表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/185

77話 合同依頼④

 依頼開始から三日が経過した。

 あれから夜になると毎日のようにビッグボアの群れが山から畑に向かってやって来た。


 まず俺たちがいち早く現場に到着し、遅れてアガーテさんたちが駆け付けて来る、と言うのが毎回の流れだった。

 まあ、俺たちはレイチェルの気配察知や光魔術を使っての灯りの確保、それに『身体活性』を使った脚力の常時強化なんかを駆使しているんだからそうなるのも無理はない。

 

 俺たちは特に気にはしていなかったんだけど、どうやらアガーテさんはそのことがとても悔しかったらしく、日を追う毎に『身体強化』の発動や戦い方が雑になっていくのだった。


 それにしても、この辺ではビッグボアは見られないって話だったけど……幾らなんでも多すぎないか?

 それと、毎回ビッグボアに中に数頭細かい傷が体のあちこちにある個体が存在していたのも気になる。


 流石に何かおかしいと言うことで、今後どうするか一度アガーテさんたちと話し合うことになった。


「んー、想定していたよりビッグボアの数が多すぎる。一度ギルドに報告してもっと大規模な人数で山狩りでも行うべきなのかもなあ」


 確かに、このまま畑の警護をしているだけだとキリが無い。

 それに、どうにか今を乗り越えて作物を収穫しても根本的な解決にはならないし。


「だがサリヴァン、そんな依頼を今のこの村が出せるのか?」


「……厳しいでしょうねえ。大規模となると、どうしても報酬やら手数料でそれなりに多くの金が掛かる。だけど、このまま放っておいたら遅かれ早かれこの村は立ち行かなくなりますよ、お嬢」


「ふぅむ……一度村長と話し合うべきか」


 二人の間ではどうやら大規模な依頼に切り替える、と言う方向で話が進んでいるようだ。

 なら、俺も一つ提案してみるか。


「一つ提案があるんだけど」


「何だ?」


「依頼を切り替える前に一度、俺たちに山の調査をさせてもらえないか? 少し気になることがあるんだ。リディ」


 俺の呼びかけに、リディは細かい傷が付いたビッグボアの死体を亜空間から取り出す。


「こいつがどうか……ん、妙に傷が多いな。これは俺たちの攻撃で付いた傷じゃあなさそうだし」


「こんなビッグボアが毎回混じってたんだ。多分だけど……何か強力な魔物が山に現れて、それでビッグボアが逃げ出してこの辺まで来ちゃったんだと思う」


 エルデリアでヌシが現れた時もそうだった。

 ヌシの周囲からは一斉に他の魔物が逃げ出してたからな。


「成程、それについては私も同感だ。だが、それで何故君たちを山に向かわせることになるのだ? 君たちはこの辺の土地勘は無いのだろう? たった三人でどうやって山の調査など行う気だ? まさか、村の住民を連れ出す気じゃないだろうな?」


