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第六話『家デートこそが、一番楽なデートである』

「デートしよ!」

「はい?」


 銅像の前、一緒に帰る時に待ち合わせとして使っているその場所で、史奈さんはとんでもないことを言ってきた。

 周りにいる生徒が注目している。幸い先程の言葉は聞かれていないようだったが、二人きりでいるだけでも変な目で見られるのだ。昨日も、一昨日もそうだった。


「だから、デート。分かるよね?」

「そりゃまあ。でもこれからどこに行くんですか」

「それはキミが考えてよ」

「マジかよこの人」


 生まれてこの方、デートなんてしたことがない。

 姉貴と一緒に出掛けたあれはデートに入るだろうか。いや、ありゃ入らん。昔だし。

 とにかく、どうやら俺がデートの行き先を速攻で考えなくてはいけないらしい。こういう時の定番はどこだろうか。ショッピングモール、とか? いや、無難すぎるか。

 ああ、もういいや。俺の行きたい場所に連れていけばいい。どうせ出かけるなら自分のために出かけてやる。


* * *


「で、家に来たと」

「改めて考えてみたら俺の行きたいところとか特にないんですよね。なので、家デートってやつです」


 本来は家デートというものはもう少し親しくなってからやるものなのだが、まあ俺と史奈さんの関係は特殊だし、普通のデートをするよりかは何倍も楽しめるだろう。

 一度想像してみたのだ、俺と史奈さんのショッピングモールデートを。結果、楽しめる気がしない。

 そもそも、俺は史奈さんと一緒に楽しもうという気持ちなど全くない。バイトが休みの日こそ、一人の時間を楽しむチャンスなのだ。

 これが本当の好き同士ならば、特に買う物がないショッピングモールでのデートでも楽しめただろうに。


「逆に、史奈さんが俺と行きたいところとかってあります?」

「んーーーーーー、観光スポット、かな」

「あれ、思ってたよりも普通ですね」


 そう思い史奈さんが連れていきそうなデートの場所を想像する。

 ……あれ、俺、全然史奈さんのこと知らないな。普段何をしているのかも知らない。


「だって、デートっぽいでしょう? 本当の彼氏彼女っぽいこともやってみたいの」


 ああ、そうだった。この人は自分の行きたい場所も興味があるとか、面白そうとかで選ぶのだ。だから、普段行く場所などには行こうとしない。


「あのですね、付き合う条件には彼氏彼女のようなことはあまりしないっていうのがあるんですよ?」

「一緒にお昼食べてるんだから今更でしょ。それに、そういうえっちなことはしないにしても、彼氏なら私のお願いくらいは聞いてくれてもいいんじゃない?」

「まあ、迷惑じゃない範囲でなら」


 現時点で貴重なバイトの無い日を潰されて迷惑、とは言えないな。

 一人の時間が好きとは言っても、休みの日には家でゲームをしたり、動画を見たりするだけだ。一人でいられる時間を作れれば俺はそれでいい。


「じゃあ次のデートは外に行こうね」

「それについてなんですが、そもそもお互い好きじゃないのに二人で出かけても楽しくない気がするんですよ」


 好きだからこそ買い物を楽しめる。恋人でなくても、親しい間柄ならば買い物やお出かけを楽しめるだろう。

 しかし俺と史奈さんは親しい間柄というわけではない。その範囲まで、俺は心を許してはいない。


「私は貴方とならどこでも楽しいけどね」

「そですか。じゃ、そのデートは俺と二人でいるのと、恋人っぽい体験が目的ってことですか」

「その通り。一回じゃ分からないかもだから、数回繰り返してもらうよ」

「うへぇ……」


 まあそうか、そうなるよな。

 史奈さんと交際することになった日から、俺の自由は極端に少なくなるんだろうなとは思っていた。

 俺がおはようからおやすみまで一人で過ごせる休日は来るのだろうか。

 そんな不安に駆られながら、俺は漫画を読む。今日はゲームの気分ではないのだ。パソコンは起動させたら変なことをされそうと思い使わない。


「わぁ、その漫画えっちだね。エロ漫画?」

「違うとは言い切れないですね」


 俺が読んでいたのは主人公がラッキースケベしたり、スケベしたり、スケベしたりしてトラブルに巻き込まれるとらぶるな漫画だ。

 ぶっちゃけ史奈さんの言う通りエロ漫画みたいなものだ。少年誌に載ってるけど。


「どういう漫画なの?」

「ハーレムもののラブコメディです」


 ジャンルのみを伝える。説明しようにも、どう説明すればいいのか分からない。

 説明しようと思えばできるのだが、とても長くなってしまうし理解もできないだろう。だからジャンルだけ説明した。この作品の説明はエロラブコメで片付く。


「ハーレム? じゃあ、キミはハーレムに憧れてるんだ」

「いや、そういうわけじゃないですけど。この作品はハーレムなのに全員大勝利なんですよ。あんまり傷つかないから好きなんです」

「ふーん……」


 自分から聞いてきたというのに、史奈さんは顎に手を当てて唸りながら何かを考え始めた。


「不満気ですね。気に入りませんか?」

「キミはどうするのかなって。もし仮に複数の女の子からアプローチされたら、キミは誰も傷つかない方法を選べる?」

「無理ですよ。人間同士は、関わったら必ず傷ついていくんですから。ファンタジーやメルヘンじゃないんです。そんな状況は来ないと思いますけど、その時ははっきり選ぶんじゃないですかね」


 俺以外の人間も、時が経てば誰も皆傷ついていく。

 この人となら傷ついても構わない、そう思える相手を見つけるのが一番いいのではないだろうか。それこそ、夢物語か。


「そう。なら、頑張らないと」

「何をですか……」


 もしかして、俺が他の女の子と仲良くなるのを阻止するとか? なら心配は要らない。今のところ、女の子の知り合いなんて夜桜くらいしかいない。

 あいつとはそれなりに話すが恋愛感情があるわけではない。自己評価が高いから、構わないと拗ねるのだ。他の人よりもぶっきらぼうな態度の俺が気に入らないのだろう。

 ため息をつきながらページをめくっていると、ガチャリとドアが開いた。


「おっすー、史奈来てたんだ。ラブラブだねぇ」

「ノックしてくれ」


 ノックをせずに俺の部屋に入ってきた姉貴は、俺と史奈さんを見てニヤニヤし始める。

 ちなみにだが、姉貴は俺と史奈さんが付き合っていることを知っている。さらに、史奈さんの目的をある程度把握している。

 なので俺と史奈さんにイチャイチャなんてないのを知っているはずなのに。何を期待しているのか。


「お邪魔してるよ、紗耶香」

「うん。ゆっくりしていってね。それじゃあ邪魔者は退散するねー。むふふっ」


 ああ出たよ、イチャイチャを期待してる顔。ムカつくわ。

 姉貴はそれだけ言い残すと自室に帰ってしまった。史奈さんの友達をやっているんだから、俺より扱い上手いはずだよね。代わってよ。


「紗耶香は恋バナとか大好きだからね。分かってても期待してるんだと思う」

「なるほど」


 思い出してみれば、姉貴の部屋にある漫画は少女漫画が多かった。分かっていても期待してしまう。迷惑な話だ。


 その後も、漫画を読み、たまに会話をするという時間を過ごした。

 果たして、家デートとはこれで合っているのだろうか。まあ、間違っていてもいいか。

 次のデート、大変なんだろうな。

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