81話 異変の原因
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リディたちがルカと共に遊んでいる最中、俺とレイチェルは釣りを再開していた。
俺の方は普通の海の魚を数匹釣っただけだったのだが、やはりレイチェルは予想通り蛸しか釣れないようだった。
今度は、最初から俺が釣り上げた蛸の対処をする。
すると、蛸は筒のような器官を俺に向けて……
「ぶわっ!」
なんと、俺に向かって墨を吐き出しやがった!
ぺっぺっ!
「だ、大丈夫ですか師匠!?」
「ぐぬっ! こいつ! 大人しくしろ!」
その後、顔を真っ黒に染めながらどうにか蛸を魚籠に入れ、厳重に封をした。
「ふぅ、酷い目に遭った」
水魔術で墨を落としていく。
海の水は飲んだら駄目だって聞いているし、使わない方が無難だろう。
「うぅ、なんで蛸しか釣れないんでしょう」
何故かレイチェルは釣りをしたら、ヌルヌルしてウネウネしたものばかりが釣れるんだよなあ。
これも一種の才能か。
「ほ、ほら元気出せよレイチェル。ウナギもそうだったけど、蛸だって食べたら美味いんだぞ!」
個人的には蛸のから揚げが大好きだ。
あのコリコリした吸盤の食感がまたいいんだよなあ。
「でも、わたしだって普通の魚を釣ってみたいんですっ!」
「お、おう」
多分無理なんじゃないかと思うぞ、レイチェルよ。
だけど、そんなこと口が裂けても言えないけど……
「よ、よし! そろそろ昼食にしようか!」
どうにか話を誤魔化す為、俺はそう口にする。
「おーいリディ! そろそろ昼食にするぞー!」
「分かったー!」
リディがポヨン、キナコ、ルカを引き連れやって来る。
さて、どうしてこんな所にいたのかルカにちゃんと聞かないとな。
◇◇◇
「ふんふん、えっ!? 今海が荒れているのって、タイダリアが原因なの!?」
昼食後、リディがルカに事情を聴くとそんな答えが返ってきたようだ。
「お、おい! 本当なのかそれ!?」
「キュイッ! キュッキュキュイイィィイ」
「うん、本当だって。それで、ルカはあたしたちに助けを求める為にこの近くまでやって来てたみたいだよ」
「それで、オーク肉に食い付いて釣り上げられたって訳か……」
「キュゥ……」
ルカは少し恥ずかしそうに鳴き声を上げた。
この食いしん坊め!
「でも、海の中なんてわたしたちじゃどうしようもないですよ?」
「確かになあ」
「ルカ、もう少し詳しく教えて」
「キュッキュイ!」
そして、リディがルカに詳しい事情を聴いていく。
まず、俺たちと別れた後、ルカはタイダリアの群れを探して沖へ向かったそうだ。
そして、タイダリアの群れを見付けるも、どうにも様子がおかしいようだった。
ルカが言うにはタイダリアたちは正気を失い、周囲の海水を操り暴れ回っていたそうなのだ。
その中にはルカの両親も含まれていたんだとか。
どうにか両親に近付くも、両親はルカに気付かない。
必死に両親を止めようとするも、タイダリアたちの操った海流に呑まれてしまい、そのまま大きく流されてしまったそうだ。
流された先で、運よく正気を保ったタイダリアの群れに出会えたらしく、そこで色々と事情が聞けたらしい。
今からふた月くらい前、タイダリアの子供を密漁しようとする船が現れたそうだ。
その船は、タイダリアが興味を示す臭いが発せられる謎の物体を使ってタイダリアの子供を集めようとしていたらしい。
それにいち早く成体のタイダリアたちが気付き、被害が出る前にその船を沈めたそうなのだ。
その船って、前にミューさんが言っていた不審な船ってやつかな?
