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90話 クイーンタイダリア号

「うおおおおおおお! でけぇええええええ!!」


「うわぁぁあああ! 凄いね!!」


「あっはっはっはっはぁ! そうだろうそうだろう!」


 出港当日、冒険者ギルドで最後の確認を終え、今俺たちはリカルドさんと共に港へとやって来て船を見上げている。

 護衛の冒険者たちとそれを指揮をするサリヴァンさんは既に船に乗り込んでいる。


 周囲は船の出港を見学に来た住民で溢れかえっていた。

 アントンさんたちも後で見に行くと言っていたから、もうどこかにいるのかもしれない。

 既に船の準備は整っているらしく、いつでも出港可能だそうだ。


 この船は海洋ギルドが建造した最新の大型船で、その名を『クイーンタイダリア号』と言うらしい。

 勿論、名付け親はリカルドさんだ。


 従来の船より頑丈に造られており、多少の魔物の攻撃程度ではビクともしないのだとか。

 今回がこの船にとっては初航海となるらしい。俺たちとお揃いだな。

 いずれはライナギリアとの航海に使う予定だと聞いている。


「まあ、この船は色々と試験的に建造されている部分もあってな。頑丈な船体もそうだし、マストと帆の数を増やしてより風を受けやすく設計されている。水の抵抗も計算されていて、デカいが従来の船より早い航行が可能なはずだ」


「ますと? ほ?」


「ああ、おめぇら船は初めてだったか。まあ、簡単に説明するとだな、マストってのはあの船から突き出ている棒で、それに帆って言う布を張って風を受けて船を進めるんだ」


「人が漕ぐんじゃなかったのか、すげぇ……」


 となると、風魔術を利用すれば俺たちでも簡単な舟くらいなら動かせるのか。


「あっはっはっはっはっは! この船を人力で動かそうとしたら何人必要なんだろうなあ!」


 リカルドさんは久々の航海ということもあってか、凄く上機嫌なようだ。


「あとは船首に像を取り付ければ完成、と言う訳なのだな」


 アガーテの言葉に俺たちは船首の方を見る。

 何かが取り付けられそうな作りをしているが、そこには今は何も無かった。


「ああ、そうだな。まあ、絶対無いと駄目ってもんでもねえが、折角ならこの船を象徴するもんでも作ってやりてえじゃねえか。俺としてはタイダリアがいいとは思ってんだが、ま、彫刻家先生次第さ」


「いずれ、ちゃんと完成したこの船も見てみたいですね」


「おう、俺も同感だ」


「ねえ、早く乗ろうよ!」


 どうやらリディは待ち切れない様子だ。

 ポヨン、キナコ、ルカもどこかソワソワしているように見える。

 勿論、それは俺も同じだ。


「おう! そんじゃあ行くか!」


 そうして、先頭を歩くリカルドさんとリディについて行く形で俺たちはクイーンタイダリア号に乗り込むのだった。



 ◇◇◇



「そんじゃあ、航海の間はお前たちはこの部屋を使ってくれ。この船一番の客室にする予定の部屋だ!」


「うわぁあああああ! 広いね!!」


「す、凄く豪華な部屋ですね。あ、お風呂まであります!」


「い、いいのか? こんないい部屋使わせてもらって」


「なーに、その分お前たちには存分に働いてもらわにゃならんからな。これぐらいどうってことねえよ」


「そうか。そう言うことなら遠慮なく。アガーテも本当にいいのか?」


「あ、ああ! 既に覚悟はしてきた! ふ、不束者だがよろしく頼む」


「お、おう。」


「……あんま、そう言う目的で使うんじゃねえぞ」


「な、ち、ちち違う! 私は……そう言うことはもっとお互いをよく知ってからだな!」


 アガーテは顔を真っ赤に染めてリカルドさんに詰め寄っていた。

 何故かレイチェルの顔も赤くなっていたけど、一体何があったんだ?

