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疾風迅雷アルティランダー  作者: エルマー・ボストン
未知との大遭遇
9/13

因果は動き出す 〜1〜

ここは宇宙の片隅。


満天の星空の下、一面の緑と、色鮮やかな花びら。

広々とした美しい庭園で、命の輝きを存分に発揮させる花々に水をやりながら、ひとり星に祈る美しい女性がいた。

女性は儚げな面持ちで夜空を見上げ、目を瞑り、呟いた。


「地球の皆さま・・・どうかご無事で。」





蝉の声が響き渡る、気温以外は穏やかな昼下がり。そんな中で、汗だくで坂田家の呼び鈴を鳴らす男の姿があった。ビシッとスーツをキめ、汗でずり落ち続けるメガネを中指でクイクイ上げながら、何度も何度も、何度もだ。


「だあーっうるせぇな!一回押しゃ分かるんだよ待たせて悪かったな!」


士郎は昼寝中。脚の悪い総司がようやく玄関にたどり着き、勢い良く玄関の戸を開けて、いきなり来客相手に怒鳴りつけた。

そこには、涼しい顔でもの凄く不機嫌そうな、通り雨にでもあったような装いの、見ず知らずの男が立っていた。


「失礼。坂田士郎さんはご在宅でしょうか?私、こういう者です。」


男はずぶ濡れの手で名刺を差し出す。

スタークラウン社の、南であった。


「はぁ・・・どうも。うわっべちゃべちゃじゃねーか!」


総司は眉間にくちゃくちゃにシワを寄せ、あからさまに嫌悪感を示しながら、まじまじと男の顔を覗き込んだ。




覚醒の儀式を終えた士郎と総司は、居間に通した南と相対することとなった。


「孫がいないので、麦茶しかないですけど。」


「いただきます。」


まだ昼過ぎだ。百合子は帰っていない。

士郎は額の汗を拭い、来客に百合子が作っておいたと思われる麦茶を振る舞う。


「で、大企業の社長秘書さんが何の用?・・・もしかして、仕事の話?!」


総司が、期待半分不安半分といった様相で、おもむろに尋ねる。


「いえ、今回はその様な内容では。先日のロボット騒ぎ、ご存知でしょう。我が社の調べによりますと、宇宙人と名乗る勢力と戦っていたロボット。あれはあなた方の物ですね?」


そう言いながら、南は麦茶を口に運び、苦々しい表情をとった。それを聞いた総司は、どうやらピンと来たようだ。


「あっ!あの赤いのに乗ってたのはアンタか!」


総司は声を荒らげる。


「そういうことです。・・・ん?ということは、脚の悪いあなたがあのロボットのパイロットですか?!その状況で操縦を?!」


南も一転、驚きを大いに露出させる。

それを聞いた彼には、誰が見ても良いとは言えない総司の脚の状態で操縦できる代物、ましてやそれがロボットで、そのスペックと、操縦技術・・・。


一つの疑念が、南の脳裏をよぎった。しかし、それを認めることは絶対にできない。


「うるせぇ!そういうのはいいんだよ!とっとと話の続きをしてくれ!」


総司は、まるで害虫でも見るかの様な目付きで南を睨む。


「そうですね。あの時、逃げない、と言っておきながら貴方は、約束を破って消えた。それでこうして私がわざわざお邪魔することになったわけですが、それについてはどう、お考えで?」


理屈っぽく責め立てる南。

だが、当然総司も納得がいかない。


「おいそりゃないだろ。俺だって待ってたよ?あのクソ暑い中さ!お前が自分で吹き飛ばした宇宙船追いかけてって、勝手にいなくなったんだろーが!全然戻ってこねーし、腹減ったから帰ったんだ!」


「私が吹き飛ばした?何を根拠に。」


「おぉ前が投げた槍のせいだろーが!」


テーブルから身を乗り出し、今にも掴みかかろうとする総司。南は、ブラックナックル号目掛けて投げたはずのドレッドランスがわずかに逸れ、ワイヤーを切断してしまったことをその時思い出し、額に一筋の汗がつたった。すっかり忘れていたのである。



「話を戻しましょう。あなたが『赤いの』と呼ばれたスタードレッド。世界で初めて我が社が開発し、あの日、公にされたばかりです。なのに、何故あなた方は非常によく似たロボットを所有しているのですか?」


南は、冷ややかな口調で淡々と言い放つ。士郎はその態度と放たれた内容に対し、ピクリ、と右の眉毛を動かして見せた。流石に年の功、彼の言いたいことはすぐにわかった。


「この野郎、戻したんじゃねーだろ、逸らしたんだろーがクソ。」


総司がボソリと呟く。


「つまり、俺がおたくらから技術を盗んだんじゃないか?って言いたいわけだ?」


総司を遮り、テーブルの上にズズイと乗り出し、語気に躊躇なく怒りを込める士郎。

要するにスタークラウン社は、自社の開発技術の漏洩を疑っており、その渦中にいるのがまさに士郎、というわけだ。

士郎が憤るのも無理はない。魂を込めてようやく完成させたアルティランダーに対し、野暮なことを言われたくなどないのは当然のことである。


が、南も全く動じない。


「失礼ですが、我がスタークラウン社のテクノロジー、人材、資金力あってこその二足歩行、そして搭乗型ロボットなのだ、と自負しているのです。それが、こんな小さな町工場で作れるはずがありません。」


