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6話 ジェット9歳④

 村長の魔術の授業が始まった。

 俺たちが参加することになったので、今日は基礎のおさらいをするみたいだ。


「今日は各属性について少しおさらいするぞ。どの属性も生活に欠かせないものだが、扱い方を誤れば危険なものとなる。ちゃんと聞くようにな。その後は各自魔術の練習に移るぞ」


 俺はリディ、エリン姉と一緒に授業を聞いている。

 エリン姉は近所に住む俺より三つ年上のお姉ちゃんだ。

 ちょっと乱暴な言葉遣いをするけど凄く面倒見がいい。俺もリディもよく遊んでもらっている。


 エリン姉の両親はそれぞれ鍛冶と裁縫をやっている。今俺たちが着ている服も縫ってもらったものだ。

 ちなみにグレンの奴は俺より一つ年上らしい。今は隅っこの方でしょぼくれている。


「火属性は文字通り火を扱う魔術だ。肉を焼いたり米を炊いたり料理にも使うし、灯りや冬の暖を取るのにも使う。他にもエリンの所だと鍛冶にも使っておるの。熟練者は爆発させたりも出来る。だが、使い方を誤れば火傷したり大火事の原因にもなったりするから特に注意が必要だ」


 村長が掌から火の玉を出しながらそう言う。

 するとそれを水が覆い尽くした。


「水属性も文字通りだな。生き物には飲み水が欠かせんし田畑にも必要だ。料理にも、洗濯や風呂にも無くてはならないものだ。だが、これも過ぎれば作物を枯らす原因にもなるし生き物は溺れ死ぬこともある。他にも、水自体の温度を調整することでこんなことも出来るぞ」


 すると村長の出した水の玉から冷気が出てきた。

 うおおお凄え、水が凍ってる!


「村長! それ触ってみたい!」


 すかさずお願いする。

 村長がちらっと母さんを見る。母さんは苦笑しながら頷いた。


「ほれジェット、冷たいから気を付けろよ」


 俺は氷の玉を勢いよく掴む。

 つめたあああああい! と言うか痛い!


 十分堪能したので手を離そうとする……けど、引っ付いて離れない。

 悪戦苦闘していると氷玉は水玉に戻った。


「はっはっは、昔のアベルやナタリアに似て無茶するのう。皆は真似するんじゃないぞ」


 村長の一言で皆が一斉に笑い出す。

 そして母さんがこっちに来て俺の手に光魔術を使ってくれる。

 ……よく見たらちょっと顔が赤くなってる。結局俺は両親のどっちにも似ているらしい。


「次は地属性。これは何より田畑を耕す時には欠かせん。他にも家の石壁を作ったり岩山に倉庫用の洞窟を掘ったり生活には無くてはならないものだ。鉱石を掘り出すのにも大活躍だ。狩りの時落とし穴の罠にも使える。しかし、石壁や洞窟はしっかり固めないと崩落の危険があるし、無暗に穴を掘っても転落して大怪我をすることもある」


 村長は目の前に石壁を作り出し、それを軽く小突く。

 すると石壁は音を立てて崩れ去った。


「風属性。これも生活に便利なものだ。乾燥にも使えるし、風を利用して狩りの時に獲物を探すことも出来る。他にもこんなことも可能だ」


 村長が落ちていた木の枝を左手に持つ。

 そして、右手に風魔術を発動させる。ん、風を薄く伸ばしてる?

 すると、右手を勢いよく枝に叩きつけた。

 うおおおおおお! 枝がスッパリ切れた!


「当たり前だが使い方を誤れば危険だ。嵐のような規模の大きいものになると人なんぞ簡単に飛ばされてしまうし、火の勢いを強くして火事に繋がることもある」


 村長が一旦言葉を切って俺たちを見回す。


「これらの四属性が属性の中では基礎的なものだ。それぞれ得意不得意はあるが皆何かしら使える筈だぞ。それと魔力自体を操る無属性も皆使える」


 そう言って村長は『身体強化』を発動させる。


「こうやって体を強くしたりこんなことも出来る」


 村長が足元に置いていた剣を持つ。すると、剣を『身体強化』の魔力が覆い始めた。

 あんなことも出来るのか!


「こうすると武器自体を強化することも出来る。『エンチャント』って技術だ。他にも魔力自体を塊にしてぶん投げたりも出来るが……まあこれは属性魔術と比べ効率はいまいちだ。無属性は魔術の基本だ。これの練習を疎かにしたら駄目だぞ」


 凄え、知らない技術ばっかりだ!


「後は、光属性と闇属性ってのがあるが、これらは珍しい属性だ。この村にも使い手はそう居ない。まずは光属性だな。これは光で暗闇を照らしたり、さっきナタリアが使ってたみたいに怪我を治したり出来る。目眩ましなんかも可能だろうな。何でも毒物や汚染されたものを浄化したり、アンデッドと言う死体の化け物を祓ったりも出来るらしい……が、あまり使い手が居ないもんだから詳しいことはよく分からん。儂も使うことは出来ん」


 成程。機会があったら試してみよう。

 ん、村長の掌に何か黒い物が……ゆらゆらしながら大きくなって、それを見てると吸い込まれそうな気分になる。

 ん、もしかしてあれは!


