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57話 マキナゴーレム

「とりあえず、こんなもんでいいか」


「師匠、わたしももう動いても大丈夫ですよ」


「ゴーレム鋼もいっぱい回収しておいたよ」


 俺たちは戦闘後レイチェルの回復を待つ間、ミスリル紐やゴーレム鋼の回収を行い、レイチェルが動けるようになってから降りて来た時と同じく地魔術の足場を使って廃棄場を後にした。

 レイチェルに光魔術を使っての回復も試みたんだけど、魔力の消耗からの疲労には効果が無かった。


 例のゴーレムの本体は、リディの鞄の中にいるポヨンが取り込んだままだ。

 リディ曰く、ポヨンが抑え込んでいるから暫くは大丈夫らしい。

 てっきり消化する為に取り込んだんだと思ったけどそうじゃなかったんだな。


「またあそこに行けばゴーレム鋼に困ることは無さそうだな」


「そうだね。またダグラスさんに頼まれたら取りに来よう」


「……師匠たちと一緒にいると、どんどん自分の常識が崩れていくような気がします」


 その後、一旦地下十八階の拠点にしていた部屋まで戻って来た。

 ここで一度あのゴーレムの本体の様子を確かめておきたかったからだ。


「ポヨン、ここにお願い」


 リディの指示を受け、ポヨンが体の中からゴーレムの本体を吐き出す。

 俺たちの目の前に、透明な箱に入った紫色の魔石が現れた。


「リディ、こいつまだ生きてるんだよな?」


「うん。『亜空間収納』にも入らなかったし」


「今は眠っているんでしょうか。あ、この箱みたいなもの、透明かと思ったんですけど、よく見ると細かい線みたいなものがいっぱい魔石と繋がってますね」


「箱の中に色んな模様みたいなものもあるな。魔石にも同じような模様がある」


「何で出来ているんだろう? 結構軽いけど丈夫だし」


 確かに、俺の雷魔術を受けたり、ゴーレムの残骸の中に埋まったりしてたんだけど、見た目には傷一つ無いんだよな。


「でも、何だかこの模様とか線が所々黒ずんじゃってるね。どうやって掃除するんだろう?」


 リディが箱の上から布で擦ってみるけど、勿論内部の黒ずみなので綺麗にはならない。


「リディ、貸してみろ」


 俺はゴーレムの本体に光魔術を使う。この浄化作用で内部の黒ずみも取れないかな?

 暫く光魔術を使った後もう一度確かめてみる。

 すると、内部にあった黒ずみは綺麗さっぱり無くなっていた。


「綺麗になりましたね。うわっ、今魔石が光りましたよ!」


「あ、おにいの光魔術で回復して目を覚ましたみたい」


 ゴーレム? も回復出来るとは……

 それともこいつが特別製なのか?


