短編 異世界便所無双 ~転生特典にトイレを貰った幼女~
諸君、トイレの進歩の歴史とは人類の進歩の歴史だとは思わないか?
トイレとは人の生活には不可欠な物であり、糞尿は肥料となる上に衛生上の理由でも無くせはしない。
桟橋のような場所から川に流していた時代から進歩を続け、汲み取りや水洗式と発展して行く。
冬の寒い日にホッと安心出来るように便座は暖められ、紙が無くても尻を綺麗に出来、音を消してくれる装置だって存在する。
水洗もレバーから探知式での自動も増え、洗浄のために人が居なくとも流れてくれる程だ。
スーパーや駅のトイレも一昔前に比べれば臭い等の清潔感や利便性が向上し、空調も整って寒い思いもしなくて良いし、体に不自由がある人や幼い子供連れの人でも利用しやすい設計が心掛けられているんだ。
元々日本では便所はお産をする場所でもあって……っと、そんな場合じゃないか。
本日、事故死した従兄弟の葬式の為に私はシングルファーザーの父や兄弟達と共に飛行機に乗っていたんだが、トイレに入っている途中にどうも事故が起きて墜落は避けられないらしい。
何でも隕石が二つ落ちて両翼が破壊されたとか。
昔は人が生まれた場所に居る時に死の運命が訪れるとはね。
何か情報量が多過ぎで逆に落ち着いちゃったよ、はっはっは。
「生まれ変わりが有るのならトイレの環境が整っている所が良いな……」
そうそう、日本の昔のトイレは中に人が隠れられるスペースがあったらしく、便所の中から手が伸びるって割と有り得ない話ではないんだ。
それとトイレの怪談と言えば花子さんだが、便所を司る神も妹が居るとされる彼女同様に女性達だとか……あっ、終わった。
自らに死の瞬間が訪れるのだと悟った私は静者に目を閉じる。
まあ、心落ち着ける場所で死ねるなら運が良い方なのか? 小だけれども、出したのは。
あっ、トイレットペーパーも品質の良い場所が来世だと嬉しいな。
「……っと、思ったんだけれど」
私は今、砂漠のど真ん中に立っている。
照りつける灼熱の太陽に足元から熱気を放つ砂。
何処までも続く地獄のような場所に立つ私はもう直ぐ死ぬのだろう。
「まあ、何もなければの話だけれどね」
さて、普段から歩いていて、特に歩けなくなる事態に遭遇もしていない場合、君達は歩ける事に疑問を覚えるかい?
ロボットを歩かせるのだって大変なのだから人が歩ける筈がないなどと誰も思わないだろう?
それと同じで私はとある事が出来ると知っていた。
手を前に出せば現れるのは大型ショッピングモール……のトイレの部分を壁ごと切り抜いた物だ。
ちゃんと四方を囲む壁や天井、扉もあり、その中では明かりが付いていて蛇口からは水だって出る。
だって当たり前じゃないか。
これらは全部トイレ周りの設備……そう、私はトイレに関わる物を自由に召喚する能力を得ていた。
何故その様な事が可能なのかは不明だが、神を自称する胡散臭い男に出会った気がしないでもないからネット小説で有りがちな奴だろう。
それと同じで此処が地球じゃないとも分かっていたよ。
「体は別人だし、異世界転生って奴かな?」
鏡に映ったのは銀髪の幼女、小学校に入ったばかりの末の妹と同じくらいの年齢だ。
自分の姿を確かめた後、私は便座に座って考え込む。
さて、これからどうするべきだ?
砂漠を横断するなんて馬鹿な真似は即座に却下するが、私が出せるのはあくまでトイレだからバキュームカーは出せないし、そもそも車の運転は教習所に通い始めたばかりで実技は未経験だ。
「いや、そもそもあのタイヤで砂漠の横断は難しいか。体が小さいからペダルに足が届かないし。……ならばトイレを出しては中を進み、消して外に出るなり次のに入るか?」
幸いな事にトイレの環境を整える為の物なので冷房も効いているし、気温が下がる夜は暖房も可能だろう。
食料はないが水はある、ならば辛いだろうが数日なら大丈夫か?
