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75話 合同依頼②

「少し早く来すぎちゃいましたね」


「よく考えたら朝、としか聞いてなかったしね」


「まあ相手を待たせるよりはいいよ。向こうで座って待とう」


 合同依頼を受けることになった翌日、俺たちは依頼のあった村へ向かうべく、町の出入り口の門へとやって来た。

 今回は他のパーティーと合同で依頼に臨む為、ここで待ち合わせをしているのだ。

 どうやら相手パーティーはまだ来ていなかったようだ。


 暫く三人で雑談していると、上質なドレスアーマーを着込んだアガーテさんと、重厚なローブを身に纏ったサリヴァンさんが結構な荷物を担いでこっちに歩いて来るのが目に入った。


「ありゃー、すまないな。待たせちまったか」


「いや、別に大した時間じゃないから」


「おい、君たち」


 サリヴァンさんに答えていると、アガーテさんが少し不機嫌な様子で声を掛けてきた。


「見た所一切荷物も持たず、更に普段着でやって来ているようだが……どう言うつもりだ?」


 どうやら俺たちの状態を見て疑問に思ったようだ。


「お嬢、落ち着け。とは言え……お嬢の言うことも尤もだ。見た所武器だけは持っているようだけど……そんなんで魔物との戦いになっても大丈夫なのかい? それに、これから向かう村は魔物に畑を荒らされた村だ。まさかとは思うが、そんな村から食料を頂こうとか思っちゃいないよな?」


 ……成程。傍から見たら俺たちってそういう風に見えるんだな。

 今まで基本的に自分たちだけで依頼をこなしてきたもんだから、一切気にしたこと無かった。


 うーん、一応ちゃんと説明しておくべきか?

 こんな所で相手とトラブルになってもいいこと無いし。


「えっと、装備も食料もちゃんと用意してるから大丈夫だ」


「おい、私たちを馬鹿にしているのか?」


「リディ」


「うん」


 実際に見せた方が早いだろう。

 リディに亜空間から出来立てのス-プが入った鍋を取り出してもらう。


「「なっ!?」」


 何も無い所から急に鍋が出て来て二人は目を見開く。

 気にせず俺は鍋の蓋を開ける。

 すると、スープのいい匂いが周囲に広がった。


「こんな風にちゃんと用意してるから問題無い。装備についても、この服は生半可な防具よりよっぽど頑丈だから」


 スープが冷めたら嫌なので、鍋の蓋を閉じリディに収納してもらう。


「こ、こいつは驚いた……さっきのは魔法か? だが、あの嬢ちゃんは詠唱していたような様子は……それに、あんな魔法見たことも聞いたことも……」


 サリヴァンさんは何やらぶつぶつ呟いているが、よく聞き取れない。


「ふ、ふんっ! し、食料については理解した! だが、そんな服が防具などと」


「お嬢! 恐らく嘘は言っていない。もう出発しようや。あー、悪かったな」


「いや、いいよ。周囲からはそういう風に見られるって知ることが出来たし」


「ううう……早く行くぞ! 無駄に時間を使ってしまった!」


 アガーテさんは顔を真っ赤にしながら早足で門へと向かう。

 溜息を吐きながらサリヴァンさんもそれに続く。

 仕方ないので俺たちも二人について行った。


 手続きを済ませ、町の外へ出る。


「そんじゃあ依頼のあった村、モルドへ向かうとしますかねえ。君たちはこの辺の地理には詳しい?」


「いや、まだサイマールには来たばかりだ。でも、村への道なら昨日のうちにちゃんと聞いておいたから大丈夫だ」


「そうかそうか、感心感心」


「だからサリヴァン! お前が仕切るな! リーダーは私だ!」


「はーいはい」


「ふんっ! では行くぞ! 前は高ランクの私たちが務める。君たちは安心してついて来い」


 そう言うとアガーテさんは歩き出し、苦笑しながらサリヴァンさんがそれに続く。

 ……まあ、それなら俺たちは後ろで索敵に集中しようか。


 前をアガーテさんとサリヴァンさん、その後ろを俺たちと言う順番で依頼のあったモルドの村へと進む。

 昨日ミューさんやアントンさんたち聞いた話通りだと、モルドには夕暮れ前には辿り着けるかな?

