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65話 その後の顛末と旅の準備

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 誘拐未遂事件から数日後、指名依頼の報酬とオークの肉を受け取りにギルドへ向かう。


 この数日は念の為ダンジョンには潜らず、装備のメンテナンスや道具の補充に時間を充てていた。

 誘拐未遂事件についてはどうやら既にダグラスさんやクロードさん、テオドールさんには知られていたらしく、皆この件に凄く腹を立てていた。

 それぞれ職人仲間や商人仲間を通じて協力者の可能性をギルドとは別に探ってくれるそうで、俺たちはありがたくその厚意に甘えることにした。


「あっ! あなたたち、丁度良かったわ。この前あなたたちが出した依頼、ここにいる『アイアンハート』が受けてくれるそうよ」


 ジャネットさんの元へ訪れると、そう声を掛けられた。

 おお、配達依頼を受けてくれる冒険者パーティーが決まったのか。

 ジャネットさんの前には屈強な男五人組の姿が見える。この人たちが『アイアンハート』なんだろう。


「『アイアンハート』はBランクを含む腕利きだから安心していいわ。ゴーレム地帯でも問題無く活動出来るくらいよ」


「ははは、まあ君たちにとっては大したことではないかもしれないがな」


 大盾を背負った男がそう言って笑う。


「俺たちとは初めましてだな。モノクロームの噂は色々と耳に届いている。俺はアイアンハートのリーダーのウォズ、Bランク冒険者だ」


 ウォズと名乗った大盾を持った男は他のメンバーも紹介してくれた。

 ウォズさん以外の面々はサイモンさん、ガーランドさん、クリストフさん、ドレッドさんと言うそうだ。


「えっと、初めまして。モノクロームのジェットだ。こっちが妹のリディで、こっちが弟子のレイチェル」


 俺たちも自己紹介をする。

 すると、アイアンハートの面々は興味深そうにキナコを見ていた。


「ほう、その動く人形が噂になっている蘇ったマリオネットなのか」


「あの、あたしのお友達のキナコです」


 リディの紹介を受け、キナコはぺこりと頭を下げる。


「こ、これは凄いな……ごほんっ。今回はジャネットさんに紹介されて依頼を受けることになった。荷は間違いなく届けるから安心していてくれ」


 ウォズさんたちはここ最近、ずっとダンジョンで活動し続けていたこともあって、気分転換も兼ねて今回の依頼を受けることにしたそうだ。

 俺たちとしてもジャネットさんの紹介なら安心出来る。


「あ、あの、今回はどうぞよろしくお願いします!」


 レイチェルがアイアンハートの面々に頭を下げる。

 ただ、何故かアイアンハートの五人はきょとんとした顔をしている。


「え、えっと、あの……」


 予想外のことにレイチェルは焦り始める。

 それを見て、ウォズさんが慌てて口を開く。


「あ、いやすまない。どこかで聞いたことのある声だったもんだから……一応聞くけど、俺たちとは確かに初めてだよな?」


「は、はい! そうだと思いますけど……」


「……そうだよな。いや、気のせいだろう、忘れてくれ」


「は、はぁ」


 アイアンハートの五人は何かを誤魔化すように頬や頭を掻いている。


「えっと、それと、もしよければカーグでの宿泊は満月亭に是非。値段もお手頃で食事も美味しいですよ」


「確か、目的地もその満月亭だったな。分かった、カーグには少し滞在する予定だったからそうさせてもらおうか」


「はい!」


 そうしてアイアンハートの五人はカーグへ向けて出発していった。

 ゴーレム鋼の風呂、気に入ってもらえたらいいな。


「さて、それじゃあ報酬と肉を渡すからいつも通り奥へ向かうわよ」


 まずは奥の個室で報酬を確認し、そのまま保管庫に向かう。ここも通い慣れたもんだな。

 今回はオークとオークリーダーの肉を半分と、オークチーフの肉は全部受け取ることにした。


 誘拐未遂事件については今尋問中だそうだ。

 どうも、あの二人組は暫く錯乱していてとても取り調べ出来る状態じゃなかったらしい。

 ……ちょっと闇魔術を強く掛け過ぎちゃったかな。




 それから数日は、またダンジョンに潜ってゴーレムを中心とした魔物素材を集め、それをダグラスさんやクロードさん、ギルドに売却して報酬を貰っていた。

