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7話 ジェット9歳⑤

 広場に戻って来ると、皆が大人たちに教えてもらいながら魔術の練習をしていた。

 十歳組はグレン以外はまだ『身体強化』を発動出来ないみたいだ。

 エリン姉は火魔術の練習をしていた。こっちに気が付くと手を振ってくれる。


「皆やっとるようだな。よし、ちょっとこっちに集まってくれ。ジェットに『身体活性』を実演してもらうことになった」


 村長の一声で皆が集まって来る。

 よく見たら大人たちも気になっているようだ。

 グレンの奴も気にしてない振りをしながらこちらを窺っている。


「ではジェット、頼むぞ」


「うん。えっと、『身体強化』は皆見たことあると思うんだけど」


 そう言いながら俺は『身体強化』を発動させる。


「『身体活性』はこの外に纏っている魔力で体の中を強化するんだ」


 『身体強化』を『身体活性』に切り替えながら説明する。

 すると、周りから感嘆の声が上がる。


「なあジェット。その二つって何が違うんだ?」


 エリン姉の質問に答える。


「魔力の消費と強化の方法かな。『身体強化』の方は魔力が体の外に出てる分消費が大きい。でもその分体への負担は少ない。魔力の服を着ている……足し算みたいなイメージだね。『身体活性』の方は魔力が外に出てないから消費が少ない。だけど、体への負担が大きく自分の限界以上に使っちゃったらしばらく筋肉痛地獄に陥ることになるんだ。こっちは体そのものを強化する……掛け算みたいなイメージかなあ」


 筋肉痛地獄の所で皆の顔が引き攣る。

 あれは本当にしんどいぞぉ。


「儂も色々試してはいるんだが、どうにもしっくりこない。何かコツは無いのか?」


「強化する為の魔力を体全体に、隅々まで流して巡らせるんだ」


「うむむむ……難しいのぅ。『身体強化』にばかり慣れ過ぎとるのもいかんな」


 村長も皆も苦戦してるみたいだ。

 そう言えば父さんも最初はしっくり来ないって言ってたな。

 俺の場合は女神様のお陰で体の中を魔力が駆け巡る感覚を知ってたから……そうだ。


「ねえ村長、手出して」


「ん、こうか?」


 村長の大きな手の上に自分の手を重ねる。

 そして、一気に村長に向かって自分の魔力を流し込んでみる。


「うぬ? ぬぬぬぬ……ぬぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 雄叫びと共に村長の筋肉が膨れ上がる!

