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自傷少女  作者: プリン
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第1話 「自傷少女」


『次のニュースです。昨日未明…』


DOLLとして目覚めた翌日、私は学校に行くのを辞めた。


あの後、担任はすぐに警察に捕まり、暴行を受けた生徒3名はPTSDを発症し今も取調べが行われているらしい。


十年前に制定された『未成年者SNS禁止法』のせいで詳しい情報は掴めていないが、正直私にとっては今流れているニュース位どうでもいい話なのだ。


ただ、あの日から怪物になった担任に怯える少女Aの顔が今も忘れられない。

どんなに慕われていて、有利な立場の人間でも恐怖の前では叶わないのだ。

子供も大人も関係ない。


でも、たしかに彼処にあった"快感"を今でも鮮明に覚えている。


「人は恐怖で従わせればいいんだ」


朝食のミニトマトをフォークで潰す。

テーブルに飛び散った汁に小バエが集る。


この力があれば私は誰にも文句を言われずに生きていける。



〜午後十一時〜


私はいつもの様に父親の酔って暴れて散らかした部屋を片付けていた。

私が小学五年生に上がる頃、お母さんと離婚。

お母さんは女になる道を歩んだのだ。

その日から父親の酒癖が悪くなり、私に当たるようになっていった。


お母さんのことは正直恨んではいない。

ただ……


「また会いたいな…」


あの頃の本心が零れていた。


「おい、狭霧…てめぇまだあの女の事考えてんのかぁ…?」


嫌なタイミングで父親が帰ってきたのだ。

酒缶を片手に仕事帰りの父親がフラフラしながら寄ってきた。


「お父さん。なんのこと?何も言ってないよ」


私はあの頃の苦笑いをしながら伝える。

鏡で自分の顔を観たくないあの頃の私の顔で。


「俺が聞き間違える訳ねーだろうが…!!」


激昂した父親が酒缶を私に投げつけてきた。


あぁ、いつものだ。

父親の後ろからは黒いモヤモヤのようなものを感じる。

自分の女に逃げられ、昼間は営業で頭を下げてお酒の力に頼り、最後は私でストレスを発散しようとする。


最近の大人は自分の感情のコントロールが出来ないのだ。

それは、若者達の起こす問題やそれに対応するためへのストレスが原因になっている。


自傷行為による肉体変化の『DOLL』を対にするのならば、大人達は『重圧(ストレス)化』になるのだろう。


「お父さん、私に当たって何がしたいの?」


初めて口答えした。

今日の一件もあり、気持ちが高揚しているのかもしれない。

でも、本当にそれだけが"理由"だとはもちろん思っていない。


「大人になって自我のコントロールが出来ないからお母さんに逃げられるんでしょ。」


この三年間溜まっていた言葉の刃が父親の精神に傷をつける。

しかし、そんな言葉を吐いたらタダじゃ済むわけも無い。


「狭霧ィ…!!ぶっ殺してやる…!!」


私に向かって飛びかかってくる。

昨日の自分だったらきっとあんな言葉を吐いて無かっただろう。

こんな父親にも苦悩があった。

こんな父親でも養育費や生活費を払うために働いてくれているのだ。


でも、私は『DOLL』。

ただの人間では無いのだ。


空き缶の口で左人差し指に傷を付ける。

飛び散った血液が私の思い描くままの形を形成する。

『カッターナイフ』だ。


「ごめんお父さん。死んで。」


飛びかかって来る父親の首元目掛けて血液のカッターナイフを切りつける。


「ぐっがぁっ…!!!」


それと同時に父親の体重が私の全身に掛かる。



しばらく痙攣していた父親が口を開く。


「狭霧ィ…お前っ…」


声が徐々に小さくなってきている。

恐らく頸動脈を切ってしまったのだ。

父親は衝撃により酔いが徐々に覚めていっているのだろう。


「お父さんが悪いんだよ。毎日私を殴って、罵って…」


あれ、どうしてだろう。

心では冷静になっているはずなのに、何か大きな過ちを犯してしまった気がする。


「あぁ…。そうだよなぁ…。俺がもっとちゃんとしていればなぁ…。」


「今更そんな事言ったって、許せる訳ないじゃん…」


やってしまった。

私は人を、父親を、唯一の家族を殺めてしまったのだ。

父親の血液が私の制服に流れて往く。

同じ首元に血液が付着する。

鉄の香りとアルコールの匂いが混ざり身体に力が入らない。


父親の体重が掛かっているから?

違う。これはきっと罪の重さだ。

私は人を殺してしまった。


「そうだよなぁ…。ごめんなぁ…」


動けなくなった父親は殴ろうとしていたハズの右腕で頭を撫でる。


「お前は何も悪くない。だから、絶対に母さんより幸せになれよ…」


ズルいよ。そんなコトバ。

最後だけ父親面して…。


父親との思い出が走馬灯のように駆け巡る。


嫌な記憶も沢山ある。

だけど、ここまで私を育ててくれた3年間は本物だ。

不器用ながらも、良い父親と決して言えなくても、私にとってはたった一人の家族だった。


父親の言葉に私は返事が出来なかった。


そのまま父親は息を引き取った。


〜翌日〜


父親の遺体は細かく刻み冷凍庫に入れてある。

父親のスマホはお風呂に水没させて使えなくした為、会社から掛かって来ることは無いだろう。


あの夜から私はずっと考えた。

DOLLとして目覚めた私に出来る贖罪があるとするのならば、父親のように苦しんでいる人達を救いたいと。


この力はセイを実感するために使うのではない。

エゴのために使うのではないと。


音切狭霧の修羅の人生はここから始まるのだ。

DOLLとして人間の心を捨てられない半端者の未成年の主張。


私が自傷少女に。

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