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54話 あたしを呼ぶ声

「今回もお買い上げありがとうございます。そうそう、聞いてますよ。ダンジョンから異常な量の素材を持ち帰ったとか。商人仲間から皆さんと親交があることを羨ましがられましたよ」


「倒した魔物を全部回収してたらいつの間にか……」


「はっはっは。そんなデタラメなことが出来るのはモノクロームの皆さんだけでしょうなあ。私もオーク肉をいくらか入荷させてもらう予定ですよ」


 あたしたちはテオドールさんのお店で買い物を済ませた所だ。

 今回も前回と同様、購入した物は食料品や生活雑貨が中心だ。薪もちゃんと買っておいた。


「こうして補給に来たと言うことは、またすぐダンジョンに?」


「はい、ちょっと気になることがあってその調査に」


「成程……ならあまりお引き留めしても悪いですな。サニーには言い聞かせておきますので、また時間がある時に相手してやって下さい」


「はい。次はいいものも持ってこれると思うので」


「おお! 楽しみにさせてもらいますよ」


 あたしたちはテオドールさんのお店を出て、大通りにある屋台で昼食になりそうな串焼きを買った。


「さて、思ったより早く用事が終わったな。これからどうする?」


 おにいが串焼きを食べながらそう聞いてくる。


「わたしは特に疲れも残ってないのでこのままダンジョンに向かっても大丈夫ですよ。リディちゃんも気になってるだろうし」


「そうだなあ。レイチェルが問題無いんだったら、このままダンジョンに入って今日のうちに昨日と同じ辺りまで進むか。リディもそれでいいか?」


「うん!」


 実を言うと、昨日からあの時の声がずっと気になって仕方がなかったんだ。

 なんとなくだけど、誰かを呼ぶような寂しそうな声が。


 串焼きを食べ終えたあたしたちは、そのまま宿には戻らずダンジョンに向かう。

 ダンジョンに入る時、顔馴染みになった係員に昨日の今日でまた来たから驚かれたけど……


「よし、それじゃ早速向かうか」


「道中の魔物はどうします?」


「見掛けたら倒していこう。俺たちなら問題無く運べるからな」


「はい。他の冒険者が聞いたら何言ってんだ? とか思われそうですね……」


「ははは、そのうちレイチェルも使えるようになるさ。なあリディ」


「うん。多分今のレイチェル姉なら練習次第で習得出来ると思うよ」


「今回の探索を終えたら一旦ダンジョン探索は休憩しようか。ダグラスさんの所で装備も作ってもらわないとだしな」


「その時レイチェル姉に『亜空間収納』を教えてあげるね」


「ほんと? ふふ、楽しみだなあ」


 実際、レイチェル姉の魔術の習得スピードはかなり速いと思う。

 勿論、エルデリアでの同年代に比べるとまだまだ出来ないことも多いんだけど、あたしたちに出会う前は魔力のことすら知らなかったんだから。

 ……多分、おにい流の修業の成果なんだろうなあ。そのことでおにいを褒めちゃうと、もっと危ないことしそうだから言わないけど。


 地下十階までは特に問題無く進んだ。

 道中の魔物も見付けたらおにいがサクっと倒していく。

 あたしとレイチェル姉は索敵に集中だ。

 え、地下八階の休憩所? そんなとこ勿論近付かないよ!


「よし、ここからはゴーレムの奇襲にも注意しながら進むぞ。昨日と同じ場所まで進んだら、そこで一旦休憩だ」


「うん」 「はい」


 相変わらずこの辺りまで来ると、他の冒険者は殆ど見なくなっちゃうな。

 あたしたちは魔術とかレイチェル姉の気配察知でゴーレムを発見してるんだけど、他の人たちはどうやって見分けてるんだろう? 多分、ゴーレムが面倒な相手だからこの辺りを稼ぎ場にする人って極端に少ないんだろうなあ。


