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君が奏でる部屋  作者: 槇 慎一
7/148

7ステージ



 僕にはまだ誰にも言っていない夢がある。

 その為に、経済的に自立したかった。



 かおりは教授のお気に入りの弟子となった。

 高等部の授業が終了してから帰宅後に教授の家に往復するとなると、帰宅は夜遅くなるしレッスン時間が短縮せざるを得ない。


 そのため、僕は短期間で取得できると定評のあった自動車学校で数日間練習し、運転免許を手に入れた。異例の速さで取得できた。大学の友人を紹介すると、彼等も面白がって競うように短期間で取得した。



 僕が車で毎日送迎出来るようになり、長時間のレッスン時間が確保された。

 結果、コンチェルト以外のソロプログラムのレッスンも受けることができ、2台ピアノでコンチェルトを弾く権利を得る10人に、かおりは最高点で選出された。


 ここまでで既に一位。去年、僕でさえ若いと言われたグランプリだ。僕は身震いした。指導者の名前は僕の名前しか提出していない。今はそんなことはいい。これで「オーケストラパートのピアニストが教授だったからだ」などと言われずに堂々と演奏できるだろう。



 自分も身を持って経験したが、2年連続してピアニストを輩出させる教授の手腕は、素晴らしかった。かおりはこの短期間で目を見張る程の音楽性を身につけていった。教授の確かな腕と、教授の一言一言を信じてついていくかおりとの間に、確かな絆が生まれていった。ロシア語の通訳と送り迎えをしながら、その親密さとかおりの才能に少しだけ嫉妬する自分もいた。否、少しどころではない。わかっていたことだ。



 そして、教授と2台ピアノでコンチェルト審査に臨む日がやってきた。


 新しいピアニストの発掘を毎年楽しみにしている、世界的に有名なロシア人教授が審査のペンを置き、自らオーケストラパートを弾くほどのピアニストは誰なのかと、未だ無名の人物に多くの人が興味を持ったらしく、公開入場券は例年になく瞬く間に完売されたと奥様から聞いた。当日券もなく満員だった。



 僕は、かおりの保護者という扱いで、未成年の出場者に一枚だけもらえるバックステージパスをもらった。これで、控え室からステージ袖まで自由に移動できる。



 ステージでの演奏はもちろん、ピアノまでのエスコートも、教授なら心配ない。この日の為に、僕と僕の母親はシューマンのコンチェルトにふさわしい、かおりが装うドレスを新調しておいた。


 控え室の中を扉の外から確認すると、カーテンで仕切ることができる空間があった。僕は控え室の外でかおりが支度できるのを待った。


 着替えるかおりに邪魔が入らないよう、控え室の扉を外側から押さえて寄りかかった。しばらくの間一人になり、高まる鼓動を抑えた。自分が弾くより緊張する。しかし、かおりが教授と共演する本番が見たい。かおりのドレス姿も見たい。



「……先生」


 寄りかかったドアに微かな声と、仄かな気配を感じて静かに呼吸を整えた。


 少しだけ開けたドアの隙間から、ドレスショップで見ただけの、母親が手にしていた薔薇色のグラデーションのドレスの裾が見え、少しずつかおりの全身が現れた。




 綺麗だ……。




 時間が止まったかと思った。






 いつもは制服姿だから、普段は夏でも見ることがなかった、首から下の真っ白な……胸にかけてのライン、肩、腕、背中……。


 やっぱり悔しい。教授とはいえ他の男と……。





 教授にかおりを渡す時がきた。


 男性控え室から教授がやってきた。


 教授は高齢だが、今日は燕尾服ではなく仕立ての良いスーツ姿で、驚くほど若々しかった。

 少し減量したと僕に笑ってみせたが、それは少しなんてものではなかった。


 かおりは真っ直ぐに立ち、教授を見て真剣に言った。


「Will you play just as you would at the concert ?」

(コンサートのように演奏していただけますか?)


「OK . Here we go !」


 教授は僕の方をちらりと見て、憎らしいほどの笑顔でかおりの背中を抱いて、ステージ袖に連れていった。



 僕は、今のかおりの言葉と声に、予想外の成長を感じた。


 僕より学年で4つ……年齢は5つも年下のかおりに、音楽家として、女性として強く惹きつけられた。


















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