機械化聖女は生身の人間を愛してる
「お帰りなさい、お姉様! 私、お姉様が戦争に行っている間に婚約者を取っちゃいました!」
戦場帰りの聖女である私を、同じく聖女であった妹がそう言って迎える。
だが男性の姿をした護衛の機械人形も、その主である私も、動じる事はない。
「知ってるわ。でも彼、貴女以外とも浮気してるわよ」
「そうなんですか? じゃあいいです」
秒針が一回りもしないうちに話が終わる。
「あら、いいの?」
「彼自身に興味はないんで。それより《機械化聖女》として随分活躍したそうですね」
本当に興味はないらしく、妹はすぐに別の話題に移った。
私も特に思い入れはない。浮気をしたなら相手も多分同じだ。
「私ではなく作った機械が、よ」
「同じです。しかも人的被害なしとか、さすがですね」
「人が使えないだけだわ」
話の流れが不穏になっていくのが分かる。
だから私は言い争いを避ける方向に進もうとする。
けれどきっと、今回もそれは成功しない。
「機械は壊れたら直せばいいわ。でも人はそうじゃない、貴女みたいに倒れる事もあるし」
「だから私の役目を奪ったんですか、魔法薬作りを機械化して」
不意に妹の声から温度が消える。
失敗した、と思ってももう遅い。
「奪ったのではなく、引き継いだだけよ」
「お姉様には分からないでしょう、役目を失った聖女の気持ちは!」
消えた時と同じように、また声が温度を取り戻す。
今度は痛みを伴って。
「何でもいいから、お姉様に勝ちたいのです!」
悲痛な声で叫び、妹が走り去る。
妹は元々共に戦場を駆ける聖女だった。
だがその環境に心と体を壊してしまったのだ。
「また妹を怒らせてしまったわ」
溜息を吐いて、ずっと隣にいた機械人形に喋りかける。
すると直ちに機械音交じりの声が返ってきた。
「その前に浮気された貴女が怒るべきだったのでは」
「あの子の事は何でも許したいの、原因は私だから。それに私は戦争に勝つ為の道具、けれどあの子は違うわ」
この存在が尊ばれるのは戦場だけ。
それは人の心に疎くても分かる。
だからこそ妹には生き延びて欲しいのだ。
戦場を駆けてなお健全な自分ではなく、人の心が故に壊れてしまった妹に。
「それが理由で貴女は俺を作ったのか」
気づくと感情のない目を模す部品が私を映していた。
熱のないそれは彼が人ではないという証拠。
「そうよ、人に道連れは頼めないから」
機械的な美しさは、私を安心させる。
「だから一緒に、死にましょうね」
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