 あ、ぴっちりしていた服が弾け飛んだ……

 俺は慌てて魔力を止める。すると、徐々に村長の体が元に戻っていった。


「こ……これ程とは……。と言うかジェット、お前凄まじい魔力量だな」


 『身体活性』を発動しようとしていた所に魔力を流し込んだから凄いことになっちゃったみたいだ。

 ……筋肉痛になっちゃったらごめんなさい、村長。


「なあなあジェット、あたしにもさっきのやってみてくれよ!」


 今度はエリン姉か。


「うん分かった。でもやる間は魔術を使わないでね。ちょっと危ないみたいだから……」


「? おう、これでいいか?」


 エリン姉の手に自分の手を重ねる。

 何かあったら危険だからさっきよりゆっくり魔力を流し込む。


「……ぅん、じぇ、ジェット……ぁ……ひゃん!」


 エリン姉が変な声を出し始めた。

 何かとっても聞いちゃいけない声な気がする。

 俺はまた慌てて魔力を止める。


「はぁ、はぁ、はぁ……ん」


 エリン姉は荒い息を吐く。

 心なしか顔も赤くなっているような……


「な、何か凄かったな今の! でもお陰でちょっとコツが分かった気がするぞ」


 そう言ってエリン姉が集中を始める。

 あ、まだまだ弱弱しいけどこれは……


「エリン姉! 『身体活性』出来てるよ!」


「本当かジェット! おー、この感じか! けど凄い難しいなこれ」


「さて、今日の授業はここまでにしておこうか。ジェット、また次の授業の時希望者にさっきのあれをやってくれんか?」


「うん、いいよ」


「うむ、頼むぞ。それでは皆解散だ。どうも今夜は嵐が来そうだから気を付けてな」


 言われて空を見てみる。

 ちょっと前までは晴れていたのに雲が増えてきている。

 風もなんだか生温い嫌な風だ。


「む、なんだかちょっと体が痛くなってきたような……それではナタリアたちはさっきの報酬を受け取りに来てくれ」


「ジェット、リディ、またな!」


「バイバイ、エリン姉」


「ばいばい!」


 エリン姉に手を振って上半身裸の村長に付いて行く。

 そして、肉や魚、とっておきの酒や茶菓子をたっぷり貰って家に帰るのだった。



 ◇◇◇



「きゃははははは、おにいくすぐったい! んふう」


 家に帰り着く頃には徐々に風が強くなり雨が降り始めていた。

 母さんは畑の防護を手伝いに行って、今はリディと二人でお留守番だ。

 すると、リディがさっき村長たちにやったアレをやってくれとおねだりしてきた。


 ふいにエリン姉の様子を思い出してしまい、どうしたもんかと思っていたんだけど……結局リディの期待に満ちたキラキラした目には勝てなかったよ。


「おにいもっと!」


 どうやらくすぐったいのが楽しいみたいだ。

 俺もちょっと楽しくなってきて徐々に流す魔力量を増やしていく。


「んふふ~、からだぽかぽかする!」


 意外とリディは平気みたいだ。

 お兄ちゃんとしてはちょっと安心。


「つぎリディがやる!」


「よーし、さあ来い」


 手を繋いだまましばらく待っているとリディの方からゆっくりと魔力が流れて来るのを感じた。

 お、おおー。思った以上にくすぐったいなこれ。

 それに何だかリディの魔力のお陰か普段行き渡ってない部分にまで自分の魔力が通って行っている感覚がある。

 時々こうやってリディと遊ぶのもいい練習になりそうだ。


 しばらくそうやってお互いの魔力を使って遊んでいるとかなり雨風が強くなっていた。

 父さんも母さんも遅いなあ。

 とか考えていたら玄関の方から声が聞こえてきた。


「はあああ、やっと帰ってこれた」


「着替え持ってくるわね。今日はお風呂入りに行くのは無理だからお湯も持ってくるわ」


 どうやら二人一緒に帰って来たみたいだな。

 村に共用の浴場があって入るとさっぱりして気持ちいいんだけど、流石に今日は俺も行きたくない。


「「おかえりなさい」」


「ただいま」


「ただいま。丁度いいから二人もお父さんと一緒に体拭いちゃいなさい」


 それから体を拭いて晩御飯を食べて、今日はもうやることもないので皆で早めに就寝した。

 おやすみなさい。


 ……

 ヒュゴゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウ

 ……

 ドザアアァアアアアアアアアアアアアアア

 ……うん、外がうるさくて全く寝付けない。


 外はどんな様子なんだろう? ちょっと覗いてみようかな。


 俺はこっそり起き上がって玄関の方へ向かって行った。


 玄関に辿り着いたので少しだけ戸を開けようとしてみるも……凄く戸が重い。

 どうにかちょっとだけ開いたその隙間から凄まじい風と雨が俺の顔に襲い掛かる。


 いだだだだだ! 早く閉めよう!


 急いで玄関の戸を閉める。

 ほんのこれだけのことに疲れ果てた俺はその場に座り込んだ。


 風が強いと雨ってあんな痛いんだな。外も何も見えないくらい真っ暗闇で……風、暗闇。


 自分でもちょっとどうかと思ってしまう。

 でも、一度考えてしまうと試したくて仕方ない。


 今外に出たら風属性と闇属性の練習になるんじゃない? でも父さんと母さんに滅茶苦茶怒られそうだし……よし、ちょっとだけ。


 最終的にはあっさり好奇心に負けてしまう。

 服を汚すともっと怒られそうだし、どうせずぶ濡れになるんだから一緒か、と生まれたままの姿になる。

 よし、『身体活性』も発動したし準備は万全だ。

 いざ!


 自分がギリギリ通れるだけ戸を開くと一気に外に躍り出る。

 すると凄まじい雨風の暴力に曝される。


 うぐぐぐ、嵐の時の風ってこんなに重いのか。気を抜いたら吹き飛ばされそうだ。


 流石にこのまま外に居たら危ないと思い家に戻ろうとする。

 その時、風で飛ばされてきた何かが俺にぶつかりバランスを崩す。


 ヤバッ!


 抵抗も空しく、俺は何処とも分からない暗闇を転がり続けるのだった。




 しばらく転がり続けた後、どうにか立ち上がりゆっくり暗闇の中を彷徨った俺は洞穴を見つけ、その中に避難することにした。

 少し奥まで入っていき、膝を抱えて蹲る。

 全身泥だらけでずぶ濡れだし、今は服も着ていないのでとにかく寒い。


 はぁ……何で外なんか出ちゃったんだろ。


 少し前の自分の軽率な行動を激しく後悔する。

 そうして暗闇の中で震えていると不安ばかりが大きくなっていく。


 ここ何処なんだろう。もしかしたらもう家には帰れないんじゃ……うぅぅ、父さん、母さん、リディ。


 我慢しようとしても涙が止まらない。

 泣き疲れてウトウトしても、ちょっとした音が俺を叩き起こす。


 ひぅっ! ごめんなさい! ちゃんと父さん母さんの言うこと聞くから誰か助けて……


 すると、洞穴の入り口の方から何かが聞こえてくる。

 耳を澄ませてみると、どうやら足音のようだ。


 も、もしかして誰か来てくれた……でも、もし入って来たのが魔獣だったら。


 足音はどんどん近付いて来る。

 よく見てみるとぼんやりした光も見える。


 その光の方を見ていると……その光の中に女の顔が浮かび上がった。


「うわぁああああああああああああああああああ!! お化けだ!」


「ジェット? ジェットね!」


「良かった、ここに居たか。この馬鹿! こんな嵐の中何やってんだ!」


「え、父さん? 母さん? う、うぅう、うあああああああああああああああああああああ」


 俺は勢いよく母さんに抱き着いた。

 二人共こんなずぶ濡れになりながら俺のこと捜してくれてたんだ。

 母さんがしゃがみ込んで俺を抱き締める。


「馬鹿、心配したのよ……」


「とにかく無事見付かって良かった。これ以上見付からなかったら村中大騒ぎになるとこだったな」


「ほら、リディが起きちゃう前に帰りましょ。このままじゃ風邪引くわ」


 こうして俺は無事家に帰ることが出来たのだった。

 ただ、無茶をした代償は大きく、俺はしばらく風邪で寝込むことになる。

 更に、当分の間は夜のトイレも父さんか母さんと一緒じゃないと行けなくなってしまった。どうしてもあの時の暗闇に浮かんだ母さんの顔を思い出しちゃって……


 後で聞いた話だけど、俺が避難してたのは村の食料備蓄庫だったらしい。

 よくよく考えたら光魔術を使うなりすればよかったな……

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