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60話 お米を食べよう

「うふふ、今は用意出来ていないけれど、キナコちゃんにはこんな服装も似合うんじゃないかしら?」


「それだったらこんな感じのものも」


「例えばこんなのも」


 女性陣はキナコにどんな服が似合うかと大盛り上がりだ。

 当のキナコは、今度はサニーちゃんに抱きかかえられている。


「全く……儂らが鎧のことを熱く語っておったら呆れた目で見ておったくせに」


「ははは、仕方ないですよ親方」


「ああ、僕たちの手によって古代のマリオネットが新たな魔道具として蘇ったんだ! 今日はヴォーレンドにとって記念すべき一日だよ!」


「はっはっは、私も衝動的に仕入れた甲斐があったと言うものです」


 俺を含め、ここにいる男性陣にはあまり理解出来ない世界のようだ。


「リディー! そろそろ昼の準備をするぞー!」


「うん、分かった。ポヨン、キナコ、ちょっと待っててね」


 用意されていたテーブルに、リディがどんどん料理を並べていく。

 ご飯もの以外にも肉やスープも並べていく。肉はビッグディアとオークの肉、スープはヴォーレンドの人気店で買ってきた出来合いのものだ。

 初めて『亜空間収納』見た職人たちは、どこからともなく出来立ての料理が出てくる光景に驚愕の表情を浮かべていた。


「皆さん、今回はありがとうございました! 俺たちで昼食を用意したので是非食べて行って下さい」


「あら? ジェットさん、もしかしてこれが」


「はい、これは米を使った炊き込みご飯と言う料理です。で、こっちは焼き飯。あっちの白いものが普通に炊いた米です」


 オリアーナさんに説明をすると、早速テオドールさんやサニーちゃん共々各種ご飯ものを食器によそっていた。

 そして白米から順に口に運び、テオドールさんとオリアーナさんは真剣な商人の表情で味を確かめている。


「おお、美味い! この白米はどんなものとも合いそうだ」


「私はこの炊き込みご飯が気に入ったわ。こんな食べ方があったなんて」


「やきめし美味しー!」


 お、どうやら好感触なようだ!

 再起動した他の職人たちも思い思いに料理を食べている。

 やはり、イメージ通り肉類が大人気だ。


「あなたたち、暫くダンジョンに潜っていないと思ったらこんなことしてたのね。全く、私に黙ってるなんてどう言うつもりかしら?」


 手に持った皿に山の様に料理を並べたジャネットさんが声を掛けてきた。


「ああ、うん。一度町で色々やりたいことがあったから。それに、後でちゃんと報告しようと……って、受付の仕事はいいのか?」


「大丈夫よ! ちゃんと有給はとって来てるわ! 何より、自分の担当パーティーの動向はちゃんと把握しておくのが出来る受付嬢ってもんよ」


 そう言うものなんだろうか?

 まあ、ジャネットさんがそう言っているんだしいいか。


「あのキナコちゃんはリディちゃんの従魔になるんでしょ? 明日にでもちゃんと私の方で処理しておいてあげるわ。それと、あなたたちに頼みたいこともあるから明日一度ギルドにいらっしゃい」


 頼みたいこと? なんだろう?


「分かった。それじゃ明日の朝訪ねさせてもらうよ」


「ええ、よろしくね」


 ジャネットさんは、今度はご飯ものを狙いに行ったようだ。

 まだあんなに手に持った皿の上に料理が並んでるのに……


「おお、そうだ。君たちにキナコ君のことについて色々説明しておこうか」


 入れ替わるように今度はクロードさんがやって来た。

 キナコのことを説明してくれるそうなので、リディとレイチェルも呼んでおく。


「君たちも知っての通り、キナコ君は内部のマキナゴーレムがマリオネットを操作している。マリオネット自体は魔道具の一種だが、キナコ君と繋がっている今の状態は一種の生命体に近い存在だ」


