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「ベッドの隣、まだ起きてて、」
暗闇に、寝息がふたつ。
だけど、私は眠れていなかった。
背中合わせで横たわる彼の呼吸だけが、部屋のなかに漂っている。
ふと、布団の中で、彼の腰が動いた。
寝返りのようで、でも、明らかに意図的なものだった。
すぐに、彼の腕が、私の腰にそっとまわってくる。
背中越しに、体温が伝わる。
彼の胸板のかたさ、呼吸のリズム、指先の微かなふるえまで、全部わかるくらい近い。
私は目を閉じたまま、呼吸を殺す。
彼の腕のなかで、静かに身をゆだねる。
胸が、背中に押しつけられる。
パジャマの布一枚しかないのに、肌の質感まではっきり感じた。
彼の指が、腰骨のあたりで、すこしだけ動く。
すぐに止まったけれど、その熱だけは、じんじんと焼きついた。
何も言葉は交わさない。
ただ、眠るふりをしながら、夜のなかで、おたがいを溶かしていった。