 最近は暗くなるのも早くなってきたからなあ。


 そんなことを考えていると、リディとレイチェルが何かに反応した。


「おにい、多分魔物」


「あっちです」


 二人が指さした方向を視力を強化し探る。


「どれどれ、あ、ゴブリンか。何匹かいるみたいだな」


 ほんと、どこにでもいるなゴブリンって。

 俺は、前方に数匹のゴブリンがいることを前にいる二人にも伝えた。


「ん? 何も見えんぞ……適当なことを言っているんじゃないだろうな?」


「うーむ、とりあえず警戒して進もうかねえ」


 暫く進んでいくと、肉眼でも四匹のゴブリンが前方の茂みにいるのが確認出来た。


「な、本当にゴブリンが……」


「あの距離から索敵出来るとはねぇ……」


「えーと、どうする? そっちは荷物もあるし俺たちが」


「問題無い。私たちが片付ける。サリヴァン!」


「はーいはい」


 二人は背負っていた荷物を降ろし、それぞれ武器を構える。


「ゴブリン程度なら盾は必要ないな。サリヴァン、右二匹は任せる」


「あいよ」


「はぁああああああっ!」


 そう言ってアガーテさんは槌を構え気合を込める。

 すると、体全体が魔力に覆われていく。

 そして、まだこちらに気付いていないゴブリンたちに向かって一気に距離を詰めた。


 やはり、間違いなく『身体強化』を使ってるよなあ。


「はは、お嬢飛ばしてんなあ」


 サリヴァンさんがゆったり短杖をゴブリンに向けて構える。


「炎よ。その姿を紅蓮の槍と化し我が敵を刺し貫け。フレイムランス!」


 サリヴァンさんがそう言葉を紡ぐと、体の中にある魔力が一度体の中心に集まる。

 すると、集まった魔力は構えた短杖へと流れていき、短杖の先から炎が出現し槍の形を模った。

 そして、その炎の槍はゴブリンに向かって飛んで行く。


「グギョッ」


 アガーテさんが槌でゴブリンを叩き潰すのと同時に炎の槍が別のゴブリンを貫いた。


 へぇ、これが魔法を使った時の魔力の動きなのか。

 見た感じ、サリヴァンさんが自分で魔力を動かしてる様子は無いな。


 その後、アガーテさんが槌でもう一体、サリヴァンさんが同じ魔法でもう一体のゴブリンを始末し、特に危なげなく戦闘は終わった。


 ふむ、二度目の魔法も最初のものと全く同じ魔力の動き方だ。


「まあ、ゴブリン程度ならこんなものか」


「ほらお嬢、ゴブリンの処理をしなきゃ」


 二人は倒したゴブリンの処理を始める。


「リディ、ちょっといいか?」


「何?」


「あの二人を『分析(アナライズ)』して、後で教えてくれ」


「やっぱり、あの人は魔術師だったんですか?」


「うーん、間違いなく『身体強化』を使ってはいるんだけど」


「分かった。後で紙に書いておくね」


 そうこうしているうちに、ゴブリンの処理が終わったようだ。


「お待たせ、そんじゃ行こうか」


 そう言って二人は地面に置いていた荷物を背負い直す。

 うーん、大変そうだな。


「あー、良かったらその荷物、俺たちが運んで」


「結構。気遣い無用だ」


 そう言ってアガーテさんは荷物を背負い、ずんずん進んで行く。


「……すまんね。お嬢の奴、昨日からどうにも君たちに対抗意識みたいなもんを持っちまったみたいで」


「は、はあ」


「何をしている! 早く行くぞ!」


「はーいはい。ま、一時的なもんだろうからあんま気にしないでくれ」


 サリヴァンさんがアガーテさんについて行く。


「対抗意識って……わたしたち、何かしちゃったんでしょうか?」


「さあな。まあ、ここにいても仕方ないし俺たちも行こうか」


「うー……早くこの依頼終わらないかなあ」


 その後も何度か魔物と遭遇するも、俺たちが早期に発見し、前に立った二人が問題無く倒していく。

 そして、道中綺麗な小川があったので、そこで昼休憩をすることになった。


「リディ、アントンさんに用意してもらったスパゲッティを食べようか」


「うん、それじゃここに出すね」


