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家事をしなくなった妻

 翠は自室でパソコンに打ち込んでいる。裕は声をかけようとするも、踏みとどまった。自分の世界に入り浸っているところを邪魔しようものなら、大喧嘩になってしまいかねない。気のすむまでやらせるのが、ベターな選択肢といえる。


 家の階段を下りていると、子供たちの寂しそうな表情が目に飛び込んできた。母親との時間を取れないことを寂しく思っていなければいいけど。元々、子供と積極的に接するほうではなかったけど、最近は目に見えて距離を取るようになった。一日中、会話をしないということも頻繁に起きている。


 翠との間に二人の子供をもうけた。どちらも男の子で、兄の貞夫は小学三年生、弟の祐樹は小学一年生。どちらもすくすくと育ち、身体に異常は見られなかった。


 健全な心を作り上げているのかといわれると、おおいに疑問符はつく。パソコンにのめり込んでいる母親の影響を受けなければいいけど。子供は親の行動に影響されやすいデータがある。将来的に引きこもりになってしまわないか、おおいに心配している。

 

 洗濯機の中を覗いた。洗い終えたばかりの洗濯物が、そのままにしてあった。翠はスイッチこそ入れたものの、取り出す作業はサボった格好だ。パソコンに熱中するあまり、洗濯物を忘れてしまっているのだと思われる。


 休日になると100パーセント近い確率で、洗濯機の中に放置したままだ。洗濯機をかけておくので、「あとはよろしくね」といわんばかりの状態を続けている。

 

 最初こそ怠慢なところを叱ったものの、最近は注意することはなくなった。無駄なエネルギーを消耗するくらいなら、自分で干してしまったほうがよっぽどいい。十分程度でできる洗濯干しで、三〇分以上の口論になるのは回避したいところ。月曜~金曜まで会社で働いている立場としては、余計なストレスを蓄積したくなかった。


 裕、翠の洗濯物だけが入っていたなら放置しただろう。着心地こそよくないものの、濡れた状態のシャツを着られなくはない。濡れた下着もストーブの熱を当てれば、ぎりぎり許容範囲に収められる。


 アイロンをかけることで、手っ取り早く湿気を飛ばすという手もある。翠が洗濯物をあまり干さなくなってから、対策として一台取りそろえることとなった。


 洗濯物をきっちりと乾かそうと思ったのは、子供のものも入っているため。免疫力は大人より低いため、びしょ濡れの服を着ようものなら、風邪をひいてしまいかねない。都会にあるような大病院は近くにないため、仕事のある平日、病院の大半が閉まっている休日のどちらにおいても連れて行くのは難しい。


 地方のためにオンライン診察をやっている病院もあるものの、原則として初診は不可となっている。車で4時間もかかる病院に連れて行くのは、現実的とはいえない。


 地方独特の事情に加え、子供たちのことも気にかかる。集団世界は常にターゲットを狙っており、きっちりとしておかなければ、子供たちを巻き込む危険性を秘めている。大人になるまでは健全な心を保ち続けてほしい。


 本日の天気は曇り空だった。上空はやや黒みがかっており、にわか雨が降ってもおかしくなかった。洗濯物を乾かすにはあまり向かないコンディションといえる。

現在の時刻は午後二時。真夏ではないため、これから干したとしても本日中に渇くことはないと思われる。明日の早朝に取り入れることになりそうだ。その後、皴を伸ばすためにアイロンをかける。


 洗濯物を取り出していると、あるものを視界にとらえた。祐樹が小学生に上がる前に、翠にプレゼントしたお守りだった。


 子供に愛情を注いでいるなら、もっと大切にするはず。彼女の心の中には、息子を大事にする思いすらなくなってしまったのか。自分のお腹を痛めて出産したにもかかわらず、愛情を注げないのだとすればあまりにも悲しすぎる。


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