 マキナゴーレム状態のキナコは『亜空間収納』に仕舞えなかったからな。

 それについては納得だ。


「マリオネットは戦闘用の人形で、本来はマリオネイターが糸で操り武装を行使するものだ。だが、キナコ君はそれを自律的に行うことが可能だ。何を隠そう今回僕たちが新たに搭載した武装もある。簡単な説明書は後で渡すから目を通しておいてくれたまえ。そして、後で実際に見せてもらうといい」


 へえ、こんな小さい人形に本当に戦闘能力があったんだな。


「ねえクロードさん、キナコが壊れちゃったらどうしたらいいの?」


「ああ、それも心配はない。さっき生命体に近い存在だと言ったが、どうやらキナコ君の本体マキナゴーレムには自己再生能力があるようでね。それを通じて簡単な破損ぐらいなら時間と共に修復する筈だ。確か魔力、だったか。それを与えるとよりいいだろうね。大きい破損の場合は代わりになる素材が必要になると思う。どうしても無理な場合は僕の所に持ってくるといい。僕の工房の場所の地図も説明書と一緒に渡しておくよ」


「うん、分かった。キナコの素敵な体を作ってくれてありがとうございます!」


「ははははは、お礼を言いたいのは僕の方さ。こんな素晴らしい経験そうそう出来るもんじゃあない」


「おお、そうじゃ。レイチェル、お前さんの武器も渡しておこうか」


 今度はダグラスさんがそう言って三振りのナイフを持ってくる。


「あれ? ダグラスさん、一本多いですよ?」


「おう、後で説明するからちょっと待て。まずは元々使っておった二振りじゃ。一度手に持ってみろ」


「はい。あ、凄い! 手にピッタリ吸い付くみたいですよ」


「うむ、特に問題は無さそうだな。お前さんの手や握り方に合わせて持ち手部分を調整しておる。これで使い勝手が増している筈じゃ。それとコイツだが」


 そう言ってダグラスさんが最後のナイフをレイチェルに渡す。

 刃渡りは俺がレイチェルに渡したミスリルナイフと同じくらいだろうか?

 見た感じ柄にはミスリルが使われているみたいだけど、刃の部分には別の素材が使われているようだ。


「コイツはライトニングホーンの角で作った試作品のナイフじゃ。本来なら魔石が必要なんだが……魔術師でもあるお前さんなら自力で扱えるだろう。そのナイフに魔力を流してみろ」


「はい。んむむむ……わわっ!」


「がっはっは! 上手く出来ておるようじゃな!」


 レイチェルがナイフに魔力を流すと、刃に雷が発生した。

 これだとレイチェルにも雷が流れてしまいそうだけど、特にそんなことはない。

 どうやら持ち手部分に巻かれているのはライトニングホーンの毛皮を加工したもののようだ。


「す、凄い! えっと、いいんですか? わたしが使っちゃって」


「おうよ。さっきも言っただろ、試作品だって。あの角を使った雷の剣を作る為の実験用武器だから問題無い。持ち手部分もお前さんの手に合わせているから他の奴には渡せんし、何より魔石を装着する部分も設けていないから普通の冒険者にとっちゃただの切れ味の鋭いナイフだしな」


「そう言うことでしたら……ありがとうございます、ダグラスさん!」


「おう!」


 さて、そろそろ俺たちも並べた料理を食べようか。


 俺たち三人も既に料理を食べている人達に混ざり、思い思いに食事を進めていく。

 その時に俺とリディが使っていた箸が珍しかったようで、皆も箸に挑戦していた。

 だが、慣れない箸に皆悪戦苦闘だ。既に挑戦したことのあるレイチェルは納得の表情を浮かべていた。

 そんな中、ダグラスさんは暫くすると器用に使いこなしていた。


 そして、用意していた料理はあっと言う間に減っていき、急遽料理を追加することになった。

 オリアーナさんやケイナさんにも手伝ってもらい、どんどん料理を追加していく。意外なことにマイケルさんも料理上手なようで、食材を渡すとさっと料理を作ってくれるのだ。ケイナさん曰く、マイケルさんはケイナさんの料理の師匠らしい。


