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61話 ミスリルスライムとマキナドール

「……おい、あれが……」


「ああ……噂は本当だったんだな」


「きゃあああ、何あれかわいいっ!」


 宿からギルドを目指し町中を歩いていると、やたらと周囲から視線を向けられ、ひそひそ話や歓声も聞こえてくる。


「……やっぱり目立っちゃいますね」


「まあな……」


 俺はリディの隣を見る。

 すると、紫色の瞳が不思議そうに俺を覗き込んでくる。


 そう、今俺たちの隣をキナコが歩いているのだ。

 キナコの歩幅に合わせてゆっくり歩いているもんだから余計に目立つ。

 俺たちは、宿で朝食を食べ終え、いざギルドに向かおうとしたところである問題に気付いてしまった。

 キナコを隠す手段が無いのである。


 マキナゴーレムとマリオネットがそれぞれ別々だった時は、キナコ本体は少し狭いけどポヨンと一緒に鞄に、マリオネットは『亜空間収納』で仕舞えばよかった。

 だけど、現在のキナコは鞄にはとてもじゃないけど入らないし、『亜空間収納』にも勿論入らない。

 一時的に別々にすることも考えたけど、素人が下手に手を出すと取り返しがつかないことになりかねないし、何よりキナコが嫌がったので止めておいた。

 仕方ないので最初はリディが抱きかかえていたんだけど、町を歩いているうちにキナコが自分で歩きたくなったらしく、こうやってギルドまで一緒に歩いているのだ。


「ん? あれが気になるの? あれは屋台って言って食べ物を売っているんだよ」


 キナコは街の景色に興味津々なようで、時折指さした場所をリディに説明してもらっている。

 屋台のおじさんは、独りでに歩く謎の人形に急に指をさされたことで挙動不審になっていた。

 俺はおじさんに軽く事情を説明し、お詫びに屋台で人数分の昼食を買っておいた。


 そうこうしながらようやくギルドに辿り着く。

 ギルドの扉を開けると、そこでもやはり視線が集まってしまう。

 ジャネットさんが手を振っていたので足早にそっちに向かう。


「来たみたいね。まあ、ここじゃ落ち着かないだろうから奥へ移動しましょうか」


 ジャネットさんはこうなることを予想していたようで、奥の個室を確保しておいてくれたそうだ。

 これはありがたい。なんだかんだ言って気が利く人なんだよな。


 ジャネットさんに案内され奥の個室に通される。

 そして、ジャネットさんはテキパキとお茶の用意をし始めた。


「あなたたちのことは既に噂になってるわよ。元々目立っていた上に今回のキナコちゃんだからね。モノクロームは今ヴォーレンドで一番注目されているパーティーな筈よ」


 そう言ってジャネットさんはケラケラ笑う。


「別に俺たちは目立ちたい訳じゃなかったんだけどなぁ。普通にダンジョンに潜っていただけなのに」


「ジェット君の言う普通は普通じゃないからね! ま、こればっかりはしょうがないわ。暫くすれば落ち着いてくるだろうからそれまで我慢ね」


 お茶を配り終えたジャネットさんが俺たちの向かい側に座る。

 そして、ペンを持ち書類を広げた。


「さて、それじゃキナコちゃんの従魔登録をしましょうか。ポヨンちゃんは既にされているから大丈夫よ」


 どうやら最初にメリアさんがやってくれていたらしい。


「とは言っても大体の部分は既に終わっているんだけどね。後はキナコちゃんの種族なんだけど……この場合はマキナゴーレムになるのかしら? それともマリオネット?」


「えーと、キナコ自身はマキナゴーレムだしマキナゴーレムかなあ」


「でも、見た目だけならどう見てもマリオネットなんですよね」


 リディとレイチェルがどっちがいいのか話し合っている。


「いっそ両方にしておけばいいんじゃないか? それか何かしらの手段で今のキナコがどっちなのか……ああそうだ! リディ、『分析(アナライズ)』はどうだ?」


「ああそうか。まだキナコのことは視たことなかったね」


「あならいず?」


 ジャネットさんが首を傾げる。


「ああ、えっと、リディは自分の従魔の情報を視る魔術を使えるんだ」


 詳しいことを教えると面倒なことになりかねないので誤魔化しておく。

 ただ、さっき言ったこと自体は本当だ。

 例えば『分析(アナライズ)』でポヨンを見ると、


――――――――――――

ポヨン (スライム)


状態:従魔

体調:良好


魔装変形(アームズ)

――――――――――――


 こんな風に見えるらしい。


「……今更それくらいのことじゃ驚けなくなってきたわね。まあいいわ。それじゃリディちゃん、お願い出来る?」


「うん。キナコ、ちょっと視せてね」


 リディがキナコを『分析(アナライズ)』で視る。


「えっと、マキナ……ドール?」


「マキナドール……どうやらキナコちゃんってば新しい種族として生まれ変わっちゃったのかしら」


「あれ? 視れるものが増えてる? ポヨン、ちょっと視せて」


 今度はポヨンを『分析(アナライズ)』で視る。

 さっき、視れるものが増えてるって言ってたけど……


「やっぱり! あたしとの関係の強さみたいなものを視れるようになってる……ん? ミスリルスライム? ポヨンってミスリルスライムってスライムだったの!?」


 どうやらもっと詳しい情報を視ることが出来るようになったみたいだ。

 リディの問い掛けにポヨンがプルンと震える。

 なんとなくだけど、ポヨン自身もよく分かってなさそうだな。


「……え、ミスリルスライムって何? そんなスライム聞いたことないんだけど……」


 どうやらジャネットさんも初めて聞く種のスライムだったらしい。

 だけど、俺たち三人は妙に納得していた。


 ポヨンの奴、体はミスリルと同じ薄青緑だし、普通のスライムが食べないような金属も平気で食べる。その中でも特にミスリルが大好物だ。

 そう言えば、最初は薄鈍色だったんだよな。同じような色をしたゴーレムがメタルゴーレムって言うらしいし、元はメタルスライムとかだったのかな? それがミスリルを食べ続けたことでミスリルスライムに進化したんだろうか。


