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なろうラジオ大賞6

ノウトレーニングセンター

作者: 壊れた靴

 最近、あるチラシが気になっている。

 ここ数週間、毎日のように投函されており、「悩トレーニングセンター」とでかでかと書かれている。施設名らしき部分だけでなく、「悩トレーニング始めませんか」「悩トレーニングの効果」などなど、全てが「悩」になっている。

 最初はただの誤字かと気にも留めなかったが、こうも修正されないまま投函され続けると、苛立ちが募ってきた。

 あるいはそれを指摘させることに何か企みがあるのでは、という不安もあったが、とうとう苛立ちが勝り、チラシの番号に電話をかけてしまった。

「ノウトレーニングセンターでございます」

 呼び出し音が鳴る間もなく聞こえた甲高い声に、やや面食らう。

「ええと、そちらのチラシを見たんですが」

「ありがとうございます」

「それで、ノウの字なんですが、にくづきでなく、りっしんべんの悩になっているんですが、誤字でしょうか?」

「当方は間違いなく、りっしんべんの、悩トレーニングセンターでございます」

「はぁ。どのようなことをするのでしょうか?」

「そのご質問にはお答えいたしかねます」

「はぁ。それじゃ、失礼します」

「失礼いたします」

 電話を切る。気になることが増えてしまった。直接行ってみるしかないようだ。

 チラシに書かれた住所に向かう。それなりの規模の建物で、中に入るとすぐに受付カウンターとなっていた。

「ようこそおいでくださいました」

 電話の声によく似た声の女性が笑顔を向ける。

「初めてなんですが」

「さようでございますか。ご入会希望と言うことでよろしいでしょうか?」

「いえ。まずは、どんなことをするのか教えてもらえたらな、と」

「貴方様は、当センターの内容についてお悩みでいらっしゃる、という理解でよろしいでしょうか?」

「はぁ、まぁ」

「申し訳ございません。悩みのある方はご入会いただけません」

 受付はカウンターの上に置かれた入会案内を手で示す。入会条件として「悩みのない方」とある。

「内容が気になってるって程度なんですが。教えてもらえませんか?」

 受付は何も言わず、入会案内の規約のうち「当センターの内容は口外禁止」を示した。

「またのご来訪をお待ちしております」

 受付は一礼すると真顔に戻り、正面を向いた。

 あのようなチラシを作っておきながら、その内容が気になる程度でも悩みとされるのなら、誰も入会など出来ないのではないか。 

 新たにやって来た会員らしき人が奥に向かっていくのを眺めながら、途方に暮れた。

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