 それと、米の炊き方を実際に見てみたいとテオドールさんたちにお願いされたので、ここで米を炊き方を実演してみることにした。


 米をリズミカルに研いでいると、サニーちゃんがやってみたいと言ってきた。

 折角なので、サニーちゃんの分とオリアーナさんの分も用意し、テオドールさん一家で体験してみることになった。

 オリアーナさんは最初は苦戦していたけど、すぐにコツを掴んで上手に研げていた。

 サニーちゃんは楽しそうに米を研いでいる。だけど、研ぎ方自体はまだまだ未熟なので、テオドールさんが一緒に手伝っていた。


 研ぎ終わった後は暫く水に浸し、その後釜を使って炊いていく。

 この時の水分量や火加減についても実演しながら教えた。

 オリアーナさんは熱心にメモを取っていた。


 暫くすると、米の炊けるいい匂いが工房に広がっていく。

 いつの間にか皆俺たちの米炊きを見学していたようで、どこからともなく生唾を飲み込む音なんかも聞こえていた。


 いい感じに炊けたと思われるところで火を止める。

 そして暫く蒸らす工程に入る。

 この時は蓋を開けちゃ駄目だと説明もしておいた。

 そして、十分蒸らした後、釜の蓋を開ける。

 すると大量の湯気が立ち昇り、その下から艶やかな白米が姿を現した。


「いやはや、見事なものですな」


「ほう、あのよく分からん粒がこんなになるんじゃな」


「これが基本的な炊き方で、水分量を調整すれば硬さの調整も出来る。炊く時に具材も一緒に入れて味も付けたのが炊き込みご飯で、炊いた後具材と一緒に炒めて味付けしたのが焼き飯だな」


「ねえおにい、焼きおにぎり食べたい」


「おう、それじゃ作ってみるか。まずは普通のおにぎりからだな」


 まずは皆で三角形のおにぎりを作っていく。

 手を良く洗い、塩を軽く振って形を整えていく。

 皆綺麗な三角形にするのには苦労していた。今回見た中ではマイケルさんが一番上手だったな。


「これがおにぎりだ。今回は特に何も入れていないけど、中に色んな具材を入れるのもいいな。海苔って食べ物があったらこれに巻いたらいいんだけど……」


 そう言えば海苔が無いんだよな。

 この辺は海から随分遠いみたいだから仕方ないんだけど。


 次は焼きおにぎりだ。

 まずはご飯に味を付ける。

 エルデリアでは醤油を使っていたけど、ここでは手に入らないから普通に売っているタレで代用だ。

 味の付けたご飯を三角形に握り、それを網の上に並べ火にかける。

 途中、両面にタレを塗り足し、少し焦げ目が出来るまでじっくり焼いていく。

 工房内にタレの焦げる香ばしい匂いが広がっていった。


「よし、完成だ!」


「凄くいい匂いじゃない! ジェット君! 早く頂戴!」


 ジャネットさんが催促してくる。


「わ、分かったから! ほら、熱いから気を付けて」


「あ、あつっ。はふっ、むぐんぐ、やだっ! 美味しい!」


「おう、これはいいのう! 酒が飲みたくなるわい!」


「親方! 昼間っからは駄目ですよ!」


 いつの間にかダグラスさんも食べていたようだ。


 その後はみんなでおにぎりの試食会だ。

 これも大好評で、用意したおにぎりと焼きおにぎりはあっと言う間に無くなった。

 サニーちゃんは焼きおにぎりが気に入ったようで、小動物のように頬をいっぱいにして食べていた。


「いやあ、お米がこんなにも美味しいものだったとは……」


「ええ。炊き込みご飯や焼き飯も美味しかったけど、おにぎりも良かったわ。試食を出したりレシピを広めたりすれば……」


「今回のレシピで良ければ後で用意するよ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


「あ、ジェットさん、良かったら俺にもレシピを教えて下さい」


 マイケルさんもレシピを欲しがったので、勿論了承する。


 こうしてヴォーレンドでの米の布教は大成功に終わった。

 これで、ヴォーレンドでも米が食べられるようになっていけばいいな。

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