 アガーテさんが鋭い視線を俺たちに向ける。

 その視線を受け、リディとレイチェルはこっそり俺の後ろに移動する。


「違う。あまり詳しく話すつもりは無いけど、俺たちはそれぞれが周囲の調査や索敵に便利な能力を持っている。それを駆使して調査するつもりだ」


「確かに……あの索敵能力を考えりゃ何か秘密はあるんだろうな。夜の襲撃の時も、毎回俺たちより到着が早かったし……正直、俺たちは要らなかったんじゃないかと思う程だ」


「いや、流石にそんなことはないけど」


 サリヴァンさんが腕を組んで思案顔になる。

 ただ、さっきのサリヴァンさんの発言にアガーテさんが拳をきつく握るのが目に入った。


「それに、このモルドには大規模な依頼を出すような余裕は無いんだろう? だったら俺たちの手で出来るだけのことはしてあげたい」


 やはり、モルドみたいな村を見ていると、エルデリアを思い出して放っておけないんだよなあ。


「で、仮に君たちを山の調査に向かわせるとしようか。その時俺たちはどうすればいいんだ?」


 そうだなあ。

 もし全員がここを出払ってしまうと、山を下りて来たビッグボアへの対処が出来なくなる。

 村や畑の警護を考えると、ここは二手に分かれた方がいいだろうな。

 多分だけど、サリヴァンさんもそのつもりで聞いてるんだと思う。


「ここの警護をお願いしたい。全員がここを離れるともしもの時に対処出来ないから」


「ふざけるな!」


 アガーテさんが物凄い剣幕で俺に掴みかかろうとしてきた。

 慌ててサリヴァンさんが羽交い締めにして止める。


「おい! 離せサリヴァン! さっきから聞いていれば出来もしないことをベラベラと! それに、お前たちだけで調査を行うだと!? 私が役立たずの足手纏いとでも言いたいのか!?」


 自分を蔑ろにされたと勘違いしたのか、アガーテさんがそう叫ぶ。


「は!? ちょっと待て、どうしてそうなるんだ!?」


 俺はそうアガーテさんに問い掛ける。

 だけど、今のアガーテさんにはとても話が通じるとは思えない。


「いい加減にしろお嬢! お嬢だってこいつらの力は嫌と言うほど見ただろ!? 無駄なプライドに拘っても意味無いだろ!! お前たち、出来るんだな?」


 サリヴァンさんが俺たちに真剣な眼差しを向ける。


「ああ」


 サリヴァンさんの問い掛けに、俺たちはポヨンとキナコも含め、揃って頷く。


「なら三日だ。それまでに帰って来なければ大規模依頼に切り替えるよう行動する。いいな?」


「分かった。ここの護りは頼む」


「ああ。ほら、早く行け。そろそろしんどい」


「おいサリヴァン! 勝手に話を進めるな! くそっ! 離せええええええええ!!」


 俺たちはサリヴァンさんに礼をし、急いで山の方へと向かう。

 後方では、アガーテさんの叫び声が響き渡っていた。



「うぅ、良かったんでしょうか?」


「あのまま話し合っていたって、まともな話し合いにならなかっただろうからな。それに、村のことを考えると俺たちに出来ることはやってあげたい」


「それはわたしもそうですけど……この前も言いましたけど、山の中で道に迷ったらどうするんです?」


「ああ、ちょっと待ってろ」


 そう言って俺はその場にしゃがみ込んで地魔術で少し穴を掘り、そこに魔力の密度を限界まで高めた超小規模の『設置魔術(マイントラッパー)』を仕掛け、その穴を埋め直す。


「リディ、地魔術での探査でこの魔力を探れるか?」


「ちょっとやってみる。んむむむ……あ、すっごい密度の高いおにいの魔力がある。これかな」


「問題無さそうだな。これを定期的に仕掛けて目印にしていくつもりだ」


 それに、魔力の密度を限界まで高めた『設置魔術(マイントラッパー)』なら、相当強力な刺激を与えないと爆発しないから暴発の危険は少ない。

 万が一暴発しちゃったらえらいことになるけど……絶対後で忘れずに解除していかないとな。


「それに、いざとなった木の上から思いっきりジャンプして周囲を探るよ」


 なんとなく感覚で分かるんだけど、今ならそれぐらいのことなら出来そうな気がする。


「……分かりました。わたしも気配察知と風魔術で調査に集中します!」


「あたしは地魔術と風魔術だね。ポヨンとキナコも頼りにしてるよ!」


 リディの言葉に、ポヨンとキナコが同時に頷く。


「よし。目標はビッグボア移動の原因の発見、可能なら排除だけど、途中で見掛けたビッグボアも討伐していく。リディ、まずは地魔術でビッグボアの足跡を探ってくれ。それを山の方へ遡っていく」


「分かった!」


 こうして、俺たちの山の調査が始まった。

 あそこまで出来ると言い切ったんだ。何としても三日以内に原因を特定して下山しなきゃな。



 ◇◇◇



「師匠、多分ビッグボアの群れです!」


「よし、討伐するぞ!」


 山に入って三度目のビッグボアの群れとの遭遇だ。

 山のあちこちに逃げられると厄介だから、まずは強力な光魔術で視力を奪い、その後地魔術で逃げ道を塞ぐ。雷魔術はゴワゴワの毛に阻まれてか効きがあまり良くないんだよな。これについてはヴォーレンドのダンジョンで既に体験済みだ。

