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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

仕切られた台 未来への卓球

作者: ロア


 卓球界の希望の星と言われる中学生達がいた


 希孥(きど)卓馬(たくま)


 2人の実力はプロをも魅力し

 日本公式大会 中学生の部で毎年のよう

 1位と2位を独占した


 卓馬が1位 希孥が2位


 この順位は変わらなかった



 日本の卓球業界に

 2人の名を知らない者は居なかった


 テレビやCM

 ファングッズまで

 2人は 幅広く展開していた




 その日までは




 卓馬が乗る高速バスが

 交通事故に遭った


 理由は運転手の寝不足だった


 死者17名 軽傷者0名 生存者1名


 重傷者...1名


 卓馬は生きていた


 体の右半分が機能を停止していた


 右目、失明   右腕、切断


 卓馬の名は いつしか皆 忘れていた



************************



 高校2年の春

 僕は全国大会に向け 厳しい授業を受けていた



()()()!!

 その程度では、プロには勝てんぞ!!』



 父は 僕にピンポン玉を投げつけて来た


 僕は直ぐに謝る

「ごめんなさい、次は上手くやります」っと



 僕の名前は【八神(やがみ) 希孥(きど)

 卓球界の希望の星と

 一時期有名になって、世間から煽てられた人物だ


 僕には親友がいた


 いや


 親友であり

 僕の生涯をかけるライバルが...


北条(ほうじょう) 卓馬(たくま)

 彼が事故に遭い


 中学2年の時

 卓球を止め、僕の前から姿を消した


 それから3年


 僕の心は何処か遠くに行ってしまった



希孥

『もう一回お願いします』



 僕は父に謝り  練習を続けた


 父はプロでは無いが

 僕に卓球を教えてくれた先生だ


 父が居なければ

 今の僕はここに居ない


 父の教えは厳しく

 怪我をしようが  血を流そうが

 お構いなかった


 だからこそ だからこそ

 僕は強くなって ()()()に近づいていた




 次の日の学校


 僕は卓球が強い強豪校には行かず

 普通科の高校に行っていた


 学校に付くと

 友達の直也(なおや)は元気に話しかけてくる



直也

『うぃーす、八神!  って!!

 今日も手首にテーピングだらけじゃんかよ!?』


希孥

『大会が近いからね

 うかうかしてられなくて』



 直也は僕の心配をしてくれた

 その気持ちだけで 僕は嬉しかった


 クラスの女子委員長の美智(みち)

 挨拶をして、僕に手紙を渡して来た



美智

『ハイこれ、吹奏楽部の1年から

 希孥先輩に渡してって』



 僕は手紙を受け取る

 手紙から良い匂いの香水が香る


 直也は僕に茶化すように言ってくる



直也

『またラブレターかよ、

 卓球界のイケメンはモテモテだね〜』


希孥

『やめろよ、

 書いた本人に悪いだろ?』



 僕は手紙をカバンに仕まう



直也

『地区大会もうすぐなんだろ?

 俺、応援に行くからな』


美智

『私も行くね、希孥君の応援』



 ありがとうっと僕は2人に言う





 授業を終え

 僕は1人で帰っていた


 僕の通う高校には

 卓球は無く 僕個人で練習を家でしていた


 その帰り道


 コンビニでお茶を買ってから

 僕は手紙を読む事なく破り捨てゴミ箱に捨てた


 僕は思っていた


 僕だけが幸せな生活をして

 本当に良いのか? ()()()はどう思うんだ?

 多分僕は

 普通にプロになって

 普通に結婚して

 普通に幸せになるんだろうな

 そう考えていた



 僕は悲しかった






 地区大会当日


 直也と美智さんが言った通りに応援に来てくれてた


 小さい地区大会だったため

 12校しか参加していない


 この中でも危険なのは

 昨年2位の元安って選手だけだろう


 僕は

 試合カードを見る事なく

 自分のベンチに座り 息を整える


 何処からか

 他の選手達の声が聞こえてくる


「アイツだって

 片腕の怪物って呼ばれてる」


「あぁ、アイツが 障害者の部門が無いから

 一般部門で参加した奴だろ?

