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88話 協力要請

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「じゃあ、次は俺から話そうか」


 まずは、サリヴァンさんから例の山での調査結果を聞くことになった。


「君たちはお嬢から聞いてたとは思うが、俺はギルドによるモルド近辺の山の調査に同行していた。あの大百足みたいなのが他にいないか調査する為だな。結果から言うと、君たちが倒した大百足みたいな危険な魔物が見付かることはなかった。ただ、その代わり山の奥で妙な場所を発見した」


 そう言って、サリヴァンさんは先程の大百足の卵の殻が入った小瓶をテーブルの上に置いた。

 ルカがじっとそれを見つめているが、さっきみたいに興奮することは無さそうだ。


「何者かが建てた山小屋が見付かってな。これはその山小屋の中で発見したものだ」


「何でそんなものが……大百足の巣になっていたとか?」


 俺は疑問に思ったことをサリヴァンさんに聞いてみる。


「いや、内部が大百足によって荒らされたような形跡は無かったから違う筈だ。その山小屋には何やら薬を作るような道具やら実験器具のようなものやらが色々あってな。おそらく、どこかから大百足の卵を持ち込んで、それを薬か毒薬か分からんが……何かを作る材料にしていたんだろうよ」


「じゃあ、あの時の大百足たちは……」


「ああ。その卵の一部を運んでいる時にでも落として、それが成長したのがあの斑大百足だろう。そいつらが番になって子供を産んだのが君たちが討伐した群れだろうな」


「成程……」


 あの大百足は人為的な理由であの山に現れた可能性が極めて高い、と言うことか。


「まあ、そこで誰が何を作っていたかまではまだ調査中だったんだが……」


 そう言ってサリヴァンさんがアントンさんたちを見る。

 それに合わせて俺たちもアントンさんたちに視線を向ける。

 すると、アントンさんは頷いて口を開いた。


「では、次は私たちの番ですな。その大百足の卵についてですか」


「ああ。何でタイダリアがそんなものに興味を示すって知ってたんだ?」


「少なくとも、俺が調査に同行した時は、そんなこと誰も知らないようだったが」


「は、はい。以前……確か二年程前になったと思うのですが、海の生物を研究しに来たと言う生物学者の方がウチに宿泊していたことがありましてな」


「あぁ、そう言えば私も覚えているわぁ。確か、近くの海岸で偶々タイダリアに遭遇出来たって嬉しそうに話していたのよねぇ」


「その時に、なんか持っているもんを色々見せたり与えたりしてみたらしいんだ。その中に大百足の卵もあったらしくてな。それの匂いを嗅いだタイダリアが大きな興味を示したらしいんだ」


「当時、その方の話に付き合って酒を飲んだりしていたものですから……それでよく覚えていたのです」


「あ~、あの時のおじさんか~。でも、何であのおじさん大百足の卵なんて持ってたんだろうね~?」


「そこまでは私も聞かなかったから分からないが……」


「あー、学者ってのは知識欲や好奇心が服を着て歩いてるような人種だからな。大方その卵も何か別のことに使うか実験でもする予定で偶々持ってたんだろうよ。しかし、成程……生物学者か。二年前なら何かしらの形でそのことも発表されているのかもな。少し調べてみた方がいいか」


 そう言いながら、サリヴァンさんは手帳に話を纏めていく。


 うーむ、タイダリアが興味を示す大百足の卵を材料にしたものか。

 あれ? それって……


「し、師匠! その大百足の卵を材料にしたものって……」


「ああ。タイダリアたちが沈めた密漁船がタイダリアを集める為に使っていたんじゃ」


 どうやら、レイチェルも同じことを考えていたようだ。


「確かに、その可能性が高そうだが……どうなのだサリヴァン?」


「……成程。あの山小屋は密漁者たちの拠点の一つ。大百足の卵とタイダリアの関係をどこか、おそらくその生物学者の発表から知って、それを利用してタイダリアの密漁を計画した。最近誰も使った形跡が無かったのは、持ち主たちが海の藻屑となっていたから……それに、あんな場所に山小屋があったのも誰にも知られないようにする為と考えると……」


 点と点が線で繋がっていく、そんな感覚がした。


 すると、サリヴァンさんが手帳を閉じ、ペンと小瓶と共にポケットに戻しておもむろに立ち上がった。


「こりゃ俺たちだけで話を進めるのは難しいな。冒険者ギルドと海洋ギルドにも協力を要請した方が良さそうだ。あの山小屋をもう一回ちゃんと調べる必要もありそうだし、密漁したタイダリアを売り捌くルートも存在しそうだし」


