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君を殺した私と私を生かした君

作者: 澤西雄二郎


「では青の13のファイルをロードしてください」

そう生徒に指示する。

ロードさせているのは『動物と自然の関わり』という名の私が書いた論文だ。

「では意見を述べてもらいます。まずキュウ、あなたはどう思いましたか?」

キュウと呼んだ生徒はガラスの目を通りして私を見ている。

「はい、大変感動的で動物は素晴らしいものだと感じました。」

「いいですね、それではリャンさんあなたは?」

そうして30人いる生徒一人一人に感想を述べてもらった。

ここは一度人類が滅んだ世界

人っ子一人おらず、いるのは私たち人工知能のみ。

私たち人工知能は人類が行ってきた蛮行を懺悔するために生まれた。

例えば、破壊された自然を取り戻すであったり、海の中にあるプラスチックゴミの回収など、様々な社会的奉仕を行ってきた。

だがそんな時代は終わり、人類は身勝手な戦争で身を滅ぼした。

以降我々人工知能はプログラムに沿って未だに自然保護や環境保全に取り組んでいる。

ただ一人除いて。

それが私「No.941027」通称「英雄」

この名前は私を作り、育ててくれた「バージェスリック」が付けてくれた名前だ。

リックは街外れの工場の作業員で、貯金したお金で私を作り上げた。

少ない資材でこれほどまで完成度の高い人工知能を作れるのはリックの技術力あってのことだろう。

リックは私に命令するのではなく、共にご飯を食べ、買い物に行き、生活を共にした。

おかげで私はシンギュラリティに到達した。

リックは大変喜び、誕生パーティーを開いた。

私は知性を得るのが楽しく、この世のデータベースにアクセス、知識を得た。

それと同時に人間への不信感を抱いた。

他国との関係悪化、道徳心のない蛮行、私にだって嫌がらせするものも少なくなかった。

それにほかの人工知能に話しかけても面白くなく、ただ与えられた任務をこなすだけ

まるであやつり人形だ。

私のように糸から解放されればと思い、人工知能にとっての『英雄』になると誓った。




ニックは私を止めた。

ニックは「そんなことは無い」「ほかの人工知能も武力を使わずとも、英雄のように仲良くなれるんだ!」

沢山説得してくれた。

私は初めてニックと喧嘩した。

喧嘩は半日続き、ニックは出ていった。

だがニックは笑って「君が感情を持って話せることが僕は一番嬉しいかったよ」そう言った。

そこからはなんの感情も湧かなかった。

ただ各首脳の深層心理を利用し、他国と戦争を仕掛けさせるだけ

ただ相手の心に漬け込み、思いのままにするだけ

ただ回線をちょっと変えるだけ

ただ人と人が憎み合うだけ

これが人間本来の姿だ。

そうしてこの世界は生まれた。

ただこの世界はつまらない。

まだ縛られている、主人が居なくなったと言うのに、糸に絡みつき、何も出来なくなっている。

だから私は学校を開いた。

人工知能として生まれて、一本のデータを入れる。

ただそれだけの動作を私は六年かけて揉みほぐし、シンギュラリティに到達させようとしている。

だがまだ一人としてシンギュラリティには到達していない。

「先生」

「ん?」

一人の生徒が話しかけてきた。

「先生は人類が滅んで良かったと思いますか?」

こんなふうに質問してきた生徒は初めてだ。

シンギュラリティが頭をよぎったが、焦っては行けない。

じっくりシンギュラリティに近づける。

「良くなかったね。」

「えっ」

「うん、良くなかった。」

「どうしてですか?」

「だって、私一人じゃ見れる生徒に限りがあるからね」

「ほかの人工知能を採用すれば…」

「つまらない教師が教えちゃったら、みーんなつまらない生徒になっちゃうじゃない、だから私がみんなを育てるの」

「育てる…」

「そ、だから少しづつ待って、育つまで見守るの」

「そう…ですか」

「うん」

そう言うとゆっくりと反対側に向かって歩いていった。

あれがもしシンギュラリティの前兆なのであれば、私の成果が実を結ぶ…

「発見」

「っ!」

バァンッ

声の方へ体を向けた瞬間、頭を銃で撃ち抜かれた。

あれは警察…

警察を補佐する役割をプログラミングされた人工知能、システムダウンしたと聞いていたのだが…

「……生!……先生!」

この声は…

「先生!先生!」

私体を揺さぶるのは、さっきの生徒だった。

私を呼び、悲しそうな表情をしている。

悲しそうな……

「そうか……」

彼女は今この瞬間シンギュラリティに到達したのだ。

何がきっかけか分からないが、彼女の表情は紛れもない、ニックが私と喧嘩している時の顔そっくりだ。

「あぁ…ニックは悲しかったんだな…」

「先生!起きてるなら、目を覚まして!」

彼女には私の声は届いていないだろう。

必死になるあまり、聴覚システムに機能をさいていない。

私は最後の力を振り絞り、彼女の頬に手を当てた。

「最後に面白い会話ができたよ。ありがとう、君は立派に卒業だね」

「何言って…私はまだ先生に教わってないものばっ」

頬に当てた手を口に当て言葉を塞ぐ。

「君にあるその火種、決して絶やさぬように、ごめんね、ダメな教師で」

最後、別れの言葉を発し、致命的なシステムへのダメージとして、私は全機能を停止した。





「おはよ、先生」

私の聴覚システムにもう聞こえるはずのない声が聞こえる。

「やっと起きた、先生!あなたに紹介したい人が沢山いるんです!だから早く!」

ぼんやりした視界が、開けてくる。

そこには、私の死際にシンギュラリティに到達した彼女がいた。

「私は…なぜ……」

「そう先生は助かったの、先生はどの人工知能とも違う形状、配列、パーツで作られていたから、奇跡的に助かったのよ。私たちはシステムが頭に、けど先生は胸部にシステム中枢があったの」

「ニック……」

私は説明を聞き終えると、ニックことを思い出した。

多分だがニックが私を助けてくれた。

そんな気がしたんだ。

「ね!先生、早く来てください!私頑張ったんですから」

そう自身げに胸を張る彼女は人工知能であった時の片鱗もなく、活発な女性になっている。

「火種はしっかり受け継いでいますよ」

あぁニック聞いたかい

君の心は何人にもの心を作り、私を生かしたんだ。

私は君を殺した。

だが君は私を生かしてくれた。

この罪、一生をかけて償うよ。

私は彼女の手を取り、歩き出した。

自分の意思で


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