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隣のババ様 藁にすがる

作者: 白水マクロ

溺死するんじゃなかったなぁ

七熊 四郎は、そう思った


凍えるような寒さも心頭を滅却すれば何とかなったし

窒息の息苦しさも体がもうないんだからただの気のせいだと思えば

どうでもよくなったし、

どうやって死んだんだっけ頭がないから、今ある感情を頼りに

川の流れとともに揺蕩う


「シロ―、今日は、見つけたかぇ?」


「いえ、全然」


古い着物を召している、狐の耳が生えた、とても美しい50代の女性がスッと現れた。




川で溺れ、何が起こったかよくわからず、苦しみの中延々とおぼれ

必死に助けを求めていたら、この方から抱きかかえ上げられた


「わぁ!お狐様」


「ババ様と呼んでくると嬉しいぞ」

びしゃ、びしゃに濡れ、水が含んだケモ耳は、重力に負け垂れている


「あ…あの助けてくれてありがとうござます」


「お礼ができてえらいの…さっこちじゃ」


手を引かれる、水で濡れ、やたら湿度の高い細腕が僕を連れていく


ぐっぐっ、まったくその場から動かない


「ありゃ?」


それどころか、


「うぁ!」

ドボン!


「溺れる!溺れる!」

手をばたつかせて、水面に出ようとする

飛び跳ねる水しぶきの中、ちらりとババ様を見る

萌え袖の着物を口に当て

あわ、あわ、している


なんか、違う!なんか違わない?その反応!


”名前は、なんという?”


絶対に、耳に言葉が届かない状態でしっかりとその声が聞こえる

こいつ、直接脳内にってやつか


「がっ!ななぉくわぁ、し、うぇ、ろう!」


”え!なんじゃと?”


「うぇっ!なぁぉくわぁ、し、うぇ、ろう!」


”うなくわ しうろう?”


若干正解に近い!

「たぅけて!たぅけて!(助けて!助けて!)」


”ちぃと待って”


意識が飛ぶ、そして、

真っ暗な穴の中を延々落ちていく感じする


うぁああああうぁあああ


グッと、肩を持ち上げられ川の土手に移動させられる


「はぁはぁ」


”ほら、必死に溺れてる者を助けるとわぁしも引き込まれるからの、グタッなるのを待っとった”


「もう、普通にしゃべっていいすよ」

足は、川に浸かっている

周りを見ている、田舎の川といいても、

対岸には、アスファルトで舗装された、小さな道があり

それに沿うようにぽつりぽつりと、家がある。それ以外は、360度水田に囲まれている


ここで、おぼれたんだっけ?


ババ様は、困った顔をしておられる


「あ…えと、七熊 四郎といいます」


「おお、そうかシローか、ふむふむ」


「あの、これどういいう状況ですか?」


「自分で考えぇ」


「あの、あなたは、神様ですか?」


「わぁしを、崇め奉るものはおるな」

自慢げだ


神様に助けられたのか


「必ず、お礼はします。今は、家に帰ります」


川から両足を出す


ドボン!


「わぁ何!溺れる!溺れる!」

何々どういうこと?


”ガンバレ、ガンバレ”


さっきよりも、スッとグタっとなって、さっきと同じ状況になる


「どういうことですか?」


「自分で考えぇ」


「…あの、僕死んでます?」


「正解!」

笑顔だ


水から出れないのは、自縛しているらしいから

ババ様は、自分の魂を神域へ導きたかったらしい

と、ここまで何とか引き出せた


それからは、さっぱりだ


生前によく聞いた話は、自分の死体を見つける、見つけさせれば

満足すると聞いた事がある


何となく、ザリガニとか群がっている所をあさっている


「えぇ~」


ババ様は、ドン引きしている





大雨が降る


川の水かさが上がり、激しい濁流を生んでいる


春野 コア は、小学校から急いで帰宅していた


「うわ、傘さしてもびしょびしょだ」


川に沿う道をダッダッと走り

赤い長靴の中もぐっしょりしている


雨の日は、余り近づくなと言われてる川辺

しかし、帰宅ルート的には、こっちの方が

近道なのでこの道を歩いている


それに大雨といっても、氾濫する程ではない、

対岸に渡る橋の上でまじまじと眺める


「わーすご」


濁流が飛沫を上げて、すごい勢いで

様々な角度から、大量の水が移動している

テンションが上がってくる


チリーン


えっ鈴の音?

