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「シャワーの音越しに、」
浴室のドアは、すりガラスになっている。
その向こうから、シャワーの音が絶え間なく聞こえていた。
私はベッドの端に座って、濡れた髪をタオルで拭きながら、
ぼんやりとドアの方を眺めていた。
水音の向こうに、彼の気配がある。
流れる湯気とともに、輪郭のない身体の存在が、部屋の空気を震わせる。
直接見えているわけじゃない。
それなのに、シャワーを浴びている彼の姿を、
皮膚の裏側に感じてしまう。
手の中のタオルが、ひどく粗く感じた。
指先に力が入る。
喉が、乾いていく。
ふと、シャワーの音が弱まった。
それだけで、背中に汗がにじんだ。
ドアが開く気配はない。
それなのに、すべてが押し寄せてくる。
たとえば、今、
ドアが静かに開いて、
彼が濡れた髪のまま、無言で私のもとに来たら──
そんな想像をしただけで、
胸の奥で、微かな火花が散った。
私はタオルを握りしめたまま、
じっと、音を聴きつづけていた。