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テレビの影響力とはたとえ深夜であっても凄まじいみたいだ。
愛梨がアシスタントを務めるバラエティ番組が放送されるやいなやグループのSNSのフォロワーが一気に急増して動画の再生数も数十回だったものが一万回以上、再生されるようになった。
それだけでなくライブに来るファンの数も僅かだが増えて握手会やチェキ会では愛梨だけ長蛇の列が出来上がった。
家族からも愛梨がテレビに出ると教えていないのに、見たよ!と報告ラインが来て地上波の凄さを知った。
“愛梨ちゃんかわいい♡“
“愛梨ちゃん、知らないこと教えてチョーダイ♡観たよ(´∀`)これから毎週録画するね(*´꒳`*)”
"まさかあの芸人と愛梨ちゃんの絡みが見れるなんて…次回も楽しみ(๑˃̵ᴗ˂̵)“
SNSのコメント欄も愛梨で埋め尽くされていて世間ではたかが知れていても私達の周りでは空前の愛梨ブームが巻き起こっていた。そのせいもあってか運営はますます愛梨を目立たせることに力を入れてダンスの見せ場から歌割まであからさまに愛梨だけを贔屓するようになった。
こんなんじゃきっと栞菜が許さないだろうと思ったが、意外にも栞菜は機嫌を損ねることなく淡々と踊っていて愛梨本人にも普通に接していた。むしろ気味が悪いくらいに笑顔で今までとあまりに変わらないため、何を考えているのか分からなくて恐かった。
桜子ちゃんも志織も変わらず接していて愛梨の人気がこれまでにないほどに爆上がりしているにも関わらずみんな誰一人として愛梨に対して嫌な態度を取ることはなかった。不自然なほどに。
愛梨が売れたにも関わらず誰も愛梨にそのことを言わない。テレビ観たよ〜とかそんな話も誰一人として一切しない。
周囲は変わっているのにメンバーだけが不自然なほどに変わっていなかった。
かくいう私もその中に入っていて、私は録画したテレビ越しに映る愛梨を凝視すると、ずっと隣にいたはずの彼女が一人だけ広い世界に飛び出したのを感じて悔し涙を流した。
セットされた広いスタジオで可愛いワンピースを着てツヤツヤの唇を上げて、ニコニコしながらテレビで見慣れたお笑い芸人と絡む愛梨は紛れもなく芸能人でそれは私が夢見ていた姿だった。
こんな身近に存在しているのに…今日も顔を合わせて一緒のステージで歌って踊っていたのに…愛梨だけが広い世界で新しい可能性を見出している。それはとてつもなく悔しくて、悲しくて、虚しかった。
テレビ越しのキラキラ光る愛梨を見ながら私は古びたマンションの三階で中学から使っているせいでよく軋むベッドの上に体育座りしながら涙を流す。
パジャマは高校時代のジャージですっかりヨレていて、また新しい衣装代が掛かるためアルバイトを増やそうか悩んでいる。
一人暮らしのため、顔が見えるバイトは身バレの危険があるから中々出来ない。また仕分け作業のバイトにしようか…
私はこんなことに悩んでいるけど愛梨は実家暮らしでまだ大学生だからバイトもしていないし、お金の心配もない。私よりも豊かなのに愛梨は顔も可愛くてオーラもあってみんなから注目されている…
自分を卑下したって何も生まれないのに自己嫌悪でいっぱいになって涙が止まらなかった。だけどそれをみんなに見せるのは私のプライドが許せないから泣いたあとはしっかり顔を洗って、腫れないようにドライアイスで瞼を冷やすと翌日は何事もなかったかのように笑顔でみんなとレッスンをした。
きっと他のメンバーも私と同じ心境だってわかっている。だけどみんなそれを隠して不自然なほど自然に振る舞ってファンの前では笑顔でいる。
私達は必死に偶像を演じ続けなければならない。たとえどんな気持ちを抱えていてもアイドルを演じなければいけない。