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67話 迷子再び

「えっと、ここって『()ラッド』で間違いないんだよな?」


「んだよ。ここは『()()ラッド』で間違いねぇだよ」


 ヴォーレンドを出発してから既にひと月以上が経過した。

 旅は順調に進み、時折立ち寄った町のギルドで小規模な護衛依頼を受けたりもしていた。

 最初俺たちを見た依頼者は皆訝し気な顔をするんだけど、依頼が終わる頃にはその表情は一変し、中には専属で雇われてくれないか? と申し出てくる依頼者もいた。

 特にその気の無い俺たちは、それについては丁重に断っておいたけども。


 で、立ち寄った町のギルドで次に補給予定の町バラッドを目指すものがあった。

 あまり報酬を用意出来ず、少人数希望とのことだったので俺たちには丁度良かった。

 なので、俺たちはこの依頼を受け、たった今バラッドに到着した所なんだけど……どうも様子がおかしい。


 聞いていたバラッドの町は結構大きな町のようで、色んな方面に向かう中継地点のような役割もあり、中には珍しいものを扱う店なんかもあるらしい。

 もしかしたら米が買えるかもしれないとちょっと期待していた。


 だけど、今俺たちがいるのはどう見てもそんな大きな町には見えない。

 むしろ、少し懐かしささえ感じるような村だ。

 周囲を見ると畑が広がっており、その周辺を犬や子供が駆け回っている。


 何かおかしいと思いながらも、まずはギルドで依頼完了の手続きを行うことになった。

 暫く依頼者のオットーさんと共に歩くと見慣れた剣と魔物のシルエットの看板が見えてきた。


「あれ、ここのギルドって小さいんだね」


「んだよぉ、こんな長閑なとこじゃあそんなえれぇことも起こんねえしなぁ」


「確かに聞いてた話と違って長閑で暮らしやすそうな所ですよね」


「んだんだ。おめぇらみてぇなめんこい娘っ子が嫁にでも来てくれりゃあ若えのたちも喜ぶんだがなあ」


「あ、あはは……」


 レイチェルは顔を真っ赤にして苦笑いを浮かべている。


「おーい、けぇったぞー!」


 そう言いながらオットーさんはギルドの扉を開き、まるで見知った我が家のように中へ入っていく。

 俺たちも慌てて後に続く。


「おう、おけぇりよぅ。無事帰って来れたみてぇで一安心だぁ」


「このモノクリームって言ったっけか? この三人が護衛してくれてよう、そりゃもう快適な移動だった。町の宿より野宿の方が嬉しいくらいだっただよ」


「あんれまぁ、おめぇらこんな何もない所までよぅ来てくれたなぁ」


 受付であろうか、恰幅のいいおばちゃんが出迎えてくれた。

 中も外見通り質素な作りで、カーグやヴォーレンドのように酒場が併設されていたりとかは勿論ない。


「モノクリームじゃなくてモノクロームだ。えっと、依頼完了の手続きをお願いしたいんだけど」


「おお、おお、そうだそうだ。んならカードを出してくんれ」


 俺たちはおばちゃんにカードを渡す。


「おめぇCランクだっただか! まだまだ駆け出しかと思ってただよ。そっちの嬢ちゃんは未成年でDランクだっただなあ。見たことも無い魔物も連れてるしこりゃたまげた!」


 おばちゃんが俺たちのカードを見て驚きの声を上げる。

 だけど、ここではヴォーレンドのように野次が飛んでくるようなことはない。

 何故なら、ここには今俺たちしか冒険者がいないからな!


