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「駅のホームで、」

最終電車を待つホームは、吐く息が白くなるほど寒かった。

手袋をしていても、指先まで冷えきっている。


「寒い?」

彼がふいに声をかけた。

私は小さくうなずいた。

言葉にするまでもない。震える指が、すべてを伝えていた。


彼は無言で、自分の手袋を外した。

そして、私の手にそっとふれる。

一瞬だけためらって、それから、彼の素肌の指が、私の手袋の中に潜り込んできた。


冷たい外気とはちがう、体温を持った指。

布に包まれたまま、互いの熱だけがじわじわと伝わる。


私は思わず、指をからめた。

彼も、逃げなかった。

むしろ、もっと深く、私の手を握り込んだ。


電車が近づく音がしても、ふたりとも動かなかった。

指と指のあいだを、ぬるい熱が溶かしていく。

鼓膜の奥で、心臓がやさしく跳ねた。


どちらからともなく、目をそらした。

だけど、手は、ほどかなかった。

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