なおも冷淡に、直球で2人を煽る南の言葉には、自社に対する絶対の自信、そして誇りが込められていた。しかし、そんなことは士郎たちには関係がない。苛立ちを募らせながら、南への視線を尖らせていく。

士郎と総司は、良くも悪くも大人である。ここに鉄矢がいたなら、即噛み付いていたであろう。しかし2人は、ひとまず相手の話を理解することを重視し、黙って耳を貸してやっていた。


「さて、単刀直入にお聞きします。どうやって我が社からデータを?産業スパイですか、それとも・・・。」


その瞬間、総司の堪忍袋がついに切れた。


「てんめー!いい気になりや」


「まぁ待て総司、落ち着け。」


そのまた次の瞬間、士郎は右手を上げ、今にも南の胸ぐらを掴みそうになっていた総司を制止した。総司はハッとして、「お、おう。」とだけ言うと、大人しく引き下がった。


「おたくの気持ちはわかる。だがな、俺は誓ってそんな卑怯なマネはしとらん。第一、スパイを雇うカネなどなければ、おたくに勤めてる身内も、盗みに入るスキルも体力もないわ。」


士郎はフーッ、と息を吐き出した後、冷静な口調で続けた。大人の余裕、というやつである。しかし、対して南は引き退る様子を見せない。


「あくまでシラを切るつもりですか。良いでしょう、本日はご挨拶だけのつもりでしたので、後日改めて伺います。失敬。」


「あっ、オイ待てよ!言いたいことだけベラベラと!」


立ち上がり、坂田家の廊下に出ようとする南の後を追い、慌てて立ち上がろうとする総司。が、松葉杖を手に取るのに手間取り、中々思うようにいかない。

そんな総司の方をポンポンと叩き、士郎は総司の視線を誘導すると、ゆっくりと首を横に振った。

それを知ってか知らずか、立ち止まり、総司を一瞥する南は、思い出したかの様に、ポツリと呟いた。


「そうそう、一つお伝えし忘れるところでした。」


そう言うと南は、懐から何枚かの紙を取り出し、広げて見せた。


「せ、せい、きゅう、書・・・?」

「せ、せい、きゅう、書・・・?」


総司と士郎はその紙を見つめ、口を揃え、目を丸くした。

ぱっと見、よくわからない金額が書いてある。


「あなた方のロボット、駐車場に突っ込んで車を何台か破壊しましたね?アレ、全て我が社の社員の車なのですよ。」


「えっ。」

「えっ。」


丸くなった目を、点にする総司たち。


「弁償してもらいま」


「いやちょっと待て、保険とか入ってるだろ?!俺だって、わ、わざとやったワケじゃ」


「あなた方の、世間的には所属不明の謎のロボット。かたやこちらは世界に名を馳せる一流企業。人々はどちらの言い分を信じるでしょうね?」


「さ、最後の最後で恐喝紛いなことしやがって・・・!」


舌戦の応酬を繰り広げる大人たち。

南としては、金額云々など眼中にない。とにかく、アルティランダーの製作技術の出所、そして内容を手中に収めるための手段に他ならないのであった。


「では、また後日。本日も業務が山ほどありますので。ご馳走さまでした。」


そう言って南は、廊下を足早に進み、メガネに手をかけ、高そうな革靴を履き、3倍速で坂田家の玄関を出た。


「し、しばらく来ないでくださぁーい。」


士郎が、南の背中に小声で叫ぶ。




「あれ?万三さん、こんにちは。なんでてっちゃんちから出て来たの?」


「けぇっ?!健吾くん?!何故ここに?!」


南が玄関を出ると目の前に、学校帰り鉄矢と、その同級生で幼馴染みの健吾の姿があった。


「健吾くんが、学校は?!ていうか、人前で名前を呼ばないでくれ!!」


「あっ、そうだった!ゴメンよ・・・。今日は水曜日だから、終わるの早いんだ。」


動揺を隠したくても隠せない万三に、健吾はシュン、として応えた。


「健ちゃんもしかして、この人がよく話してくれるスタークラウンの山田さん?」


「そうそう!山田まんぞ・・・南光輝さんだよ。・・・さっき言いかけたのは内緒ね!」


「うん、でも僕もう本名知ってるよ、何度も聞いてるし…。こんにちは山田さん。」


「そりゃそうだ!・・・ゴメンてっちゃん、ちょっと事情があるんだ。今までのことは忘れて、南さんって覚えてくれ。」


「ふぅーん。まぁいいやわかった!南さん、僕んちに何か用ですか?」


純粋な小学生に、大人のよくわからない見栄や事情など知る由もない。

クールぶっていた本名山田万三改め魂の名前南光輝は、先程まで高圧的に接していた連中の自宅前で、怒るに怒れない辱めを受けることとなっていた。


「け、健吾くん!と、坂田、鉄矢くんだね?!もうおじいさんにお話はさせてもらったから大丈夫さ!い、いそ、急ぐから!失礼するよ!」


南はそそくさと、人目もはばからず猛ダッシュで逃げ帰って行く。


「大人も大変なんだなぁ、健ちゃん。」


「うん。良い人なんだけどね。いろいろとフクザツらしいよ。」


2人の少年は、「大人」というものの存在を、南の背中に見るのであった。

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