 それと、ダンジョン内でポヨンがいくらかのミスリルを発見したので、それはミスリル繊維に加工してマルグリットさんに納品した。勿論、ポヨンのおやつにもなっている。

 再び廃棄場にも赴き、大量のゴーレム鋼やゴーレムメタルの収集もしている。

 これらは一部、自分たちでも持って行くつもりだ。今後何かに使えるかもだからな。


 地下二十一階以降についてはまだ向かわないことにした。

 リディとレイチェルはまだまだ発展途上だし、ポヨンやキナコ、特にキナコとの連携についてももっと練習してからの方がいいと判断したからだ。

 俺一人だったら好奇心の赴くまま向かっていたかもしれないけど、リディやレイチェルを危険な目に遭わせる訳にはいかないからな。

 もっと修業をしてから、そのうち俺たちで最高到達階層を更新してやろう、と約束している。


 ダンジョンから脱出すると、今日は既に暗くなっていたので宿に戻る。

 そして、俺たちは夕飯を食べた後、今後の予定を話し合うことにした。


「今日もお疲れ。そろそろ旅の資金もかなり稼げたんじゃないか?」


 そう言って俺は、亜空間から布袋を幾つか取り出す。

 リディも俺と同じように布袋を取り出し、レイチェルはベルトに備え付けた小物入れから幾らかの金貨を取り出す。


「一度ちゃんと確認してみましょうか」


 レイチェルの言葉に頷き、俺たちはヴォーレンドで稼いだ報酬の確認をする。

 そして十数分後、ようやく稼いだ報酬を数え終わることが出来た。


「……最初の想定の数倍稼いでいましたね。やはり、ゴーレム鋼やゴーレムメタルがかなりいい値段で取引出来たのが大きいですね」


「テオドールさんのお店で結構色々買ってたけど、それでもこんなに稼いでたんだね」


「そうか。とりあえず、誘拐未遂事件のことが進展したら、そろそろヴォーレンドを出発してもいいのかもな」


「そうですね……これだけ資金があれば余程の豪遊でもしない限りは当分は困らないでしょうし」


「……また寂しくなるね」


「なーに、エルデリアに帰れたらまた会いに来ればいいさ。その時はカーグにも行かなきゃだし、ダンジョンももっと奥に行ってみるんだろ?」


「……うん、そうだね!」


「お世話になった人たちに挨拶しないといけませんね」


「そうだな。明日はそうしようか」


 もうそろそろヴォーレンドともお別れか。

 この町でも色々な人たちに助けられた。出発する前にちゃんとお礼を言わなきゃな。


 明日の予定も決まったし、今日はもう休むとしようか。

 俺たちは日課の魔力操作の修業を行い、体を拭いてから眠りに就いた。



 ◇◇◇



「……今回もとんでもない量ね。あなたたちの担当をしていると感覚が狂いそうになるわ」


 翌日、まずは素材の買取をお願いする為にギルドを訪れた。

 いつも通りジャネットさんに対応してもらい、スムーズに事が運ぶ。


「ああ、あなたたちにあのことについて報告があるわ。それと別件もあるからいつもの個室に行きましょうか」


 おお、ついに進展があったんだな。別件についてはよく分からないけど……

 俺たちは通い慣れた個室へと通された。

 椅子に座るとジャネットさんがお茶を用意してくれる。

 そして俺たちの向かい側に座ったジャネットさんが、書類と何やら布袋を机の上に置いた。


「まずはこの前の件からね。予想通り、町中にも協力者が存在したわ。ダンジョン脱出後、協力者が壁の外からポヨンちゃんたちを回収する手筈だったみたいよ。そいつらについては既に捕縛済みね」


 ジャネットさんが書類を捲りながら説明してくれる。

 成程……やはりあいつらだけではなかったんだな。


「更に、商人や職人の中にも裏から協力していた連中がいたみたいよ。これについてはテオドールさんやダグラスさんが中心になって発見したそうね。ギルドが背後関係を調べるより前に捕縛して突き出して来たそうよ。相当この件が頭に来てたんでしょうね」


 おお、なんて頼りになる人たちなんだ。

 後で挨拶に行った時お礼を言っておかなきゃな。


「捕まった連中はそれぞれの罪の重さで刑罰が言い渡されるわ。まあ、もし軽い罰で済んだとしても、もうヴォーレンドじゃあ暮らせないでしょうね。とりあえず、この件についてはこんな所かしら。それから、次はこっち」


