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01.仮面夫婦

ゆるっと新連載です。よろしくお願いします。











 シャンデリアの光が、華やかな女性たちのドレスをきらびやかに浮かび上がらせている。紳士たちはそんな女性たちの気を引くのに夢中だ。そんな華やかな夜会会場の中、アックスは妻と共に壁際でため息をついた。

 華やかな様子を無表情に眺める公爵夫妻は、もはやこの国の夜会では見慣れたものだ。聞こえよがしな噂話が耳に入ってくる。

「ご覧になって。リュードバリ公爵ご夫妻よ」

「今日も不機嫌そうね」

「お二人が仮面夫婦だと言うのは有名な話ですものね」

「アクセリス様もおかわいそう。あんな不愛想な女をめとらされて」

 くすくすと女性たちが笑う。男性たちも似たようなもので、自分ならあんな妻は耐えられない、とっくに離縁するか別邸に押し込んでいる、公爵は心が広い、と言うようなことをささやいていた。アックス夫妻は二人とも曰く付きだが、妻の方が悪く言われることが多かった。これは、アックスが王弟であることが無関係ではないだろう。


「気にするな」


 アックスが声をかけると、妻のミカは鼻で笑った。

「私が気にすると思う? 傷つくとでも?」

「傷つかなくても、気分はよくないだろう」

「お優しくも気遣ってくださったわけね。まあ、ささやいている程度なら、何もされていないのと同じよ」

 こういうところがほかの淑女たちの癇に障るのだろうな、とアックスも思う。アックスも気難しそうだ、とっつきにくい、などと言われるが、ミカは気難しいのではなく偏屈なのだと思う。一応これでも、周囲の目があるので気を付けている方なのである。

「俺に嫌味を言っても仕方がないだろう」

「言いたくもなるわ。君と結婚したせいで、夜会を回避できない」

 アックスが王弟だからだ。それなりの社交は必要だった。ミカとて、舌鋒はきついがコミュニケーション能力がないわけではないし、気の利く優しい女性でもある。もう少し輪に入って行ってもいいと思うのだが。


「だが、俺と結婚しなければ、お前は今頃修道院だろうな」

「む」


 ミカがせっかく整っている顔をしかめた。アックスも言いすぎるきらいがあるが、言い争いの一環だと二人とも理解している。実際のところ、アックスの兄である王がミカを気に入っているので、修道院に押し込められるようなことはなかったと思うが。

「今日は星の観察をする予定だったんだ。流星群で」

「帰ってからにしろ」

「もう終わってるよ」

 一応、ミカは魔法学者である。それを見込んで、王はミカを己の評議会に組み込むために弟と結婚させ、さらには一代限りの爵位を与えさえした。なので、彼女の専門分野が魔法学であることは間違いないはずなのだが、流星群の観察がどう関係してくるのか、アックスにはわからなかった。

 曰く、ミカは古いタイプの魔術師なのだそうだ。魔法をぶっ放すような魔術師ではなく、研究を主とするような魔術師。


 二人が言い争いをしているのを見て、口さがない貴族たちは、やはり仲が悪いのだろうと噂する。うわべだけを見て、何を言っているのだろう。本当のアックスを知ろうともしないくせに、と思う。

「……ミカ。兄上に挨拶をして、帰ろう」

「わかった」

 即答だった。よほど夜会会場にいるのがいやらしい。まあ、こうもあしざまに言われれば、気持ちはわからないではなかった。傷つかなくても嫌な気分にはなる。少なくとも、妻の悪口を聞かされて、アックスはいやだ。