 そして、各自が一頭ずつ確実に始末していく。

 今回はそう多い群れではなかったので、ものの数分で片が付いた。


「あ、師匠、リディちゃん。このビッグボアの傷」


 レイチェルが何かに気付いたようだ。

 俺たちもそのビッグボアに付いた傷を見てみる。


「うわぁ……傷口の周囲が腐っちゃってるね。毒か何かかなあ?」


「これ噛み痕か何かか? なんか二つの刺し傷みたいなものが見えるけど……それに、体に細かい傷も多いな」


「おにい、この死体どうする?」


「そうだなあ。一応収納しておいてくれ。食肉にはしない方がいいだろうけど、ギルドへの報告には使えそうだし」


「分かった」


 リディが件のビッグボアの死体を亜空間へと仕舞う。

 

「今まで討伐してきた群れ、放っておいたら全部モルドにやって来てたんですよね」


「そうなってたら、とてもじゃないけどモルドの住民だけじゃ対処出来なかっただろうな」


 一頭二頭ならともかく、十頭以上ともなるとな。


「まだ奥に足跡が続いているね。結構山を登ったと思うんだけど、どの辺なんだろう?」


「ちょっと調べてみるか」


 そう言って、俺は近くにあった高めの木の上に『限界突破(オーバードライブ)』を使って跳び移る。

 そして、更に上へ上へと登っていく。

 その木の頂に立ち、そこから『限界突破(オーバードライブ)』を使って空高くへと跳び上がった!


 おおお、凄い高さだ!

 自分でやっておいてアレだけど、こんな高くまで跳べるようになってたんだな。

 おっと、感動してる場合じゃないな。


 俺は上空から周囲を視力を強化して見渡す。

 すると、随分と遠く低い場所に家の屋根と思われるものが見えた。

 あそこがモルドで多分間違いないだろう。


 落下する前に更に周囲を見渡す。

 すると、ここより少し奥の水場にいるビッグボアの群れを発見した。

 まだあんなにいるのか……ん? なんだ、急に走り出したぞ!?


 その方向をもっとよく見てみようとするも、体が落下を始めてしまった。

 っと、こっちに集中しないと地面に叩き付けられるな。


 俺は、足元に向かって勢いよく風魔術を発動する。

 徐々に勢いを殺しながら落下し、着地の瞬間脚に『限界突破(オーバードライブ)』を使って地面に降り立った。

 よし、上手くいったな。


「もうおにい! そんなことやるなら先に言っておいてよ!」


 リディがスカートを押さえながら顔を赤くして怒っている。

 なんでスカートを……あ、風魔術……


「ご、ごめん」


「し、師匠! あんな高さから落ちて大丈夫なんですか!?」


「ああ、問題無い。それより、ここより少し奥に水場があって、そこでちょっと気になることがあった。ビッグボアがいたんだけど、急に何かから逃げ出すように走り出したんだ!」


「もしかして、今回のビッグボア騒動の原因が!?」


「可能性は高いと思う」


「おにい、どっちの方向?」


「えーと、向こうだ! 行ってみよう! 警戒は怠るなよ!」


「うん!」 「はい!」


 俺たちは周囲の警戒をしつつも急いで上空から見掛けた水場の方へと向かう。


 そして、暫く山を進むと、


「「ヴイィィイイイイイ」」


 何かから逃げ出して来たであろう、数頭のビッグボアと遭遇した。

 ビッグボアはそのまま俺たち目がけて突進してくる。かなり興奮しているようだ。


 俺は地魔術を使って分厚い石壁を目の前に生成する。


 ドッゴォオァァァアンッ


 勢いそのままにビッグボアたちは石壁に激突し、その場に倒れる。

 そこを剣で首を撥ね止めを刺す。


「やはり、何かから逃げていたみたいだな」


「でも、一体何から」


「二人とも! そこの木の上に何かいる!」


 すると、レイチェルが指さした木の上から何かの液体が俺目がけて飛んで来た。

 一瞬剣で払おうと思うも、何か分からない為後ろに避ける。

 飛んで来た謎の液体は撥ねたビッグボアの頭に着弾する。

 すると、ビッグボアの頭が異臭を放ち、徐々に溶け始めたのだった。


「毒か何かか! あれには触るなよ!」


「おにい、出て来た!」


 さっきレイチェルが指さした木に視線を戻すと、そこには体長2メートルはあろうかと言う巨大な百足が存在し、俺たちのことを見下ろしていた。

 体にある無数の脚はまるで刃物のように鋭く、顔にある巨大な二本の牙からはさっき飛ばしたであろう毒液が滴り落ちていた。

 どうやらこいつがビッグボアを襲っていた犯人のようだ!