 そう言ってジャネットさんは布袋を指さす。


「あなたたち、以前ヴォーレンドに来る前に偽商人を捕らえたのを覚えてる?」


 勿論。忘れられる訳がない。

 俺たちはジャネットさんに頷いた。


「その偽商人から違法な奴隷を扱う闇のルートを掴むことが出来たわ。それで、そのルートはギルドによる大規模な粛清で壊滅したそうよ。あなたたちが偽商人を捕らえたお陰ね。これはその報奨金よ、受け取って。テオドールさんやダグラスさんにも既に支払われてるわ」


 俺たちは金貨の入った布袋を受け取った。

 そうか、これで少なくともあの偽商人によって苦しむ人はもう増えないんだな。

 どこか、心が晴れていくような気持ちになった。


「残念なことに、そう言ったルートっていくら潰しても無くなるものじゃないんだけど……それでも、あなたたちは自分のしたことを誇っていいと思うわ。とりあえずこんな所ね」


 さて、そうなると、もうヴォーレンドでやるべきことは全て終わったんだな。

 ジャネットさんにもちゃんとお礼を言っておかないと。


「あの、ジャネットさん。俺たち近いうちにヴォーレンドを発つことにしたよ」


「あら、そうなの? って、ええええええええええええええええええええええええええ!?」


 ジャネットさんが机から身を乗り出してくる。

 ちょっ、近い近い!

 一旦落ち着いてもらい、俺たちの事情のうち話しても大丈夫な部分をジャネットさんに説明する。


「……それでライナギリアを目指すのね……ねえ、無理を承知で聞くけれど、ヴォーレンドで暮らすつもりは無いの?」


「ああ。この町にも色々親しい人は出来たけど、やっぱり俺たちのことを心配している筈の父さん母さんに、ちゃんと無事な姿を見せてやりたいから」


「……そうよね」


 そう呟いてジャネットさんは黙ってしまった。

 そんなジャネットさんの様子を見て、リディが何かに気付いたようだ。


「あれ? ジャネットさん、泣いてるの?」


「え? ちょ、ちが……わないわね。最初は有望株の担当になれてラッキー程度の気持ちだったけれど、いつの間にかあなたたちがいるのが当たり前になってたみたいね」


 ジャネットさんが目の端に溜まった涙を拭う。


「分かったわ。頑張ってらっしゃい。でも……ちゃんとまた顔見せに来るのよ! いいわね!?」


「「「はい!」」」


 そして、正確な出発の日取りが決まったら改めてジャネットさんに教えることとなった。

 なんでも見送りに来てくれるそうな。

 ……ヴォーレンドでもまた三人で涙することになっちゃいそうだな。



 ◇◇◇



「ええええええ、やだやだやだ!」


 そう言ってサニーちゃんが俺たちにしがみ付いて来る。

 ギルドの次は、テオドールさんの商店を訪れ、誘拐未遂事件の協力者の捕縛についてのお礼と、近いうちに出発することと俺たちの事情を説明した。

 すると、今の状況になってしまったと言う訳だ。


「これサニー。皆さんにも事情があるんだ」


「そう……本音を言うなら、このままヴォーレンドに残って欲しいのだけれど、ご両親のことを思うとそんなことはとても言えないわね……」


「うううぅうう……」


 テオドールさんに窘められ、サニーちゃんがどうにか離れてくれる。

 だけど、目にはいっぱい涙を浮かべ、それは今にも流れ落ちそうになっていた。

 俺はしゃがんでサニーちゃんと目線を合わせる。そしてサニーちゃんの頭を撫でる。


「大丈夫、一度村に帰ったらまた会いに来るから」


「その時は……うぅ、また一緒に……遊ぼうぅぐ……ね」


 リディも涙声でそう語り掛ける。


「今度は一緒にお風呂にも入ろうね」


 レイチェルもサニーちゃんの頭を撫でる。

 そこでサニーちゃんは限界を迎えてしまったらしく、リディと抱き合って大泣きを始めてしまった。

 それをレイチェルとオリアーナさんがどうにかあやしている。


「テオドールさん、オリアーナさんも色々とお世話になりました。さっきサニーちゃんにも言った通り、またヴォーレンドには戻ってくるつもりなので、その時もよろしくお願いします」