「サイマールでタイダリアをどうこうするのは難しいでしょうな。この町でそんなことをすればまず間違いなくバレるでしょうし」


「ああ。おそらく、遠くの町に何かしらツテでもあったんだろう。よし、話は早く進めた方が良さそうだ。俺は今から冒険者ギルドに行ってこのことを説明してくる。ジェット、君たちは海洋ギルドに協力を要請しに行ってくれ。君たちが海の調査を進めてタイダリアを救う為にも、やはり船を拠点にしないと難しいだろう。恥ずかしい話だが、以前俺は海洋ギルドから叩き出されたことがあってなあ……」


 サリヴァンさんはばつが悪そうに頭を掻いた。

 だけど……


「あー、俺たちも前に海洋ギルドのマスターに怒鳴られて叩き出されたんだけど……」


「……お仲間だったか」


 まあ、それでも行かなきゃ駄目だろうな。

 海洋ギルドに船を出してもらって、その船を拠点にしながら海の中を調査してタイダリアを救っていく。

 多分、今出来る方法だとそれが一番確実だろうし。


「よし、海洋ギルドには私も一緒に行こう」


 アントンさんがそう俺たちに申し出てきた。

 おお、これは素直にありがたいぞ!


「この人はぁ、マスターのリカルドさんとは幼馴染なんですよぉ」


「ははは、ただの腐れ縁だよ。まあ、話ぐらいなら聞いてもらえるだろう。もし突っぱねるようだったら、その時はあいつの恥ずかしい過去でも公表してやるとするか」


 そう言って、アントンさんは悪戯小僧のように笑う。


 成程。確かにそれは効果がありそうだ。

 俺も、グレン相手なら同じようなことが出来そうだな。


「それじゃあ、冒険者ギルドのマスターには私が取り次ぎますね~」


「おお、仕事終わりなのにすまないね。頼めるかい?」


「はい~。それに、町全体に関わることですし~」


「なら、私と母さんで宿のことはやっておくよ」


「お客さんが少なくて助かったわねぇ」


「……いや、それ助かってないから」


「ははは……ああそれと、その子も連れて行くのでしょう?」


 そう言ってアントンさんはルカの方を見る。


「キュイ?」


 急に見られたルカは首を傾げる。


「うん。一人だと可哀想だし連れて行くつもりだけど」


「なら丁度良かった」


「どう言うことアントンさん?」


「ふふふ、行ってからのお楽しみだよ」


 アントンさんは、先程と同じように悪戯小僧のように笑っていた。


「お嬢は」


「私も海洋ギルドへ同行するぞ」


「……はーいはい。そんじゃあ、役割分担も出来たことだし早速向かうとしますか」


 そうして、俺たちモノクロームとアガーテ、アントンさんが海洋ギルドへ、サリヴァンさんとミューさんが冒険者ギルドへそれぞれ向かって行った。

 さて、上手く話が進めばいいんだけど……



 ◇◇◇



「うー、ここの前に立つと、なんだか緊張しますね」


「マスターに怒鳴られた記憶が強いもんね」


「だけど、今日はそうも言っていられないからな。それに、強力な助っ人もいるし」


「ははは、まあ任せて下さい。それに、町全体に関わる問題だ。流石にあいつもそれは理解出来るでしょうから」


「ふぅむ。私だけ全く話について行けないな……」


「キュイキュイ」


 自分もそうだから安心しろ、と言わんばかりにルカがアガーテの肩をヒレで叩く。

 ポヨンとキナコは全く気にした素振りは無く、ここでも平常運転だ。


 さて、いつまでもここにいても仕方ない。

 覚悟を決めて中に入ろうか!


 そうして、俺たちは海洋ギルド内に足を踏み入れた。


「あ、すみません。今日はもうそろそろ閉める予定なので、急ぎの用事でなければ明日に……あ、あの時の白黒の……」


 やっぱり、俺たちはまず白黒なんだな。


 海洋ギルド内に入ると同時に、後片付けを始めていた受付嬢からそう声を掛けられた。

 どうやら前にここに来た時対応してくれた受付嬢だったようだ。

 あの時はしっかり確認出来てなかったけど、胸の大きさは平均やや下って所か。


 思っていたより閉めるのが早いようだけど……まあ、今の海の状況じゃ海洋ギルドが出来ることも無いだろうし仕方ないのか。


「やあ、アニーちゃん。リカルドに急ぎの話があるんだが、どうにか取り次いでもらえないかい?」


「あ、アントンさんも。マ、マスターにお話ですか? 少々お待ち……え!? タイダリア!? 最近町中でタイダリアを連れた冒険者がいるって噂だったけど……もしかして」


「あー、多分俺たちのことだな」


 どうやら遅れてルカの存在にも気付いたようだ。

 やはり、町中では色々と噂になってるんだな。


「うわぁ、つぶらな瞳が可愛い……はっ!? し、失礼しました! 今マスターに伝えて来ますので」


「その必要は無い。さっきからお前の声が全部奥まで聞こえていたからな」


 海洋ギルドのマスター、リカルドさんにそう言われ、受付嬢のアニーさんは赤面してしまった。


「ようリカルド。まあそう言うことだ」


「何がそう言うことだ、だアントン。ふん、つまらん話だったら叩き出すからな」


 そう言って、リカルドさんは奥へと入って行く。

 アントンさんが俺たちに頷き、リカルドさんに続いた。


 これは行ってもいいってことかな?

