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64話 えげつない行為

「もう! なんなのこいつら!」


 意識を失い拘束された二人組を見て、リディは相当ご立腹な様子だ。


「……一応、Cランク冒険者っぽいな二人とも」


 二人組の懐からギルドカードを抜き取り詳細を調べる。


「ポヨンちゃんとキナコちゃんを攫ってどこかに売り払うつもりだったんでしょうか。ポヨンちゃんもキナコちゃんも相当珍しい魔物ですし」


「多分そんな感じだろうな。ジャネットさんに忠告してもらってて良かったよ」


「ポヨン、キナコ、次はもっと色んな方法を考えようね」


「さて、こいつらどうしようか? 正直、こいつらのやってることって野盗みたいなもんだから、このまま始末してもいいと思ってるんだけど」


 こう言う輩に躊躇しては駄目だ。

 それはあの偽商人と野盗たちから学んだ。


「こんな奴らゴーレムに叩き潰されればいいんだよ!」


「あの、この二人ギルドに引き渡しませんか?」


 レイチェルがそう提案してくる。


「一応聞くけど、どうしてだ?」


「はい、この人たちってポヨンちゃんとキナコちゃんを攫って、多分ダンジョンの外へ出るつもりだったんですよね? そうなると、門を通る時に確実にばれちゃうと思うんです」


 それは俺も疑問に思ったんだよな。


「わたし思うんです。もしかしたら外からポヨンちゃんとキナコちゃんを回収する為の協力者がいたんじゃないかって。それか……あまり考えたくないですけど、係員の中に共犯者が」


「成程……こいつらをギルドに突き出して、徹底的に調べてもらおうって訳か」


「はい、どうでしょうか?」


 確かに……レイチェルの提案は理に適っている。

 こいつらをここで始末しても、協力者がいるのならまたそいつが別の方法で狙ってくるかもしれない。

 それだったら、こいつらから辿って一網打尽にしてしまった方がいい。

 それに、レイチェルとしてはこんな奴らでもやはり簡単に始末すると言うのは良心が痛むんだろう。

 ……まあ、決して気持ちのいいことではないからな。


「……分かった。確かにその方が何かと良さそうだ。リディもそれでいいか?」


「……うん。すっごく腹が立つけど我慢する」


 さて、そうなるとこいつらをどうにかして運び出す手段を考えないとな。

 全く……こんな余計な荷物いらないんだけどな。


「リディ、大きめのゴーレム鋼を出してくれ」


「いいけど、どうするの?」


「こいつら運ぶソリでも作るよ。こんなやつら抱えてたら魔物が出た時に戦えないからな」


 リディが出したゴーレム鋼を加工していく。

 まずは大まかにソリの形を作り、地面と接する部分を可能な限りツルツルにしていく。

 そして、ソリの中心から一本太い石柱を作り出し、二人組の拘束具を加工してその石柱に念入りに括り付ける準備をする。

 おっと、その前に、


「とりあえずこいつらの武装は解除しておかなきゃな」


 二人組の武器や小物入れを外し、俺の『亜空間収納』へと仕舞う。

 念の為、服も脱がせて何か仕込んでいないか確認する。


「あ、あの師匠……それも脱がすんですか?」


 そう言ってレイチェルが二人組の腰の辺りを指さす。

 ……あー、あまり触りたくないけど調べておいた方がいいか。


「……おう。念の為な」


 そう言って俺は、二人組の下着も脱がせていく。

 見苦しいものが見えるけど我慢我慢。

 その様子を見てレイチェルは、目を両手で覆っている……けど、それ指の隙間から思いっきり見えてるだろ。


「あ、ねえおにい、そいつらそのままでいいんじゃない?」


 ……リディよ、いきなり何を言い出すんだ?

