爆乳令嬢、商売を始める ②
「シャーロットお嬢様! 大変でございます!」
家族全員でハーブティーを楽しんでいると、私の侍女をしてくれているミアがドアのノックも忘れて部屋に飛び込んできた。
「ミア、そんなに急いでどうしたの?」
そう言いながら、ミアにもテーポットに入っていたハーブティーをカップに淹れ手渡す。
ミアは私の9歳上で、普段は優しいお姉さん的な存在だけれど、パニックになると暴走する。
渡されたハーブティーを一口飲むと、ミアは深呼吸した。
「街の女性やご令嬢がシャーロットお嬢様に今すぐ会いたいと、邸宅玄関に殺到しております」
「殺到?」
今のところ、おとなしく生活してきていたので、誰かに何かしてしまったり、事件を起こしてもいない。
だから静かに生活できていたのに、突然女性達が私に会いに殺到?
無意識のうちに何かしてしまったのではないかと記憶を辿りながら、女性達が集まる邸宅玄関に向かう。
わぁ〜、これはミアがパニックになるのもわかる。
大袈裟ではなく、本当に街の女性領土内のご令嬢が集まっている。
ここまでの人数の人に恨まれるようなことは、絶対にしていないと断言できる。
じゃあどうして?
「あの……今日はどういったご用件で……」
恐る恐る聞いてみると、領土一番の噂好きで情報通のご令嬢が前に進み出る。
「こちらで『魔法の化粧水』が譲っていただけるって、本当ですの?」
「魔法の化粧水?」
初めて聞く名前。
魔法の化粧水があるのなら、私も使いたい。
でもそれがここで手に入るって?
私の知らないものが?
「ほらあれですわ。こちらの庭師の奥さんが使っている魔法の化粧水。あの化粧水を使ってから、いつも肌荒れに悩んでいた奥さんの肌が、シルクのように艶やかになったって。実際に私も肌の様子をみて驚きましたわよ」
一気にそこまでいうと
「美しさの独り占めはよろしくなくてよ。私たちにもあの魔法の化粧水を譲っていただけますよね」
ご令嬢は私に有無を言わせないような迫力で、一歩前に出る。
多分彼女が言う『魔法の化粧水』とは、アロマオイルで作った手作り化粧水。
はじめは自分用に作った化粧水だったけれど、肌が弱かった母様と庭師の奥さんにもプレゼントしたんだった。
たしか庭師さんから奥さんがとても喜んでいたと聞いたので、それから続けてプレゼントしたのが女性達の間で噂になったのね。
いいものはいつの時代も世界も、欲しい人が現れる。
これだけの女性が欲しがると言うことは、需要がかなりあると言うこと。
と言うことはこれは……商売になる!?
「確かに魔法の化粧水はあります」
「じゃあすぐにでも譲ってくださらない?」
「それはできません」
「どうしてですの? 庭師の奥さんにはプレゼントされたと聞きましたわよ」
不服そうなご令嬢。
「あれは試作品できちんとしたお品ではありません。魔法の化粧水はまだまだ試行錯誤が必要で、今すぐにお渡しすることができないのです」
「だったら……」
ご令嬢が話をする前に、
「それにとても貴重なもので作られています。ただでお譲りすることはできかねます」
残念そうに、でも貴重という部分を強調し、みんなに聞こえるように話す。
「完成するまで少しお時間をいただけましたら、みなさまの手元にお届けできると思います。ですので、今日のところは申し訳ありませんが、お引き取りいただけませんでしょうか?」
深々と頭を下げると、すぐに化粧水が手に入らず苛立っていたご令嬢もなんとか納得し、みんなを引き連れて帰って行った。
最後の一人の姿が見えなくなるまで見送ると、庭師のスミスさんの裏庭にダッシュ。
「スミスさんの知識と技術が、みんなに認められる時代がやってきました! 商売の時です!」
「へ?」
水やりをしていたスミスさんと共に、私たちの商売についての話し合いが行われた。