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9話 リディ7歳

 時々変な夢を見る。


 最初見ていた変な夢では、あたしは大きなお城に住むお姫様だった。周りにいっぱい色んな人もいた筈なんだけど、どんな人たちだったかは思い出せない。

 暫くはお姫様として生活する夢が続いたんだけど……ある日、魔術師? か何かに真っ暗闇の中に囚われてしまう。勿論その相手も男の人だったのか女の人だったかも思い出せないけど。

 すると、今度からはただただ真っ暗闇の中にいるだけの夢が続いた。


「ぱぱー、ままー、にぃにー」


 夢の中で家族を呼んでみるんだけど、夢なので誰も応えてはくれない。

 ずっとそんな夢が続き、あたしは夢の中で一人泣いていた気がする。


 でも、そんな夢にも終わりはやって来る。

 いつもの真っ暗闇な空間に急に罅が入り、そして粉々に砕け散った。急速に広がる光のあまりの眩しさにあたしは目を閉じる。

 すると、男の子の優しい声が聞こえてくる。

 恐る恐る目を開くと、あたしの目の前に小さな男の子が立っていたのだった。


 そして、その一連の夢はそこで終わりを告げる。

 それ以降、続きの夢を見ることも無くなった。

 最後に見たあの男の子……何だかおにいに似てた気がする。


 ただ、代わりに今度は稀に別の夢を見ることがある。

 その夢の中には出てくるのはあたしともう一人のみ。そのもう一人はとっても綺麗な女の人。

 起きてしまうと姿がぼやけて思い出せないんだけど、綺麗だったことだけは覚えている。


 夢の中のその人はあたしに変わった魔術を教えてくれる。

 一番最初に教えてもらったのは、自分や相手のことを識る魔術。『分析(アナライズ)』って魔術らしい。実際に使ってみたら皆に凄くびっくりされた。

 次に教えて貰ったのは亜空間収納と言う魔術。難しいことはよく分からなかったんだけど、自分の魔力で作った空間に物を仕舞い込める魔術らしい。

 おにいに見せたら凄く大きな声を出して驚いていたっけ。


 夢の中のその人のことは『先生』って呼んでるんだけど、先生がおにいも劣化版? なら使える筈だから教えてやれって言ってたから、おにいにも教えてあげた。

 練習して自分でも使えるようになったおにいはとても喜んでくれた。喜び過ぎて家の中の小物を収納しまくってしまい、パパとママに凄く怒られていた。


 おにいは面白い。パパもママもおにいも、あたしは大好きだ!

 ちなみに、これらの魔術は他の人たちには秘密だそうだ。


『くふふ、リディ。そろそろ起きなくてよいのか? 兄が行ってしまうぞ?』


 先生の声が聞こえる。

 あれ? あたし寝ちゃってたんだ。


『やはり寝たことに気付いていなかったか。さあ、早く行くがよい。もしかすると……今日はお主にとっても特別な一日になるやも知れぬからな』




 あたしはゆっくり目を覚ます。

 すると、丁度おにいが家から出て行こうとしている時だった。

 もう少し寝ちゃってたら間に合わない所だった。また今度先生に会ったらお礼を言わなきゃ。


 見付からないようにおにいの後ろにこっそりついていく。

 二年位前からおにいは時々こうやって何処かに一人で出て行くことがある。

 丁度あたしがお昼寝した所を狙って出て行っているらしく、何度か一緒に行こうとしたこともあったけど眠気には勝てなかったんだよね……


 暫くすると村を囲う防壁に辿り着いた。

 おにいは立ち止まると辺りを見回した。あたしは見付からないように近くの茂みに隠れる。

 そうこうしているとおにいがしゃがみ込んで何かを始めるのが見えた。

 あたしはこっそりおにいの後ろに回り込んだ。どうやら地魔術で穴を掘っているみたい。

 おにいは防壁の向こう側まで通じる穴を掘るとそこを通り抜けようとした。


「おにい、何してるの?」


「えっ、リディ!? どうしてここに!?」


 あたしに声を掛けられておにいは物凄く焦っているようだ。

 手を合わせながら語り掛けてきた。


「頼む、父さん母さんには黙っててくれ! 今度リディの好きなおかずをあげるから!」


「うーん、あたしのお願い聞いてくれたら黙っててもいいよ、おかずもいらない」


「な、何だ?」


 満面の笑みでおにいに告げる。


「あたしも連れてって!」



 ◇◇◇



 最初は渋っていたおにいだったけど、最後には折れてあたしも一緒に行くことになった。

 村の外に出るのは生まれて初めてだ! どんな所なんだろう?


「不用心に森に入ったら危ないからな。絶対俺のそばから離れるなよ」


「うん、分かった」


 これから向かう南側以外の森には魔獣と呼ばれる危険な生き物が出るらしい。

 パパからゴブリンの話を聞いた後は、夜トイレに一人で行けなくなってしまった。


 おにいはこの先にある遺跡を秘密基地にしているそうだ。『亜空間収納』の中にはそこで拾ったボロボロの武器が色々入っているそうだ。

 パパに勝つために、それを使って剣や槍の練習をしているみたいだ。

 今日はそこに何かを拾いに行くらしい。


『――』


 ん?


「ねえおにい、何か聞こえなかった?」


 立ち止まり、おにいと一緒に耳を澄ます。

 でも特に何も聞こえない。


「……うーん、別に何も聞こえないぞ? それに、この辺りに生き物はいない筈だしな。俺も今まで一回も見たことないし」


 ちょっと村の外に出たことで少し敏感になり過ぎちゃってるのかなあたし?


