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椎名総統

椎名総統の過去のお話です。

日本国洋京特別行政区総統、椎名翔一38歳。元放射線科医。汚職や度が過ぎた増税、隣国への媚び…。左傾化が激しさを増す洋京を変えたいという一心で30歳で政界入りし、2年前の洋京総統選挙にて見事当選。36歳という、史上最年少の総統となったのである。斉藤副総統とともに、日々政務に励んでいる。翔一には高校時代からの付き合いである妻・(ゆき)がおり、心から愛している。雪は、ある日突然「政治家になって、俺が洋京を変えたる。」と言い放つ翔一に驚きを隠せなかった。毎日のように政務に追われ、時に批判を浴び、洋京の全てを背負っている…。そんな翔一を、胸が張り裂けそうな思いで心配しつつ、支えている。

翔一と雪の出会いは、高校2年生の、クラス替えをしてまだ間もない頃。西京条高校2年3組の翔一は、成績優秀で、常に学年の順位は2位か3位だった。正義感が強く、困っている人、悩みを抱えている人を見逃すのは、彼にとって容易なことではなかった。そんな彼は、誰かを仲間外れにするのを嫌い、クラスにあまり馴染めていなかった雪に、時々話しかけていた。雪は、少なかれど友達は居るものの、教室が離れてしまい、更には離れた先での方が友達は仲良くやっているのを知り、強い孤独感を抱きながら、窮屈な学校生活を送っていた。翔一とは、何の本を読んでいるのか、どんな話なのか、なにか趣味はあるのか、といったような何気ない会話から始まった。2人の話は日を追うごとに盛り上がるようになり、翔一も雪も、雑談をするのが楽しみで学校に来ていたと言っても、決して過言ではない。ただ、少し厄介なこともあった。それは、荒井麻里(あらいまり)の存在だ。彼女は、賢明でクールな翔一に、1年生の頃から想いを寄せていた。2年連続で、同じクラスだったのだ。翔一は、その好意に気づいていた。やたら多いボディタッチ、わざとらしい礼儀のない言葉に、上目遣いなど、あまりにもわかりやすかった。麻里は、男子なら一度はその美貌に惚れてもおかしくないような、容姿端麗な少女だ。そんな人に好かれるのは嬉しくないはずがないが、翔一はそんな彼女の気持ちには応えなかった。いくら容姿が整っていても、性格に難のある人とはあまり関わりたくないからだ。

麻里は、どれほどの人間だったのか。まず、彼女の目的は、翔一と雪の間に距離を空け、自分が彼と交際すること。そのために麻里は雪に対し、陰湿な嫌がらせをし始めた。麻里は、ぽっと出の雪に翔一を奪われたような気がして仕方なかった。わざとぶつかってきたり、雪の席を占領したまま退かなかったり。雪は困り果てた。先生に相談しようにも、証拠はないし、ただの偶然なのかもしれないと、何もできずにいた。クラスメイトは、雪が麻里のいじめに遭っていることには気づかなかった。それでも、雪の異変に気づいたのは翔一だった。麻里の、雪に対する態度が明らかにおかしかったからだ。ただでさえ窮屈な学校生活を送っている雪が、まさかいじめられているなんて…。彼女が学校を嫌いになって、来なくなるのは絶対に嫌だ、という思いから、翔一は雪を全力で守ることにした。ひとりになっているときは積極的に話しかけ、さらには一緒に下校しようと誘ったりもした。麻里は、嫌がらせをする度に雪と翔一の仲は深まっていくということに気づき、自然と舌打ちが出た。それから麻里は陰湿な行動は慎むようになったものの、相変わらず雪に対する当たりは強かった。彼女は、そんな人間だった。

それから少し経って、夏が来た。ある日の帰り道、空はまぶしい青色の、雲が少ない日のことだった。翔一が校門を出ようとした時、雪に偶然出会った。「あ、椎名くん!」そう言って、雪は彼の元へ駆け寄った。いつものような雑談をしながら、市電の電停に向かっていた。しばらく歩いているうちに、沈黙が増え、ぎこちない雰囲気になっていった。蝉の声と、市電の走る音が乾いた空気に轟く。「「あの、」」2人同時に声が出た。「えっと、なに?」そう翔一が言うと、雪は「椎名くんって、なんでそんなにうちに優しいん?」と問いかけた。2人とも、顔が少し赤くなっていた。翔一は我慢できずに、「好き、好きやから…。」と甘酸っぱい一言。「嬉しい。」と少し間が空いてから雪が言った。夏の暑さなんて顧みず、手を繋いだまま市電に乗って帰った。2人の物語は、ここから始まったのである。

そして翔一は今でも、この時のことを雪に時たまいじられることがある。「あの時、好きやからーとか言ってくれたもんなー?」雪は笑いながら言う。翔一は、「ええて、そんな古い話。」などと満更でもない顔で言った。ついいじってしまうほど、雪は翔一に「好き。」と言われたのが嬉しかったのだろう。

この2人にはぜひ、末長くお幸せに爆発してもらいたいと思います。

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