全く情報が無いのは既に海の藻屑となっていたからか。
そして、それから暫くすると周囲の海が何かによって汚染され始めたそうだ。
状況から考えて、多分沈めた船から何かが漏れ出したんだろう。
その何かはタイダリアの正気を奪ってしまう性質があったらしく、気付かずに摂取し続けてしまったタイダリアたちが暴れ始めたのだ。
一部のタイダリアはそれを見て、子供たちを連れて遠くに逃げたらしく、それがルカの出会った群れだそうだ。
その汚染は日に日に広がっているようで、食べた魚や蟹から摂取してしまうケースもあるらしく、タイダリアたちではどうにもならなかったそうだ。
そこでルカは俺たちに助けてもらおうと考えたらしく、どうにか近くまで泳いで来て俺たちを探していたんだとか。
あー、海の方にはサイマールに到着してから今日初めて来たからなあ……
リディが聞いたルカの話を纏めると、大体こんな感じだった。
「なあ、これってギルドに報告した方がいいのか?」
うーむ、普通の人にタイダリアから聞いたって言って信じてもらえるのか?
疑問に思った俺はレイチェルにそう聞いてみる。
「うーん、ちょっと難しいかもしれませんね……根拠がリディちゃんがルカちゃんから話を聞いたってだけでは」
「いくらこいつがサイマールでは海の守り神だって言ってもなあ」
「キュッキュイッ!」
「あー、分かってるよ。俺たちはちゃんとお前を信じているから」
「せめて、あたしたちが自力で状況を確認出来たらいいんだけど」
「それに、もし信じてもらえたとしても、海の中だと一体どうすればいいのか……」
俺たちは黙り込んでしまう。
ポヨンとキナコも俺たちに合わせて考え込む素振りを見せていた。さすがにこいつらも海の中に入るのは無理だろう。
すると、ルカが海のそばまで移動した。
「キュウゥウイ」
「えっ、そっちへ行けばいいの?」
どうやらリディを呼んでいたようだ。
リディはルカのそばまで移動した。
すると、ルカはリディの背後に回り込み、なんとリディを海に向かって押し始めた!
「ちょっ、ルカ! そんなことしたら危な、きゃあああああああ」
ドボンッ
「「リディ!」ちゃん!」
リディがバランスを崩し、海に転落してしまった!
その後に続いてルカも海に入っていく。
何考えてんだルカの奴!
まさか、無理矢理リディを仲間の所へ連れて行く気か!?
俺たちは急いでリディが転落した場所に移動する。
だが、リディが浮上して来る気配は無い。
くそっ!
俺は急いで着ている服を脱ぎ始めた。
べ、別に変なことをしようとしている訳じゃないぞ!
服ってのは水を吸ってしまうととにかく重い。子供の頃、エルデリアの川でそれが原因で溺れかけたことがあった。
俺まで服を着たまま飛び込むと、兄弟揃って溺れてしまう可能性が非常に高い!
だから、着ている服を脱いでいるのだ。
そしてパンツ一枚となり、脱いだ衣服や装備をレイチェルに託す。
レイチェルは、そんな俺を見て顔を真っ赤に染め上げた。
「俺が海に飛び込む! レイチェルはここからリディを探してくれ!」
「は、はははは、はいいいいいいいっ!!」
そして、いざ海に飛び込もうと思ったまさにその時!
ザバァアッ!
なんと、ルカに跨ったリディが海の中から姿を現したのだ!
しかも、海に落ちたと言うのに全く濡れている様子が無い。
どう言うことだ!?
「す、凄いよおにい、レイチェル姉! 海の中なのに息が出来る!!」
「「えええええええ!?」」
「キュッキュイッ!」
ルカが誇らしそうに一鳴きする。
どうやらこいつがそうさせているらしい。
驚いている俺とレイチェルを尻目に、リディがルカを連れて興奮気味に海から出てくる。
……そう言えば、ポヨンとキナコは全く動揺してなかったもんな。こうなることを知っていたのか。
ただ、そうなると、一つの感情が俺の中に芽生えてくる。
「リディ! 俺もやってみたい!」
だってそうだろ?
水の中で息が出来るんだぞ!?
そんなの試してみたくなるのは仕方ないだろ!?
「師匠、この服……」
レイチェルが顔を真っ赤にしたまま俺に服を差し出してくる。
「待ってくれ、レイチェル。もう少し預かっててくれ」
「は、はいいいい!」
挙動不審なレイチェルはまあいいとして、海だ海!
「ルカ、出来る?」
「キュイッ」
俺はリディからルカを受け取り小脇に抱える。
「よし、行くぞっ!」
そして、海に向かって思い切り飛び込んだ!
