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69話 穏やかな日々

「ルカ、ここもお願い」


「キュイッ!」


 ルカが大きめの水弾を上空に向かって飛ばす。

 水弾は暫く勢いよく飛んだ後弾け、周囲に雨のように降り注いだ。


「うっひゃああ、もう畑の水やりが終わっちまっただよ」


「よし、こっちも畑を広げ終わったぞ!」


「こっちも水やり終わりましたー」


「オットーさんに聞いちゃいたが……ほんにおめぇさんらすげぇなぁ。おお、そうだ。うちの畑で採れた野菜やっからちょっと待っとってくれ」


 そう言って、村のおばちゃんは近くにある野菜の保管庫へと向かって行った。


 俺たちは今、ヴァラッドで畑仕事の手伝いをしている。

 一面に広がる畑を見ているとエルデリアでの畑仕事を思い出し、久々にやりたくなったのだ。

 それに、畑仕事って水魔術と地魔術の修業にぴったりなんだよな。


 今回は、俺が開墾、リディとレイチェルが作物への水やりをそれぞれ担当した。

 俺もエルデリアにいた頃より魔術の扱いが上達したらしく、当時より随分早いスピードで作業をこなすことが出来るようになっていた。勿論手抜きなんてしていないぞ。

 初めてのレイチェルも問題無く水やりをこなしていた。


 リディはルカを引き連れて水やりを行っていた。

 このルカなんだけど、水魔術の扱いがとにかく上手いのだ。

 まだ自分だけでは精々水弾を吐き出して攻撃するくらいしか出来ないみたいなんだけど、リディが水魔術で生み出した水があれば話が変わってくる。

 なんと、リディが生み出した水ならかなり自由自在に操れるようなのだ。


 今もリディの隣には大きな水球が浮かんでいて、その中にルカが入っている。さっきはその中から水を飛ばし、雨のように降らせて水やりをしていた。

 他にもその水を大きく広げたり、道のように伸ばしてそこを泳いだりも出来る。

 ルカ自身もこんなことが出来るのは初めて知ったようで、暫く燥いで泳ぎ続けていた。

 なので、今はゴーレムメタルの浴槽改め水槽は、寝る時に使っているくらいだ。


 ちなみに、特にやることが無いポヨンとキナコは木陰で昼寝中だ。


「ほれ、持ってけ。今年のは出来がえぇからうんめぇぞぉ」


「おお、ありがとう!」


 そうそう、これだよ。

 お金じゃなくて直接物でやり取りをする。

 こう言う所がエルデリアと同じなんだよな。


 受け取った野菜はリディの『亜空間収納』へ仕舞いこむ。


「どうだぁ? おめぇらこの村で暮らしたら? おめぇらだったら婿でも嫁でも大歓迎だぁ」


「あー、いや、俺たちも帰らなきゃいけない場所があるから……」


「そうかぁ、ま、気が変わったらいつでも言っとくれや。なんだったらうちの娘も嫁にやるだよ。あっはっはっは」


 その後、他の畑も同様に手伝い、その度にお礼だ、と野菜や米を貰う。

 それ以外にも嫁を貰わないかと言う提案や、リディや特にレイチェルには嫁に来ないか? と言う提案が相次いだ。

 レイチェルに直接嫁に来てくれ、と言ってくる若い男もちらほら存在し、その度にレイチェルは顔を真っ赤にしながら必死に断っていた。

 ……大体の男の視線がレイチェルの胸元に行っているのを俺は見逃さなかったからな! まあ、気持ちはよく分かるけど。


「はぁ……畑仕事より断る方が疲れましたよ」


「レイチェル姉、モテモテだったもんね」


 畑仕事を終えた俺たちは、またルカを釣り上げた川に来て釣りを行っていた。

 夕飯のおかずにここの魚はぴったりだからな。

 何より、またあのウナギを食べたい!