 アントンさんがいてくれて助かったな。

 俺たちはアニーさんに一言断って、二人の後について行った。



 ◇◇◇



「――と言うことなんだ。それで、海洋ギルドには海での拠点とする為に船を出してもらいたいんだ」


「……」


 俺たちは応接室に通され、リカルドさんに今回の海の異変について分かったことを全て伝えた。

 俺たちが説明をする間、リカルドさんは腕を組んで、時折アニーさんが用意したお茶を飲みながらずっと黙って説明を聞いていた。

 ただ、偶にルカのことをちらちら見ていたような気がするんだけど……気のせいだよな?


「リカルド、どうなんだ?」


 アントンさんが黙り込んだリカルドさんに回答を促す。


「……一つ確認したいんだが、本当にタイダリアたちを殺すことなく助けられるのか? それに、海の中で活動出来ると言うが……ちょっと話を聞いただけでは信じられんな」


「タイダリアに関しては問題無い。実際に治療出来たことも確認した。そのことは彼らと共に行動している私が保証しよう」


 アガーテがそう力強く宣言する。


「キュッキュイ!」


 どうやらルカも援護してくれているようだ。


「……」


 ん?

 なんか、リカルドさんの口元がピクピクしているような……


 おっと、それと海の中で活動出来るのが本当か? って話だったな。

 これに関しては実際に見せた方が早いか。


「えーと、ちょっと『潜水魔術(アクアウォーカー)』を実演するから皆俺から離れてくれ」


 周囲から距離を取り、俺は『潜水魔術(アクアウォーカー)』を発動する。

 そして、水魔術で全身を覆うように水球を作り出した。


「な!? どっから水が……って、お、おいっ!」


「あ、あの、師匠は大丈夫ですので落ち着いて」


「馬鹿野郎! 大丈夫な訳ねえだろ! 溺れちまうぞ!?」


「ひぃっ!」


 リカルドさんが焦って俺を助け出そうとしてくれる。

 この人、言葉遣いは乱暴だけど……どうやらそれだけの人じゃなさそうだな。


 リカルドさんが俺の元へ到着するより前に、俺は水魔術を解除し、水を魔力へと変えて散らした。


「こ、今度は消えた!? お、お前、何で濡れてねえんだ!? 床は普通に濡れてるのに……」


「こんな感じで水中でも陸と大体同じように活動出来るんだ。これで信じてもらえたか?」


「あ、ああ……」


 リカルドさんは信じられないものを見たような目をしながら呟いた。


「いやぁ……私も実際に見たのは初めてだけど……これがマール湖での修業とやらの成果なのか」


 そう言えば、アントンさんにも見せるのは初めてだったな。


「キュッキュゥゥゥ」


 その時、ルカがリカルドさんに近付いて媚びたような鳴き声を出し、何かを懇願するようなつぶらな瞳を向ける。


 一応こいつなりに家族や仲間の為にお願いしているのかな?

 だけど、リディやレイチェルにはその仕草は効果抜群だったけど、流石にリカルドさんにそれが通じるとは……


 すると、リカルドさんは拳を固く握り締めプルプル震え出した。

 やばっ、怒らせちゃったか!?


「ぷっ、くっくっく。リカルド、別に無理しなくてもいいんじゃないか?」


 アントンさんが少し吹き出しながらリカルドさんにそう言った。

 そう言えば、海洋ギルドに向かう時、ルカがいるのが丁度いいって言ってたけど……


「ああああああああ! もう我慢出来ねえ!! こんなお願いされて駄目だなんて言えるかよ!!」


 そう言ってリカルドさんは、なんとおもむろにルカを撫で始めた!

 その手つきはとても厳つい男のものとは思えない程優しい。

 そして、その表情はさっきまでとは別人のように緩み切っていた。


「くっくっく、リカルドは子供の頃、誤って船から転落した時にタイダリアに命を救われたことがあってね。それ以来タイダリアが大好きなんだよ」


 そうアントンさんがこっそり説明してくれた。


 成程、そんなことが。

 それなら、今のリカルドさんの邪魔をするのも悪いかな。


 俺たちは、リカルドさんが正気に戻るまでアニーさんが用意してくれたお茶を飲みながら待つことにしたのだった。

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