「えっと、おにいありがとうって」


「お、おう。ん? リディ、こいつの言ってること分かるのか?」


「だって、この子の声を聞いてあそこまで行ったんだよ?」


「ああ、そう言えばそうだった」


 再度魔石が光を発する。


「えーと……昔あそこに捨てられて、ダンジョンの瘴気に中てられ続けて暴走してたんだって。襲い掛かってごめんなさいって」


「さっきの黒ずみが瘴気だったんでしょうか? それなら師匠の光魔術で浄化出来たのも納得です」


「……うん、そうみたい。うん、うん……え?」


 リディと魔石との会話? が続く。

 俺とレイチェルには声が聞こえないから何が何だかさっぱりだ。


「えっとね、この子もあたしたちと一緒に行きたいって。もうあそこで独りで寂しいのは嫌だって」


「わぁ、リディちゃん仲良くなれたんだね」


「連れて行くのはいいんだけど、普段どうするか困るな……生きているから亜空間にも入らないし」


「あたしが鞄を増やしてその中に……え、動かせる体が欲しい?」


 魔石が強く光を発した。

 それにリディが頷いて、亜空間からゴーレム鋼を取り出した。

 すると、魔石に吸い寄せられるようにゴーレム鋼が集まり、さっき倒した巨大ゴーレムと同じものが俺たちの前に現れた。


「お、おい、大丈夫なのかリディ!?」


「うん、大丈夫。この子にはこうやって周囲のものを自分の体として操る力があるみたい」


「す、凄い力ですね……でも、こんなに大きいと移動も大変そうですね」


「ねえおにい、ゴーレム鋼をこの子の体に加工出来ないかな?」


「そうだなあ。それだったら出来るかもしれないけど……一つ思い付いたことがあるんだ。一度外へ出てダグラスさんたちに相談してみよう」


「あ、もしかしてミスリルを?」


「おう。それに、ダグラスさんたちみたいな職人ならもっと何かいい案があるかもしれないしな」


「あなたもそれでいい? うん、それじゃ暫くは鞄の中に入っててね。ポヨンはあたしの頭に乗っててね」


 さて、そうなると早く外へ向かわないとな。

 上へ向かいながら、もう一日ダンジョン内で過ごせば余裕を持って出ることが出来るだろう。

 それなら丁度ギルドの方でも肉や報酬の準備は出来ているだろうしな。


「それじゃここで昼食をとってから外へ向かうか。一度地下十三階の拠点に使っていた部屋で一泊して行こうと思うけど、二人もそれでいいか?」


「うん」


「はい。それなら丁度外に出た時に前の分の報酬も受け取れますね。あ、この子のことはギルドには報告するんですか?」


「あー、報告は体がどうにかなってからでいいんじゃないか? えっと、リディ。あそこってこいつみたいなゴーレムって他にいるのか?」


「聞いてみるね」


 リディが魔石に問いかける。

 すると、魔石が光って答えているようだ。


「あそこにいたのは自分だけだったんだって」


「そうか。まあそれなら廃棄場でのことを急いで報告しなくても大丈夫だろ。あまり冒険者もあそこには行かないみたいだしな」


「行かないと言うより行けないんでしょうけど……まあ確かに今の状態のこの子の存在が知れ渡ったら少し面倒かもですね」


 俺たちはリディが取り出したポヨンパンを食べて腹を満たす。

 同じくポヨンもポヨンパンを取り込み食べているんだけど……共食い?

 魔石ゴーレムの食事って何が必要なのか気になったんだけど、どうやら魔力が必要らしい。

 廃棄場ではゴーレムの残骸から魔力を摂取していたんだろうな。

 俺たち三人で一通り魔力を与えてみたんだけど、どうやらリディの魔力が一番好きなようだ。


 そして、道中のゴーレムやオークを討伐しつつ俺たちは地下十三階まで戻り、拠点部屋で一夜を過ごす。

 翌日、少し早く目が覚めてしまった俺たちは、手早く後片付けと出発の準備を整え地上を目指す。

 勿論ここでも遭遇した魔物はきっちり討伐していく。

 まあゴーレム地帯と比べ、冒険者の数が多いからかそこまで多く魔物と遭遇することは無かったけど。

 こうして俺たちは、昼頃にはダンジョンから外へ出ることが出来たのだった。


「おお、おかえりなさい。あなたたちにジャネットさんからの伝言です。肉と報酬の準備はもう出来ているそうですよ」


「ただいま。それなら先にギルドに寄って行くか」


 顔馴染みの係員と挨拶を交わし、俺たちは先にギルドへ向かう。


「おにい、倒した魔物とかゴーレム鋼はどうするの?」


「先にダグラスさんにゴーレム鋼を見せてからの方がいいだろうな。今回は前のとは違うゴーレム鋼もあるしな」


 ギルド内に入ると周囲の視線が俺たちに集まる。ん? 何かあったのか?


「な、なんか、やけに見られてますね……」


 レイチェルはかなり落ち着かない様子だ。

 そんな中、早速ジャネットさんに呼ばれたからそちらに向かう。


「おかえり。伝言でも聞いていると思うけど、ちゃんと報酬の準備出来てるわよ」


「ただいま。なあジャネットさん、なんか周りから妙に見られている気がするんだけど」


「あー……今あなたたちは良くも悪くも目立っているからね。未成年を含む三人パーティーで、強力な賞金首(ウォンテッド)を討伐するわ、大量の魔物やらゴーレム鋼をダンジョンから持ち帰るわ。あまり大きい声じゃ言えないけど、妙なこと考える人がいてもおかしくないから気を付けるのよ」