「お、掛かった! うーん、普通の川魚か」


 まあ美味しいからいいんだけど、ウナギが欲しいのだ。


「こっちも掛かった! ってルカ!?」


「キュイィィィイイ」


 どうやらリディの竿には川で泳いでいたルカが掛かったようだ。

 リディは急いで針を外し、光魔術で治療をしていた。

 全く……食い意地の張った海豚だ。


 そして、今回はポヨンとキナコもそれぞれ釣りをしている。

 ポヨンは自分の体の一部を釣り竿に変形、キナコは仕込まれたミスリル糸を掌の下の方から出し、それに針を付けて釣りを行っている。

 しかも、こいつら結構上手いのだ。

 俺の分も含めて結構大漁だったので、後で締めてリディの亜空間に仕舞いこんでおこう。そうすれば、いつでも好きな時に調理出来るしな。


「わわっ、わわわわっ! この引き、またウナギかもしれません!」


「でかしたレイチェル!」


「頑張れー! レイチェル姉!」


「キュキュキュイィ!」


 喋れないが、ポヨンとキナコも仕草で応援しているようだ。


 レイチェルだけど、何故か普通の魚は一切釣れない。代わりにウナギばかりが掛かるのだ。

 これは一種の才能なのかもしれない。

 この日だけで既に三匹目だ。


「んむむむむっ……、やぁあああ!」


 数分の格闘の末、レイチェルがまたウナギを釣り上げた。


「や、やりました! うわぁ、ヌルヌルして掴めません、師匠ぉお」


「おう、待ってろ!」


 釣り上げたウナギを魚籠に入れ、どうにか針を外す。


「ははは、レイチェルはウナギ釣り名人だな」


「……他の魚は一切釣れませんけどね。喜んでいいんでしょうか……」


 今、俺には目標がある。

 このウナギの捌き方と焼き方を覚えたいのだ。


 オットーさんに作ってもらった鰻丼は、感動を覚えるくらい美味かった。

 これを、是非父さん母さんにも食べさせてあげたいのだ。

 機会があったらレイチェルの家族やサニーちゃんたちにも食べさせてあげたい。

 なので、ヴァラッドに滞在している間にオットーさんに教えてもらうことにしたのだ。


 一度自分でもやってみたんだけど、この捌き方がとにかく難しい。

 ウナギのぬめりに手が滑り、変な方向にナイフが入りすぎて身がボロボロになってしまった。

 焼き加減も全く駄目で、身が真っ黒に焦げてしまいオットーさんの焼いたウナギのようにはいかなかったのだ。


 タレ自体は近くの町で売っているものを直接使っているようなので問題無い。

 それに焼いたウナギの旨味が加わることで味が変わっていくそうなのだ。


「よし、そろそろ帰ろうか」


 この後、オットーさんの家でまた俺のウナギ修業が始まる。


 オットーさんに指導してもらいながら、どうにかウナギを捌き焼いていく。

 今日は、最初よりはマシになったものの、まだまだ満足いくウナギにはならなかった。


 それから、食事を終え魔力操作の修業をし、風呂に入って今日一日を終えた。



 ◇◇◇



「へぇぇ、立派なもんだなぁ」


 ナンシーさんが感嘆の声を上げる。


 翌日、リディとレイチェルが畑の水やりをしている間、俺は地魔術を使って村全体に頑丈な柵を作っていた。

 開墾は昨日終わったから俺も水やりを手伝おうと思ったんだけど、水やり自体はリディとレイチェルだけで全く問題無く行える。

 それなら、と村の柵の強化を提案してみたのだ。


 一応、村全体は木で作られた柵で覆われているんだけど、正直お世辞にも頑丈とは言えない。

 この辺りはカーグと同じく強い魔物は生息していないってことだけど、レイチェルの実の両親のことを考えると絶対ここに強力な魔物が現れないとも言い切れない。

 ただ、高い石壁だと影になってしまって作物が育たなくなって困る、とのことなので、元々あった柵と同じ高さのものを地魔術で頑丈に作り出したのだ。

 試しに村のおじさんに槌で叩いてみてもらったんだけど、それくらいではビクともしなかった。


「これだったら多少強力な魔物が来ても大丈夫だと思う」


「今回のことは、依頼として処理しとくでなぁ。あんま多く報酬は出せんけんども……」


「いいって、俺が言い出したことだし」


「うっわぁぁああ! にいちゃんすんげぇなぁ!」


 村の子供たちがキラキラした目で俺を見てくる。

 どうやら地魔術で石の柵が出来上がるのが面白かったらしく、村の子供が寄って来たので一緒に作業を行っていたのだ。

 折角なので、土遊びが出来る場所も作ってやると、子供たちからとても喜ばれた。

 柵の設置も終わったので、この後は子供たちと一緒に遊ぶことにした。


「師匠ー、水やり終わりましたよおぉぉおおお!?」


