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56話 廃棄場の決戦

 リディに聞こえた声の正体は、目の前に現れた身体がゴーレムの残骸で形成された巨大なゴーレムだったようだ。岩で出来た部分と金属で出来た部分が不規則に合わさってとても歪な形をしている。

 その大きさは今まで出遭ったゴーレムの倍近くだろうか。

 ……リディよ、流石にこんな大きいの連れて行けないぞ。と言うか、外まで連れ出せないだろこれ。


「おっと!」


 リディのことをここまで呼んでおいて襲い掛かって来るとは……さっき止めてくれって言ってたし、何かしらの原因で暴走でもしてしまっているんだろうか。

 ゴーレムがゆっくりこちらに向かって歩いて来る。


 さて、そうなるとこちらからも攻撃してあいつを止めなきゃな。

 大きくなったとは言え相手はゴーレムだ。今までの戦い方がきっと通用するはずだ。


「リディ! レイチェル! 岩の部分を狙って『融合魔術(フュージョン)』だ! まずは相手の攻撃手段を奪うぞ!」


「分かった! レイチェル姉、腕を狙うよ!」


「うん!」


 俺の後方から水属性と風属性の『融合魔術(フュージョン)』が放たれる。

 俺もそれに合わせて動き、脚の岩部分を狙って濁流を纏った剣を一振りする。


 ドガッゴボゴボシュウゥウウドゴォオオオオン!

 ヂュイィィイイィイイインッシュパンッ!


 巨大なゴーレムの右腕が吹き飛び、左脚を斬り落とした。

 バランスを崩したゴーレムはこちら側に倒れ込んで来る!

 咄嗟に俺はそれを左側に躱す。

 リディとレイチェルもちゃんと躱せたようだな。


「よし、この調子で……うおっ!」


 ゴーレムの振り抜いた右腕が俺を捉える。

 俺はどうにかゴーレムの腕の動きに合わせ飛び退くも、攻撃を躱し切れず大きく吹き飛ばされてしまった。


「おにい!」 「師匠!」


 吹き飛ばされた俺は、風魔術と『身体活性』をフルに使い着地の衝撃を抑え込む。

 そして光魔術で即座に回復し立ち上がった。


「大丈夫だ! 右腕は破壊したはずなのにどうして……!」


「おにい! 右腕も左脚も再生してる!」


「さっきと形が違う……」


「そうか! 地面のゴーレムだ! それを新たに取り込んで再生したんだ!」


「それって……ここで戦う限り倒せないんじゃ……」


 レイチェルの言う通り、ここだと相手は再生し放題。

 いくら攻撃して体を崩してもすぐに再生されては意味が無い。

 足元のゴーレムを全部回収するのも一つの手段ではあるけど、どれだけ回収すればいいのか分からないし、流石に時間が掛かりすぎる。

 そうなると、


「身体のどこかに、多分中心辺りに魔石なり何なり奴の本体がある筈だ! そこを狙う!」


 流石に手加減している場合じゃないな。

 もし倒してしまってもその時は許してくれ。

 俺は武器を槌に持ち替える。

 そこに雷属性『エンチャント』を施す。


「これなら奴の内部を直接雷で攻撃出来る筈だ! 二人は引き続き『融合魔術(フュージョン)』で狙撃を! 狙えそうなら本体がありそうな場所も狙え!」


「うん!」 「はい!」


 ゴーレムが指をこちらに向けてくる。

 何だ? ってあぶなっ!


 ゴーレムの指先からゴーレム鋼が砲弾の様に飛んできた!

 それを咄嗟に躱す!

 そして、ゴーレムは今度はリディとレイチェルを狙いゴーレム弾を放ってきた!


「リディ! レイチェル!」


 俺は二人の方を見る。

 すると、ポヨンが体に取り込んだゴーレム鋼を弾き飛ばし、飛んできたゴーレム弾にぶつけて軌道を逸らしていた。

 お前頼もしすぎだろポヨン!


「おにい! こっちはポヨンがいるから大丈夫!」


 リディとレイチェルが胴体の岩部分目掛けて『融合魔術(フュージョン)』を放つ。


 俺も兄としてポヨンに負けてられんな!

 奴はゴーレム弾を撃つことに集中し動きを止めている。チャンスだ!


 雷を纏った槌を構え、飛んでくるゴーレム弾を躱しながら足元に接近する。

 そして金属部分に思い切り雷の鎚をぶち込んでやった!


 ガァアアアアアン!

 バヂバヂッ!