 ジャネットさんが口を開けたまま固まってしまった。

 あ、なんか懐かしいなこの状況。メリアさんの時と同じだ。


「おーい、ジャネットさーん」


「……はっ! ごめん、やっぱりあなたたちは驚くことばかりだわ」


 再起動したジャネットさんが書類を書き進めていく。

 どうやら、ポヨンの分も追加で書き込んでいるみたいだ。


「はい、これで終了よ。それにしても、新種の魔物を二種も従魔にしているなんて……いい、誘拐とかには気を付けるのよリディちゃん。特にキナコちゃんのことは知れ渡っちゃっているから」


 ジャネットさんの表情が真剣になる。


「まあ、事情を知っている冒険者はキナコちゃんに手を出したりしないとは思うけど。そんなことしちゃったらダグラスさんを始めヴォーレンドの職人たちを敵に回しちゃうことになるしね。だけど、事情を知らない問題のある冒険者なら欲に目が眩んでも不思議じゃないわ。リディちゃんは未成年だから尚更カモに見えるでしょうしね。ジェット君とレイチェルちゃんも気を付けてあげるのよ」


「分かった、忠告ありがとう、ジャネットさん」


「分かりました」


「あたしも分かった。ポヨンとキナコにもよく言い聞かせておく」


「なんだったら、この子たちにも自衛の手段とかも仕込んでおくといいかもね」


「あ、それいい! 後で一緒に考えようね、ポヨン、キナコ」


 ポヨンが大きく伸びをし、キナコがこくんと頷く。


「よし、それじゃ次ね。昨日も言ったけど、あなたたちに頼みたいことがあるの」


 そう言ってジャネットさんは一枚の手配書を差し出す。


「えっと、オークチーフ? 目撃場所は地下九階か」


 どうやら賞金首(ウォンテッド)討伐の話のようだ。

 オークと言う名を聞いてリディとレイチェルがちょっと嫌そうな顔をする。


「オークチーフって言うのはオークの上位種ね。あなたたちの持ち込んだオークの中にオークリーダーって言う上位種が混じっていたんだけど、それの更に上位の種よ。ゴブリンの上位種と同じく統率能力を持っているわ」


 ああ、中に特に体の大きなオークが何体かいたけどそれが上位種だったのか。

 どのオークもリディとレイチェルを見て大興奮状態で統率も何も無かったんだよなあ。


「そいつを討伐すればいいのか?」


「可能ならね。目撃場所は地下九階ってあるでしょ? でもそれって少し正確ではないの」


「複数出現したとか?」


 カーグの時のゴブリンキングもそうだったしな。


「いえ、最初は地下九階で目撃されたんだけど、数パーティーの冒険者たちが討伐しようとして、その時地下十階の方に逃げられたらしいのよ。地下十階に行く冒険者はそうはいないから、それ以降の消息が不明になっちゃってるの。あなたたちならゴーレムとだって問題無く戦えるでしょ? だから、地下十階以降を調査して、このオークチーフがどうなったのか調べてもらいたいのよ」


 成程な。

 ゴーレムを避けてか地下十階以降は活動する冒険者の数が一気に減る。

 そこで、ゴーレム相手でも問題無い俺たちが呼ばれた訳か。


「もしどこにも見付からなかったら?」


「その時は調査終了で構わないわ。もしかしたらゴーレムに倒されちゃって、その後スライムにでも処理されてる可能性だってあるんだし」


 リディとレイチェルの方を見てみる。

 少し嫌そうな顔をしているけど、頷いたので受けてもいい、と言うことなんだろう。


「分かった。そのオークチーフを探してみるよ」


「ええ、よろしく頼むわ。この件はギルドからの指名依頼として処理させてもらうわね。それと、さっきも言ったけど、もし見付かって倒せるようなら倒してもらっても構わないわ。無理そうなら目撃場所の報告をお願いするわ。その後はどう処理するかギルドで判断するから」


「ああ。準備を済ませたら調査に向かうよ。あ、そうだ。ジャネットさん、俺たちからもギルドに依頼って出せる?」


「ええ、問題無いわ。何を依頼するの?」


「カーグの満月亭って宿屋に届け物を頼みたくて」


「確かレイチェルちゃんの実家だったかしら? 何を届けるの?」


「ゴーレム鋼で作った浴槽と魔道具、それと手紙かな。浴槽はこれくらいの大きさなんだけど」


 俺は両手を使って大きさを表現する。


「成程……それじゃ、この後倉庫に一旦荷物を出してもらおうかしら。その後見積もりをして、依頼料と手数料を払ってもらってから依頼を貼り出すことになるわね」


「分かった。よろしくお願いします」


「了解よ。もし可能そうだったら腕のいいパーティーに依頼を受けられないか聞いておいてあげるわ」


「おお、流石ジャネットさん!」


「ふふ、もっと褒めていいのよ! それじゃ倉庫の方に移動しましょうか」


 その後、倉庫に移動し浴槽と魔道具、それと俺たちが書いた手紙をジャネットさんに任せる。

 そして提示された依頼料と手数料を支払って、配達依頼として処理してもらった。

 信頼出来そうな冒険者が依頼を受けてくれたらいいな。


 それから、俺たちはオークチーフの調査に向かう準備を済ませ、ダンジョンへと向かって行った。

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