ドッボォォオオン
「がぼぁっ!?」
海中で息をしてみようとして、思い切り海水を鼻から吸い込んでしまった!
びっくりして口からも大量に摂取してしまう!
ぎゃああああああ!
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!
しかもしょっぱ辛い! 海水って本当にしょっぱっ!!
「おにい!」
「師匠!」
「キュウゥイ?」
ルカが『何やってんだお前?』と言った表情で俺を見てくる!
くっ、こいつ……
俺はどうにか泳いで岩場に掴まり、海からの脱出を果たしたのだった。
「うげぇえええ、ぺっぺっ! ぬあああああああ、すげぇ喉が渇く!」
堪らず俺は水魔術で水を大量に生み出し、それを勢いよく飲み干した。
「師匠! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……酷い目に遭った」
うう、寒い。
濡れた体に冷たい風が突き刺さる。
「おにい、タオル」
「ありがとう、リディ」
リディからタオルを受け取り全身を拭く。
そして、火魔術と風魔術を利用して乾かしていく。
「ねえルカ、どうしてなの?」
「キュゥイ?」
どうやらルカにも分からないらしい。
ふぅむ、少し検証する必要がありそうだ。
その後色々と試してみて分かったことだが、このルカの能力はどうやらリディとポヨン、キナコにしか効かないみたいだった。
俺やレイチェルでは無理なのだ。
どうにもテイマーとその従魔たち限定の能力みたいだな。
ちなみに、レイチェルは俺みたいに海に飛び込んだりはせず、海水に顔を浸けて確認していた。
「困りましたね……」
「ああ、リディたちだけを行かせる訳にもいかないし……」
「ルカ、あれってどうやってやっているの?」
「キュ? キュイキュキュキュイ」
ルカがヒレを器用に動かしながら何やらリディに説明している。
「ふんふん、魔力を使って水を空気に変えてるの?」
「キュイ!」
リディの言葉にルカが頷く。
どうやら、それでリディたちに疑似的に地上と同じ環境を纏わせているそうなのだ。
しかも、リディ曰くその状態だと濡れずに泳いだりも出来るらしい。
くっ! ちょっと楽しそうだな、おい!
ん? ルカは魔力を使っているのか。
もしかして、魔術で同じ方法が再現出来たりしないかな?
俺はリディを通じてルカに聞いてみる。
「ふんふん、自分でもなんか出来ただけだから分からないだって」
はぁ……
俺はがっくりと肩を落とす。
「うーん……でも、あたしが体験してみた感じだと、何となく水魔術の応用みたいに感じたんだよね」
ほう。
うーむ、そうなると、やはりあれをやるしかないようだな。
「よし、リディ、レイチェル、暫くは依頼を受けながら水中活動が魔術で再現出来ないか色々試してみようと思う。久々のジェット流魔術修業だ!」
「は、はい! リディちゃんだけを海の中に行かせる訳にはいきませんもんね。私も頑張ります!」
「それならあたしたちは水中での動きを練習しようか」
「キュイッ」
ポヨン、キナコ、ルカがリディの言葉に頷く。
とは言え、失敗して溺れる度に海水を飲むのは勘弁だな。
どこかに練習にいい場所無いかなあ。
それかいっそ自分で用意するか?
まあ、一度ミューさんやアントンさんたちに聞いてから考えようか。
「よし、一度サイマールに戻ろうか」
「うん、釣った魚も届けないとだしね」
「ルカちゃんはどうします?」
あー、そう言えばそうだな。
海に帰してまた迎えに来るか?
だけど、今海って危ないんだよなあ。
「キューイ!」
「ルカ、ついて来るって」
まあ、それが無難か。
ただ、町中で大丈夫かねえ。
サイマールではタイダリアは海の守り神だって話ではあるけど……
まあ、ここで考えてたって仕方ない。
何にしても一度町に戻るか。
こうして俺たちは釣り道具一式を片付け、魚籠を持ってサイマールへの帰途に就いた。
……ちなみに、アガーテさんはあれからもずっとついて来ていたようで、俺たちの移動に合わせて移動しているのが確認出来た。
本当、何が目的なんだ?




