第4話:王都への旅路は、トラブルだらけ(第2節)
道を進むにつれて、僕の不幸体質はさらに加速していった。
リーファは、その度に僕を「救世主様」と呼び、僕の不幸を「神の啓示」だと信じて疑わない。その健気な姿に、僕は言い訳をする気力すら失っていた。
その日の夜、僕たちが野宿をすることになった。
リーファが火を起こし、僕が薪を集めていると、空から突然、大粒の雨が降り出した。
「わわっ!雨ですわ!」
リーファは、慌てて僕の背後に隠れるように、ぐいっと僕のほうに体を近づけた。
「こんなところで野宿なんて、無理だぞ!」
僕がそう言った瞬間、近くの木が大きな音を立てて倒れた。
僕たちが野宿をしようとしていた場所は、ちょうど倒れた木の真下だった。
「な、なんだ!?」
僕が驚いて倒れた木を見ると、その下には、ちょうど僕たちが野宿しようとしていた場所があった。
「これは……神の啓示ですわ!悠真様が、この木が倒れる未来を予知し、私たちに知らせてくださったのですね!」
リーファは興奮した様子で僕を見つめた。
「いや、偶然だろ……」
僕がそう言うと、
「いいえ!」
リーファは首を横に振った。
「偶然などではございませんわ!これは、あなた様の不幸が、私たちを不幸から遠ざけているのです!」
「だから、そういうんじゃなくて……」
雨でびしょ濡れになったリーファの白いローブは、彼女の体にぴたりと張り付き、彼女の透き通るような肌をはっきりと映し出していた。
「ああ、もう……!」
僕は、自分の頬が熱くなるのを感じながら、思わず目を逸らした。
すると、まるで僕の困惑をあざ笑うかのように、大粒の雨はぴたりと止んだ。
「ふう……助かりましたわ。」
リーファは、安堵の息をつきながら、焚き火に火を灯した。
僕は、彼女の濡れたローブに目をやると、リーファもそれに気づいたようで、少し恥ずかしそうにローブを絞り始めた。
「わたくし、びしょ濡れになってしまいましたわ。もしよろしければ、悠真様もどうぞ。」
リーファは、そう言って濡れたローブを焚き火に近づけた。
僕も、濡れた服を乾かすため、彼女の隣に座った。
焚き火の温かい光が、僕たちの体を優しく照らす。
僕たちは、濡れた服を乾かしながら、静かに夜空を見上げた。
空には、先ほどまでの雨が嘘のように、満天の星が輝いていた。
僕の心の中で、ほんの少しだけ、この世界も悪くないかもしれない……と、そんな感情が芽生え始めていた。
次の日の朝、僕たちは再び歩き始めた。
日が高くなるにつれて、道はだんだんと険しくなり、見慣れない植物が群生していた。
「わ、わっ……!」
僕が道端の石につまずき、転びそうになった瞬間、リーファが僕の体を支えた。
「危ないですわ、悠真様!……おや?」
僕の体が傾いた拍子に、リーファの銀色の髪が僕の顔にかかった。
甘く、どこか懐かしい花の香りが僕の鼻をくすぐる。
僕は、彼女の髪に顔を埋めるような形になってしまい、慌てて体を離そうとした。
「あ、ご、ごめん、リーファ!」
僕はそう言って顔を上げると、リーファは頬を赤らめ、目を丸くして僕を見つめていた。
「……これは、神の啓示ですわ!」
僕が驚いて聞き返すと、リーファは胸に手を当てて、うっとりと目を閉じた。
「はい!この香りは、聖なる予言に記された『導きの手』の香りですわ!もしや、悠真様は、わたくしを清めるために、この啓示を下されたのですか!?」
「いや、そんなわけないだろ!」
僕が思わずツッコミを入れると、リーファは僕の言葉を聞かずに、何かを悟ったように、はっと目を開けた。
「……分かりましたわ!この先、香りで魔物を引き寄せる植物があるという、神の啓示でございますね!」
リーファは、僕の不幸を、またしても都合よく解釈し、自信満々な顔で前方を指差した。
彼女の指差す先には、確かに甘い香りを放つ植物が群生していた。
「もし、このまま植物の群生地を通っていたら、嗅覚の鋭い魔物に襲われていたかもしれませんわ。」
リーファは、そう言って僕を褒めるように微笑んだ。
「……すごいな、君」
僕は、ただただ感心するしかなかった。
さらに数時間後、僕たちは小さな村へと続く、古びた吊り橋の前にたどり着いた。
「わあ!あそこに見えるのが村ですわ!少し休んでから、向かいましょう!」
リーファは、そう言って橋を渡り始めた。
僕も彼女に続いて橋を渡ろうとした瞬間、僕の足元が突然グラついた。
「わわっ!」
僕はバランスを崩し、体勢を立て直そうと手すりに掴まった。
すると、吊り橋が大きく揺れ、その振動で、橋の板が大きく揺れた。
リーファは、その揺れに驚き、慌てて僕の方に戻ろうと身を翻した。
「悠真様、危ないですわ!」
その瞬間、彼女の白いローブが風に煽られ、そのスカートが大きくまくり上がった。
僕は、吊り橋の上で体勢を立て直し、リーファの足元に視線を落とした。
そして、まくり上がったスカートの下に広がる、まばゆいばかりの白い光景を目の当たりにした僕は、あまりのことに言葉を失った。
「危なかったですわ、悠真様!……おや、どうかされましたか?」
リーファは、僕の視線の先が、彼女の後ろにあるのだと勘違いし、その視線につられて振り返った。(よかった、バレてない)
だがその視線の先で、先ほどまでリーファが立っていた場所の板が、音を立てて崩れ落ちていくのが見えた。
「これは……神の啓示ですわ!」
リーファは、再び目を輝かせ、僕を見つめた。
「悠真様が、わたくしを吊り橋の崩壊から救ってくださったのですね!」
「……いや、偶然だろ」
僕がそう言うと、リーファは首を横に振った。
「いいえ!偶然などではございませんわ!これは、あなた様の不幸が、私たちを不幸から遠ざけているのです!」
僕は、自分の不幸体質が、リーファにとっての『神の啓示』であり、『幸運』であるという、この最悪な勘違いに、再び頭を抱えたくなった。