「そしてこれが闇属性。光とは逆に暗闇なんかを扱う魔術だ。光を遮ったり、生き物相手に使うと怯えなんかを与えたりも出来る。皆も夜のトイレは怖いだろ?」


 村長がニヤリと笑う。


「他にも毒を扱ったり物を腐らしたりも出来る。腐るって言うと聞こえが悪いが、これを利用して漬物とか酒、肥料なんかも造ったり出来るんだぞ。これを発酵と言う。皆の家にもある醤油や味噌なんかもそうだ。規模が大きいものになると相手に重さを与えたり、ぎゅっと凝縮して何でも吸い込んで粉々にしたりも出来るらしいが、流石に儂はそこまでは出来ん」


 試しに夜のトイレを想像してこっそり闇魔術を発動してみる。

 掌の上に黒い靄みたいなものが出たけどそれ以上にはならない。


「更に、これら以外にも魔術属性があるとも言われているし、そう言ったものに当てはまらない魔術も存在するそうだ。だが、これらについては完全に未知のものだな」


 今ちらっとリディの方を見たな。


「よし、少し休憩を挟んでそれから魔術の練習だ。年少組は無属性の練習、年長組は自分の使える属性を。あー、ナタリアは子供二人を連れて儂の家まで来てくれ。他の者たちは子供たちの練習を見てやっててくれ」


 俺たちはエリン姉にまたね、と手を振って村長の家へ向かう。

 やはり村長の家だけあって大きいな。うちの倍くらいありそうだ。


 大きなテーブルのある客間へと通される。

 すると村長の奥さんかな? 優しそうな女の人がお茶と茶菓子を用意してくれる。

 一口食べてみると、うん、美味しい。リディは頬をぱんぱんにして幸せそうな顔をしている。

 村長の奥さん? が客間出ていくと村長が口を開いた。


「さっきは済まなかったなジェット、リディも。それとありがとよ」


「? 何が?」


「グレンの奴だ。あいつは確かに優秀な奴なんだが、それが原因で最近ちょいと天狗になっちまっていてなあ。お前たちに突っかかっていったのも、自分以上にお前たちが特別扱いされているのが気に入らなかったんだろう。まあ、お前さんが鼻っ柱ブチ折ってくれたからちったぁ反省するだろうよ」


「うん。俺も一発ぶん殴ったからもう気にしてない」


「リディも!」


「まあ、直ぐには無理だろうが……そのうち仲良くしてやってくれ。で、ナタリア。ちょいと頼みたいことがあってな」


「はぁ、まぁ何となく分かりますけど」


「はっはっは! そうか、それなら話が早い! 頼む、リディの能力で俺を視てみてくれ、ちゃんと報酬も出す。一応村長としてちゃんと経験しておかないと」


「そんなワクワクした顔でそんなこと言われても説得力ゼロですよ。全く、アベルと言い男の人って幾つになってもこんな感じなのかしら。リディ、村長のこと視てあげてくれる?」


「うん」


 村長が嬉しそうに紙とペンを用意する。

 リディはウンウン唸りながらペンを走らせる。


「……できた」


――――――――――――

がなーど


【ぞくせい】

ひ:B みず:B ち:B かぜ:B

やみ:D む:B

――――――――――――


 初めて知ったけど村長の名前はガナードらしい。

 やはりリディには俺たちには見れないものが見れるんだろうな。

 村長の能力は……うむ、やはり授業で見た通りかなり魔術が達者みたいだ。


「ねぇリディ、村長の名前知ってたの?」


「ううん、さっきみた」


「皆儂のことは村長と知っておれば十分だからなあ。まぁそんなことはどうでもいい。おおー、これが儂の能力か! 名前のこともあるしアベルの言っていたことは本当のようだなぁ」


 すごくテンションが上がってるな村長。


「ジェットはこれに更に光があって全部がSで恐らくAより上なんだよなあ。はっはっは、流石はあのアベルとナタリアの息子だ! リディもとんでもねえ能力もってやがるしな」


「もう! 止めて下さい村長!」


「父さんと母さんて昔はどんなだったの?」


 ふと気になったことを聞いてみる。


「お、気になるか? 今でこそ大分落ち着いたが、当時はどっちも優秀だがとんでもねえガキ大将と跳ねっ返りでなあ。しかも同い年なもんだから授業の度に喧嘩三昧よ。儂のスペシャルコースが出来たのは二人が原因だ」


「……昔のことです」


「でも、その二人が結婚しちまって子供が二人も居るんだからなあ。分からんもんだ。はっはっはっは!」


 へえ、結構意外だなあ。

 今だと父さんは完全に母さんの尻に敷かれてる状態だ。


「おっと、約束だ。報酬を用意しなきゃな。とりあえず……肉と魚、それと儂のとっておきの酒でも出すか」


「このおかしほしい」


「はっはっは、そうかそうか。リディへの報酬だ。好きなだけ持っていけ!」


 豪快に笑いながらリディの頭を撫でる村長。

 最初こそ怖がってたけどリディも慣れたみたいだな。


「ナタリア、リディの能力については黙っておけ。変に周りに知られちまったらリディの負担になっちまうからな。もし知られちまっても儂がちゃんと報酬を出したんだ。無茶なことは言われんだろうよ。それでも何かあったら儂に相談に来い」


「はい、お心遣い感謝します村長」


 へぇ、ちゃんと色々考えてくれているんだな。

 俺も頭を下げとこう。


「よし、それじゃあそろそろ戻るか。ナタリアも子供たちの練習を見てやってくれ。それとジェット、『身体活性』を皆に見せてやってくれないか?」


「いいよ」


「おう、ありがとよ。こっちも報酬に追加しとくからな」


 その後、俺たちはお茶を飲み終えると外の広場に戻って行った。

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