 人の多い会場の中にいて、国王夫妻は華やかですぐに見つかった。王弟であるアックスがミカの手を引いて近づけば、さっと人は避ける。王は弟夫婦を認めて微笑んだ。

「アックス、ミカ。楽しんでいるか?」

「ええ、兄上。十分堪能しましたので、そろそろお暇させていただこうかと」

 ミカはアックスの隣で微笑んでいるが、口を開くつもりがないようだ。それはそれでいい。国王ヴィルヘルムは「そうか」と苦笑する。弟の建前に気づいているだろう。

「王として言いたいことはあるが、兄としては二人の時間を楽しめ、と言っておこう。ミカエラ、評議会が開催されるのを忘れるなよ。知恵を貸してくれ」

「かしこまりました」

 ミカことミカエラが微笑んで王に一礼する。外面は完璧である。王妃もゆったりと口を開いた。

「アクセリス、もう帰ってしまわれるなんて残念だわ。紹介したい方も、たくさんいるのよ?」

「申し訳ありません、義姉上」

「今度紹介させてちょうだいね」

「ぜひ」

 次もうまくかわしたいところだ。アックスは、このいかにも上流階級の女性らしい義理の姉セレスティナのことが苦手だった。セレスティナはセレスティナで、アックスの妻であるミカのことが気に食わないらしく、よほどのことがなければ無視する。ミカもわざわざかかわりに行かないので、結局セレスティナとはアックスが話すことになるのだ。隣で話しているミカとヴィルヘルムの会話に混ざりたい。

「セレス。そろそろアックスを解放してやれ。ミカエラがすねる」

「あらまあ」

 ヴィルヘルムにたしなめられ、セレスティナはくすくす笑う。なんだか馬鹿にされているような調子だ。なお、ミカを見ると、彼女はすねていると言うより無の表情だった。

 兄の言葉に乗っかって、その場を離れる。虚無の表情のミカを連れていると、やはり仲が悪いのだ、という話し声が聞こえてくる。馬車に乗り込んでから、ミカは口を開いた。


「別に、喧嘩をするからと言って仲が悪いわけではないのにな」

「そうだな」

 まったくの同意である。むしろ、仲はいい方だと思う。互いに干渉しないだけで。まあ、喧嘩する時点で干渉しているけど。結婚するときに取り決めたのだ。干渉しすぎない、遠慮しない。つかず離れずの距離が心地よく、今まで来ている。気心の知れた友人同士のようなものだ。

「ま、僕に子供ができないというのが大きいんだろうけど」

 そういうことをしていないから、当然なのにね、とからりと笑うミカであるが、それは良家の奥方としてどうなのだろうか。

「お前……そういうことを外で言うな」

「誰も聞いてないよ」

 からりとした口調でミカはのたまう。そういうところがアックスは付き合いやすいのだが、貴族の女性たちにはなじめないだろうな、とも思う。

 少々口は悪いものの、ミカもなじむ努力をしなかったわけではないと思う。だが、中に入るには彼女の経歴は少々異色すぎた。教養もあり性格も悪いわけではないのに、少々短気なところのある彼女は早々にあきらめた。そして、ひねくれた。


「俺が聞いてるだろ」

 馬車の中だ。たぶん、外の御者にも聞こえていないだろう。ミカが普段から言動に気をつけなければぼろを出すようなタイプではないとわかっているが、アックスだっていたたまれなくなるんだぞ。

 ただ、ミカは押さえつけられるほど反発するタイプだと思う。関心のないことには本当に無関心なのだが。まあ、アックスも似たようなところがあるので、この夫婦は上手くいっているという面がある。


 そう。仲の良い友人同士なのだ。アックスは王族だが、後継ぎを産む必要などはないし、いわゆる貴族の務めを果たせなくてもいいかな、と思っている。だが、それでミカが悪く言われるのなら、少し考えてしまう。愛しているとは言い難いが、ミカのことは好きだし、友人を悪く言われると腹が立つ。

「アックスに言わなかったら、誰に愚痴を言えばいいんだよ」

「……まあ、言うなとは言わないが」

 使用人などにあたられるよりはいいのだろうか。少ないながらも一応友人のいるミカだが、さすがに愚痴は言いづらいか。

「……たまには一緒に出掛けてみるか」

 不仲説対策としての提案だったが、ミカに思いっきり引かれた。

「え、どうしたの、突然」

「思いっきり引くな。一応夫婦だぞ、俺たちは」


 法律上は、だけど。











ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


まだ先の連載が終わっていないのに新連載! ですが、よろしくお願いします。


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