 お兄ちゃん、ちょっと心配だぞ。


 俺の心配をよそに、リディは亜空間から紙とペンを取り出し、何かを書いて石柱に貼り付けていた。


「……あー、これはえげつないな。俺だったら立ち直れなくなるわ」


「……リディちゃん、容赦ないねえ」


「ポヨンとキナコを攫おうとしたんだもん。これぐらいで済んで感謝してもらいたいくらいだよ!」


 リディの怒りはまだまだ収まらないらしい。

 まあ、こいつらの場合は自業自得だ。同情の余地は一切無い。

 という訳で、リディの案を採用し、裸のままソリの石柱に括り付ける。

 こいつらの着ていたものは、俺が『亜空間収納』へと仕舞っておく。ギルドへ突き出す時にジャネットさんにでも渡しておこう。


 こうして、二人組を拘束したゴーレム鋼のソリを引きながらダンジョンを移動する。

 大きめのゴーレム鋼と大人の男二人分の重量があるから結構重いな。だけど、『身体活性』の出力を上げればどうにかなるし、何より体を鍛えるのに丁度いい。


 さすがに階層移動の時なんかは、リディとレイチェルにも協力してもらう。

 ……いらないと思ってたけど、荷車の用意もしておいた方がいいのかもな。

 途中、何度か冒険者とすれ違ったんだけど、俺たちの様子を見てぎょっとした表情をし、石柱に貼り付けられた紙を見て納得の表情を浮かべていた。


 そうこうしながら、普段の倍くらいの時間をかけてダンジョンを脱出した。

 ふぅ、疲れた。


 ソリを引いて門へと向かう。


「おかえりなさ……えっ!?」


 顔馴染みの係員が挨拶をしてくるも、裸の男二人を括り付けたソリを引く姿を見て言葉を失ってしまったようだ。

 俺は係員に軽く事情を説明する。


「成程……皆さんが無事で良かったですよ。もし必要でしたらこちらからも人手を用意しましょうか? そのソリ、かなりの重量がありそうですし」


「あー、ギルドまで運ぶだけだから大丈夫。町中なら坂道を避けてギルドまで行けるし、これくらいの重さならどうってことないよ」


「そ、そうですか……どう見ても一人で引けるソリじゃないんだが……」


 後の方はよく聞き取れなかったけど、ちゃんと納得してもらえたようだ。

 それに、この人を疑っている訳じゃないけど、念の為今回に関しては俺たちだけで運びたい。


 係員との会話を終え、ソリを引きながらギルドに向かって町中を移動する。


「な、なんだあれ!?」


「きゃああああああああああ!!」


「ふん、馬鹿な奴らだ」


「ぷっ」


「あんな風になっちゃいけませんよ」


 とても目立つもんだから、自然と周囲から視線が集まりひそひそ話や悲鳴が聞こえてくる。

 すれ違う町の住人たちは、最初は驚愕の表情で俺たちや裸の男たちを見てくるも、ソリの石柱に貼り付けられた紙を見て最後には軽蔑のまなざしを男たちに向けていた。


『私たちはモノクロームから従魔を攫おうとして返り討ちに遭いました』


 まあ、こんなことが書かれているんだからな。


 その後もギルドに移動するまで同じような状況が続いた。

 ギルドに到着し、ソリの見張りをリディとレイチェルに一旦任せ、俺はジャネットさんに今回の件を報告に向かった。


「あ、ジェット君おかえり。調査の件かしら? って珍しく今日は一人なのね」


「ただいまジャネットさん。そっちについては討伐したから後できちんと報告するけど……それとは別にジャネットさんが心配してたことが起きちゃって」


 そう言って俺は二人組のギルドカードをジャネットさんに渡す。

 そのカードを受け取ると、ジャネットさんの表情が険しくなる。

 どうやら、何が起こったのか察したみたいだ。


「大体分かったわ。ポヨンちゃんとキナコちゃんも含め、あなたたち全員無事なのね?」


「ああ、ジャネットさんの忠告のお陰だよ。ありがとう」


「ふふ、あなたたちの役に立てたようで良かったわ。それで、この二人は今どこに?」


「外に拘束して今リディとレイチェルが見張ってる」


「分かったわ。すぐに人を寄越すから二人の所に行ってあげて」


「分かった。あ、ジャネットさん」


 奥へ向かおうとしていたジャネットさんを呼び止め、男たちの装備や着ていた服を渡しておく。

 一瞬訳が分からない様子のジャネットさんだったけど、下着を見て状況を察したようだ。顔を真っ赤にして慌てた様子で奥へ人を呼びに向かって行った。


 リディ、レイチェルと合流し、やって来たギルド職員たちに闇魔術で眠らせていることを説明し、裸の男たちを引き渡す。

 その後、ジャネットさんの案内に従って前にも通された個室へと移動する。

 オークチーフ討伐の件、ポヨンキナコ誘拐未遂の件、それぞれを順番に説明していく。


「……一先ずお疲れ様。オークたちについては後で解体場の方に出してもらうわ。報酬は後日、いつも通り解体した肉と一緒に用意しておくわね。それと、あの男たちの協力者についても了解したわ。おそらくあなたたちの推測通り、私も協力者が存在する可能性が高いと思う。ギルドの方で徹底的に尋問して探し出すわ」


「よろしく頼むよ。それで、あの男たちってどうなるんだ?」


「まず間違いなく冒険者ギルドからは登録抹消処分が下るでしょうね。その後はおそらく犯罪奴隷として引き渡されるんじゃないかしら? 後であの二人のことについては詳しく調べるけど、そうなったら多分それなりに重い刑期が言い渡されると思うわ。適当な処分をしちゃったら間違い無く今回のことを知った職人たちが黙ってないでしょうし、冒険者ギルドとしても示しが付かないからね」


 まあ、あんな目立つ方法でここまで連れて来たんだからな。

 ダグラスさんやクロードさんも間違いなくどこかから話を聞くことになるだろう。


「まあ、今回の件はいい警告にはなったんじゃないかしら? 下手にあなたたちに手を出すとこうなるぞって。それを見越してあんな風に運んで来たんでしょ?」


 そう言ってジャネットさんがちょっと赤くなる。

 どうやら裸の男たちのことを思い出してしまったようだ。


「あ、いや、そこまでは考えてなかったんだけど……確かにジャネットさんの言う通りだ。これで妙なこと考える奴が減ってくれればいいんだけど」


 まあ、リディの提案は結果的に効果的だったみたいだな。

 それに、レイチェルがあいつらをギルドに引き渡すことを提案してくれなかったら、そもそもこう言う結果にはなってなかっただろうし……やはりちゃんと周囲の意見を聞くことは大切なことだ。


「この件については進展があり次第あなたたちに報告するわね。それまでは普段通り活動してもらっていて問題無いわ。ただ、くれぐれも気を付けるのよ?」


 ジャネットさんの言葉に俺たち全員が頷く。

 その後は解体場の方に移動し、討伐したオークたちを並べていく。

 オークチーフを出した所で周囲から感嘆の声が出る。腹の風穴についてはちょっと勢い余ったと説明しておいた。


「確かに倒せるようなら倒してもらっても構わないとは言ったけど……これだけの量のオークを本当に倒してくるなんて……ぐふふふふ」


 ジャネットさんが自分の世界に入って行く。

 なんだかんだでこの人のこんな様子にも慣れてきたもんだな。


 そうしてオークの解体や誘拐犯の尋問はギルドに任せ、俺たちは今日は宿に帰って休むことにした。

 あ、少しゴタゴタが片付くまで時間が掛かるだろうし、宿の宿泊延長を頼んでおかないとな。

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