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第十五話『天道史奈は恋を知る』

 束紗くんから距離を置こうと言われて数日。私は、つまらない日々を送っていた。

 友達もいる、話し相手もいる。なのに、足りない。面白くない。それが私には耐えられなかった。

 昼食も空き教室で一人で食べる。いつまで経ってもキミは来ない。少し前まではこれが当たり前だったはずなのに。どうしてこんなにも満たされないのだろう。

 今日も、当たり障りのない一日だった。帰ろう。

 ふと、銅像が目に入った。ああ、いつも帰りはここで待ち合わせしてたな。なんて思い出してしまう。いけない、早く帰らないと。


「……ぁ」


 微かに声が聞こえ振り向く。そこには、束紗くんが立っていた。

 どうやら偶然鉢合わせしてしまったようだ。二年生と三年生なので学校で会う機会なんてないと思っていたのに、こんなところで会うなんて。

 私が振り向くと束紗くんは目をそらした。気まずさを感じているのだろう。


「ねえ……」


 小さく声を掛けた。

 しかし、束紗くんは私が言葉を発するときには既に隣を通り過ぎようとしていた。

 そうだ。今は私と束紗くんは恋人同士ではない。ただの他人。話があるわけではない。

 改めて話すとすれば、もっと期間を開けた後だろう。まだ数日しか経過していない。


 それでも。


「またね、束紗くん」


 諦めきれなかった。でも、仕方がないことなのだ。

 私の言葉を聞いて後ろ姿がビクッと震えた時はすごく嬉しかったよ。束紗くん。


 空を見上げると、雲が覆っていた。天気予報ではこれから降るのだったか。

 ああ、寒いなぁ。告白して振られた時の気分って、こんな感じなのかな。

 成功した時の気持ちも知らないのにそんなことを考えてしまった。本物の恋愛、か。私はキミが教えてくれると思っていたんだけどな。


* * *


「なんだか、最近つまらなそうにしているね」


 夕食を済ませ、スマートフォンを触っているとお兄ちゃんがそんなことを言い出した。

 そっか、周りから見ていてもつまらなそうにしちゃってたかな。ダメだな、ちゃんとフリでもいいから明るくしておかないと。


「ちょっとねー」

「御子柴くんかい?」


 まあ、そうなるよね。

 お兄ちゃんにも心当たりはあるのだろう。教室での束紗くんはどうしているだろうか。

 束紗くんは、いつも通り過ごしているのだろうか。元々私が巻き込んだのだから今の方が楽なのかもしれない。なんだか、嫌だな。


「……うん。別れたわけじゃないんだけどね」

「そっか。何があったのか聞かせてくれないかな」


 束紗くんのクラスの担任であるお兄ちゃんなら、普段の束紗くんがどうしているか分かるかもしれない。

 以前にどうしているか聞いた時は、普通の静かな子、といった情報くらいしかなかった。私が関わったことによる変化はどうなのだろうか。


「この間ね――――」


 私は、束紗くんと電話話したこと、その理由などについて話した。

 話をしてみれば、それはとても短い内容だった。ただ友達同士が付き合うことになったから、距離を置いているだけ。それだけなのだ。


「それは、恋なんじゃないかな」

「恋? ううん、これは恋愛感情じゃないの。独占欲だよ」

「独占欲も恋に入ると思うな。だって、史奈は御子柴くんのことをいつも考えているんだよね。そんなの恋でしょ」

「そうなの?」


 確かに、思えば束紗くんと出会ってからいつも束紗くんのことしか考えていない。

 これが恋だとしたなら。私は一目惚れしてしまったことになる。一目惚れなんて、私も束紗くんもくだらないものだと笑っていたのに。

 しかし実感が湧かない。私は恋をしているのだろうか。元々知らないせいで、言われたところで自覚できない。


「うん、そうだよ。恋をしている人はその人に幸せになってほしいとか、そういうことを考えるんだ」

「幸せに……どうだろう」


 束紗くんにはもちろん幸せになってほしい。幸せは、束紗くんが誰よりも求めていることだから。それを叶えてほしい。

 そして、その幸せを起こす人が私であってほしい。私で、幸せを感じてほしい。


「お兄ちゃん、恋愛ってなんだろうね」

「それは言葉にできないかな。恋愛っていうのは色々な形があるんだ。外から見たら恋愛に見えない関係でも、彼ら彼女らにとってはそれが恋愛なんだ」


 紗耶香も似たようなことを言っていた。自分たちなりの恋愛を見つけられる、だっけ。


「私たちなりの恋愛があるってこと?」

「そうだよ。今は距離を置いているけど、その気持ちを大切にしていればきっと御子柴くんは振り向いてくれる」


 そうかな。束紗くんは確かに私といて楽しかったと言っていたが、自分一人の時間も好きなはずなのだ。

 私と一緒に居なくても、その幸せはあるのだ。それがとても悔しい。


「というか、彼はいつになったら気付くのだろうか」

「どうしたの?」


 独り言? お兄ちゃんにしては珍しい。お兄ちゃんは普段伝えたいことは本人に言うし、言えないことは声に出さずに秘密のノートに記すのに。


「なんでもないさ。今度から御子柴くんの様子を見て、何か分かったら伝えるよ」

「うん、ありがとう」


 お兄ちゃんを介して束紗くんの情報を手に入れるよりも、自分の手で手に入れたいな。

 そんなことを思っても、直接話すわけにはいかないのでそれは叶わない。お兄ちゃんは興味がある人の情報を集める趣味があるので、そのおこぼれを貰おう。

 恋についての話を聞いて、少しは気が楽になったかもしれない。それでも一緒に居れないのは辛いことだ。

 早く会いたいな、束紗くん。

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