椎名夫妻
翔一さんが雪さんにプロポーズし、椎名夫妻が誕生したときの話です。
今から11年前、翔一が医者としての仕事に慣れてきた頃のこと。京条市にある大きな病院。毎日多くの患者が訪れ、救急車もよく来る。そんな大忙しな病院に勤めていた翔一は、中々雪との時間を取れないことに悩み果てていた。医者というのは病院に泊まり込むこともよくある。雪は、そんな多忙な翔一を可能な限り支え、応援していた。
やっとの思いでやってきた休日。翔一は雪を車の助手席に乗せ、京条市にある小野山の、夜景のよく見える場所に連れていった。光り輝く、煌びやかな京条市を見渡せる、絶景スポットだ。翔一は何度か訪れたことがあるが、雪は江本市の出身で、ここには来たことがなかった。
翔一と見る、壮麗な夜景。でも、なぜ急に連れて行ってくれたんだろう。少し不思議な気持ちでいっぱいなとき、翔一は小さな紺色の、丸みを帯びた箱を取り出し、雪の方を向いた。中には、綺麗なリングがあった。何も言われずとも、全てそのリングからを察した。雪は思わず、涙が出そうになった。こんなにも嬉しかったのは、生まれて初めてだった。雪は、何か特別な言葉が出ることもなく、「ありがとう。」と一言。嬉しかった。ただただ、嬉しかった。あの日の感動は、雪は今でも昨日のことのように覚えている。たった一つの小さなリングに、2人の感動が詰まっている。そのたくさんの思い出が、雪の薬指には宿っている。