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残念で不幸なぼくを異世界美少女が欲しがる件について  作者: 高安ゆき(ゆきゆき)
第1章:『残念で不幸な僕と、美少女たちの勘違いの件について』
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第5話:王都アヴァロンの策謀家(第3節)

「ただし、僕にも条件がある」

僕の真剣な言葉に、隣に横たわっていたエリザは、覗き込むように顔を近づけ、人懐っこい笑顔を浮かべた。

「聞きましょうか、お兄さん。一体、どんな条件なのかしら?」

彼女はそう言うと、興味深そうに身を起こし胡坐をかいた。僕も同じく胡坐をかいて、彼女に向き合った。

「リーファ…その、僕と一緒にいた巫女の女の子も一緒に、ここから逃げるのを手伝ってほしい」

僕は、琥珀色の瞳をまっすぐ見つめ、そう言った。

エリザは、僕の言葉に驚くことなく、フッと笑った。

「ふふ、なるほどね。お兄さん、自分のことじゃなくて、巫女様のことを心配しているんだ」

エリザは、まるで面白いものを見つけたかのように、僕の顔を覗き込んだ。

「もしかして、お兄さんにとって、巫女様は大切な人だったりする?うふふ」

「な、なに言ってるんだよ!べ、別に大切な人とかそういうんじゃなくて……」

顔を赤くして否定した僕を見たエリザは、静かに笑いをこらえている。そして彼女は人差し指を立て、僕の口にそっとその指を当てた。

「しーっ、静かに……。安心しなさい、最初からそのつもりよ。彼女のことは、あたしに任せて」

エリザはそう言うと、静かに立ち上がり、僕に手を差し伸べた。

「さあ、お兄さん。こんなところで油を売ってる暇はないわ。もうすぐ、ソフィア様のお屋敷の護衛が巡回に来る時間よ。急ぎましょう」

僕は、エリザに差し出された手を握り、立ち上がった。彼女の掌は、ひんやりと冷たかった。

僕たちは、物音を立てないように、客室の窓からこっそりと抜け出した。外はまだ、月明かりが差し込む真夜中だ。

窓の外に広がるのは、手入れの行き届いた広大な庭園だった。月明かりに照らされた噴水が静かに水を湛え、整然と並ぶ植え込みの影が、不気味な獣のように見えた。風に揺れる木々のざわめきだけが、妙に大きく聞こえる。

エリザは、まるで屋敷の構造を全て把握しているかのように、迷いなく暗闇の中を進んでいく。彼女は、王族の屋敷にスパイとして潜入していたのだろう。僕たちは、噴水や彫像の影を縫うように進み、庭園を横切って屋敷の裏側へと向かった。

ときおり、遠くから護衛兵の巡回する足音が聞こえるたびに、エリザは僕を素早く植え込みの中に引き込んだ。

「しーっ、動かないで、お兄さん」

彼女の冷たい手が、僕の心臓の鼓動をさらに速くさせた。

「お兄さん、こっちよ」

足音が遠ざかると、エリザはささやくようにそう言って、僕の手を引いた。

僕たちは、そのまま屋敷の裏口へと回り込んだ。エリザは懐から小さな鍵を取り出し、素早く鍵穴に差し込む。カチリと軽い音を立てて鍵が開くと、彼女は素早く僕を中へ招き入れた。

裏口の扉をくぐると、そこは使用人たちが使う通路のようだった。廊下の壁にはいくつもの扉が並び、明かりのない通路は漆黒の闇に包まれている。エリザは迷うことなく、懐から取り出した小さな魔導具に魔力を込め、ごく弱い光を灯した。足音を立てないよう、壁伝いに進んでいく。

途中、布がかけられた台車のあった角を左に曲がり、更に通路の奥へ進む。

「リーファはどこにいるんだ?」

「巫女様なら、この奥の部屋に」

エリザは、そう言うと、ある部屋の扉の前で立ち止まった。扉には、見慣れない模様が描かれた鍵がかかっていた。

「鍵がかかってる?」

「大丈夫よ、任せて」

エリザはそう言うと、懐から小さなピッキングツールを取り出し、素早く鍵穴に差し込んだ。カチッと小さな音がして、鍵が開いた。

「ほら、お兄さん。急いで」

僕たちは、音を立てないように、部屋の中へ入った。

部屋の中には、ローブ姿のままベッドに横たわっているリーファの姿があった。リーファは泥酔しているのか、そのローブからは華奢な肩や鎖骨が乱れてはだけ、真っ白な太ももが月明かりに照らされていた。

