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第三話『たまには、月曜日も悪くないものである』

 月曜日。

 月曜日という言葉を聞くだけで鳥肌が立つという人は少なくないのではないだろうか。下手したら拒絶反応を出す人すら現れるほどだと思っている。


 そんなテンションが下がる日の昼休み。クラスの女子が定期的に唱える呪文『マジサイアクー』の声を聞きつつスマホに目を向ける。

 すると、一件の通知が。チャットアプリだ。またハンバーガーチェーンの割引かなと思いつつアプリを開くと、そこにはつい昨日俺の彼女? になった天道先輩からのメッセージが映っていた。


『図書室の隣にある空き教室』

「…………はぁ」


 嫌な予感がする。それは分かっているが向かわずにはいられない。だって行かないと何されるかわかんないんだもん。

 どうせ一人でパンを食べようと思っていたところなのだ。昼休みということで一緒に食事でも、みたいな感じだろう。さっさとパンを買って空き教室に向かおう。


* * *


「遅い!」

「無茶言わないでくださいよ」


 思っていたよりも食堂の列が長かったこともあり、うちのお姫様はカンカンだ。

 図書室の隣に教室があることは知っていたが、まさかここまで片付いているなんて。もっと埃っぽい場所を想像していただけに驚きだ。

 窓から刺す光が丁度良く、教室なんかよりも居心地がいい。図書室の隣というだけあって、外の騒がしさもあまり感じない。窓の外から吹く風も心地がいい。

 教室の中心に置かれている向かい合わせの机と椅子のセットがさらに独特な雰囲気を醸し出していた。

 一つダメ出しをするとしたら、俺が花粉症なことくらいだろうか。薬飲んでおいてよかった。


「いいところでしょ、ここ」

「はい。静かで、落ち着きます」

「私がいるからかな」

「多分違います」


 むしろいない方が邪魔されずにこの教室を独り占めできるのに、なんて思いながら椅子に腰掛ける。そして、パンを机の上に置いた。


「えっ、なにそれ」

「何って、パンですよ。知らないんですか? まず小麦粉をですね」

「怒るよ?」

「ごめんなさい」


 少し悪ふざけをしすぎたなと反省する。

 しかしそうなると、ますます天道先輩の言葉の意味が分からなくなる。


「どうして、パンを買ってきたのかな?」

「いやだって、一緒にお昼を食べるんでしょう? それとも、お嬢様命令で昼飯抜きですか?」

「そうじゃないよ。これ見て」


 天道先輩はそう言うと、四角い何かを包んだ布を“二つ”カバンから取り出した。

 なんですかこれ、とは言えなかった。俺もそこまで察しが悪いわけではない。しかしなぜ目の前のこの人がこんなものを用意したのか。それが気になる。


「どうして、って顔してるね」

「ええ。意地悪してないで教えてください」

「んーーー、普通に言うんじゃつまらないね。当ててみてよ」


 ほう、それは俺への挑戦と受け取っていいんですよね。

 それならば全力で当ててみせよう。俺はこの人を完全に知っているわけではないが、どういう人間であるかはある程度理解している。

 この人は面白いか面白くないかで判断する人間だ。それなら。


「俺を照れさせるため…………いや、それがメインじゃないか。そうなると、恋人っぽいことをやってみて、恋愛を体験した、とか?」

「ピンポンピンポン大正解! ちゅーする?」


 何言ってんのこの人。

 前にも思ったのだが、この人の笑顔は信用ならない。笑顔を作りながら裏でどす黒いこと平気で考えてそう。


「お腹空いてるんでそろそろ食べたいです」

「私を?」

「…………」


 無言で包みを開ける。青い布に包まれた弁当箱は、黒く飾りっ気のないものだった。

 基本的に、俺は飾りっ気のない方が好きだ。無印、みたいな。とにかく、シンプルなデザインの方がオシャレだと思うのだ。

 それを知っていたのだろうか、なんて思って軽く背筋が凍る。考え直せ、偶然だろどう考えても。


 蓋を外すと、色とりどりのおかずが目に入った。母ちゃんの役満(茶一色)弁当とは全く違う。栄養バランスまで考えられているのだろう。素直に感心してしまう。

 名付けて数え役満弁当。なんで麻雀で例えた俺。


「そんなに観察したって、毒なんて入ってないよ?」

「入ってたらいよいよ人間不信極めちゃいますよ俺。何も信じられない」


 そんなことを言いつつも、心が読まれていないことに少し喜ぶ。

 何から何まで読まれるということはないんだという気持ちもあるが、何より心の中で褒め称えたことがバレなかったのが嬉しい。バレたら絶対恥ずかしいからな。


「大丈夫、それ以上悪化はしないよ。どうせ毒を入れるなら致死量入れるから」

「…………本当に入ってないんですよね?」


 分かってはいても怖くなってしまう。毒入れるなら絶対死ぬ毒入れるって宣言されたのだ。そりゃ怖い。


「それより、恋人っぽいことしない?」

「恋人っぽいこと?」

「そ。例えば、あーん、とか」


 あーん。それはラブコメ漫画や小説でよく見られるドキドキシチュエーションだ。

 簡単に説明すると食べさせ合いっこ。間接キスだとか、そういうのでドキドキするのだろう。

 そして決まり文句は「味がわからなくなっちゃった」だ。そんなわけないだろ。五感の一つがそんな簡単に失われてたまるか。テニスじゃないんだから。


「ああ、あの。あれってどうなんですかね。自分のペースで食べた方が美味しいでしょうに」

「味の問題じゃないと思うけど。まあいいや、食べさせてよ」

「…………それじゃあ、毒味の意味も兼ねて」


 どのおかずが食べさせやすいだろうか。なるべくハプニングは起こしたくないから汁が少ない唐揚げで。


「はい、あーん」

「あーん」


 お決まりの「あーん」という掛け声を発しながら、箸でつかんだ唐揚げを天道先輩の口に運ぶ。

 落とさないように、口の周りにぶつけないように。そう気を付けていたからか、俺はふと天道先輩の口をまじまじと見てしまった。

 天道先輩の顔が赤くなる。遅すぎるでしょと言わんばかりに自分から唐揚げを口に入れた。


「どう、ですか」

「…………うん、美味しいよ。まあ私が作ったんだから当然だね」

「そうですか」


 悔しいがドキドキしてしまった。口の中を見てドキドキするとか、もしかして俺って特殊な性癖を持っていたりする?


「はいっ。それじゃ、あーん」

「えっ、あ、あーん」


 そういえば食べさせ合うんだったか。ただ他の人が食べさせてくれるだけだろう。緊張する必要なんかない。

 そう思いながら口を開けていると、天道先輩のつかんだ卵焼きが口の中に入ってくる。人に食べさせてもらうというのは不思議な感覚だ。気恥ずかしさを感じる。


「ふふっ、美味しい?」

「…………美味しい、です」


 ドキドキする心臓を抑えるべく。咀嚼に集中する。

 …………なんだ。やっぱり味は落ちるじゃないか。自分で食べた方が美味しいよ。

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