 道中出現したゴーレムとオークは皆で協力して倒していく。


 レイチェル姉との『融合魔術(フュージョン)』を放つ時、時々おにいがちょっと羨ましそうに見てくるんだよね。

 多分、自分でもやってみたいんだろうなあ。

 でも、おにいは遠距離魔術が壊滅的に下手くそだ。場合によっては味方に被害が出ちゃう。

 もしおにいが遠距離魔術まで使えたら、一人で何でも出来る変人が誕生していただろうから……ある意味丁度良かったのかもしれない。


 ゴーレムが現れ始めてからも順調に進み、あたしたちは昨日拠点にしていた部屋までやってきた。

 この中には魔物は発生していなかったようで、早速皆で野営の準備を始める。

 あの休憩所のことを考えると、ダンジョン内でこんな過ごし方してるのってあたしたちだけなんだろうなあ。

 おにいのおかげでトイレやお風呂にも困らないし、レイチェル姉と一緒に料理も出来るし。


「どうリディちゃん、何か聞こえる?」


「うーん、今は何も」


「どの辺りかは分からないのか?」


「うん。もっと近付けば分かるとは思うけど」


 あたしたちはビッグディアの肉と野菜の炒めものと自分たちで炊いたお米を夕飯として食べている。

 お米の炊き方は水分量や炊く時の火加減とか、あれから色々試行錯誤した。

 ママがお米を暫く水に浸していたことを思い出し、それも行うようになった。

 その結果、まだまだママのものには敵わないけど、最初炊いたものに比べかなり美味しく食べられるようになった。

 そろそろ焼き飯とか炊き込みご飯とかに挑戦するのもいいのかもしれない。お醤油が無いからそこは他で代用しなきゃだけど。


「とりあえずは地下二十階までだな。それ以降になりそうならその時に考える。いいな、リディ」


「うん」


 それは仕方ない。

 あたしの我が儘で二人を無理に情報の無い場所まで行かせる訳にはいかないし。


「地下十六階からはゴーレムだけが出現し続けるみたいです。その影響で調査不足なのか、買った情報にも奥へ進む道以外は記載されてないですね。一応過去の最高到達階層は地下二十三階だそうです。ただ、全く情報は出回っていないそうですよ」


 レイチェル姉が情報の書かれた紙束を捲りながら教えてくれる。


「成程な。まあ、今の俺たちならゴーレム相手でも問題無く戦える。余程強い奴が出ちゃったら戦い方を考えなきゃだけど」


「ここより奥と言うことは、リディちゃんの聞いた声ってゴーレムなんでしょうか?」


「うーん、実際に見てみないと分からないかなあ。ポヨンの時も、最初はスライムだって分からなかったし」


「……仮にゴーレムだったとして、あんなデカいの連れ回せるのか?」


「うっ……が、頑張ればどうにか」


「あはは……ご、護衛としては頼もしそうですね」


 大きなゴーレムの上に乗った自分を想像してみる。

 ……うん、結構いいかもしれない。


「あ、でもポヨンみたいに仲良くなれるかどうかはまだ分からないよ」


「まあその時はその時だ。もしかしたら、ダグラスさんが喜ぶような相手かもだしな」


「わたしはリディちゃんと仲良くなれる子だったら嬉しいですね」


 それからも三人でたわいも無い会話を暫く続け、夕食の後片付けをしてお風呂に入り、そろそろ寝ようかと寝床の準備をしていたその時、


『――』


 あっ! 昨日も聞こえた少し寂しそうな声だ!