 金属部分から雷が全身に流れ、ゴーレムが動きを止める。

 そこに二人の放った『融合魔術(フュージョン)』が飛来する。

 そして、ゴーレムの胴体に直撃……せず、そのまま向こう側へと飛んで行った。


「なっ!?」


 確かに雷で動きは止まっていた筈だ。

 なのに何故躱せた!?


「師匠! じょ、上半身がありません!」


 レイチェルの言葉に俺は一度ゴーレムから距離を取り、奴の全身を捉える。

 すると、そこにはレイチェルの言った通り、ゴーレムの下半身だけが佇んでいた。

 まさか、雷魔術で倒していたのか?


 ゴゴゴ……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ


 勿論そんな甘いことはなく、その残された下半身の後ろから新しい体を手に入れたゴーレムが立ち上がったのだ。


「下半身を捨てて逃げていたのか……!」


 その後も隙を見て雷魔術や『融合魔術(フュージョン)』を食らわせてやろうとするも、その度に体を切り捨てたり分離したりしながら躱されてしまう。


 このまま戦ってたんじゃじり貧だ。俺たちの魔力が尽きてしまう。

 対して奴の体のパーツはほぼ無限にそこらに転がっている。

 闇雲に攻撃するだけじゃ駄目だ!


 俺は奴のゴーレム弾を弾きながら考える。

 何か無いか?

 あいつが分離する前に本体を攻撃する手段が……


「そうだ! リディ!」


 俺はその場に足元のゴーレム鋼から石壁を形成し、一旦リディとレイチェルの元に下がる。


「おにい! 何か思い付いたの!?」


「ああ! これを使う!」


 俺はあるものを亜空間から取り出し、それをリディに渡す。

 そして、二人に思い付いた作戦を伝える。


「成程……確かにそれなら上手くいけば逃げられる前に攻撃出来そうですね」


「分かった! ポヨン、護衛よろしくね」


「レイチェルはここから狙撃を頼む」


 そう言って俺は、先程と同じ石壁をその場に作り出した。

 可能な限り強度は上げておく。


「わ、分かりました!」


 ドゴァアアアアアアアアアアアンッ!


 どうやら足止めに出していた石壁が崩されたようだ。


「よし! 俺が近くであいつを引き付けるから二人とも上手くやってくれ!」


 そう言って俺は形成した石壁から飛び出した。

 その反対からは、ポヨンを抱えたリディも飛び出す。


 さて、あいつの注意を俺に向けないとな。


「こっちだデカブツ!」


 俺は槌を剣に持ち替え、濁流を纏わせてゴーレムに向かう。

 ゴーレムは俺に向かってゴーレム弾を放ってくるが、俺はそれを剣で斬り捨てる。

 弾丸を斬り捨てながらゴーレムに接近し、その脚の岩部分を斬り裂く。

 脚を斬り落とされ、ゴーレムは一時バランスを崩すもすぐに足元の残骸を取り込み再生する。

 ゴーレムは巨大な拳で俺を叩き潰そうとしてきたので、俺はそれを軽く躱し逆に腕を斬り付けてやる。

 だが、結局ゴーレムは残骸を取り込み再生してしまう。


 さて、リディとレイチェルの準備が整うまでこいつをこうやって止めておかないとな。


 斬る、再生する、また斬る、躱す、再生する。

 そうやって暫くゴーレムと戦い続けていると、リディがゴーレムの後ろへ回り込んでいるのが確認出来た。そして俺に向かって両腕で大きく丸の形を作る。準備が整ったようだな。


 俺はリディに頷きを返し、武器を槌に持ち替える。

 リディがゴーレムから離脱し、近くにあったのゴーレムの残骸の陰に隠れたことを確認すると、俺は槌に雷属性『エンチャント』を施す。

 そして、ゴーレムの攻撃を躱しながら、槌を金属部分に叩き付ける!

 すると、槌が本体を叩く直前に分離して逃げられた。

 そして、他の残骸を取り込み別の姿となって再び立ち上がる。


 俺はゴーレムの姿を確認する。

 ちっ、ハズレか。

 なら当たりを引くまで繰り返すだけだ!


 その後、何度か叩き、逃げられと同じことを繰り返す。

 そして奴が四度目の体に作り替えた時、ついにその時が訪れた!


 お! あの形は間違いない!

 そうするとあの付近に……あった!


 俺は武器を再び剣に持ち替え濁流を纏わせる。

 そして脚を斬り、相手のバランスを崩したところでゴーレムから垂れ下がるあるものを掴む。


 さあ食らえ!