 そして、リディは早速従魔たちと部屋の中を見て回っている。


「よーし、そろそろ出港だ。荷物を置いたら……って、お前らは問題無いんだったな。一旦甲板へ出るぞ。折角のこの船の門出だ。一緒に祝ってやってくれや」


 俺たちはリカルドさんに頷き、一度甲板へと出ることとなった。


 甲板へ出ると、サリヴァンさんが冒険者たちに配置の指示を出しているのが見えた。

 俺たちに気付くと、軽く手を上げ挨拶してきたので俺たちもそれに倣う。


「よぉぉおおおしっ! 野郎ども! 出港だ! 帆を張れ錨を上げろっ!!」


「「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 リカルドさんの指示を受け、船乗りたちが雄叫びを上げる。

 皆久々の出港に気合が入っているようだ。


 そして、リカルドさんの言葉通りマストに帆が張られ、船から降ろされていた複数の錨が上げられる。

 リカルドさんはいつの間にか操舵輪の前まで移動していた。あの輪っかを使って船の進行方向を調整するそうだ。


 帆が風を受け船が徐々に動き出す。

 それを見て、港からも住民たちの歓声が上がる。


 お、アントンさんたち発見!

 どうやらミューさんも合流して、一家全員で見に来ていたようだ。

 少し遠くの高い所に門番のシャールさんの姿も確認出来た。

 彼らに向かって手を振ると、彼らも俺たちに手を振り返してくれた。


「面舵いっぱぁぁぁあああああああああああいっ!」


 リカルドさんがそう言って操舵輪を回すと、船が進行方向を右に変えていった。

 そして、目一杯の風を受けた船は、背に港からの歓声を受けながら沖に向かって進んで行くのだった。



 ◇◇◇



「うおおおおおお! もうサイマールがあんな遠くに!」


「うわぁぁあああ! こんな大きいのにはやーーーい!」


「風が気持ちいいですね」


「たはは、大興奮だな。君らは船は初めてだったんだな」


 冒険者たちに指示を出し終えたサリヴァンさんが近付いて来た。


「ああ! こんなの興奮するなって方が無理だよ!」


「その様子だと別に変に気負っている訳でもなさそうだし大丈夫か」


 どうやら俺たちが緊張していないか心配してくれていたみたいだ。


「ああ、大丈夫。いつも通りやるだけさ」


「皆一緒だしね」


 その言葉にポヨン、キナコ、ルカが頷く。


「この前の会議に比べたら……」


 そう言ってレイチェルは少し遠い目をした。


「たはは、頼もしいこって。あー、やっぱお嬢もついて行くんですか?」


「無論だ。私だって今はジェットの弟子なんだからな。師が行くのなら弟子も共に行くのが道理だ」


「俺たちとしては問題無いよ」


「はぁ、まあ仕方ないか。全く、男が出来た途端冷たくなっちまって。お嬢の教育係としては寂しいもんだ」


 サリヴァンさんは泣き真似をしながらそう揶揄うように言って笑う。

 成程、サリヴァンさんはアガーテにとっての教育係だったのか。

 すると、アガーテは見る見る赤面していき、


「ば、ばばばかなことを言うな! 男とかじゃなくて師弟だ! サリヴァン、お前分かってて言っているな!?」


 そう言ってサリヴァンさんに掴みかかろうとするも、サリヴァンさんはひらりとそれを躱してしまう。


「さーて、何のことですかねえ? ま、君たちの出番はまだもう少し先だから、それまではゆっくりしていてくれ」


 そう言いながら、サリヴァンさんは身を翻し足早に去っていった。

 ……あれは逃げたな。


「おい、サリヴァン、待て! 訂正しろーーーーっ!」


 そして、アガーテの絶叫が甲板に空しく響き渡るのだった。



 その後は、リディの提案もあり船内の探検を行いながらまったりと過ごした。

 途中アガーテが船酔いしてしまうも、俺が光魔術で治療してみると問題無く動けるようになっていた。

 どうやら、以前船に乗った時もアガーテは船酔いに苦労したのだそうだ。

 アガーテは、「船酔い治療の為にも絶対光属性をマスターしてみせる!」と決意を新たにしたのだった。

