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教師のお願い

短編で終わらせる予定だったのですが、ちょっと長くなりましたっ!

 リルカ・ベネフィットは緊張していた。この機を逃せばきっと次はない。

 すぅと息を吸って、口にした。

 「あの、ルイス様」

 「ん?」

 隣に立つ、痩躯だが背丈のある男性が振り返る。美しい金髪を一括りにした精悍な顔つきの彼は、勇ましい顔をしたリルカに対し、不思議そうな顔をしている。

 「わ、私に!勉強を教えてください!」


 ーーーーリルカの一生のお願いに、彼は驚いた顔をした。







 リルカは貴族ではないが、事業を行う家に育ち、貴族と同等の教育を受け、学校にも通っている。そんなリルカの家、ベネフィット家は現在、とある事業が頓挫し危機的状況で生活を工面するのがやっとの状態。使用人も大半を解雇し、自分達で家事を行う今までにない生活。当の父親は経営を立て直そうと必死で、あまり家に帰らなくなっていた。

 リルカには姉と弟がいる。姉は既に嫁いでおり、弟はまだ幼い為、経営に関わってはいなかった。慣れない家事に追われてはいるが、生活をするにはあまり問題ない。しかし、この経営の危機的状況が改善するとも、父親を見てると思えないのも事実。

 この際、女だからなど言ってはいられない。日に日に痩せ細っていく父親を助けるべく、リルカは父親を説得し、自ら経営について学び出そうとしていた。


 「もう奇跡よ。神様はやっぱりいるんだわ」

 人通りの多い町を歩く有頂天のリルカは今にもスキップしそうな勢いだ。

 「私に町でばったり、な感動の再会をもたらしてくれるだけでなく、最高の師も用意してくれるなんて」

 「よく快諾してくれたよね、あのルイス卿が」

 「本当よ!実業家たちのお悩み相談を受けていると聞いて、万が一いや億が一、頼めばもしかしたら…くらいで思ってたのに」

 「あの大物ルイス卿にこんなお願いをするのは君くらいかもね」

 隣を歩くのは、同じ学園に通うコルア・キルテット。貴族ではないリルカと学園で意気投合し、リルカの相談も受けていたので家の事情も知っている。ルイス卿の勉強会は、貴族令息の彼にもいい刺激になるのではないかと誘ってみたら、一も二もなく頷いた。

 

 「まあ、1つ懸念があるとすれば…」

 「コルア?」

 「あ、まずいリルカ。道を変えようか?」

 「え?あ、」

 コルアの声に何事かと思ったが、遅かった。前方に現れた人物に顔を顰める。

 

 「これはこれはベネフィット嬢ではありませんか。ご機嫌麗しゅう」

 「これはこれはゲスロルド伯爵。こんな所で会うなんて」

 全くツイてない。彼の持つ身分と事業は素晴らしいものだが、いかんせん人が良くない。

 「ベネフィット嬢の所は大層お困りだとか。宜しければ私の方で何かお力になりましょうか?」

 わざわざリルカのお家事情を出してくるとは。嫌味だけでなく、今もリルカを舐め回すような視線も気に入らない。手を握り締め、顔を引き攣らせないよう笑顔を作る。

 「ご心配どうもありがとうございます。ですが、事業についてはこれから父と共に考えていく予定ですので」

 「おや?ベネフィット嬢も経営に関わるおつもりで?」

 「それはどうでしょう?それでは、これから彼と用があるので失礼いたします。行きましょうコルア」

 「そうですね、ゲスロルド伯爵失礼いたします」

 コルアには今気づいたとばかりの態度をするゲスロルドの横を通り過ぎる。振り向いて舌を出したい気持ちだ。

 「リルカ、何もできなくてごめん」

 「何言ってるのよ!コルアが悪いことなんて1つもないじゃない。1回パーティーで会っただけの小娘に毎回絡んできて。おまけに身分を笠に着て、コルアを無視するのも本当嫌になっちゃう」

 思い出してきて、こめかみに青筋が立つ。初めて会った時もリルカの家を遠回しに貶してきたのだ。

 「リルカ、あんまり気にしない方がいいよ」

 コルアは全く気にしてないという風に、笑った。


 「ああいう人は、自ら身を滅ぼすよ。きっと」



 「よお。遅かったな」

 待ち合わせのカフェには、既にルイス卿がいた。急足で席に向かい、上着をウェイトレスに渡す。

 「お忙しいのに、すみません」

 「いや。お前らにしては遅かったな。何かあったのか」

 「ゲスロルド伯爵に絡まれたんですよ」

 「コルア!」

 黙っていて欲しかったので、声を荒げてしまった。彼に心配をかけたくなかった。

 「伯爵?」

 「ええ」

 アイツ…と呟いたルイス卿の目は冷え冷えとしていた。不穏な空気を感じ、何事もなかった事を前のめりになりながら伝える。

 「絡んでくるのはいつもなんですけど、いやコルアの事無視した事は許せないんですけど、」

 「僕の事はいいよ。それよりリルカの事だよ」

 「わたし?わたしの事はいいのよ。慣れてるから」

 ゲスロルド伯爵の顔を思い出してしまい、頭から必死に追い出そうとしていたら、それまで黙っていたルイス卿が急に笑みを浮かべた。

 「まあ、お前ら。次アイツに会ったら言え」

 そろそろだな、と呟いたルイス卿に首を傾げる2人だった。


 「はあ〜今日も面白かった…!」

 ルイス卿との勉強会を終えた帰り道。至福の表情をしたリルカは胸に手を当てた。次はルイス卿と、彼の事業の現地視察に行く事になった。今日学んだ事を思い返して頬が緩む。リルカの様子にコルアは苦笑した。

 「すごいよね、ルイス卿は。貴族であるだけでなく、あれだけ事業を成功させて。」

 「本当よ!学校の成績も素晴らしいと聞いてはいたけど。事業だけでなく、その地域の特色や教育についても考えていらして。ほんとにすごいわ」

 おまけにあれだけの美丈夫だし、ケチもつけられないとリルカは思う。今日の内容も帰ったら早速父に伝えようと決めていたら、突然コルアが前に出た。

 「でもリルカ、分かってるよね」

 振り返ったコルアは真面目な顔つきだった。


 「ルイス卿はご結婚されているんだよ」


 突然なにかと思えば、そんな事か。リルカは下を向いた。

 そんな事は、再会するずっと前から、分かっているんだから、と。




短編を書くつもりが、長くなってしまいました!

これが終われば、「〜亡命」の続き書きます!

こっちの終わりは見えてる(…ハズ!)

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