1/10
「駅のホームで、」
最終電車を待つホームは、吐く息が白くなるほど寒かった。
手袋をしていても、指先まで冷えきっている。
「寒い?」
彼がふいに声をかけた。
私は小さくうなずいた。
言葉にするまでもない。震える指が、すべてを伝えていた。
彼は無言で、自分の手袋を外した。
そして、私の手にそっとふれる。
一瞬だけためらって、それから、彼の素肌の指が、私の手袋の中に潜り込んできた。
冷たい外気とはちがう、体温を持った指。
布に包まれたまま、互いの熱だけがじわじわと伝わる。
私は思わず、指をからめた。
彼も、逃げなかった。
むしろ、もっと深く、私の手を握り込んだ。
電車が近づく音がしても、ふたりとも動かなかった。
指と指のあいだを、ぬるい熱が溶かしていく。
鼓膜の奥で、心臓がやさしく跳ねた。
どちらからともなく、目をそらした。
だけど、手は、ほどかなかった。