 しかも2年で昨年は参加してないんだっけ?」


「名前聞いた事あるんだよな?なんでだろ?」


「名前は確か...()()


 その名前を聞き

 僕は対戦カードを見た


 そこには


 大神卓馬と書かれた選手がいた


 大神?北条では無く?


 似た選手なのかと思った


 確かめるしかない そう思った時だった


 会場から

 ビックリするぐらいの声援や声が響く


 僕は走った



 心臓の鼓動が釘を打つ様に早くなる



 そして()()()はいた


 僕の生涯を賭けた男が



************************



 白い天井 白いカーテン


 目の前の景色が白に見えていた



 俺は【北条(ほうじょう) 卓馬(たくま)

 卓球界の希望の星


 そんな俺は

 高速バスで事故に遭い


 家族も人生も 全てを無くした



卓馬

『なんで生きてんだろ?』



 病室のベッドで

 俺は1人呟いていた



 俺は右目と右腕を失った

 利き腕だった右腕を


 家族も失い

 叔母に当たる 母の妹【大神(おおがみ) 小江(しずえ)】に

 拾われ 面倒を見てくれる事になった


 小江姉さんは

 未婚で仕事熱心なカメラマンだ


 この人に俺は一生迷惑を掛け続けるのか

 そう思った



 退院後

 俺は障害者がいる中学に行き

 気がつけば 高校生になっていた


 高校といっても

 障害者だらけの 牢獄だと俺は思っていた


 コイツらに夢も希望もない

 俺と同じ  生きる屍だ



 俺が体育館の 卓球台を見ていた

 同じクラスの【井上(いのうえ) (ひかり)】が来た


 光は両足が生まれつき悪く

 車椅子での生活を余儀なくされていた



『卓馬くん ここにいたんだ

 また授業サボってたでしょ?』


卓馬

『授業って何の意味があるんだろうな?

 俺達に未来なんて無いのに』


『私はあるよ!、ケーキ屋さん開いて

 美味しいケーキを皆んなに食べて欲しいんだ

 卓馬は無いの?未来の夢?』


卓馬

『あるわけ無いだろ』



 光の言葉に 俺はムカついていた


 能天気で 無邪気に笑ってるコイツに


 俺がイライラしていると


 光はのん気に話してくる



『卓馬くんて卓球上手いんでしょ?