 まあ、何にせよ目標があるのはいいことだ。


 そして、アントンさんから渡されていた料理を部屋で食べ、暫くそのまま寛いでいると船が徐々に減速を始めた。


「ん? 減速してる? 何かあったのか?」


「様子を見に行った方がいいんじゃない?」


「あれ? 誰か来ますよ?」


 すると、部屋の扉がノックされた。

 何かトラブルを伝えに来てくれたのかな? とりあえず入室を許可する。

 扉が開くと、そこにいたのは、


「サリヴァンか。何かトラブルでもあったのか?」


「いんや、そろそろ船で近付ける限界だってよ。ちょっと予定より早かったが君たちの出番って訳だ」


 どうやら荒れた海域の手前まで辿り着いたようだ。

 予定より早かったのは、この船が想定していたより速かったってことかな?

 それとも、荒れた範囲が広がってしまったのか……

 何にしても、ここからは俺たちの出番ってことだ。


「分かった。準備を整えてから甲板に向かうよ」


「ああ。俺も他の冒険者たちに指示を出しに行く。また後でな」


 そう言ってサリヴァンさんは少し足早に甲板へ向かって行った。


「よし、一度装備と手順を確認するぞ。その後タイダリアたちの救出に向かう」


「うん!」 「はい!」 「ああ!」


 三人だけでなく、ポヨン、キナコ、ルカもそれぞれ頷く。


 そして、準備を整えた俺たちは甲板へと向かった。


「来たな。この辺が船で近付ける限界だ。俺たちはここで待機する。問題無いか?」


 甲板に出ると、リカルドさんが俺たちにそう説明してくれた。


「ああ。助かるよ」


「ちょっと悔しいが、後はお前たちに任せるしかねえ。タイダリアたちを助けてやってくれ」


 リカルドさんのその言葉に、俺たち全員が力強く頷く。

 すると、リカルドさんはニヒルに笑い返してきた。


 俺たちは船縁へと近付く。

 すると、遠くの海の様子が目に入った。

 その海域では海面がうねり、所々渦を巻いている所もある。


「あの遠くが荒れた海か……確かにあれじゃ船は近付けないだろうな」


「おにい、あたしたちはいつでも大丈夫だよ」


「よし、じゃあ俺たちも。レイチェル、アガーテ」


「はい」 「ああ」


 右手をレイチェルと、左手をアガーテと繋ぐ。

 すると、周囲から囃し立てるような口笛の音が聞こえ、それと同時に幾つもの殺意のこもった視線が俺に突き刺さる。

 ……確かに、今の状態を客観的に見ると、両手に花状態ではあるんだけど……別に俺は邪な気持ちでやっているんじゃないんだからな!


 心の中で周囲に弁明した後、俺は気持ちを切り替え『潜水魔術(アクアウォーカー)』を俺、レイチェル、アガーテに施していく。


「ギョッピエエェェエエエ!」


 丁度そのタイミングで、船に気が付いたマーマンが海面から顔を出し、俺たちに向かって奇声を上げた。

 そして、その奇声を聞いてか他にも数体のマーマンが現れる。

 全く、こんなタイミングで出て来るなよ!


「炎よ。紅蓮の礫となりて我が敵を撃ち抜け。フレイムバレット!」


 すると、炎の礫がマーマンへと飛んで行き、その醜い顔を燃やした。


「ほら、ここは俺たちに任せとけ。その為に来てんだからな」


「「「うおおぉおおっ!!」」」


 護衛の冒険者たちも、それぞれ長柄の武器や飛び道具で応戦する。

 飛び道具もあれだけ遠くを狙ってくれているから海に飛び込む分には問題無いだろう。

 ただ、気のせいかマーマンたちへの攻撃に妙に殺意がこもっているような……

 まあ、魔物相手だしな! きっとそう言うことだろう、うん!


「よし、行くぞ!」


 この場はサリヴァンさんたちに任せ、俺たちは船縁から海へと飛び込んだ。

 さて、これでようやくルカの願いを叶えてやれる。タイダリアたちを絶対に助けてやらなきゃな。

 そしてこの海の異変に終止符を打つ!

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