 そうこうしているうちに秘密基地まで辿り着いた。

 ……何だろう、自分でもよく分からないんだけど、少し懐かしいと思ってしまう。ここに来たのは今日が初めての筈なのに。


「リディ、こっちだ」


 おにいに呼ばれて我に返る。

 奥に向かうおにいについて行く。

 しばらく進むと瓦礫が山のようになっている場所に辿り着いた。


「リディ、見てろよ」


 そこからおにいが拳大くらいの瓦礫を手に取る。

 そして、地魔術を使って瓦礫から何かを抽出し始めた。

 すると、おにいの掌の上に豆粒くらいの大きさの、綺麗な薄青緑色をした何かがあった。


「これ何?」


「これはミスリルって言う金属だ。ここの瓦礫にはほんのちょっぴりだけどミスリルが含まれているみたいでな。これを集めてそのうち俺専用の武器を作ってもらおうと思ってるんだ」


 おにいが言うには、ミスリルは村の狩猟用の武器にも使われている金属らしい。

 村の北の方で偶に採れるんだって。

 軽いけど丈夫で、魔術との相性もいいんだとか。

 ここで拾った武器もミスリルで出来ているみたい。ただ、あまりにもボロボロになり過ぎているから修理も出来ないらしい。


「へえ……ミスリルって綺麗だね」


「ほら、これやるよ」


「いいの?」


「ああ。そうだ、俺の分が集まったら、次はリディの分も集めてやるからな!」


「うん!」


 しばらくおにいと一緒にミスリルを集めることになった。

 そして、おにいがミスリルを抽出しているのを眺めている時だった。


『――――』


 まただ。やはり何か聞こえる気がする。


「おにい、少し近くを見てきてもいい?」


「うーん、まあこっちももう少し時間が掛かりそうだしなぁ。あまり遠くまでは行くなよ」


「うん」


 何かが聞こえてきた気がする方向に向かってみる。

 でも何も見当たらない。この近くじゃないのかなあ?


『――――』


 あ、まただ。

 こっちだ!


 その何かに導かれるように、あたしはいつの間にか森の中に迷い込んでいた……




 しばらく森を進んだ後、はっと我に返る。

 ここ何処だろう、どうしよう……

 何処を向いても同じ様な景色で、どっちから来たのかも分からない。

 あたしは森の中に入ってしまったことを後悔する。


 そんな時、


「グギョ、グゲギ、ギギギッ」


 ゴッ、ドンッ、ドズ


「ひっ! な、何!?」


 何かの鳴き声? と何かを叩き付けるような音が聞こえてきた。

 木の陰に隠れながら恐る恐る声が聞こえた方向を覗き込む。


 そこには……薄汚れた腰布を身に纏い、黒い肌をした鬼がいた。

 何かを嗜虐的な笑みを浮かべながら叩き付けている。


 あれは……ゴブリンだ!

 パパが言っていた通りの醜悪な姿……

 早く、早くここから逃げなきゃ!


 ふとゴブリンが叩き付けているものが目に入る。

 そこにはあたしの両手に収まるぐらいの大きさの、薄鈍色をした何かがいた。

 ゴブリンの攻撃から必死に自分を守っているみたいだ。


『――――』


 また言葉にならない何かが聞こえた。

 薄鈍色をしたあの子から聞こえた気がする。「たすけて」って。


 怖い怖い怖い怖い、体の震えが止まらない。目には涙が溜まり、今にも溢れてしまいそうだ。

 でも、それでもあたしは……あの子を助けなきゃ! 助けなきゃいけないんだ!

 何故か自然にそう思えた。


 あたしは『身体活性』を発動すると、足元にあった石を拾い上げる。

 そしてそれを思いっ切りゴブリンに投げ付けた!


「ゲギャッ?」


 ゴブリンが手を止めてこちらに振り向いた。

 ……駄目だ、全く効いてない。

 近くに落ちていた枝を震える手で握りしめる。

 泣きそうになるのを堪えてゴブリンを睨み付けた。


「そ、その子を虐めるな!」


 しばらくゴブリンと睨み合う。


「ギャギャッ! ギャッギャッギャ~」


 するとゴブリンが何か嬉しそうな声を上げ始めた。

 そして、何故かおもむろに自分の穿いていた腰布を脱ぎ始める。

 あろう事かそれを……あたしに向かって投げ付けてきた!

 びっくりしたあたしはそれをモロに顔に食らってしまう。


「きゃああああ! うぇえっ、くさいっ!」


「グッゲッギャ~」


 纏わり付く腰布のあまりの臭いに一気に気分が悪くなり、意識が飛びそうになる。

 どうにか腰布を取り払うと、醜悪な顔に満面の笑みを浮かべたゴブリンが目の前に立っていた。

 ゴブリンの太い腕があたしの方に伸びて来る。


「ひぃっ」


 あたしは自分の死を覚悟して固く目を閉じた。


「人の可愛い妹に触ってんじゃねええええええええええええ!!!!」


「ギュエッ!?」


 おにいの声だ!

 目を開くとおにいがボロボロの剣でゴブリンを斬り付けていた所だった。

 ただ、傷は浅かったらしい。

 ゴブリンは素早く距離を取ると、濁った目でおにいを睨み始めた。


「おにい……ごめんなさい」


 腰が抜けてその場にへたり込んでしまう。

 体は震え続け涙が止まらない。


「無事で良かった……ちょっと待ってろ、あいつをどうにかする!」


 そう言うと、おにいは剣を構えゴブリンと対峙した。

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