問題は幼い体がどうなるかだ。
さて、何か使い道がある物でも探そう……。
「……うん、新品で良かった」
そして夜、私は外に居た。
トイレの歴史は古いから当然だけれど粗末な作りの物もある。
例えば掃除の為に使うらしいバケツの中で燃えている藁で作られたトイレの壁や天井だとかね。
火は電気周りを感電に注意しながら弄くり、箒の先に火花で着火させた物を利用している。
その上に乗せたのは陶器製の”おまる”を乗せ、沸かしたお湯に砂漠で見つけたサボテンを放り込んで煮ているんだけれど、新品だし衛生的には問題ないけれどさ。
「何にせよ食べられそうな物があって助かった。食べられる……よね?」
平たい石を何とか包丁みたいに使い、枝を箸の代わりにして一応熱を通しておいたサボテンを食べながら空を見上げれば澄み切った空気のお陰で満天の星だ。
思わず暫くの間見ていたけれど、流石に寒くなって来た。
「タオルがあって良かったよ。さて、戻ろうか」
手を拭く用や掃除に使うであろう雑巾、勿論新品のそれらを体に巻いて防寒具の代わりにして、床が固いから何十枚も敷いて簡易的な寝床にしている。
まあ、そのタオルを持ち出したトイレを消せば一緒に消えるんだけどね。
この時間までトイレでボケッとしていた訳じゃなく、ちゃんと能力の検証もしていた。
先ず、トイレに付随する物なら設備内に存在するが、トイレを消せば一緒に消える。
ユニットバスはトイレと一緒になっているお風呂でしかないのでカーテンの向こう側にはシャンプー共々存在しない。
また、ある程度座標を自由に選択出来る。
座標の選択は結構便利で、少し砂漠を歩いて周囲を見ようとしても歩きにくいので困っていた時、屋根が平らな公衆便所とかの建物を埋まった状態で出せば足場になってくれた。
「しかし砂漠に出た時は死を覚悟したけれど、水と住環境が整っているから安心だね。じゃあ、安全の為に……」
空調完備なトイレを寝床にするけれど、砂漠にどんな猛獣が居るか分かったもんじゃない。
だからコンクリート製の建物を向きをバラバラに何重にも設置して壁を作り上げた。勿論建物の上に更に重ねてね。
「じゃあ、今日は寝ようか……。その前に体を洗おう」
この能力じゃお風呂自体は出せないが、トイレに付随する物なら出せるって言っただろう?
つまりはトイレで用を足すための一連の流れの中に入っているのなら、その設備をトイレと一緒に出せるのさ。
例えばプールのトイレに行く時、出入りの際に浴びせられるシャワーとかね。
手洗い石鹸しかないし、贅沢を言えば湯船に浸かりたいけれど今は我慢しよう。
こうして私の異世界生活の一日目が過ぎ、タオルとかで防寒対策しつつ夜中に進む事数日、そろそろサボテンに飽きてきたが他の植物に手を出す勇気が出なかった頃、何というか異世界物のラノベでは飽きるほどに見た光景が目に映った。
「うわっ! デカいなっ!」
少し離れた場所では人を丸飲みに出来る位に巨大なトカゲと、それに追いかけられるラクダに乗った女の子。
このままじゃあ食われるし、見捨てるのは心苦しい。
「さて、恩を売って何か食べさせて貰いたいね。……塩気のある肉が食べたい」
最近の食生活に対する愚痴をこぼしつつトカゲの前にコンクリート製のトイレを出現させる。
そんな物が急に現れたら避けられる筈もなく激突、動きが止まった。
「じゃあ、さよならだ。降り注げ、無数の便所」
そのまま幾つものトイレを真上から落としトカゲを押し潰す。
コンクリート製の建物なんて初めて見るからか動きが止まった二人に向かい、私が近付いて行けば警戒してか言葉を発するが……翻訳付きか、サービス満天だな。
「いや、それだけじゃないな」
モンスターみたいな奴だが、こんな風に生き物を殺しても平気な風に心を弄られていると感じつつも私は警戒させないようにと両手を上げて、笑顔で話し掛ける。
「やあやあ、大丈夫かな? 私は恩人だし、安心してくれ」
これが異世界の住人とのファーストコンタクトであり、大国の乗っ取りを企む悪の組織との因縁の始まりであり、私による異世界便所無双の始まりであったけれど、それについては、地面に穴を掘って作るタイプのトイレを何百も狭い範囲に下も含めて密集させて街に迫るモンスターの群れを落としたり、巨人と出会った事で巨人用の便所も出せるようになったから巨大なモンスター相手に降り注がせて戦ったりとか、まあ、詳細は機会が有れば。
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