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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第1章:『残念で不幸な僕と、美少女たちの勘違いの件について』
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第6話:不幸な予知は、政治に使える?(第1節)

セレスティアとの婚約者宣言は、僕の人生を全く違うものに変えてしまった。

王城での生活は、まるで夢の中にいるようだった。僕の日常は、セレスティアの部屋に隣接する広々としたダイニングルームで朝食を摂ることから始まる。そこには、僕とセレスティア、そしてリーファも同席していた。

ダイニングルームには、朝の光が窓から降り注ぎ、きらびやかな銀食器が眩しく輝いている。専属のメイドたちが、優雅な足取りで次々と料理を運んできた。

「本日は、トロワゼル・エール地方特産の白チーズでございます」

メイドの一人が、手際よく僕たちのグラスに琥珀色の果実水を注ぎながら、にこやかに言った。テーブルには、その白いチーズと、蜂蜜をたっぷりかけた焼きたてのパン、それに新鮮な果実が山のように盛られている。

「こちらの生活には、もう慣れましたか、悠真様。リーファ」

食事をしながら、セレスティアは僕たちに微笑みかけた。

「はい!毎日こんなに美味しいものが食べられるなんて、夢みたいです!」

リーファは、頬を膨らませてパンをもぐもぐしながら、目を輝かせた。そんなリーファの様子に、セレスティアは小さく笑みをこぼす。

食事が一通り終わると、メイドがティーセットを運び、セレスティアの前に置いた。メイドが紅茶をカップに注ぐと、セレスティアは自分で角砂糖を二つ、カップに入れた。

「いい?悠真様、リーファ。ソフィアがまず仕掛けてくるのは、些細な、けれど決定的な失態を誘う罠よ。たとえば、重要な書類の誤字脱字、謁見での言葉の言い間違い……。ああいう人は、小さな傷をじわじわと広げて、最終的に致命傷を与えるのが得意なの」

その動作は、まるでチェスの駒を動かすかのように正確で、一切の迷いがなかった。

僕は彼女の言葉を理解しようとしつつ、自分の役割を再認識した。

セレスティアの正式な婚約者として、彼女の知略を支える存在。でも、僕には「不幸を予知する力」なんて大層な能力があるとは思えない。ただのドジで、不幸なだけの人間が、この国の運命を背負う王女の役に立てるのだろうか。

セレスティアが僕に期待してくれている、その誠実さや信頼を裏切ってしまうのではないかと、胸が締め付けられるようだった。

「ふむふむ、なるほど…」

一方、リーファは、セレスティアの言葉に耳を傾け、熱心にメモを取っている。

王族の権力闘争という、これまでの冒険とは全く異なる世界に、彼女は興奮を隠せない様子だった。リーファにとって、悠真がセレスティアという心強い味方を得たことは、救世主としての第一歩を踏み出した証。彼女は、セレスティアの知略に感銘を受け、この新しい状況を前向きに受け止めていた。

「セレスティア様ってすごいですね、悠真様。こんなにお若いのに、わたくしなんかよりずっと色んなことを考えていらっしゃるなんて」

リーファが熱心な瞳で語りかける。

「あら、リーファも、とっても真面目ですばらしいわ。その勤勉さが、きっとこの先の未来を切り拓く鍵になるわ」

セレスティアは、そんなリーファに優しい視線を向けた。

彼女の婚約者宣言は、教団が崇拝する「救世主」を自らの陣営に取り込むことでもあり、王位継承争いにおいて有利な立場を確立することを意味する。そして同時に、僕をソフィアの毒牙から守るための、あくまで表向きの「建前」に過ぎなかった。

また、セレスティアは、リーファの存在も常に意識しているようだった。彼女にとって、リーファは、教団を味方につけるための重要な存在でもあるのだ。


朝食を終えた僕たち三人は、護衛騎士ゼノアを一人従え、謁見の間へ向かうため、王宮の回廊を歩いていた。黒髪に鋭い眼光を持つ彼女は、僕たちから少し離れた位置を、静かに、そして警戒心を絶やすことなく歩いている。

僕は、セレスティアが用意してくれた立派な騎士服を身につけ、腰には護身用として渡された装飾の施された剣を差していた。

僕が慣れない剣を気にしながら歩いていると、リーファが心配そうに声をかけてきた。

「悠真様、剣は重たくないですか?歩きにくそうに見えますが……」

「いや、大丈夫だよ。でも、こうやって腰に下げていると、なんだか落ち着かなくて……」

僕がそう言うと、セレスティアがふっと笑った。

「慣れてないのは無理ないけれど、救世主であるあなたを、何の武装もさせずに連れ歩くわけにはいかないの。」

「でも、剣なんて使ったことないし、役に立つのかな?」

僕は、腰にぶら下がった剣の柄に、そっと指先で触れながら、不安を口にした。

「大丈夫、剣は身に着けるだけで威嚇になるの。それに、その装飾も、それ自体が魔力を帯びているから、護身には役立つはずよ」

回廊には、朝の光が差し込み、磨き上げられた床がきらきらと輝いている。

すると、その回廊の一角に、見習いのような若い女の騎士が現れた。彼女は僕と同年代くらいの、まだあどけなさが残る顔立ちで、ゆるくウェーブのかかったブラウンの髪をポニーテールにまとめていた。

