第4話:王都への旅路は、トラブルだらけ(第1節)
洞窟の出口から差し込む光が、僕たちの旅の始まりを告げていた。
「さあ、救世主様! 参りましょう!」
リーファは、光に向かって迷いのない足取りで歩き出した。
僕は、彼女に手を引かれるまま、重い足取りで後に続いた。
洞窟の中は、先ほどまで魔物が放っていた禍々しいオーラが消えたことで、完全に闇に包まれていた。リーファが取り出した小さな魔石が、僕たちの足元をぼんやりと照らしていた。しかし、出口が近づくにつれて、外から差し込む光が徐々に強くなっていく。
洞窟を出ると、目の前には、見慣れない景色が広がっていた。
空には二つの月が浮かび、奇妙な形をした木々が、夜の闇にシルエットを浮かび上がらせている。足元には、見たことのない植物が光を放ち、幻想的な光景を作り出していた。
「うわ……なんだこれ……」
僕は呆然と立ち尽くした。こんな光景は、今まで見たこともない。
「リーファ……だっけ。ここはいったい、どこなんだ?」
僕は、震える声で彼女に尋ねた。
僕の言葉に、リーファはにっこりと微笑んだ。
「ここは、アルカディア王国ですわ。あなた様が聖なる予言に記されし、救世主として降臨された場所ですわ。」
「アルカディア王国……。」
僕は、自分が本当に異世界に来てしまったのだと、ようやく実感した。
「じゃあ、さっきの魔物って、いったい何だったんだ?」
僕は、彼女に尋ねた。
「あれは、この地の呪いが具現化した、禍ツ角の魔物ですわ。あなた様が持つ『運命の石』の力で、ようやく浄化することができました。」
「運命の石って……この『呪いの石』のことか?」
僕は、手に握られた石を見つめた。こんなただの石ころが、不思議な力を持っているとはとても思えない……。
「はい!それは、聖なる予言に記された、『運命を導く石』でございます!」
リーファは、僕の手にある石を、いとおしそうに見つめた。
その瞳は、僕を尊敬し、心から信頼しているのが伝わってきた。
「リーファ……君は、いったい何者なんだ?さっき、光を放って、魔物を……」
僕の問いに、リーファは少し顔を赤らめた。
「わたくしは、この地の巫女でございます。この地を蝕む呪いを浄化するため、神殿から遣わされました。」
「そっか……。じゃあ、君のその光は、巫女の力ってことか?」
僕の問いに、リーファは首を横に振った。
「いいえ。あれは、あなた様が持つ『運命の石』の力を、わたくしの信仰心で引き出したものに過ぎません。わたくしは、あなた様を導くための、ただの導き手に過ぎないのです。」
リーファのその言葉に、僕は何も言えなかった。
(だめだ……この子、本当に僕を救世主だと信じてる……)
僕は、自分の不幸体質が引き起こした、最悪の勘違いに、再び絶望した。
僕たちは、夜明けを待ってから歩き始めた。
リーファは、地図を広げ、僕に王都への道のりを説明してくれる。
「この地図によりますと、ここから北へ進み、街道に出れば、3日ほどで王都アヴァロンに到着しますわ。」
「なんで王都へ行くんだ?」
僕の問いに、リーファは瞳を輝かせた。
「聖なる予言に記されし救世主様が、この世界に現れたことを王国に報告するためでございます。王都にて、旅の許可をいただくのですわ!」
「旅の許可……? 僕は元の世界に帰る方法を探さないと……」
僕はそう言ったが、リーファは僕の言葉を聞いていなかった。
「さあ、参りましょう! 救世主様を王都にお迎えできるなんて、光栄でございますわ!」
僕は、リーファの熱意に押され、何も言えなくなってしまった。
(まあ、王都に行けば、この石のことも、元の世界に帰る方法も分かるかもしれないか……)
僕は諦めにも似た気持ちでそう考えると、リーファは嬉しそうに微笑んだ。
「さあ早く、参りましょう!」
そう言って僕の手を強く握り、半ば強引に先を急いだ。
歩き始めて、数時間ほど経った頃だろうか。
僕たちの目の前に、広大な平原が広がっていた。
どこまでも続く一本道を、僕とリーファは並んで歩いていた。
風が吹き抜け、リーファの銀色の髪と白いローブが、優しく揺れる。
そんな彼女の横顔は、とても神々しくて、まるで絵画のようだった。
僕は、彼女の隣を歩いていることに、居心地の悪さを感じていた。
(僕は、ただの凡人なのに……)
僕は、自分の身に起きた、あまりにも非日常的な出来事に、まだ戸惑いを隠せずにいた。
そのとき、僕の不幸体質が、またしても災いをもたらした。
僕が足元の小石につまずき、転びそうになった瞬間、リーファが僕の腕を掴んだ。
「危ないですわ、救世主様!」
リーファの言葉に、僕は驚きながらも、何とか体勢を立て直した。
「ああ、ありがとう……。僕、ドジだからさ……」
僕は苦笑いしながら、そう答えた。
リーファは、僕の言葉に首を横に振った。
「いいえ。これも神の啓示ですわ。救世主様の不運が、私たちを危険から遠ざけてくれるのです。」
「ところでその、救世主様って、やめてくれないか? 僕の名前は、悠真。悠真って呼んでくれないか?」
僕は、リーファにそう頼んだ。
「しかし……あなた様は、聖なる予言に記されし、救世主様でございますのに……」
リーファは、困惑したような顔で僕を見つめた。
「救世主様だなんて、そんな大層なもんじゃないんだ。それに、君に『救世主様』なんて呼ばれると、なんかこそばゆいっていうか……」
僕は、恥ずかしそうにそう言うと、リーファは少し考え込むような顔をした。
「……分かりましたわ! では、これからは『悠真様』とお呼びいたしますわ!」
リーファは、僕の言葉を快く受け入れてくれた。
「え、様付け……?」
僕は、少しだけホッとしたのも束の間、彼女の言葉に思わず聞き返してしまった。
「当然でございます! 悠真様は、わたくしの命の恩人であり、この世界を救うお方なのですから!『様』をお付けするのは、当然のことでございますわ!」
リーファは、僕の質問に、胸を張ってそう答えた。
僕は、この子にとって、僕の不幸は『神の啓示』であり、僕の存在は『絶対的な希望』なのだと、改めて思い知らされた。
(だめだ……この子に、僕の不幸を理解させるのは、無理かもしれない……)
僕は、再び頭を抱えたくなった。
ふと、僕たちが今歩いている道の先に、巨大な穴が開いているのが見えた。
「な、なんだあれ……!?」
僕は、驚きのあまり声を上げた。
「おそらく、魔物の仕業でしょう。もし、悠真様が転倒しなければ、私たちはあの穴に落ちていたかもしれません。」
リーファは、僕の腕を掴んだまま、真剣な眼差しでそう言った。
(別に石につまづいてなくても、こんな巨大な穴、普通に気が付いて避けてたんじゃ……)
僕は、自分の不幸体質が、リーファにとっての『神の啓示』であり、『幸運』であるという、この最悪な勘違いに、再び頭を抱えたくなった。