「リーファ、起きろ!」

僕が声をかけると、リーファはうっすらと目を開けた。

「んん……悠真しゃま?……ここはどこですかぁ?…」

リーファは、まだ寝ぼけているようで、状況を理解できていない。

「リーファ、今はそれどころじゃないんだ。早く、ここから逃げよう」

僕がリーファに話しかけていると、エリザが口を挟んだ。

「お兄さん、早く。急がないと」

エリザは、扉の前で廊下の様子をうかがいながら、早く脱出するように促した。

「でも、リーファがこんな状態じゃ……」

僕は、リーファの寝ぼけた様子に困惑しながらも、これ以上時間をかけているわけにはいかないと思い、彼女を抱きかかえた。リーファの体は、思ったよりも軽くて驚いた。

「えへへ、悠真しゃまが、お姫様抱っこしてくれるんですかぁ?」

リーファは僕の首に手をまわすと、ふにゃふにゃとした笑顔で僕を見つめてきた。

「急ぐわよ」

僕はリーファを抱えたままエリザの後に続き、来た道を戻るように再び使用人用の通路を使って、静かに進んでいった。

「悠真しゃまぁ、どこに行くんですかぁ?」

リーファは、回した手をギュッと強めながら、トロンとした眼で顔を引き寄せる。ほんのり甘く酒臭い。

「ちょっと…前が見えないって」

「…あそこの台車がある角を右に曲がれば、裏口ね」

エリザが小声でそう言った、その時だった。

僕の足が、床に置いてあった使用人のバケツの取っ手に引っかかった。

「うわっ!」

情けない声を出して、僕はバランスを崩し、リーファを抱えたまま前のめりに転倒する。

「ちょ、お兄さん!?」

エリザは僕に巻き込まれ、三人とも壁際にあった大きな布がかけられた台車に突っ込んでしまった。

台車に乗っていた布がずり落ち、台車が壁にぶつかって小さな音を立てた。

僕の手はエリザの細い腰に回り、彼女の体は僕の胸に押し付けられる形になった。

「あいたた…、ちょっと何してんの?」

僕はエリザの上に覆いかぶさり、更にその上に抱きかかえられたリーファが乗っかる。

「えへへ〜、悠真しゃまのお布団〜」

完全に酔っぱらっているリーファの柔らかい体が僕の背中に密着した。

「ちょっと重いわよ、お兄さん」

僕は、エリザとリーファの間で、上下サンドイッチ状態に挟まれている状況だ。

その時、その先の廊下の曲がり角の方から、複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

「こっちだ、急げ。客人を逃がすな!」

護衛兵たちは、ガシャンガシャンという鎧の音を立てながら、僕たちがいる通路の先の角を曲がって、こちらへ近づいて来た。絶体絶命のピンチだが、この状態じゃ身動きが取れない。

(まずい、見つかる?!)