彼女は、胸元に分厚い書類の束を抱え、書類で持ち上げられた大きなふくらみを揺らしながら、回廊を通り過ぎようと、慌てた様子でこちらへ走ってくる。

彼女は、僕たちの姿を見ると、慌てて立ち止まり、深々と頭を下げようとした。その拍子に、うっかりと自分の足元の石畳の段差に気づかず、大きく体勢を崩してしまう。

そして、僕たちの目の前で、彼女が持っていた書類を床にばら撒いた。

「わ、わ、わ…!」

見習い騎士は、青ざめた顔でどもりながら、僕たちに深々と頭を下げた。

「わ、わたくしの不始末で、お目汚しを…!セレスティア様、誠に申し訳ございません!」

その書類は、王族の財政に関する重要なものだった。見習い騎士が書類を拾おうと膝をついたその時、それに気を取られた僕も、同じように地面石畳の段差につまづき、とっさに前へ倒れかけた。

「うわっとっと…!」

しかし、次の瞬間、腰に差した剣の鞘が、まるで意思を持ったかのように、わずかに持ち上がって軌道を変えた。僕が段差で倒れそうになったのを察知し、護身用の魔力が自動発動してしまったのだ。

そして、その鞘の先端が、運悪く彼女が着ていた騎士服の胸元に引っかかった。その結果、騎士服の生地が裂け、中から身につけていたシャツまでがはだけてしまう。

「ひっ……!み、見ないで!」

見習い騎士は顔を真っ赤にしながら、とっさに胸元を隠した。しかし、僕は目の前の出来事に意識をとられてしまい、体勢を崩したまま、その豊満な胸元に顔をうずめる形になってしまう。

(むぎゅっ!)

柔らかい感触と、わずかに香る甘い匂い。僕はただただ、呆然としていた。

「い…いやぁぁぁ!!!!!」

「うわぁぁぁ…!ごめんなさい!わざとじゃないんです!」

僕は慌てて後ずさりし、必死に謝罪した。見習い騎士は、羞恥心と混乱で泣きそうな顔をしている。セレスティアは、その光景を一切表情を変えずに見つめていた。

「お見苦しいところを…失礼します!」

見習い騎士は、散らばった書類もそのままに、顔を真っ赤にし、泣きながら走り去っていった。

僕は、ばらまかれた書類を拾おうと、無意識に手を伸ばした。

「触れては駄目よ」

彼女の声は、冷たく、静かだった。白いレースの手袋に包まれた彼女の小さな手が、僕の腕をしっかりと掴んだ。その手の力強さに、僕は驚いてセレスティアを見た。彼女は何も言わずに、僕の手を引いて回廊の角を曲がった。

回廊の角を曲がったところで、セレスティアは静かに僕に問いかけた。

「…何か感じた?」

僕は、僕のドジが引き起こした不運なアクシデントを正直に話した。

「い、いえ、僕はただ転んだだけで…」

その時、黒髪の護衛騎士ゼノアが、手に書類の束を持って戻ってきた。彼女はセレスティアに深々と頭を下げ、冷徹な声で報告する。

「セレスティア様、ご報告いたします。回廊にばら撒かれていた書類を鑑定したところ、書類には、触れた者の皮膚に発疹を引き起こす毒が塗布されておりました」

セレスティアは、その報告を聞いて、満足そうに頷いた。

「…さすがね。あなたのドジによって、あの書類に触れることなく済んだ。あなたの不運が、わたくしたちを罠から救ってくれたわ」

僕が驚いてセレスティアを見ると、彼女は満足そうに微笑んだ。

「王族の公式の場で、救世主と称されるあなたが、全身に発疹を出して倒れる。そうなれば、不運な体質は邪悪な魔力によるものだと流布され、わたくしたちは窮地に陥るわ。…でも、あなたの不幸なトラブルのおかげで、それを事前に察知し完璧に回避できた」

その時、エリザが慌てた様子で僕たちに駆け寄ってきた。彼女は息を切らし、セレスティアに深々と頭を下げた。

「セレスティア様、ご報告いたします。先ほどの見習い騎士を追跡し、確保しようと試みましたが、王宮内に配置されている近衛騎士団に阻まれ、見失ってしまいました……。申し訳ございません」

エリザの顔は悔しさに歪んでいた。セレスティアは、静かに、そして冷静に言った。

「わかっているわ。今回の件は、あなたの落ち度ではない。ソフィアの陣営も、そう簡単に尻尾は掴ませないでしょう。それよりも、見習い騎士を逃がしたことで、ソフィアはより警戒を強めるはずよ。今後の動向を注意深く見守りなさい」

「……御意!」

エリザは、セレスティアの言葉に再び頭を下げ、その場を去っていった。

セレスティアは、僕がただのドジで、不幸なアクシデントを起こしただけだと知らない。そして、彼女は僕の不運を、まるで僕が予知したかのように解釈している。

「悠真様、すごいです!転んだだけで、危険な書類から身を守るなんて!」

リーファが目を輝かせ、興奮した様子で僕に話しかけた。

リーファの素直な言葉が、僕のドジが誰かの役に立ったという事実を、純粋に喜ばせてくれた。彼女のその素直で明るい言葉は、僕の心を少しだけ軽くした。

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