 私にも教えてよ?』



 学校の卓球台は

 車椅子の人でも使えるよう 低めに作られていた


 光が駄々を兼ねるから

 俺は仕方なく付き合ってやった


 俺はイスに座り

 利き手じゃ無い左手で

 光が打ち返せる様 球を打つ


 光は下手くそで

 遅い球すら 打ち返せなかった



『卓馬くん上手だね

 そうだ!? 明日から卓球教えてよ!!』


卓馬

『は? なんで俺が?』


『約束ね』



 優しく笑う光に 俺はムカついた


 だけど


 ...暇だったから

 そう 暇だったから

 コイツに卓球を教えてやる事にした



 それから俺は

 毎日のように光に卓球を教えた


 そんなある日

 仲良くなった俺に 光は教えてくれた



『私ね、実は弟がいたんだ、5歳の弟が

 弟はケーキが大好きで

 私のイチゴも奪っちゃうおてんばだったんだ』



 いつもの光の話し方では無かった事に俺は気づき

 いつも見たく茶化したりはしなかった



『でもね 幼児のガンで

 小学生に上がる前に亡くなっちゃったんだ

 元々弟は病気で治らない死の病だったんだ

 でもね

 弟はいつも楽しそうで

 一生懸命、1日1日を生きたんだ

 死ぬと分かっていても

 だから私思ったの、生きてる限り

 夢は叶うかも知れない

 未来は終わって無いんだって

 だから私は頑張るよ

 弟が好きだったケーキを沢山作れるように』



 光は涙をポロポロと流していた

 生きてる限り ...か


 俺は夢を諦めていた

 当たり前だ

 こんな状況で夢を持つなんて普通できない


 だけど

 光は俺よりも 立派だと思った


 俺の白かった景色に

 光の言葉で色が付いた


 俺は光に礼を言った


 光は涙を拭いて 俺に聞く



『え?どう言う事?』


卓馬

『お前が俺に光を差し伸べてくれたんだ

 やってやる やってやるよ』



 俺は決意した

 この体でもう一度卓球を始めてやる





 俺は前のトレーナーの元に向かった

 トレーナーは何も言わず

 俺に1から卓球を また叩き込んだ


 利き手じゃない左手で練習して


 俺は頑張った

 高校生の1年を全て卓球に費やし


 高校2年の夏

 俺は希孥のいる地区大会に参加した


 ()()()

 ライバルに会いに



************************



 僕の目の前に

 利き腕を失った卓馬の姿があった


 卓馬は1回戦をストレート勝ちし

 会場を沸かせていた


 唖然とする僕の前に

 卓馬はやって来て言う



卓馬

『久しぶりだな希孥?』


希孥

『どうして君が!?』


卓馬

『卓球しに来たんだよ』



 そんな体で卓球を?

 僕は唖然とするしか無かった


 卓馬は僕の肩を叩き

「上で待ってるぜ」っと言った


 僕の感情はぐちゃぐちゃになっていた

 いなくなったと思った卓馬が現れた

 利き腕を無くした状態で


 気持ちがぐちゃぐちゃのまま

 僕は1回戦を終えた


 数分後

 また卓馬の方から歓声が聞こえる


 アイツなら勝つ

 根拠は無いのに 僕はそれを願っていた


 準決勝

 僕と卓馬が勝ち進めば当たる試合


 僕の額には

 何かわからない汗が流れ溢れていた


 父は言う



『少し外の風を浴びてこい

 そんな気持ちで戦うな』


希孥

『...はい』



 僕は会場の外に出た


 外の景色はいつも変わらず

 色んな色で満ち溢れていた


 僕の頬に

 誰かがスポーツドリンクをくっつける



希孥

『つめた!!』


直也

『ワリイワリイ、

 暗かったから元気付けようと思って』


美智

『希孥君大丈夫?

 顔色が悪そうだったから?』



 心配する2人を見て 僕は元気になった



希孥

『大丈夫、もう心配ないよ』



 僕は笑っていた

 心の底から笑っていた



直也

『希孥がここまで笑ってるなんて

 明日は雪でも降るんじゃないか!?』


美智

『私、希孥君が笑ってる所初めて見たかも』



 僕は2人にお礼を言い

 スポーツドリンクを貰い 席に戻った



『大丈夫そうだな』


希孥

『はい!』


『次のお前の相手は卓馬だ、

 相手が障害者だからって手を抜くなよ?』


希孥

『分かってます』



 そして

 僕と卓馬の準決勝が始まった


 僕は最初から全力で打った


 だけど


 卓馬は簡単に僕の球を打ち返して来た


 その時分かった


 ここにいる卓馬は あの時卓馬だって事に


 僕の止まっていた時間がまた動き始める



************************



 俺と希孥は

 前のように卓球をした


 希孥の奴

 前より更に強くなってやがるな


 1分が数10分に感じた


 9対10 希孥がリード

 次に俺が外せば 俺は負ける


 客席からは

 光が祈りながら俺を見守ってくれていた


 なんだよ

 俺が負けると思ってるのか?

 勝ったらアイツの髪をワシャワシャにしてやる


 そして

 長いリレーの末


 俺は天井を見上げていた


 気持ちいい汗をかいて倒れていた


 コレだよコレ 俺を熱くさせんのはお前しかイネェ



 俺は負けた


 初めて希孥に負けた 手なんか抜かず

 全力だったアイツに負けたんだ


 俺は笑っていた



卓馬

『気持ちいいな、卓球って』


希孥

『そうだね』



 俺の未来は まだ始まったばかりだ

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