僕の心臓は太鼓のように響き、エリザの手は僕の手首をきつく握っていた。 リーファの寝息だけが、やけに大きく聞こえる。

だが護衛兵たちは、僕たちに気づくことなく台車の脇を通り過ぎ、部屋のほうへ急いで走って行った。僕が躓いて倒れたおかげで、ちょうど台車の陰に隠れる形になったようだ。

「た、助かった…!?」

僕は安堵のため息を漏らした。

「行ったわよ。早くどいてよ、兄さん」

僕はあわててリーファを押しのけ、身を起こしてエリザから離れた。

「…まさか、お兄さんがドジ踏んだおかげで助かるなんて…」

エリザはサッと起き上がると、軽く服をはたき僕を睨みつけながら、そう呟いた。

隣でリーファは、相変わらず幸せそうな寝顔で、ごにょごにょと寝言を呟いているだけだ。

その後、僕たちは護衛兵たちに見つかることなく、再びリーファを抱きかかえたまま、屋敷を脱出することに成功した。

「リーファ、起きろ!もうすぐだよ!」

僕がリーファを揺さぶると、リーファは半分寝ぼけながら、僕に抱き着いてきた。

「えへへ、悠真様……夢の中で、ずっと一緒に旅をしていたみたいです……」

リーファは、そう言うと、また眠ってしまった。

「ったく……」

僕は呆れながらも、彼女を抱きかかえ、エリザの後を追った。

「お兄さん……さっきのが、あんたの能力ってこと?」

後ろを振り向いたエリザは、驚きと困惑が入り混じった目で、僕を見つめていた。

「…いや、そんなわけないよ。たまたまドジって転んだだけだよ」

確かにあそこで転んでいなかったら、廊下の角を曲がった直後、護衛兵と鉢合わせになっていただろう。

だが、さすがに、あれが救世主の能力なわけがない…と思いたい。


僕がエリザに連れられて辿り着いたのは、王都の賑やかな大通りから一本入った、薄暗い路地裏にある小さな建物だった。中は、本や地図、そして見たこともない道具が所狭しと並べられており、まるで秘密基地のようだった。

「ここが、あたしの隠れ家よ。ここで、あたしは情報収集をしてるの」

エリザは、そう言って、僕に椅子を勧めた。僕は、言われるがままに椅子に座り、彼女の顔を見つめた。

「ありがとう、エリザさん。君のおかげで、リーファも助かった」

「どういたしまして、お兄さん」

僕がそう言うと、エリザは人懐っこい笑顔を浮かべた。

「でも、お礼を言うのはあたしのほうよ。まさか、お兄さんのドジのおかげで、あんな絶体絶命のピンチを切り抜けられるなんて思わなかったわ。うふふ、やっぱりお兄さんって、面白いね」

彼女はそう言うと、僕から顔を背け、懐から小さな筒状の魔導具を取り出した。

「セレスティア様にご報告よ。今回の件は、お兄さんの幸運……いや、不幸のおかげで、上手くいったわ」

エリザは、そう呟くと、魔導具の端に手をかざした。すると、魔導具から光が放たれ、僕たちの目の前に、第三王女セレスティアの姿が浮かび上がった。

セレスティアは、報告を聞くと、そのアメジストのような紫の瞳を神秘的に輝かせた。

「…そう。やはり、あの少年は、運命を捻じ曲げる力を持っているようね……。それに、不幸を代償に、災厄を予知する能力も持っていると……」

セレスティアは、僕の「不幸体質」が、予知能力であることを確信した。彼女は、その力を利用して、ソフィアが仕掛ける罠を回避し、王位継承争いに勝利しようと目論んでいた。


数日後、王都の大広場で、大規模な園遊会が開かれた。

アルカディア王国の貴族や、他国から招かれた外交官たちが集まる中、僕とリーファは、セレスティアに連れられてその会場に入った。

僕たちは、ソフィアの屋敷からセレスティアの屋敷に移ってから、セレスティアが用意してくれた豪華な衣装を着せられていた。僕の隣を歩くリーファは、純白のドレスに身を包み、まるで高貴な貴族のご令嬢のようだった。

『言うとおりにしてくだされば、あなたが元の世界に戻る為に、わたくしが全面的に協力すると、お約束いたしますわ』

第三王女セレスティア様に、そう言われて付いてきたものの、どう見ても場違いじゃないか、僕?

僕たちが会場に入ると、会場にいた人々が僕たちに注目する。そこには第一王女の姿もあった。ソフィア王女は、僕たちを見ると、驚きに目を見開いた。

「ま、まさか……!なぜ、あなたがここに!?」

ソフィアは、僕に近づき、そう尋ねた。 その時、セレスティアが僕の前に一歩進み出た。そして、会場にいる全ての人々に聞こえるように、はっきりと宣言した。

「わたくし、第三王女セレスティア・アルカディアは、ここにいる救世主、悠真様と『婚約』することを、この場にいる全ての人々にお伝えいたしますわ!」

「「え?……!えぇ~?!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」

セレスティアの突然の発表に、会場にいた人々は驚きを隠せない。 僕も、そして僕の隣にいたリーファも、その言葉に驚きを隠せず、同時に大声で叫んだ。

僕は、セレスティアの言葉の意味が分からず、ただ呆然と彼女の顔を見つめていた。

セレスティアの口元には、不敵な笑みが浮かんでいた。

彼女は、ソフィアの妨害を排除し、僕を完全に自らの味方につけるため、公の場で、僕を自らの婚約者であると宣言したのだ。

僕とリーファは、突然の発表に、ただただ驚愕するしかなかった。

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