「いえ、寧ろ私たちの方こそお世話になりました。またいつでもここを訪れて下さい」


「出発の日取りが決まったら教えて下さいね。私たちも見送りに行きますから」


「絶対……まだぎでね!! やぐぞぐだよ!!」


 リディとサニーちゃんが泣き止むまで少し休ませてもらい、俺たちは次の目的地へと向かった。



 ◇◇◇



「成程のう……特にお前さんたち兄妹は普通じゃないとは思っていたが」


「もうさー、皆ここに住んじゃえばいいと思う」


「ケイナ、無理を言っては駄目だ。モノクロームの皆さんがいなくなると寂しくなりますね」


 次に訪れたのは勿論ダグラスさんの工房だ。

 テオドールさんの時と同じく、協力者捕縛のお礼と、出発のことと俺たちの事情を説明した。


「なに、これが今生の別れでもあるまいよ。また君たちはここに戻って来るのだろう?」


「ああ、そのつもりだけど。ダンジョンももっと奥まで行ってみたいし」


「うふふ、なら何も問題無いじゃない。その時を楽しみにしているわぁ」


 丁度、クロードさんとマルグリットさんもいたので一緒に挨拶を済ませている。

 何でも、魔道具を使ってミスリル糸の制作が出来ないか三人で協力しているそうなのだ。


「がっはっは! そう言うことだ。まずは両親にちゃんと元気な顔を見せてやれ。またお前さんたちがここに来た時は……そうだな。その時は儂もお前さんたちの村へ連れて行ってもらうとするか」


「その時は歓迎するよ。エルクおじさんも喜ぶんじゃないかな」


「ちょっ、親方! ここはどうするんですか!?」


「その時はお前がここを継げばいいじゃろ、マイケル。それくらいのことは出来るようにお前のことは鍛えている筈だぞ」


「ま、まだ俺には早いですよ!」


「甘ったれたこと言うなバカタレ!」


 あー、ダグラスさんとマイケルさんが口論を始めてしまった。

 ケイナさんは苦笑している。


「あー、皆さん、いつものことなのでお気になさらずー。日取りが決まったら教えて下さいねー。皆で見送りに行きますから」


「僕もお邪魔させてもらおうかな」


「その時は私も行くわね」


 ここでも全員が来てくれるそうだ。

 こりゃ出発の時は我慢出来そうにないな。


 ダグラスさんとマイケルさんの口論を見ながら、俺はそんなことを考えていた。



 ◇◇◇



 ジェットたちがヴォーレンドでお世話になった人たちに挨拶をしていた頃、レイチェルの実家であるカーグの満月亭に大きな荷物が届けられていた。


「はい、そこで結構です」


「皆さん、お疲れ様でした」


「なーに、これも依頼のうちだ、気にしないでくれ。ああ、後はこれも」


 そう言ってアイアンハートのウォズは何かの入った木箱と三通の手紙を満月亭の主人、ディンに渡す。

 差出人の名を見て、共に荷物を運び込む作業をしていたヴァン共々笑みが零れる。


「それと、ここの宿は飯が美味くておすすめだと聞いている。五人だが部屋は空いているか?」


「は、はい! 精一杯おもてなしさせて頂きます」


「ダンジョンでは味気ないものばかり食っていたからな。楽しみだ」


 その後、アイアンハートの面々は食事の味に感動し、予定より数日長めに宿泊することを決めたのだった。



 そして、その日の夜、


「へえ、この魔道具で湯が沸かせるのかい」


「ジェット君によると、それを使って是非風呂に入ってくれとのことだ」


「この浴槽、ジェット君の手作りなんだよなあ。リディちゃんは新しく動く人形を従魔にしたって言うし……ははは、あの兄妹はヴォーレンドの方でも滅茶苦茶やってるみたいだね」


 レイチェルたちから届いた手紙を読み終えた三人は、折角なので届いたゴーレム鋼の風呂に入ってみることにしたのだ。

 早速水を張って魔道具で湯にしていく。


「おお、こんな簡単に湯が出来ちまうなんて……しっかし、風呂なんて高級品、うちには勿体なさすぎるよ」


「だが、折角レイチェルたちが私たちにと送ってくれたんだ。偶には使わせてもらおうじゃないか」


「ほら、準備出来たよ。母さん先に入りなよ」


「それじゃあお言葉に甘えようかねえ」


 その後、アルマが風呂から上がるのに一時間以上の時間を費やすこととなる。

 大興奮のアルマを見て、最初は大袈裟だと思っていたディンとヴァンも、実際に風呂に入ってみてアルマの態度が大袈裟でも何でもないことを理解するのだった。


 その日以来、三人にとって風呂は無くてはならないものとなっていくのであった。

ここまで読んで頂きありがとうございました!

次話から新章に突入します。


新章についてはまだまだ執筆途中ですが、一日一話は継続していきます。

予定では新しいメンバーも増やすつもりです。


引き続きよろしくお願いします!

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