視界の端に何か、着物を着た女性が見えた

振り向く


誰もいない


「助けて!誰かぁー!」


「え?声?」


その方向を見る


子供が、濁流に浸かり、土手に必死につかまっている

え!助けないと、でも、こんな時周りの大人に知らせてから


「もう、限界だ、早く来てくれ!」


「そんな」


そうだ、大丈夫川の中なら、無理だけど

あれなら、土手から手を引っ張るだけでいい


急いでそこまで駆け寄る


「待っててね」


「ありがとう」


その時、子供が笑顔になる。

あれ、全然余裕がある。

でも、そっちの方が楽かな

手を伸ばした


その時、背中を強く何かに引っ張られ

後ろに倒れた


えっ


そして、青い作業着を着た男の背中が現れ

その子に何かしたかと思うと抱え上げ

川の中に入っていった


チリーン


後ろで、声が聞こえる


「助けられたのぉ、早く帰りなさい」





「おい、このクソガキめ!」

「が!」


女の子を川に引きずり込もうとしていた子供をたたいた

子供をたたくのは、初めてだがこれは、やっていいと思う


女の子の方は、ババ様が気を引いている


「ちょっとこっち来なさい!」


「離せ、離せ!」


大雨の中、水かさが上がっているが

関係ない、道路から川に降りる

スロープは、比較的流れが滞留している

ここで話す


「なんでこんなことをやった」

「一人じゃ寂しくて」

「理由になりません!」

「おじさんも寂しくないのかよ!一人で」

「おじ…!だからってどうする?その子に同じ思いをさせるつもりか」

「一緒にいるよ!ずっと一緒だ!」

「ほぉ、一緒に何する」

「遊ぶ!」

「いつまで?、いつまでもか!いつまでもここで溺れ苦しむのか」

「…」

「もう二度としないように」

「オレ、親より早く死んでるだから、ここが、まし」

「そんなことはない」

「うそつき!」


そういい捨てると、濁流の中消えた


「あっ待て!」


生前に聞いた、親不孝物は賽の河原へ行くと




昨日との大雨とは、うって違い今日は、快晴だ


春野 コアは、雨で柔らかいなった

田んぼ道を歩きながら

あの体験について考えていた

流石にあの場所には、怖くて行けない


あの時あの手を引っ張っていたら

引っ張られて川に落とされていたのだろうか

そう思うと、ぞっとする


チーリン チーリン


「えっ」


この音は、あの時いた音だ

顔をそこに向ける


お寺だ

惹かれるように

境内に入る

親と連れられた入ったことはあるけど

一人は、初めてだ


「あれ?」


周りを見ると

赤い鳥居があると

初めて気づいた


お寺の中に神社?

そういうのもあるのか


近づいてみると、とても良い香りがする

恐る恐る鳥居をくぐるり


賽銭箱の前に立つ


お狐様の置物?像?がたくさん

並べられ、小さなお社が見える


「助けられたのぉ、早く帰りなさい」

確か、そう言っていたっけ


それじゃ、あの青い男の人の

幽霊?に助けられたのかな

財布から100円を取り出す。


目をつぶりお願いをする


「あのお兄ちゃんを天国に連れていいてください」


「あい、分かった」


「え?」


目を開けて前を見る、さっきと変わらず小さなお社が佇んでいた





僕は、ババ様に導かれ光へと続く白い道を歩いていた


「ふむぅ、わぁしの神域に入れたかったが、仕方ないの」


「すいません何のお礼もできずに」


「お主が、自分で解決したんだ。それに、信者も増えたからのぉ」


「あの子ですか」


「ふふふ…」


「そうですか、なら、あの子のお見守りください」


「他人のために、祈るかよいぞ」


「ほら、君も、一人だと怖かったんだろ」

さっきの子供の手を強く握り光を目指す


「あ…あの、お兄ちゃん、ありがとう」


その笑顔は、昨日とうって違い、涙で溢れていた

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