「あいよ、カードと報酬だよ。お疲れさんだぁ」


 カードと報酬を受け取る。

 そうだ、このおばちゃんにも聞いてみるか。

 小さくてもここはギルドだし、何か分かるかもしれない。


「あー、ここって『()ラッド』って町なのか? 聞いてた話とちょっと違うんだけど……」


「おめぇらバラッドに向かうつもりだったんだか? ここは『()()ラッド』って村だよ」


「え? バラッドじゃなくてヴァラッドなんですか?」


「んだよ。なんだ、おめぇさんらバラッドと間違えてたのか」


「な……なんだと」


「はっはっはっは、オラはおめぇさんらが依頼さ受けてくれて助かったけど、おめぇさんらには災難だったなぁ」


 どうやら行き先を間違っていたらしい。

 確かに依頼書にもバラッド行きだと記載されてた筈なんだけど……

 多分、ギルド側が『()()ラッド』を『()ラッド』と聞き間違えたんだろう。


 俺たちがもっと旅慣れていたら途中で気付いたかもしれないけど……俺たち三人は全員が旅の初心者だ。

 レイチェルは小さい頃両親に連れられて各地を転々としていたらしいけど、レイチェル自身が旅をするのはこれが初めてのことだし……


「ど、どうするのおにい?」


「一度依頼を受けた町まで帰るしかないだろうな……」


「あそこからここまで結構時間掛かりましたよね……」


 俺たちが意気消沈して項垂れていると、見かねたオットーさんと受付のおばちゃんが声を掛けてきた。


「折角こんな遠いとこまで来ちまったんだし、ちょっとゆっくりしていけばいいだよ」


「んだんだ。寝る場所だったらオラの家を使ってくれていいし、うめぇ飯も食わせてやるぞぉ。近くの川だと釣りも出来て楽しいだよ」


 ……まあ、来てしまったものは仕方ないよな。

 オットーさんとおばちゃんが言うように、ちょっと休んでいくのもいいのかもしれない。

 何より、ここはエルデリアを思い出してちょっと落ち着くんだよな。


「てことだけど、リディとレイチェルはどうだ?」


「あたしは賛成! ここ、なんか落ち着くんだよね。それに、釣りってやったことないからやってみたい!」


 どうやらリディも俺と同じ気持ちだったようだ。

 そう言えばリディは釣りをやったことなかったんだったか。


「わたしも賛成です。またすぐに来た道を戻るのも疲れますし……」


「んなら決まりだな。うちまで案内すっから。釣り竿も貸してやるだよ」


「自己紹介がまだだったなぁ。あたしゃナンシーだぁ。何もねぇとこだけんど、ゆっくりしていってくれぇ」


 おばちゃんはナンシーさんだそうだ。

 俺たちも自己紹介を済ませ、オットーさんに家まで案内してもらうことになった。


 そしてオットーさんに道案内をしてもらっている途中、俺たちは予想外のものを目にする。


「なっ!? あ、あれは!」


「凄い! お米だ! お米が作られてる!」


「へぇ、あれがお米なんですねえ」


「おお、おめぇさんら米のこと知ってるのか?」


「あ、ああ。俺とリディの住んでた村でも作られていたから」


「そうかそうか。実はオラは今回初めて米を売りに出て、その帰りだっただよ。よそでは米はあんまし食べられてねぇようだでなあ」


「そうそう、そうなんだよ。食べたら美味しいのに」


「あたし、また焼きおにぎり食べたくなっちゃった」


「その焼きおにぎりってなんだぁ?」


「そっか、この辺じゃそう言う食べ方はされていないのか。炊いた米があるなら作れるけど……」


「おお、んじゃあ後で炊きたての米を出してやるだ。釣りに行って帰って来たら丁度いいぐらいになるだよ」


「やったー!」


「うおおお! ありがとうオットーさん!」


「……うう、わたしだけなんか疎外感が」


 その後、オットーさんの家に辿り着き、オットーさんの荷物を亜空間から取り出す。

 そして、川の場所を教えてもらい、釣り竿を借りて川に向かった。


 川は村から真っ直ぐ向かえば辿り着く場所だったので、土地勘の無い俺たちでも容易に辿り着くことが出来た。


「うわぁ、川の辺りは涼しいですねえ」


「おお! これだったら泳ぐことも出来そうだな!」


「おにい、こんな所でパンツ一枚とか駄目だからね」


「わ、分かってるよ」


 早速俺たちは、オットーさんに借りた釣竿を使って釣りを始めることにした。

 レイチェルも自分で釣りをするのは初めてらしかったので、リディ共々俺が釣りのやり方をレクチャーした。俺はエルデリアの川でもグレンたちと偶に釣りをしてたからな。


「うっ……リディちゃんはミミズとか平気なんだね」


「うん。ゴブリンとかオークに比べたら全然可愛らしいよ」


「……よし! 女は度胸! やあっ!」


「そこまで意気込まなくても……まあいいや。それじゃあ始めるぞー。魚の掛かりが悪かったら、時々場所を変えてみるといいぞ」


 周囲に注意し、竿を振る。


 ポチャンッ


 よし、綺麗に針が着水したな。

 そして、浮きとして括り付けている木の枝を眺める。

 川の流れに乗せて暫く待っていると、木の枝が沈むのが見えた!


