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「カフェの奥の席で、」
カフェの奥のソファ席に、ふたりで並んで座った。
向かい合うより、隣に座るほうが、なんとなく落ち着いた。
テーブルの向こうには、他のお客たちの声。
コーヒーの香りと、人いきれ。
そのなかで、私たちは小さな島みたいに、肩を寄せ合っていた。
彼が雑誌をめくる指を追いかけていたとき、不意に、
膝の上に、そっと手が置かれた。
驚いて顔をあげたけれど、彼は知らん顔で雑誌を読んでいる。
そのまま、テーブルの下で、指が私の膝をなぞった。
動かすというより、ただ、置かれている。
けれど、そこだけが、他のどこよりも意識に浮かびあがった。
声に出してはいけない。
顔に出してもいけない。
でも、触れられている。
それは確かだった。
私は指先に意識を集中させた。
触れられているところから、火照りが、ゆっくりと広がっていく。
彼のページをめくる音だけが、妙に遠く聞こえた。
誰も気づかない場所で、ふたりだけの熱が、静かに燃えていた