「おう、レイチェル。お疲れ」


「な、ななな、なんですかそれ!?」


「いやぁ、子供たちが見てみたいって言うから土でゴーレムを再現してみたんだけど」


 どうやらレイチェルは一瞬本物のゴーレムだと思ってしまったらしい。

 まあ、レイチェルが勘違いするのも無理はないのかもしれない。さっきも、村の大人が大声を上げて腰を抜かしてたから。


 俺は目の前の土で出来たゴーレムを見上げる。

 これは、地魔術で作ったゴーレムの模型だ。一緒に遊んでいた子供たちにダンジョンでの冒険の話をしていたら、ゴーレムを見てみたいと言われここに作ってみたのだ。

 これを見た子供たちは大興奮で、冒険者ごっこを始めてゴーレムの模型との戦闘を開始した。

 模型自体は柔らかく作ってあるから叩いて壊しても破片で怪我をするようなことは無い。


 途中からリディも合流し、ポヨン、キナコ、ルカが子供たちに交じってゴーレムの模型で遊び始めた。

 ここでもリディの従魔たちは子供に大人気なのだ。

 その後は、リディやレイチェルも子供たちに催促され、一緒になって冒険者ごっこをしている。


 ゴーレムが破壊された後、今度はゴブリンやオークの土模型を次々と作り出す。

 それを子供たちが木の棒を使って倒していく。

 どうやら俺は悪の親玉の役らしい。


 そうやって子供たちと遊んでいると、いつの間にか空が赤く染まり始めていた。


「よーし、今日はここまでだ。早くおうちに帰るんだぞー」


「「「はーい」」」


 子供たちを家に帰し、俺たちは周囲の後片付けをしてから宿泊しているオットーさんの家へ戻る。

 そして、この後はウナギを捌き、そして焼く修業の時間だ。

 さあ、今日こそは美味しく料理してやるからな!



 ◇◇◇



「うん、まあ大分良くなっただな。後は繰り返しやっていくこっただよ。ウナギに関しちゃ一生修業みたいなもんだぁ」


「分かった! 俺頑張るよ!」


 ヴァラッドに滞在してからかれこれ一週間が経過していた。

 その間、ウナギを捌き続け焼き続け、まだまだオットーさんには敵わないけど、どうにか最低限の形にはなるようにはなった。

 毎日村の田畑の手伝いや川での釣り、子供たちとの遊びも続けており、俺たちは穏やかながらも充実した時間を過ごしていた。


「って、駄目だよおにい! ついつい居心地良かったから忘れてたけど、あたしたち海に向かわないといけないんだよ!」


「あはは、少しだけ休んでいくつもりが、いつの間にか一週間経過していましたね」


「なっ!? もうそんなに経っていたのか……」


 くっ、エルデリアを彷彿とさせるこの村の雰囲気がそうさせてしまったのか……!


「そう言やぁ、おめぇさんらは元々ここに来る予定じゃぁ無かったんだっただなぁ」


「オットーさん、俺たち明日には発つことにするよ。このままここにいると、ずるずる滞在しちゃいそうだから……リディとレイチェルもそれでいいか?」


「うん、あたしもおにいと同じだからその気持ちはよく分かる」


「はい。落ち着いたらまた遊びに来ましょう」


「そうかぁ、寂しくなんなぁ。おお、村の奴らにも伝えてくっかぁ。今日はおめぇさんらを送り出す宴会じゃあ」


 そう言ってオットーさんは村中に、明日俺たちが発つことを伝えて回った。

 その後は急遽宴会が開かれることになり、米や野菜、川魚やウナギ等様々な美食で俺たちを楽しませてくれたのだった。




 そして翌日、オットーさんやナンシーさんを始め、多くの村人たちが俺たちを見送りに来てくれた。


「そんじゃぁなぁ、またいつでも遊びに来いよぉ」


「ほれ、これは村人全員からの餞別だぁ。持ってってくれぇ」


 ナンシーさんがそう言うと、数人の村人が米俵や野菜、川魚やウナギを荷車に乗せて持って来た。


「え、いいのか?」


「おめぇさんらのお陰で色々と助かったからなぁ。ここではこんなもんしか用意出来んけんども」


「いや、最高だよ! ありがとう!」


「「ありがとうございます!」」


 そして、貰った食材を全てリディが『亜空間収納』へと仕舞う。


「それじゃあ、短い間だったけどお世話になりました!」


「また遊びに来るね!」


「皆さんもお元気で」


「おぅ、頑張ってなぁ」


「にいちゃん、ねえちゃん、ポヨンちゃん、キナコちゃん、ルカちゃん、またなぁ」


 村人たちに手を振り、俺たちはヴァラッドを後にした。

 さて、予定より大幅に遅れちゃったけど……まあ色々収穫はあったんだしいいか。


 今度こそ、サイマールに向けて出発だ!

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