「おにい! レイチェル姉! 今聞こえた!」


 ポヨンも体を伸ばして反応している。


「……うーん、やはり俺には何も聞こえないな」


「わたしもです。やっぱりリディちゃんとポヨンちゃんにだけ聞こえているみたいですね」


「なんでポヨンには聞こえるんだろうな?」


「うーん、多分あたしの従魔だからじゃないかなあ」


 上手く言えないんだけど、ポヨンとはどこか繋がっているような感覚がある。

 ポヨンの言っていることがなんとなく分かるのはその影響なんだと思う。


「まあ何にしてもだ。今日はもう休むぞ。探索は明日からだ」


「うん、分かってる。おやすみ、おにい、レイチェル姉」


「おやすみなさい」


 待っててね。

 何を寂しがっているのかは分からないけど、あたしたちが絶対に見付けてあげるから。



 ◇◇◇



「リディ、この辺りはどうだ?」


「……いないみたい。もっと奥の方かなあ」


「次からは地下十六階ですね。脇道に逸れる時は地図に書き込んでいきます」


 ダンジョン内で一泊し、寝床の後片付けと出発の準備を整え、あたしたちは今地下十五階までやってきた。

 道中遭遇したオークやゴーレムからは特に何も感じなかったし、なんとなくだけどもっと奥にいる。そんな予感がしている。


 この辺りまでやって来る冒険者は本当に稀みたいで、結構素材が手付かずのまま残されている。

 道中ポヨンが何度も壁の中の素材を発見し、その中にはなんとミスリルも含まれていた!

 ダグラスさんとかジャネットさんが凄く喜びそうだ。


 遭遇した魔物も全部やっつけているから、オークやゴーレム鋼も順調に集まっている。

 カーグでメリアさんが、ダンジョンはあたしたちには資金稼ぎに最適だって言ってたけど確かにその通りだったみたい。

 それに、ゴーレムとの戦いをずっと続けていた影響か、あたしもレイチェル姉も魔力量が少しずつ増えていっている感覚もある。


「それじゃ先に進もうか。もし見たこと無いタイプのゴーレムが出たら気を付けて戦うぞ」


「うん」 「はい」


 あたしたちは地下十六階に到達した。

 ここからはゴーレムだけが出現するそうだ。

 オークが出ないのはちょっと嬉しかったり。


「……なんかこの階層からちょっと雰囲気変わるな」


「……はい、少し息苦しくなった気がします」


「空気に妙なものが混じっている感覚があるな。リディ、レイチェル、異常を感じたらすぐ言えよ」


「うん、分かった」


「はい。それじゃ地図を見ますね。えーと……まずは大きい道を真っ直ぐ進めばいいみたいです。あ、地下十六階からは瘴気が少し濃くなっているって書かれてました」


「成程な。この空気に混じっているのが瘴気なのか。とりあえず風魔術で散らしながら進もう」


 レイチェル姉の案内の通りしばらく進むと、通路の真ん中にどう見ても怪しい金属の塊が鎮座していた。


「なあ、あれって絶対ゴーレムだよな?」


「はい……妙な気配も感じますし」


「今までのとはちょっと見た目が違うね」


「全身金属のゴーレムなのかねえ。さてどうするか……」


「あたしたちが攻撃してみる! おにいは危なそうだったら助けて。レイチェル姉!」


「うん! いくよ、リディちゃん!」


 レイチェル姉の放つ水弾に風魔術で作った風槍を合わせ、ゴーレムだと思う金属の塊に向かって放つ。

 金属の塊にぶつかった『融合魔術(フュージョン)』は、そのまま表面を削……れず消失した。


「今までと同じ攻撃は効果が無い!」


「二人とも、気を付けて! 動き出したみたい!」


 金属の塊が轟音と共に揺れ、徐々に形を変えていく。

 そして、最初に出会った時のポヨンのような、薄鈍色の金属光沢を持つゴーレムがゆっくりと立ち上が……ろうとした所へ、


「おりゃああああああああああああ!!」


 おにいが雷を纏った槌を振り下ろした!


 雷が物凄い音を出しながら薄鈍色のゴーレムの全身を駆け巡る。

 特に、最初にあたしたちの『融合魔術(フュージョン)』がぶつかった場所に激しく雷が走る。


 パキンッ!


 何かが割れるような音が聞こえた。

 薄鈍色のゴーレムは細かい振動を繰り返していたけれど、暫くするとまるで糸の切れた人形のように崩れ落ち、その動きを完全に止めたのだった。

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