「私は水の用意をしますね」


 念の為地面を光魔術で浄化し、そこに敷物を用意する。

 そして、リディがスパゲッティの入った皿を俺たちに渡してくる。


 これは、少し遠出すると言ったらアントンさんが用意してくれたものだ。

 お昼に開放している食堂でもメニューにあるらしい。

 俺たちは喜んでアントンさんに代金を払い、数日分の料理を作ってもらった。

 それをリディの『亜空間収納』に仕舞っているから、いつでも出来立てで食べられるのだ。


 レイチェルから水の入ったコップを受け取る。

 よし、ポヨン含め全員に行き渡ったな。キナコもリディの横に座って魔力供給の準備をしてるし問題無い。


「よし、食べようか。いただきま……」


「「いただきま……」」


 さっきから強い視線を感じる。

 出所は分かってるんだけど……はぁ。

 このままじゃ食べづらいし、仕方ない。俺は視線の主の方を見た。


「……っ!」


 俺と目が合ったアガーテさんは勢いよくそっぽを向き、持っていた干し肉に齧りついていた。

 サリヴァンさんも死んだ魚の様な目をして硬そうな黒パンを齧っていた。


「……えっと、良かったら少し食べるか?」


 俺の言葉にサリヴァンさんが勢いよく反応する。


「え!? いいの」


「け、結構だ! 私たちは自分たちの食料くらい、ちゃんと用意しているからなっ!」


 そのアガーテさんの言葉にサリヴァンさんはがっくりと肩を落とす。

 そして、自分たちはいいから早く食べろと手をぶらつかせる。


「……早く食べようか」


「……うん」 「……はい」


 気まずい雰囲気の中、俺たちはどうにか食事をしていくのだった。

 全く気にしていない様子のポヨンとキナコが羨ましい。

 ちなみに、スパゲッティは凄く美味しかった。


 昼食を終えた後、俺たちは移動を再開する。

 この後、モルドに辿り着くまで特に魔物とは遭遇せず、俺たちは予定通り夕暮れ前に到着することが出来たのだった。


「ここがモルドか」


「あ、あそこ荒らされてる」


「酷い荒らされ方ですね」


 この辺りの地面はものの見事に荒らされていた。

 土が穿り返され、所々泥濘になってしまっている。

 そして、付近に二つの蹄に小さな蹄の跡が同時に残った特徴的な足跡を見付けた。


「依頼書にあった通り、犯人はビッグボアで間違いなさそうだな」


「おーい、とりあえず話聞きに行くぞー」


 サリヴァンさんに呼ばれ、まずは依頼者であるモルドの村長に話を聞くことになった。



 ◇◇◇



「おおお、まさか二人もBランク冒険者様が来て下さるとは。是非よろしくお願いします」


 村長の所に話を聞きに行った時、最初は俺たちを見て少し残念そうな様子だったけど、アガーテさんが自分たちはBランク冒険者だと説明すると、途端に表情が明るくなった。


 まあ、俺たちって傍から見たらたった五人+従魔だけだし、しかもサリヴァンさん以外は下手をすれば駆け出しにも見えてしまう外見だ。特に、リディなんてどう見ても未成年だしな。

 依頼を出したらそんなのが来てしまった、となると残念な様子になるのも無理はないのかもな。


「ああ、この件は私たちが必ず解決してみせる。安心してくれ」


「ありがとうございます、ありがとうございます」


 村長はもう依頼が解決したかのように感涙に咽んでいる。

 カーグでのブルマンさんもそうだったけど、普通の人にとってはBランク冒険者ってだけで安心感が凄いんだな。


 そして、今日から畑目当てにやって来た魔物を退治する為に、村の畑に泊まり込んで待ち伏せすることになった。

 さて、それならまずは野営の為に環境を整えないとな。

 ただなあ、他のパーティーがいるとちょっとやりづらいんだよなあ。かと言って不便なのは嫌だし。


 俺は、村を案内してくれている村長の息子について行きながら、そんなことを考えていたのだった。

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