 俺は急いで竿を引く。

 よし、掛かった!


 引き上げてみると、少し小ぶりな川魚が掛かっていた。

 何て名前の魚だろう?

 まあ、こう言うのが食ってみると意外と美味かったりするんだよな。


 俺は釣り上げた魚を針から外し、これまたオットーさんから借りた魚籠に入れる。

 さて、この調子でどんどん釣り上げるか!


 それからも、同じような要領で面白いくらい魚が掛かる。

 ここって結構な穴場なんじゃないか?


 本日十匹目の魚を釣り上げた所でリディとレイチェルの様子を見てみる。


 リディは……ん?

 何故かオークの肉を焼いていた。

 そしてそれを切り分け、針に通して川に投げ込んだ。余った肉はポヨンが食べるようだな。

 キナコはリディの隣に座って川を眺めているようだ。


 ……リディよ、お前は一体何を釣るつもりなんだ?

 流石にここにそんなオーク肉に食いつく魚はいないと思うぞ。


 気を取り直してレイチェルの方を見てみる。

 お、丁度何かが掛かった所だったみたいだ。

 しかも結構大物じゃないかあれ!?


「し、師匠! なんか凄い引いてますっ!!」


「おう、落ち着いて対処しろレイチェル! 力尽くで引くんじゃなくて、魚を疲れさせるようにしろ! そう、そうだ!」


 そして格闘すること数分。


「ぬぐぐぐぐ……やあああっ!」


 ついにレイチェルが掛かっていた大物を釣り上げた!

 ……なんだこれ?


「師匠……これって魚なんでしょうか? なんか……蛇みたいで気持ち悪……うひゃあああ! 凄いヌルヌルします!」


「お、おお。川で釣れたんだし多分魚だろう。とりあえず持って帰ってオットーさんに見てもらおうか」


 苦戦するレイチェルに代わって、細長い魚? を針から外そうとする。

 うおっ、本当にヌルヌルする! 掴めないぞこれ!


 このままだと逃げられそうだったので、先に魚籠に入れる。

 そして、悪戦苦闘の末どうにか針を外すことに成功した。


「ふぅ……最初の一匹で凄く疲れましたよ」


「でも、その甲斐あって大物だったじゃないか! よく分からない魚? だったけど」


「師匠は順調みたいですね。リディちゃんはどうでしょう?」


「あー……どうなったろうなあ」


 リディの方を見てみると、案の定何も掛かっていないようで……


「うわっ! 何か来た!!」


 え? 嘘だろ!?


「うわわわっ! す、凄い引き!」


 このままじゃ竿ごと持って行かれる!

 俺とレイチェルはリディを手伝う為に移動する。

 その時、リディの頭の上に乗っていたポヨンがリディの右腕に絡みついた。


「手伝ってくれるの!? ありがとう、ポヨン、キナコ」


 キナコは必死にリディの脚を押さえている。

 ……あれって何か意味があるんだろうか?


「リディ!」


「わたしたちも手伝うよ!」


「ありがとう、おにい、レイチェル姉!」


 三人+ポヨンで一斉に竿を引く。


「どりゃあああああああああ!!」


 すると、針に掛かっていた超大物が川から飛び出して来た!


「キュィィィイイイイイイイイ」


 釣り上げられた魚? が俺たちの足元で跳ねている。

 ……いや、これ本当に魚か?

 鱗も見当たらないなんかツルっとした体だし……


 ……とりあえず針を外すか。

 俺たちは、暴れ回る魚? をどうにか押さえ、暫く手こずった後ようやく針を外すことに成功するのだった。


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