 俺は掴んだものに全力で雷魔術を発動する。

 すると、俺が発した雷は、それを伝って一気にゴーレムの全身を駆け巡る! そう、奴が分離する猶予も一切無いくらいの速さで。


「レイチェル! 今だ!」


「は、はい! やぁああああああっ!!」


 レイチェルは、自身が水魔術で生み出した巨大な水球と共に石壁から姿を現した。

 大きさは直径で1メートル弱ってところか。石壁の後ろでずっと水魔術に集中して大きくしていたみたいだ。よく頑張ったなレイチェル。

 そして、その水球を雷が流れ動けないゴーレムに向けて放つ。


 バッシャァァアア、バヂュンバヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂッ!!


 水魔術がゴーレムの全身を濡らし、体に流れる雷が更に勢いを増す。

 俺はゴーレムの陰に隠れ、水を浴びないよう気を付ける。

 その間も俺は雷魔術を発動し続けた。


 ふっふっふ、分離しようとしても無駄だ。

 本体が雷を受け続けている間は流石に分離なんて器用なこと出来ないだろう。

 お前は残骸を取り込む時、余計なもんまで取り込んでしまったからな。


 俺は奴の胴体に取り込まれたゴーレム風呂二号を見ながら、手にしたミスリル紐に更に雷を流す。

 水に濡れたゴーレムの体の外や内部に所々絡んだミスリル紐を伝って、激しい雷がゴーレムの全身を流れ続ける。

 どうやらリディは、幾つかのゴーレム鋼にミスリル紐で細工をしていたみたいだな。


 俺は考えた。

 どうにか奴が逃げるスピードより速くあいつの本体に雷魔術を食らわせられないかと。

 そこで思い付いたのが、ミスリル紐をあいつの体に取り込ませることだ。そして、ミスリル紐を伝って直接内部から全身に雷を流してやろうと。

 ミスリルは雷を良く通す。気付いてからじゃ反応も間に合わない。

 これに関しては俺自身が何度も体験済みだ。


 ただ、普通にあいつに紐を括りつけただけじゃ逃げられて終わりだろう。

 なので、こちらもゴーレムの残骸を用意し、そこにミスリル紐を忍ばせてそれをあいつ自身に取り込ませることにした。


 二人に合流し、リディにはミスリル紐を渡してゴーレム風呂二号への地魔術での細工を任せる。どうやらリディは、ゴーレム風呂二号だけではなく、他にも亜空間に仕舞っていたゴーレム鋼に同時にミスリル紐を忍ばせる細工していたようだ。

 確かにあれだったら、どれか一つを取り込めばあいつに雷魔術を食らわせることが出来る。


 そして、レイチェルには水魔術での追撃を任せていた。そうすれば、雷魔術の威力を更に引き上げることが出来るしな。

 レイチェルは時間いっぱい水魔術に集中することで今の自分の限界まで魔力を注ぎ、見事巨大な水球を作り出し役目を果たしてくれた。

 今は一気に魔力を使った反動で座り込んでしまっているけど……大丈夫だ、後は俺に任せておけ。このまま逃がしはしない!


 為す術もなく雷を受け続けたゴーレムは、徐々に手足の先端部分から崩れ落ち始めた。

 どうやら形を維持出来なくなってきたようだ。

 そして、その崩壊は次第に全身へと広がっていく。

 腕が崩れ落ち、脚が崩れついには胴体までもが崩れていく。


 全身が崩れ落ちた所で一旦雷魔術を止める。

 妙な動きを見せるようならもう一度食らわせてやろうと思っていたけど、どうやらもう再生も出来なくなったみたいだ。


「た、倒せたんですか?」


 レイチェルがリディに支えられ、ふらつきながらこちらにやって来た。

 いつの間にかリディがレイチェルと合流していたようだ。


「多分な。どうなんだリディ?」


「……うん。止めてあげられたみたい。ありがとう、おにい、レイチェル姉」


 そう言ってリディはレイチェルを俺に任せ、崩れ落ちたゴーレムの元へ向かった。

 リディが体の一部だった残骸を端に避けていくと、その中から透明な箱の様な物に入った紫色の魔石が姿を見せた。

 どうやらあれが巨大ゴーレムの本体部分だったようだ。


 リディはそれを優しく抱え上げ、『亜空間収納』に仕舞おうとする。


「あれ? 入らない?」


 すると、リディが持っていた本体が振動を始める。

 それに反応するように足元の残骸がゆっくり集まってゆく。


「リディ! そいつ復活しようとしてるぞ! 早くこっちへ!」


「う、うん! あ、ポヨン! え、えぇぇえええええええええええっ!?」


 リディが持っていた本体を、なんとポヨンの奴が体の中に取り込んでしまった!

 すると、足元の残骸はピタリと動きを止めた。


 俺たちが唖然とする中、当のポヨンは本体を取り込んで大きくなった体でどうにかリディの鞄へと入って行ったのだった。

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