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第21話

第21話

■神崎玲司視点


センター街の夜。小林カレンのライブ配信が、渋谷スクランブルスクエアの5面ビジョンで“予告”として放映されていた。


「今夜20時、渋谷から“真実”を晒す。お見逃しなく」


玲司が提供したのは、政治家・大谷英樹の新たな汚職動画だった。


だが配信直前、群衆に紛れた何者かが、彼女を襲撃する。


未来犯罪者No.5――記者・南雲涼太。玲司はミネルヴァに指示する。


「偽装救援を109ビジョンで。目撃者の視線を操作しろ」


センター街のネオンが、夜の渋谷を彩っていた。群衆はそれぞれの目的地に向かって歩き、画面にはさまざまな広告とライブ映像が踊っている。


その中で、ひときわ注目を集めていたのは渋谷スクランブルスクエアの5面ビジョンだった。


そこに映っていたのは、人気情報系ユーチューバー・小林カレンの予告映像。


《今夜20時、渋谷から“真実”を晒す。お見逃しなく》


その言葉と共に、一瞬だけ挟まれたモザイク処理の動画フレーム――政治家・大谷英樹が密室で賄賂を受け取る決定的瞬間だった。


玲司はその映像を編集し、あえて“未編集の一部”を提示していた。


「視聴者に“確信”を与えるより、“疑念”の中毒性を与えろ。それが情報戦だ」


ミネルヴァが答える。


《SNSトレンド上昇中。“カレン暴露”がTwitter国内1位にランクイン。注視率、通常比210%増加》


玲司は目を細めた。


「これで……奴も動くはずだ。No.5――南雲涼太。元記者にして、未来の“言論殺人者”」


配信30分前。センター街は異様な熱気に包まれていた。


カレンはビルの屋上にセットした簡易スタジオにいた。自前の機材と、玲司が提供した防音ドームに囲まれたその場所は、誰にも侵入されないはずだった。


だが――。


配信開始5分前。


「皆さん、こんばんは。今夜は……日本の闇に、光を当てます」


カメラに向かって微笑むカレン。その手元には、玲司から提供された動画ファイルと解析データが用意されていた。


しかしその瞬間、スタジオの外でわずかな物音が響く。


「……?」


警戒心を覚えたカレンが振り返った刹那、スタジオの簡易ドームが破られ、一人の男が飛び込んできた。


鋭い眼光。黒いジャケットに、手にはスタンガン。


「小林カレン……お前の“正義”は、誰のためだ?」


襲撃者――南雲涼太。未来では、報道の自由を楯に、数々の社会運動家を破壊していく人物。


玲司は、すでにその行動を予測していた。


ミネルヴァが緊急通知を出す。


《カレンの生体センサーより異常心拍確認。スタジオに侵入者。救援プロトコル発動》


玲司は即座に命じた。


「偽装救援を109フォーラムビジョンで開始。群衆の“視線”を操作して、リアルタイム演出に見せかけろ」


ミネルヴァが応じる。


《渋谷全域のAR拡張視覚へ警告カラーシグナル発信。“演出としての暴動”に擬態中》


センター街の通行人たちは、目の前のビジョンに映し出された“襲撃演出”を、新たな広告だと錯覚する。


その中で、ただ一人、玲司だけが“真実”を知っていた。


「視線は、真実を決める。俺が、それを支配する」


襲撃直後、スタジオ内の通信が一時的に切断された。


映像は5秒のフリーズの後、109フォーラムビジョンに切り替わった。


《小林カレンの緊急配信中断。安全確保のため、一時的にコンテンツを差し替えます》


ミネルヴァは、事前に用意されていた“次回予告映像”を再生し、事件性を隠すと同時に、注視率を維持した。


玲司は通信越しに、カレンの体温と脈拍データを確認する。


《意識あり。軽度の擦過傷。敵対者は現場より逃走》


「……無事なら、それでいい」


玲司の拳が、わずかに震えていた。自分の戦略に、味方を巻き込んでしまった罪悪感が残る。


「もう誰も失いたくない。それが……俺が過去に戻ってきた理由だ」


その夜、渋谷のSNSは騒然としていた。


《さっきの配信、事故? 本当に演出だったの?》


《誰か助けを呼んだの? 何が本当?》


玲司はそれらをモニタリングしながら、次の展開を準備していた。


「次は、“言論の信頼”そのものを、再定義する」


ミネルヴァが応じる。


《プロトコル“EchoScript”開始準備。音声記録の全反響を分析中》


玲司は目を閉じた。


「この国にとって、真実は“見せ方”でしかない。だとしたら……俺が、それを書き換える」


第21話終わり









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