 成程……気を付けておいた方が良さそうだ。


「分かった、忠告ありがとう。それじゃ報酬と肉を受け取って行くよ。また前と同じ保管庫?」


「そうよ。それじゃ奥へ行くわよ。ここだと目立つから報酬もそっちで渡すわ」


 ギルドの奥へ通され、ずっしりと重い革袋をジャネットさんから受け取り三人で中身を確かめる。

 予想以上に多い報酬量に驚いていると、ゴーレム鋼が相当いい値段で売れたとジャネットさんに教えてもらえた。

 今ヴォーレンドでは、ゴーレムを積極的に倒しに行く冒険者が少ないので高めの値段で取引されているのだとか。

 ……今回も結構な量持って帰って来たんだけどな。


 報酬を受け取った後は保管庫へと赴き、今回も大量の肉をリディの『亜空間収納』へと仕舞う。

 折角だし、次はこのオーク肉を食べてみたいな。


「ジャネットさん、後日になるけど、オークとゴーレム鋼をまた持ってくるからよろしくな」


「ええ、分かったわ。ぐふふふ、あなたたちのお陰で、担当である私のギルドでの評価もいい感じに上がって来てるわ。これからもどんどん持って来なさい」


 ……まあ、こんな人だけど、なんだかんだ俺たちのサポートはしっかりしてくれているからな。

 これからも頼りにさせてもらおうか。


 報酬と肉を受け取り、ギルドを後にして次はダグラスさんの工房を目指す。

 さっきからずっとソワソワしていたリディの足取りが軽い。

 早く早くと急かされながら、俺たちは職人地区に向かって足早に進んでいった。



 ◇◇◇



「ほう。こいつがその特別製のゴーレムって訳か」


 リディが魔石ゴーレムを鞄から取り出しダグラスさんに見せる。

 同じく鞄の中に入っていたポヨンはリディの頭の上に移動しダラけきっている。

 流石にちょっと狭くて疲れたようだ。


「親方、もしかしてこのゴーレムってマキナゴーレムの一種なんじゃ」


「まきなごーれむ?」


 聞き慣れない言葉にリディが首を傾げる。


「えっと、マキナゴーレムって言うのは体が魔道具で造られた人工のゴーレムのことですね。このマキナゴーレムを研究して、現在生活に利用されている魔道具が作られたんですよ」


「一口にマキナゴーレムって言っても色んな種類のものがあるそうだ。見付かるのは大体壊れた残骸なんだけどな。儂もこうやって生きている個体を見たのは初めてだ」


「なんだか宝石みたいで綺麗ですねー」


 かなり珍しいゴーレムだったみたいだな。


「えっとね、ダグラスさん。この子、自分の周囲にある物を自分の体として操る力があるみたいで、最初会った時はゴーレムの残骸を操って巨大なゴーレムになっていたの。それで、色々あってこの子のこと連れて行くことにしたんだけど、この子の体になるもの何か無いかなって思って」


「ふぅむ。例えばじゃが、全身鎧みたいなものも操れるのか? ほら、あそこにあるみたいなやつだ」


 ダグラスさんの指さした方を見ると、頭から足先まで揃った全身鎧が飾られていた。

 すると、マキナゴーレムが魔石を光らせる。


「うん、中に入れる場所があれば出来るんだって」


「ほわぁ……リディちゃん、このゴーレムが何言ってるか分かるんだー」


「流石は未成年でDランク冒険者になれるだけのことはありますね……」


「それなら儂が用意出来るのはあんな感じの鎧だな。リビングアーマーって言う鎧の魔物みたいな感じになるか」


 おお……あんな感じの全身鎧が動くのか。

 ちょっとかっこいいじゃないか!


 俺は、ダグラスさん、マイケルさんとこんな鎧がいいんじゃないか、と熱く議論を始める。

 男同士での議論はとても盛り上がったんだけど、女性陣はちょっと呆れた目で俺たちのことを見ていた。


「うぉっほん! まあ、儂に出来るのはそんな感じだ。お前さんたちはまたダンジョンに入るのか?」


「いや、ミスリルのこともあるし、暫く町中で活動しようかと」


「そうかそうか。なら色んな店を巡ってみるのもいいかもな。もしかしたらそいつの体に使えそうな掘り出し物も見付かるかもしれんぞ」


「うん、ありがとうダラスさん! 明日色んなお店見てみるね。特に何も見付からなかったらこの子の為の鎧、よろしくお願いします!」


「おう、任せておけい」


 ダグラスさんはそう言ってリディの頭を優しく撫でるのだった。

 ……二人の背丈はそんなに変わらないくらいだから、なんだか不思議な光景だな。

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