手が滑り、リンゴが石畳の地面に転がっていってしまった。リンゴが落ちた瞬間、町人の娘は反射的に胸元を両手で抑え、少しでも早く立ち去ろうと身をよじった。

僕は慌ててリンゴを拾おうとすると、一匹の野良犬が、そのリンゴをくわえて走り去ってしまった。

「あ…」

僕が呆然と見送っていると、野良犬はリンゴを一口かじり、次の瞬間、泡を吹いてその場に倒れ込んだ。

「えっ…!?」

その様子を見て、リーファは息を呑み、セレスティアは目を見開いた。

「…毒…!」

セレスティアは、冷たい声で呟いた。僕たちが口にしていれば、間違いなく命を落としていたはずだ。僕の「不幸」が、またしても僕の命を救ったのだ。僕たちは、その事実に安堵し、胸を撫で下ろした。

「よかった、悠真様が無事で…!本当に、本当によかったです!」

リーファは、安堵からか、目に涙を浮かべながら僕の腕にすがりついた。セレスティアも、わずかに表情を緩め、静かに呟く。

「……また、貴方の不運が、私たちを救ってくれましたね」

僕は改めて、僕たちにリンゴを渡した町人の方を振り返った。だが、そこにはもう、彼女の姿はなかった。人混みに紛れて、どこかへ行ってしまったのだろう。

しかし、その安堵は一瞬で恐怖へと変わった。

倒れていた野良犬の体が、奇妙な音を立てて膨張し始めたのだ。皮膚は黒く変色し、骨が内側から突き破り、異形の角や爪が生えていく。それは、見る見るうちに、体高が数メートルもある巨大な魔物へと変貌した。

「グルルルル…」

魔物は唸り声を上げ、その巨大な影が、建国祭で賑わう広場を覆った。人々は悲鳴を上げ、パニックに陥り、四方八方に逃げ惑い始めた。

「…まさか、毒に魔力増幅の効果が…!?」

セレスティアは、信じられないものを見るかのように、震える声で呟いた。その瞳には、一瞬だけ、絶望の色が宿っていた。

王都を包むパニック、そして現れた巨大な魔物。このすべては、ソフィアが悠真の「不幸」を利用し、セレスティアを孤立させるために仕掛けた、大規模な罠だった。悠真のいつもの不運によって、毒は口にされなかった。しかし、その毒が持つ力によって、新たな悲劇が始まろうとしていた。

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