 大百足は木を這って地面に降り、凄いスピードでこちらに向かって来た!

 こんなデカいのに噛まれたら痛いくらいじゃ済みそうもない。


 俺は噛みつこうとしてくる大百足を躱しながら、その体を剣で斬り付けた。

 だが、大百足の硬い表皮に阻まれそこまで大きなダメージは与えられなかった。


「結構硬いな!」


 俺は武器を剣から槍に持ち替える。


「リディ! 百足と言えばアレだ! 俺が動きを止めるから食らわせてやれ!」


「あ、そうか! おっきくても百足だもんね! レイチェル姉!」


 リディがレイチェルにこれからやることを説明する。

 その間に、大百足は再び俺に向かって這いずって来た!

 そして、体を持ち上げ俺目がけて鋭い毒牙を突き立てようとしてくる。


「そんなもん食らうかよ!」


 俺は大百足の口目掛けて槍を突き入れる。

 槍は大百足の顎に突き刺さり、その勢いを殺す。

 だが、刺された大百足はまだピンピンしており、近く木に体を固定し槍を引き抜こうとする。

 普通の百足も凄い生命力だけど、ここまでデカいと更に凄いな!


「おにい、お待たせ! いくよレイチェル姉!」


「うん! やぁぁああああ!!」


 レイチェルが巨大な水弾を放ち、リディがそれに火魔術を合わせる。

 『融合魔術(フュージョン)』で熱湯弾が生み出され、それが大百足を頭から呑みこんでいく!


 風呂に湯を張るくらいならともかく、水魔術で直接熱湯を生み出すのって結構大変なんだよな。

 どうも一定以上の温度にする為には火属性の適性も必要らしく、レイチェルではそれが出来ない。

 リディなら可能なんだけど、熱湯にするのにどうしても時間が掛かるし、その分多くの魔力を消費してしまう。

 なので、『融合魔術(フュージョン)』で熱湯を即座に生み出したのはとても理に適っている。


 頭から熱湯を浴びた大百足は堪らずその場で盛大にのたうち回る。


 やはり、デカくなっても熱湯攻撃は有効なようだな!


 虫って大体熱に弱いけど、それは普通の百足も同じだ。

 家に百足が出た時も、母さんがお湯を使って駆除してたんだよな。

 普通に叩いたり踏んだりしてもなかなか死なないけど、熱湯をぶっ掛けてやると簡単に始末出来る。


「こいつも食らっとけ!」


 俺はのたうち回る大百足を、火属性『エンチャント』を施した剣で斬り付ける。

 今度は大百足の体の節の部分を狙った。

 すると、大百足の頭を燃え盛る剣によって簡単に斬り落とすことが出来た。


 頭を撥ねられても大百足は暫く残った体だけでのたうち回っていたけど、もう一度熱湯弾を食らわせると体は完全に硬直し動かなくなったのだった。


「うっ、冷静になって見てみると、百足って気持ち悪いですね……」


「すっごく大きいしね……」


「これで原因を排除出来たのか? リディ、この死体も収納しておいてくれ」


「うー、嫌だけど分かった」


 リディに百足とビッグボアの死体を収納してもらい、そのまま俺たちは水場に辿り着いた。

 すると、そこには大百足の毒液で体が溶け落ちたビッグボアや、大百足に絡みつかれて喰われるビッグボアが存在した。


「うっ……」


「まだ大百足はいたみたいだな。全部で……四匹か」


 大百足たちが俺たちに気付き、その牙を向ける。


「来るよ!」


 さて、百足退治を始めようか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